元魔王ククルさん大復活!   作:香りひろがるお茶

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 ククル、ランス、ジル やっと今作の主人公が揃いました。


第三十一話   ククルさん in 魔人領 その1

 

 ククルとジルは、時空の狭間から遂に脱出した。体感では三時間程であったが、その実ククル達が帰るまでに約一年が過ぎようとしていた。時空の狭間における時間の流れは通常とは異なるのだ。

 

 「さてと、どれ程時間が経ったのかもわからぬし、まずはノスに吉報を伝えねばな。」

 

 ノス、という響きにジルはちょっぴり顔を綻ばせる。やはり彼女にとって今最も心の支えとなっているのは忠臣ノスなのだろう。

 

 「本当にノスは生きているのね…。」

 

 しかしながら、ジルが時空の狭間を開いてからかれこれ一年も経ったのだ。ノスがこの一年でどうなったのかは知る由もない。ノスが他の魔人に殺されたという可能性も無くは無いのだ。直ぐにでも連絡をとらなくては。だがククルにはこの事態に対し、ある秘策があった!

 

 ………ふっふっふ。このククルを甘く見ては困るのじゃ。既にわしは情報魔法の一つである通信という魔法をノスから会得していたのじゃ。

 

 「さーて早速ノスに教授してもらった情報魔法を試してみるかの。」

 

 ザ…ザザ………とノイズかククルの脳内を走る。これは恐らく成功だろう。何かしらのアクションがあったということはノスに繋がったのだ。

 

 「おおっ! ノスか!? 今しがた戻ったぞ。勿論ジルも一緒じゃ。」

 

 しかし、いくらククルが語りかけても、やたら大音量のウォーンウォーンという不可思議な音だけがひたすら聞こえる。これは一体どうしたことだ。魔法制御に失敗しているのだろうか。

 

 「あん? なんじゃ? やっぱりまだ使いこなせてないのかの? それとも魔王の力が不完全過ぎるが故かの?」

 

 それでもなんとか連絡を取ろうと魔法制御に必死になるククルの頭に、唐突にぴちょんぴちょんと水音が鳴り出した。なんじゃ雨かと頭を上げた瞬間、ククルの視界をぬらり巨大な影が遮った。

 

 「うぉおおおおおおおジル様ぁああああ! ジル様ぁああああああ!!! このノス、ただただお待ちしておりましたぞおおおおおおお!!!!」

 

 次第にその雨、いや涙の雫は洪水となりククルの頭に降り注ぐ。肉体が戻った直後故に裸だったことをククルは感謝した。なんだ、確かに寒さも暑さも感じないのなら裸も悪いもんじゃないと考えを改めさせられる体験であった。

 

 「というかこの魔法いらんかったんじゃないかの…。」

 

 

 

 

 

 ククル達は葉の無い枯れ木のような風貌の植物が鬱蒼と繁茂する樹海を歩いていた。ここは魔人領がケッセルリンク城の近くの森である。生物の気配すらしないこの森はまさしく魔界の森に相応しいものである。ククルを先頭に、ジル、ノスと続く。堂々と我が物顔で跋扈するククルに対し、ジルはキョロキョロと周辺を見回し終始二人の影に入り込むようにしている。やはり覚悟したとはいえいきなり魔人領に入るのは厳しいものだったか。そんなジルの不安を避けるためにも、ノスはこれまでかとばかりに殺気を周囲に飛ばし、彼女らに接触してくる魔物は今のところ皆無であった。

 

 「本当にあのケイブリスのとこに行くの?」

 

 おどおどとジルがククルに尋ねる。魔人ケイブリス、現最強の魔人である。ついでに言えば、人間を虫けら・玩具くらいにしか思っておらず、人間としての当たり前の感情を取り戻したジルには出来れば避けたい相手である。

 

 「うむ。あやつはそれこそ今はあんな感じじゃが昔はそりゃあ可愛いやつじゃった。わしならば奴を制御できよう。力を求めてお前さんを襲うようなことにはなるまい。」

 

 ケイブリスが人間にとって驚異的な魔人の一人であることはククルも既知ではあった。しかしククルの中でのリスのイメージは、やはりククルが初代魔王であった頃の記憶。何をするにもぴょこぴょこと後ろをついて回り、生き残ろうと必死に藻掻く可愛い子分であった姿である。ケイブリスに何があったかは分からないが、今のアヤツの姿は虚勢を張る仮のものであると勘ぐっていたのだ。

 

 「ククルよ。そもそも魔王の絶対命令権でなんとかならんのか?」

 

 不安がるジルを見かねてノスが口を挟む。魔王に備わる絶対命令権があるのだからそもそも魔人であるケイブリスに何が出来ようか、と。

 

 「んー。わしらは正確には魔王ではないからのぉ。敢えて言えば魔王モドキ・2.5%果汁ジュースじゃ。それ故命令権もかなり弱体化しておる。少なくとも魔人全員を意のままに操ることなど不可能じゃろうて。」

 

 この解答にノスは眉を潜める。詰まる所、魔人に殺される可能性があるのではないか。

 

 「ならば何故…。」

 

 「阿呆。もし魔人が敵対した時。そうなった時こそわしとお前の出番じゃ。」

 

 …そう言われてしまっては何も反論できない。チラチラと不安げにこちらへ視線を送るジル様をお守りするためにも、奮起せねば…!

