元魔王ククルさん大復活!   作:香りひろがるお茶

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第二話     なんかしらんけど、わし大変

 ここは自由都市群*の一つ、独立国家カスタムの街。この大陸においても比較的治安の良い場所である。町の人は各々の生活に幸福を感じ、充実した日々を送っている。が、なんとこの街現在進行形で地下にあったりする。特異な文化かと思うかもしれないが、これはとある魔女達が最近起こした所業であった。

※ 大小様々な独立した街からなる国家 商業が盛ん

 

 「ちゃらら~♪ちゃちゃちゃ~ん♪だららだららら~♪」

 

 どこからか不可思議な鼻声が聞こえてくる。その鼻声の正体はうら若きアイテム屋店主、トマト・ピューレ。宝箱に好かれる不思議属性を持つ少々電波な彼女は今日も楽しく掃除を行っていた。地下は湿度も高く、革などの素材を使った武具が段々と悪くなってしまう。アイテム屋店主としてこれはいただけない。取り敢えず中よりも外に陳列させればまだましかなと考えていた彼女に、思いもよらない出会いが待っていた。よいしょよいしょと盾を運んでみれば、なんとそこには全裸の女の子が倒れていたのである。

 

 「ひっ、死体ぃいいいいい。」

 

 「まだ死んどらんわっ!!うっ、腹が…。バタン。」

 

 「きゃあああああ死んだぁあああああああああ!」

 

 かくしてククルは人間との初めての出会いを果たした。残念ながら第一印象は余りよろしくなかったようだ。

 

 

 

 

 「ぅん? ここは…。どうやら助けられてしまったようじゃの。ってな…!?」

 

 ククルが目を覚ますとそこは見慣れない部屋であった。どうやらわざわざベッドを貸してくれたらしい。得体のしれない少女を泊めてくれるとはなんとも人の良い…。

 

 ふと体に違和感を感じて視線を横にすれば、なんと同じベットに先ほどの少女トマトが添い寝をしているではないか。これにはククルの目も点になった。ククルにとって幸いなことに、トマトの寝間着はビキニアーマーのような刺激的なものではなく、普通のゆったりとした服だった。

 

 「落ち着くのじゃ…。くっ、なんとハレンチな…。」

 

 トマトを起こさせないようにソロリソロリと毛布から逃げ出すククル。どうにも元魔王らしくない。

 

 「それにしても、腹が減って気絶するとは。む、うまいうまい。」

 

 ご丁寧にすぐ側の机には切ったリンゴが丁寧に皿に盛られていた。意外にも気配りの出来る女だなとククルは関心してしまった。こういう女はいいものである。丸い物の王であった頃はどれだけこのような身辺管理者が必要であったことか。わしは絶対出来ないけど。一介の人間でこれならぜひ知識にあるメイドとやらに会ってみたいものだとククルは思った。特に至高のメイド隊を持つという魔人*ケッセルリンクには是非会ってみたい。元魔王特権で1人くれんじゃろうか。魔人の使徒の中には執事Lv3もいるとかなんとか。

※ 魔王の眷属 よくある吸血鬼システムなどと同じようなもの

 

 「いやしかしそんなことより…。まさかわしがLv1になってしまうとは…。うぐぐこれでは只の丸い物じゃな…。」

 

 ククルは考えた。取り敢えずこの目の前にいる少女は間違いなく知識にあるトマト・ピューレだろう。ここがカスタムの街であることは行き倒れる前に確認済みである。何せ洞窟の中だったのだ。洞窟の中のアイテム屋で髪が緑でビキニアーマー。まず間違いない。とすれば今はLP暦*の何年かあたり、やはりこの知識は現代ものであるようだ。つまり現魔王はアホな小娘。現魔王を殺して魔王の力を奪うこともできるが、魔王になればまた破壊衝動に悩まされ、丸い物復興どころではない。ククルさんはそこまで愚かではないのだ。

※ ルドラサウム大陸での暦は在任する魔王名で呼称される 現在の魔王はリトルプリンセス

 

 「うむうむ。」

 

 ククルは迷った。何をすべきか。ククルは三超神の1人プランナーに魔王となることを義務付けられた存在であった。魔王になる前は4000年程もの間自由に仲間と暮らしていたのだが、2000年以上も魔王としてドラゴンと戦うことを余儀なくされたククルにとって、今回獲得した自由はあまりにも想定外過ぎたために手にあまるものであった。今しがた丸い物復興を目指そうとしたが、丸い物は別に虐げられているわけでもなく、この世界の創造者ルドラサウムに飽きられただけである。飽きられてしまったために衰退したのだ。うむむ。段々と神々にイライラとしてきたが、とてもじゃないが今のククルにどうこう出来る相手ではない。しかし丸い物を復興するには無視できない存在であることは確かである。

 

 「むぎぎぎ。」

 

 ククルは悩んだ。知識によるとルドラサウムを倒すのはどうやら殆ど不可能に近いとのことである。頭ではわかっていたが、実際に倒せないのと倒せないだろうという推測では天地も差があった。が、例外は常に存在するものである。ランス。どうやらその男が最終的にルドラサウムを倒すことが出来そうである。ならば今自分がすべきことはランスを支援することだろうか。

 

 「いやんいやん。」

 

 ククルは悶えた。驚くべきことであったが、ククルには性知識が無かった。絶対王政の丸い物社会で王であり丸い物最強の力を持った彼女に求愛するものがいなかったという不幸がもたらした結果であった。正しく色狂いであるランスは、ククルにとって余りにも刺激的すぎる存在である。ついでに彼女はランスの性格そのものが好きになれなかった。いくら神を倒すためとはいえランスと行動を共にすることは不可能だろうし、絶対嫌である。クルックー・モフスが持つという男避けの指輪が手に入るまではなんとしても避けたいところである。

 

 「結果、取り敢えずククルは自分のやりたいことをして楽しく自由に過ごし、妥当ルドラサウムはランスに任せることにしたのであったのじゃ。ま、ピンチの時くらいは助けてやるとしようかの。」

 

 とのことである。アホの子ククルさんに予定は立てれない。ちょっとだけ、ランスが負けそうになった時に颯爽と登場し助けてあげることで、人間の王ランスをひれ伏かせてみたいなんて考えているククルさんであった。しかしそれを実行しようとすれば、間違いなくランスの毒牙にかかるであろう。心配である。

 


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