元魔王ククルさん大復活!   作:香りひろがるお茶

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 リーザス奪還編終了まで、分刻みといったところでしょうか。投稿時間が不安定で申し訳ございません。


第二十八話   リーザス奪還編 第十九幕

 

 「全く処女は守ったとはいえセルさんの記念すべき初エッチをこんな馬鹿剣に奪われるとは…。」

 

魔剣カオスは伊達に魔剣と呼ばれてはいなかった。カオスにはなんと意思が存在したのだ。そして目覚めたカオスはなんと折れた刀身を治すため、清純な女の子とのエッチを希望してきたのだ。カオスがどのような方法でエッチを行ったかはご想像にお任せしよう。

 

 「年増…ふふ、そうよね。もう二十代後半に差し掛かるのですもの、ふふ、ふふふふふ。」

 

 カオスは剣でありながら、異様なまでに女の選り好みが激しかった。まず切り捨てられたのはマリス・アマリリス。二十歳以上はイカンとのことである。

 

 「リーザス王女であるこの私を淫乱呼ばわりだなんて…、折れたままのほうが良かったのに。」

 

 更に選別は続き、エッチが好きな女も嫌とのこと。この緊急事態になんとも呑気なことだ。

 

 「ふほほ、なかなかにいい娘だった。ランスよ、あの子は尻だ。チャンスがあれば尻を攻めるのだ。」

 

 更にはこの発言である。魔剣カオス、その正体はそこらによくいそうな平凡なエロ親父だったのだ。末恐ろしい世界である。

 

 「尻だと? それはいいこと聞いたむふふ。」

 

 意外にも、ランスとの馬がなかなかに合いそうである。この一人と一振りが揃った時、一体どんなエロ革命が起きるのか想像できない。

 

 「これも人類のためなのです…。これも…うぅううう…。」

 

 カオスの犠牲となったのはレッドの街の修道女セル・カーチゴルフ。いつもは不幸属性としての名を我が物顔としているかなみも、初エッチが剣という人生に同情を禁じ得なかった。

 

 「魔王はまだ近くにいるぞ。奴の気配がビンビンしとる!」

 

 「良し! 魔王だろうがこのランス様には関係ない! さっさと倒しに行くぞ!!」

 

 どんよりと沈んだ女性陣に対し、なんとも陽気なエロコンビであった。

 

 

 

 

 

 カオスの気配が駆ける速さで近づいて来る。ジルはカオスを恐れるあまり、ノスにカオスの迎撃を求めるとリーザス最奥の小部屋へと引きこもってしまった。完全に怯えきってしまっている。

 

 何故ジルはリーザスから離れないのか。それにはジルの悲しき過去、配下であり寵愛していた魔人ガイに裏切られたという事実が切っても切り離せない。魔人に裏切られたという強烈なトラウマを持つジルは、魔人に対し強制命令権を持っているにも関わらずノス以外の魔人をも恐れているのだ。人類圏を離れれば魔人との接触は避けられない。かと言って人類圏に留まっていても、カオスという恐怖がジルを縛る。既にこの時点でジルは未来を見ていないのだ。

 

 ジル様のために、このノス絶対の盾となりましょうぞ、と覚悟を決めたノスは王の間の前にてカオス到来を待つ。ヘルマン軍は既に崩壊し、散り散りとなった。リーザス城には魔人と魔王と元魔王だけ。給仕の一人もいないリーザス城は明かり一つ付けられず、静かにこの一幕が降りる時を待っていた。

 

 「ノスよ、御主はジルについて何か思うことはあるか? 何か以前とは様子が違うとは思わなかったかの?」

 

 心見透かすような言葉がノスを抉る。ジルを敬愛するノスであっても、ジルの行動からどうしようもなく過去の君主は変わってしまったという思考から逃れることは出来なかった。

 

 「確かに、ジル様はお変わりになられた。以前は人間など全て家畜と扱ったほど冷酷無情な御方であられた。だがそれでもジル様はジル様、最後まで俺はジル様とお伴しようぞ。」

 

 覚悟を決めた一人の男の声が、しんと廊下に響き渡る。ノスはそれでも構わなかった。封印されたジルを復活し、彼女に選択肢を与えることが出来たのだから。後は彼女の選択に付き合うのみ。

 

 「もしもじゃ、もし御主の行動がジルの命運を分けるとしたら御主はどうする?」

 

 ノスの肩に乗ったククルは更に続けた。己の欲望のままに。この劇の顛末を変えるために。

 

 「何を当然なことを、ジル様のためを思って行動すると何度も言っておるだろう。」

 

 そうだ。ジル様にとって最良となる道こそが己の選ぶ道。もしジル様を救えるのなら、選ばない道理など無い。

 

 「ならばノスよ。信心過ぎて極楽を通り越す。少しばかりわしの話を聞いてくれい。なに、別に御主に特別してもらうことがあるわけではないのじゃ………。」

 