 

 全くジルの事となると、途端単純になるノスであった。

 

 

 

 

 

 ククル達が進む森の中、ノスの殺気渦巻く魔界の森に、その雰囲気には決して合わないのほほんとした者が一人いた。ピコピコと猫のような大きな獣耳を動かし、くんくん鼻を鳴らすその人物はケイブニャン。魔人ケイブリスの使徒である。現在魔人カミーラの元へ手紙を送る勅命の真っ最中である。腕と足を同時に出して歩くケイブニャン。そのケイブニャンの視界に、妙な三人組が写り込んできた。

 

 ん? なんにゃあいつら。見たこと無い奴にゃん。

 

 「ちょっと待つにゃん! 怪しい奴らにゃ。」

 

 魔人の頭領でもあるケイブリスの使徒たるケイブニャンに怖いものなど無い。相手をよく見ることも様子を探ることもせず、愚直に声をかけ近寄るケイブニャン。いや、そもそもまじめに恐怖などと言った感情を覚えるかも分からないが。

 

 「おお! お前はリスの使徒のケイブニャンじゃな!?」

 

 そのキテレツな風貌にはククルも見覚え、というより知識に覚えがある。使徒であるケイブニャンならばケイブリスの場所も知っていよう。

 

 「そうにゃん! ニャンはリス様の使徒様にゃん! それでお前ら何者にゃん? もし悪いやつならけりっくけりっくしないと怒らりちゃうにゃん。」

 

 単なる魔物にも人間にも見えないククル達をケイブニャンはじぃと見つめる。しかしながらこれは可笑しな話だ。何故ノスとジルの姿を見ても何も感じないのだろうか。

 

 「俺とジル様は此奴と会った覚えがあるんだが…。」

 

 「忘れてるのね。馬鹿だし。」

 

 ククルがフォローする間もなくばっさりとジルが言い捨て去る。しかしどうもこのケイブニャン。ジルの言う通り、主に似て馬鹿かはともかく記憶力に難があるようだ。魔人最強だというのに哀れケイブリス。

 

 「あ~……。なんかケイブニャンちゃんがちらない人に絡まれてる~のねぇ。やっかいなことになりそうな~のねぇ。」

 

 そこに呑気でのっぺりとした甘い声が響く。ケイブニャンの後からふらふらとした足取りで、同じく獣耳の少女が現れたではないか。今度は犬である。

 

 「あ! けーぶワン! 今までどこ言ってたにゃん! ぴゅーにゃーん!?」

 

 遅れて現れた彼女はケイブワン。ケイブニャンと同じく魔人ケイブリスの使徒である。審議はわからぬがしっかりと任務を全うしようとしていたケイブニャンは遅れたケイブワンにご立腹のようだ。何となく毛も逆立ち、フーっと言った声を上げるその姿は紛れも無く猫である。ちょっぴり可愛いとジルは思った。

 

 「どうどう。落ち着くのじゃ。わしはククル、リスとは旧知の仲じゃ。もしお前達がわしをリスの元に案内すればきっと褒められるのじゃ。もんぷちも貰えるじゃろう。」

 

 「ほんとにゃん!? リス様がいるのはこっちにゃん! しゃっしゃとついてくるにゃん!」

 

 ケイブニャンはサが上手く発音できないのか、妙な発音で元気に悠々ククル達を誘導する。そういえば、カミーラへ届ける手紙は良いのだろうか。

 

 「とぼとぼ…。絶対変な~のねぇ。怒られてもわたち知らないの~ねぇ。」

 

 

 

 




 そういえばタイトル詐欺っぽくなってしまいました。これに関しては元魔王をつけないと魔王のまま復活と思われてしまうのでどうすればいいのかと投稿前に悩んだのですが解決案はでませんでした。ご了承下さい。

 魔王ククルさん大復活! でタグに注意文とかもあり…? そもそも完全な魔王じゃないから問題無し…?

 もしこれのほうが絶対良い!というものがありましたら活動報告かメッセのほうで是非どうぞ。

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