元魔王ククルさん大復活!   作:香りひろがるお茶

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 だいぶ遅れてしまいました。最近新しいSSを書きたくてああでもないこうでもないと四苦八苦してます。


第三十四話   ククルさん in 魔人領 その4

 

 「おかえりなさい。首尾は…あまりよろしくなかったみたいね。」

 

 ケイブニャンとケイブワンが去ってから暫くして、ククルはその失意を隠さずに帰ってきた。それだけ彼女にとってケイブリスがついて来なかった事がショックだったのであろう。未だケイブリスが力に怯えていることはよくわかっているつもりであった。だが所詮それはつまり程度。結局のところククルはこの自分自身であれば必ずやケイブリスを導くことが出来ると過信していたのだ。

 

 「ふん。取り敢えずはここでの安全は確保できたのじゃ。ひとまずそれで十分じゃろう。」

 

 ケイブリスがククルの提案に対してとった選択肢は不干渉であった。ケイブリスとしては恩のあるククルと敵対はしたくはない。だが神々と戦うなんてのはもっての外。本心を言えば、ケイブリスはククルと共にこの世界に君臨したいと思っていたであろう。だがククルがケイブリスを良く知り信頼していたように、ケイブリスはククルが己の考えをテコでも曲げない性分であることはわかっている。故にケイブリスはそれ以外に選ぶ道はなかったのだろう。

 

 「俺としてはここに留まりたくはないのだが…どこかに宛があるわけでは無いからな。」

 

 ううむとノスは首を撚る。一見魔人最強であるケイブリスに黙認してもらえたことで安全を確保できたようにも思える。しかし不干渉を約束したとしてもケイブリスがジルやノスにとって好ましいとは決して呼べない存在なのは変わらない。出来ることならばより安全な地を得たいものだが、如何せんノスには味方が少ない。ジル復活に向けて全てを切り捨ててきたのが仇となった。ノスに協力的な魔人などお人好しのアイゼルとサテラぐらいなものだったのだ。ジルに至ってはこの世界、まさに四面楚歌である。

 

 「リスの奴は信頼できる。共闘しようとはせんかったが現状ここを動かないほうがいいじゃろう。」

 

 「だがケイブリスが信用できようと他の魔人はわからん。いや、危険だと分かりきっている。特にメディウサは危険な魔人だ。嘗てはジル様に忠誠を誓っていたが今はどう動くか分からぬぞ。」

 

 魔人メディウサ。ジルが魔王であった当時、ジルによって魔人となった存在である。その性格はジルの影響を強く受けたのか残酷にして残忍、人間を殺すことそのものを目的として殺戮を楽しむ凶悪な魔人となった。さらに言えばメディウサはケイブリスを慕っている。メディウサならば魔王の血をケイブリスに献上するためにジルを殺すなんて事をやりかねない。

 

 「それにケイブリスが目をつむっていようとメディウサ達魔人と敵対してまで私達を匿うなんてことはしないでしょう。別の場所を探すべきね。」

 

 「そうじゃな…。リスの奴が共に来てくれれば面倒もなかったんじゃがな…。」

 

 がくりと脱力し、ククルは机に突っ伏す。唐突な行動に対面に座っていたジルは小さく悲鳴をあげた。

 

 「ちょっとくっ………。」

 

 粗暴なククルの行動に非難しようと声あげようとする、が…。項垂れたククルの表情は魔王のそれとは思えない憂いに満ちたものだった。

 

 「ククル…。」

 

 「あの大馬鹿者め…。」

 

 ククルもこんな表情をするのね…。そうジルは思わざるを得なかった。初めてあった時からどこか傲慢で、自信家で、姿に似合わない智謀で何者にも縛られない存在。小さなことかもしれないが、そんなククルの挫折を初めて見たかもしれない。ケイブリス城までの道中、腹が減ったと言って元魔王であったというのにそこらに生えていたキノコを食べ腹を下す。そんな自由奔放なククルが…。

 

 「ケイブリスは力あるものには逆らえない。そういう男です。神々と戦うなど彼には到底不可能だったのでしょう…。」

 