 

 

 

 

 「ようやっと来おったか。全く年寄りを待たせるとは礼儀がなっとらん。」

 

 遂にランス達は王の間へと辿り着いた。ノスはゆっくりと立ち上がり、ランス達を見回した。どいつもこいつも、いい顔をしている。決意の灯った強者の面構えだ。

 

 「呑気構えやがって! これを見てみろ! カオスは復活したぞ!! これでお前もあの女も終わりにしてやるっ!!」

 

 だからこそ、手加減はしない。勝負というものは、得てして最初の一瞬で決まるものなのだ。

 

 「カオスがあろうとなかろうと、俺は貴様ら程度の力量でどうにかなる相手ではないっ! グレートファイアボール!」

 

 ノスの全魔力を込めたグレートファイアボールが炸裂する。その威力は魔人が人間とは隔絶した存在であることを主張するかのような超火力。いきなりの無詠唱攻撃に、ランス達は避けることも防御の構えを取ることも出来ず、ものの見事に火球はランス達に直撃した。

 

 「んなっ!?」

 

 魔人の攻撃は人間のそれとは比べ物にならない。たった一発の魔法でランス達はランスを含めて瀕死の重体へと追い詰められた。

 

 「どうした? カオスを持つ者よ、その程度の実力だったのか?」

 

 「うぐっ…なんて火力だ…。」

 

 断じて魔人を舐めていたわけではない。志津香は事前に全員にバリアを掛け、神魔法に長けたマリスとセラで魔法防御を重ねがけするという万全の体勢だった。だがそれもノス渾身の一撃には紙切れ同然。気力は依然として漲っているが、凄まじい衝撃に思うように動けない。

 

 「一撃でやられるとは情けない! 立つんだランス!! ここで負けたら人類は終わりだぞ!!」

 

 カオスがランスを叱咤する。ここでランスが負ければカオスは再度折られ、ノスの手によって人間の手に渡らぬよう葬り去られてしまうだろう。そうなってしまえば、ジルを縛るものは無い。千年前と同じ、ジルの支配による地獄が再びその産声を上げるだろう。これは人類の命運を分ける天王山。勝たねばならない戦いなのだ………。

 

 

 

 

 

 「「ランス殿ぉおおおおおお!!!」」

 

 

 

 

 

 そこに、ランス達後方から黒色の鎧と青色の鎧の群れが押し寄せてきた。リーザス青の軍とリーザス黒の軍、リーザス防衛の要である最強の盾が二つ。今、ランス達を守るために立ち上がった! 戦士達は恐れを知らないかのように魔人ノスへと立ち向かう。まさに無謀。生身の人間が魔人に立ち向かうのは、只々死を意味するのだ。

 

 「いけません! 相手は魔人ですよ!」

 

 二人がどれ程優れた軍人であるかを知るマリスも叫ばずにはいられない。だがそれでも彼らは止まれなかった。

 

 「俺達はランス殿の背中を見て希望を見出した! リーザスの未来はランス殿と共に! その輝きを今、失うわけにはいかねぇええええ!! ラブラブフラッーーーシュ!!!」

 

 「コルドバ将軍を中心に防御陣を築けい!」

 

 リーザスの青い壁がノスへと立ち向かった。その体格を活かした巨大な盾を抱え、何としてでもノスの攻撃を食い止めようと一念発起。今こそリーザスの雌雄を賭けた大一番なのだ。

 

 「俺は二体の魔人相手からも生き残った男よ! この程度でへこたれねぇぜっ!!」

 

 「ランスさん…今のうちに回復を…。」

 

 ノスが軽くその体躯を振るうだけで、兵士の鎧は引き裂かれ、王の間の扉が赤く染まっていく。仲間の死体を踏み込め、リーザス軍がノスへと立ちふさがり続ける。彼らの死をもって得たこの好機を逃してはならない。仲間の犠牲を無駄にしないためにも足掻いて足掻き抜かなければ!

 

 なんとか呼吸を整え、セルがヒーリングシャワーを放つ。彼らが食い止めている間になんとしても立ち上がらなくてはならないのだ。

 

 「ランス! 志津香!!」

 

 ひたすらにリーザス軍を蹂躙するノスの顔面に、砲撃が炸裂する。流石のノスもこの攻撃によろめき、その隙を突こうと再びリーザス軍は奮起した。この覚えのある爆撃は…マリア・カスタード! 

