元魔王ククルさん大復活!   作:香りひろがるお茶

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第三話     なんかしらんけど、わし不運

 

 自由に生きると決めたククルだが、生きるには何か目標が必要なものだ。取り敢えずククルは一つ決心する。

 

 「リスに会いに行くのじゃ。」

 

 ククルの言うリスとは魔人ケイブリスのことである。ククルが魔王であった時にその眷属として魔人化させた数少ない存在であり、驚くべきことに4000年以上たった今も存命。ククルにとってはLP暦現在、数少ない知り合いであり愛すべき馬鹿息子である。知人といえば、彼女と2000年近く戦い合ったドラゴンの王マギーホアとドラゴン唯一の雌個体カミーラも存命だが、流石に彼らと会うのはLv1のククルには色々と酷だろう。そう、ククルはLv1。ケイブリスに会うにしても何をするにしてもレベルアップは急務である。魔人領を安全に渡るためにも最低でもLv50強は欲しいところだ。

 

 「そうと決まれば早速レベル上げじゃ。こやつに恩も返さねばならんしのう。」

 

 ぴょんと腰掛けていたベットから跳ね起き、柔軟体操。丁度都合よく机にあった羽ペンで、トマト宛にダンジョンで宝探し兼レベルアップをしてくる旨を伝える文を書いておくのも忘れない。因みにインクはイカマンの墨である。

 

 「ふっ。このわしの実力を現代の腑抜けどもの見せ付けてくれようではないか。」

 

 戸に手を当て決め台詞も忘れない。ククルはハニー達との初試合の方はどうやら忘れてしまったようだった。丸い物らしく、知能は少々残念と言わざるをえないかもしれない。

 

 「きゃあああトマトちゃんの家から全裸の女の子が!」

 

 「な、なんなのじゃ!?」

 

 ククル は トマト の 隣家 の おばあちゃん に ローブ を もらった !

 

 

 

 「ほれほれほれほれ。」

 

 「いやっ、やめっ、ひぃいひっひっひひひいいぃい。」

 

 女の悲痛な笑い声がダンジョンに何度も響きわたっていた。ククルのものではない。ククルはカスタムの街から離れ、近くの適当なダンジョンに入るとひたすら女の子モンスターきゃんきゃんを虐めたのだ。それはもう悪質な虐めだった。ダンジョンのあちらこちらには笑いすぎて横隔膜が痙攣して動けなくなったり、顎が外れて気絶したきゃんきゃんが所狭しと倒れていた。ピラミッドのように積もれたきゃんきゃんマウンテンに、最弱モンスターであるきゃんきゃんだけを狙う狡い元魔王が鎮座していた。

 

 「よしよーし。これでlv10くらいじゃな。この体にも幾分慣れたしそろそろ適当に宝でも探すとするかの。」

 

 因みにメインプレイヤーがレベルアップをするためにはレベル神かそれに準じる者の力が必要だったりするが、現大陸のメインプレイヤー扱いではない丸い物にレベル神は必要ではない。

 

 「うわっ、なにこれどうなってるの。」

 

 と、どうやら他の冒険者がやってきたようだ。その女は非常に既視感漂わせるビキニアーマーであった。なんじゃ最近の流行りはこいつなのかの。わしも着てみたいのう。残念なことに、起伏に乏しい彼女の体ではビキニアーマーはあまり似合わないかもしれない。本人の前では決して言えないが。

 

 「ふふふ。こやつらはな、わしを直視しただけだ。あまりにも我が力が凄まじい為に意識を保ってられなかったのだろうな。ふ、ふふ。」

 

 「いやそれは流石に無いと思うけど…。」

 

 ああ、何この子どうしようかしらとビキニアーマーの女はけったいなククルの姿に戸惑いを禁じ得ない。しかしこの女、ユラン・ミラージュが強い(強そうな)相手と出会ったらまずは勝負。話はそれからである。

 

 ユランは大国リーザス*に置いて、闘技場チャンピオンであり最強の剣士と呼ばれるほどの腕前だった。しかしながら半年ほど前にランスによって敗退、ランスに初めてを奪われるのもその後女としても興味を失われ長い間不貞腐っていたが、現在傷心兼修行の旅の途中である。又、闘技場では剣戦闘Lv2の彼女だからこそ使える必殺技「幻夢剣」に頼りきりであったため、封印中だそうだ。因みに、技能とは人間が持つ才能を数値化したようなものであり、どの技能も最大はLv3である。

※ 三大国の一つ 詳細は後述する

 

 背中の大剣をぬらりと片手で構え、ククルに刃を向けるとこれ見よがしに剣先を揺らし威圧する。薄暗いダンジョンの中で動きとともにギラギラと光る大剣は明らかな挑発の体をククルに見せていた。

 

 「取り敢えずあんた、強いのかい?」

 

 「ふふ、ふむ?なんじゃ喧嘩でもふっかけている気なのかの? 遊技場でぬくぬくと育った腑抜けに負けるわしじゃないわい。それにわしは今忙しいのじゃ。しっし。」

 

 挑発には挑発。ククルは女がユランであることをその見た目と言動で見抜き、彼女が気に障るであろう言葉を敢えて選んだ。なにより、彼女はこの時代の人間の力量を知識ではなく、実際に見てみたかったのだ。ユラン・ミラーシュは大国リーザスNo.1戦士と賞賛される存在。正しく適役であろう。多分。

 