 ククルの失敗はなるべくしてなったもの。それはククル以外の視点で見れば当然と言って差し支えない程。…だというのに全く何を落ち込んでいるのか。これで少しは元気をだして貰えるといいけど、と淡い期待を乗せジルはククルを励まそうと試みた。

 

 「のう。ジル、それにノス。御主達も本心では神々と戦うなど愚かなことだと、烏滸がましいことだと思っておるか?」

 

 互いの思いがすれ違ってしまったかのように、数秒間の沈黙が流れた。

 

 「…ふ、ふはっはっはっは! いやこれは失礼した。なんとも似合わない台詞だな、ふふ。散々俺に信用しろと言っておいてなんだな。」

 

 しかしてその沈黙はノスとジルの笑い声に掻き消された。ノスは口元をニンマリと曲げククルの背を叩き、ジルは右手で口元を抑えクスクスと笑う。思わぬ反応にククルはポカンとまぬけな顔を上げた。

 

 「…あなたらしくないわね。リスに断られたくらいで自信をなくしたの?」

 

 「くらいとはなんじゃくらいとは! わしは全然気にしてないからの! あーもう神だろうが悪魔だろうがわしにかかればチョチョイのチョイじゃ!!」

 

 ジルの挑発を孕んだ発言にカーっと顔を赤らめると、ククルは勢い良く机を叩き立ち上がった。

 

 「ふふっ、そのくらいのほうがあなたらしいわ。」

 

 「ぐっ、わしは情報を集めに行ってくる! ここでしばし待っとれい!!」

 

 恐らく実際は行わない言い訳であろうそんな言葉を残して、ククルは今までにない全速力で部屋を抜け出した。いつもかき回される側であったノスとジルとしては痛快この上ない。ノスとジルはお互いの表情をちらと一瞥すると、暫く再び腹を抱えて笑い続けた。

 

 「しかしあのククルが日和るとは、なかなかに珍しいものが見れましたな。」

 

 お互い笑い尽きるとノスはポツリと呟き、そして先程のククルの赤らんだ顔を思い出し再びクックックと笑う。しかしそんなノスとは対照的にジルはひとしきり笑った後は、終始ククルの去った扉を眺め続けていた。

 

 「彼女も私達と同じなのよ。もしかしたら、私達の想像以上に苦しんでいるかもしれないわ。私と違って、彼女には誰も慕ってくれるひとがいないのだから…。」

 

 「ジル様…。」

 

 …やはりジル様は俺よりも深く物事を捉えてなされる。俺もジル様と同じ視点に立ちたいものだ。しかしこれは自分がジル様の御心を支える存在たり得ていると認めてくださっているのだろうか…。俺も遂にジル様にとってそこまでの存在となれたのだろうか…!

 

 残念ながらノスはジルが自分を認めてくれるということが気がかりとなり、ククルの感情云々までは頭がまわらないようであった。まだまだジルと同じ視点へは遠いようである。

 

 「だから…私達がククルを支えられる存在にならないと…ね。」

 

 ノスの無意味な思考はくるりと振り向いたジルの笑顔に断ち切られた。嘗てジル様は驚くべき程新しい世界をこの俺に魅せつけてくれた。しかしそれでもまだ新しい境地をこの俺に教えてくれるとは…。

 

 「ふむ。ではそこに私も加わらせていただきましょう。」

 

 突如として、いつの間にか扉の前に第三者が現れていた。本来であればこのような状況はノスがなんとしてでも回避するはずであったが、ジルに心奪われ無意識になっていたのが仇となったか。

 

 「お、お前はっ!?」

 

 ジルにはその姿に見覚えがあった。どこか魔物らしからぬ礼儀正しさで周囲から少々孤立していた魔人。やたら黄色い身体が目に優しくない妙な魔物。だがその生真面目さから信頼の厚い良き忠臣であった男。

 

 「いやはや、またあなたに仕えることが出来ようとは冥利に付きるというもの。このジーク、時は移れど主変わらず。どうか私めをお使いくださいませ。」

 

 

 


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