 

 「マリア!? どうしてここにっ!?」

 

 マリアは後方からの爆撃部隊の筈。何故このような前線に。相手はあの魔人だというのに! マリアには命をかけるほどこの戦いに意味はないかもしないというに。

 

 「志津香、いつもわがままばかりごめん…。でも私だってランスのために戦いたいの!! チューリップ隊、一斉放火!!」

 

 マリアに続いて続々とチューリップ部隊がノスへと集中砲火を放つ。そしてその砲撃を縫うように、赤い閃光がノスへと斬りかかって行った。

 

 「司令官! ここはお任せ下さい!!」

 

 忠と書かれたリーザス独特の兜。その正体はリーザス最強の赤の軍将軍、リック・アディスン。彼もランスのため、リーザスのために、人の身で魔人ノスへと立ち向かっていった!

 

 「リック将軍まで…。」

 

 レイラの身体に力が漲る。リーザス解放軍全軍が自分たちのために時間を稼いでくれている。ここで挫けてどうするというのだ。

 

 「バイ・ラ・ウェイ!!!」

 

 人類最強とも言われるリック必殺の剣技、バイ・ラ・ウェイがノスを止める。矮小な人間たちが集い、絶対強者である魔人と拮抗しているのだ。

 

 「回復終わりましたっ! リア様、ランス殿、今が勝機です!!」

 

 「さっきはよくも不意打ち食らわせてくれたな! 今度こそ終わりにしてやるっ! 全員突撃しろぉおおおおお!!!」

 

 リーザス軍とノスの間に。今、人類最強の男が飛び込んだ。魔剣カオスが魔人の血を求め叫び、それに負けじと凄まじいまでの乱舞と共にランスがノスへと躍りかかる。

 

 「ぐわっはっはっは!! こんなにも血肉湧き上がる戦いは久しぶりだっ!! これならばどうだっ!!」

 

 ノスは歓喜していた。生を授かってから嘗てここまで猛るような戦いはあっただろうか。確かにククルククルは恐ろしい敵だった。闘神は人間が創りだしたとは信じられない程の強さだった。だがしかし、ここまで全てを投げ捨ててまで立ち向かってきた相手がいただろうか。

 

 「ぐぼぉっ!?」

 

 「ランスさんっ!? ヒーリングっ!! 回復して下さい!!」

 

 ノスが兵士を一人殺せば新たに二人がその隙を埋めようと飛びかかる。ノスが中心たるランスを倒そうとすれば、仲間たちがランスを守ろうと一丸となる。成る程、正に不屈。こちらがどれだけ倒そうと、一向に絶望に身を委ねず、ひたすらに立ち上がる。これが人間本来の強さか。心を通わせ、一つの信念の元に結びついた時、人間とはこれほどまでの力が出せるのだな…。これならば、俺には勝てないと言った奴の言葉も理解できる…。奴の発言は信じてみる価値がある…か。

 

 コルドバの闘志が、バレスの的確な指示が、レイラのリーザスを守ろうとする気迫が、リックの高みへ駆け登らんとする軌跡が、ノスの行動を食い止める。

 

 かなみの隙を狙った一撃が、志津香の満身込めた大魔法が、マリスの努力と思いの結晶が、セルの慈愛の心が、リアのランスを愛する気持ちが、マリスのリアの幸せを願う執念が、ノスの巨躯を揺らがせた。

 

 「今だっ! カオスの錆にしてくれるわっ!!」

 

 「おうとも。やれっ! 心の友よ!!」

 

 そして皆の希望を背負い、ランスが激流に乗って飛び上がった。カオスの刀身が目を焼かんばかりに白く輝く。とどめを刺さんとするはランスの十八番であり、最強の一撃! 

 

 「ランスアタァアアアアアアア………!!!。」

 

 「ぐ…。どうやら俺はここまでのようだな。褒美だ、ランスよ! これを受け取るがいい!!」

 

 だがそこに思わぬ障害が立ちふさがる。ノスが王の間の扉付近に置かれてい巨大な袋を放り投げると、その中から攫われていたランスの奴隷、シィル・プラインが顔を出したのだ。

 

 「ら、ランス様ぁあああああ!?」

 

 「アアアアあぁっ!? げっ、シィル!?」

 

 想定外の乱入にランスの手が硬直。カオスの輝きはシュウシュウと胡散してしまった。ノスはランス達の一瞬の隙を見て、廊下から高欄へガラスを突き破り躍り出た。

 

 「さらばだ強者達よ! お前達と戦えたことを俺は光栄に思おう! 今回はお前達の勝利だ!!」

 

 「あっ!? こら待て逃げんなっ!!」

 

 傷だらけにもかかわらず、闇夜を颯爽とノスは飛び降りる。ジル様の為にも、生き残れ………か。

 

 

 

 「後は頼みましたぞ………ククル殿。」

 




 実を言うともう少し細かく書きたかったノス戦でした。でもこれで5000文字程と、本作としては異様な長さになってしまい、書きたかった戦闘描写はジル戦で晴らすことにします。

 兎にも角にも投稿時間が最近九時ではなくなって参りました。これからも投稿時間が九時以降になるかもしれません。ご注意下さい。

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