 「へぇ、私を誰か知っていてるみたいね…。確かに私はもうチャンピオンじゃないけど。だからといってあんたみたいな小娘に舐められるとは思ってなかったわ。後悔なさい。」

 

 「ほっ、ではその小娘が直々に世界の広さを教えてあげようぞ。」

 

 ユランは両手でしっかりと剣を構えると、ジリジリと距離を詰める。対人戦に優れた彼女は定石通り、相手の出方をゆっくり見つつ間合いを見極めんとする。対するククルは上半身をゆらゆら揺らしながらユランの重心を揺さぶり隙を見つけようとする。先に動いたのはククル。低レベルのククルにとって長期戦は愚の骨頂である。

 

 「炎の矢!」

 

 予想外の魔法発動に一瞬隙を見せるユラン。ククルによって倒されたきゃんきゃん達に火傷や魔法痕はなかったために予想外の初手であった。炎の矢はユランの半歩前で爆発すると、ククルはその炎と粉塵に身を隠しつつ、一気に間合いを詰める。素手による格闘技と大剣による攻撃では、速度という点において圧倒的に格闘に分がある。瞬時に懐に入り込み、右手でアッパーをかける。とてもLv10とは思えない戦闘力を発揮するククル。が、レベル以上のものを持っているのはユランも同じである。大剣に力を掛け押出、瞬時に重心を移動させ、上半身を右に逸らすことでアッパーを避ける。更に、同時にそのまま大剣を横一線。ククルに振り抜ける。剣戦闘Lv2のユランだからこそ出来る達人的技能である。だが対するククルはアッパーの勢いそのままに下半身を捻り上げる。剣を振りぬけようとするユランの腕を、右足で蹴ることによって、軌道をずらし難なく避けた。手痛い反撃にユランは再び間合いを遠ざける。

 

 「いやはやなんとも面白い動きをするもんじゃ。成る程人間は四肢と武器とを合わせることでそんなことも出来るのじゃな。」

 

 ククルはユランが見せた動きに対して、驚くこともなくただ単純に感心しているようであった。ユランは体勢を正しつつ、軽く右腕を擦る。骨は折れてはいないが、かなり重い蹴りだった。剣を落とすような不体裁は曝さなかったものの、あの華奢な体からは少々想定外の一撃だ。純粋な決闘ならば、一本取られたというところか。

 

 「あんた、なかなかやるね。どうにも人間じゃないかもしれないようだけど、口だけじゃない。賞賛に値するよ。人間だろうが女の子モンスターだろうが関係なくね。」

 

 「ふん。褒めるでない照れるわい。さてさて少しは世界の広さを伝えることが出来たかの?」

 

 「取り敢えず、私の世界は狭かったってのはね…。」

 

 油断なくしていたつもりだったが、どうやら見くびっていたようだ。本気でこの女に勝つには必殺技幻夢剣が必要かもしれない…。とはいえ、あの技に頼ることは…。

 

 「まぁ別段闘技場だけが生きる道ではないわ。望みある時期にわしに会えたのは幸運じゃったな。」

 

 ククルは息も乱れず、自然体のままだ。なんだかどうにもこの女には色々と勝てそうにないな、とユランは感じ取ってしまった。

 

 「あぁ、ほんと。世の中わかんないものね。まさかこうも旅に出てすぐに自分以上の実力者と会うなんて思ってなかったわ。」

 

 剣を下ろした彼女の表情はどちらかと言えば晴れやかであった。闘技場という環境が彼女を意固地にさせていたのかもしれない。

 

 「かっ、必殺技*も使ってないくせによう言うわい。選別じゃ、ちょっとしたサービスをくれてやろう。わしとしてもこの戦いには価値があった。遠慮せず受け取るといい。」

※ 一定の技能以上が持つことの出来る技

 

 軽く自身の髪を手ですくと、両手をパンと合わせる。すると握られた手の中から光が漏れだし、煙のようにふわりふわりとユランに纏わりついた。

 

 「何、怪しいもんじゃないわい。わしの力を少ーしばかし分けてやっただけじゃ。」

 

 ものの数秒で光が消え、不審がるユランに一言加える。ククルとしては最上級のプレゼントであった。

 

 「別に強くなった気はしないけど、ね。何にしてもあんたのお陰でふっきれたわ。」

 

 ふぅと息を漏らし、ユランは自身の体を軽く見回した後、少々ドギマギとした様子を見せる。

 

 「ねぇ、もし良かったら…。私と一緒に冒険してみない? あなたといると退屈しなさそうだし。」

 

 これにはククルもきょとんとした後、心底可笑しそうに笑った。なんとも言えない初々しさが擽ったい。恐らくユラン自身からこのような話を持ちかけるのは今回が初めてなのではないだろうか。

 

 「面白いのぉ人間。だがお前はわしにはついてこれん。それにお前が目指すものは単なる強さだけではない筈じゃ。しっかりと己で考えねばな。」

 

 言葉の途中でくるりと背中を向け、ククルはダンジョンの奥地へ歩き出す。人間体型になってみたかったことその一「背中で語る」である。そして台詞もかなり、くさい。酔ってらっしゃる。目を細くしユランには見せていないが得意げな顔だ。しかしここはダンジョンである。

 

 

 

 薄暗い危険地帯では足元注意。

 

 

 

 「いつかまた出会うこともあるじゃろう。その時を楽しみにぃのぎゃああああああああぁぁぁぁぁぁぁ………。」

 

 

 

 かくして元魔王ククルはダンジョン奥底へと落ちた。

 


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