元魔王ククルさん大復活!   作:香りひろがるお茶

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第五話     なんかしらんけど、わし失敗

 

 ゼスの天才魔法少女アテン・ヌーは、下着にパーカーだけを羽織り、自堕落な、それでいて充実した引きこもりライフを自らが制作したダンジョン内で楽しみ始めていた。今日は大量の通販購入物が届く日であり、彼女が毎月最も楽しみにしている大切な日である。しかしこのそんな楽しい嬉しい記念日とは一味も二味も違った。

 

 「ほー。立派なもんじゃなぁ。わしでもこんな豪勢な居を構えたのは王になってからであったのじゃがなぁ。」

 

 いきなり、わし元魔王という謎の自己紹介と共に訪れたローブの少女は、アテン・ヌーの了承無しに家へずかずかと入り込むと、徐ろにゼス製魔力冷蔵庫を開け始めたのだ。

 

 「なんじゃこれ…。空っぽじゃないか。つまらん。」

 

 引きこもり少女の基本的な食事は菓子類とインスタントであるからして。

 

 「………あの。」

 

 ククルの旺盛な好奇心の次なる標的はタンス。そこにはびっしりと同じパーカーがかけられていた。様式美である。決して、決してファッションというものが理解出来ず、どうでもいいと考えていたのではない。

 

 「ぁー。ほんと残念な奴じゃのー。」

 

 な、なななななな。なんて失礼な女…ビチクソが…。小汚いローブ姿の小娘に言われたくないわ。そう思わずにはいられないアテン・ヌー。突然部屋に押し入りプライベートを漁りだすなんて何に対してもやる気を出せない彼女でもピクピクものである。

 

 しかし元魔王の進軍は止まらなかった。今度はベッドに積まれた漫画や小説、雑誌を手当たり次第に漁っていく。しかも、これでもないこれでもないと言いながらポイポイ投げているではないか。

 

 「元ゼスの天才少女だとか何とか言っても所詮は小娘…か。どれもまともに換金出来そうもないわい。部屋だけ立派じゃどうしようもないわ。なんぞ貴金属とかないんかの。」

 

 「………アンコク。」

 

 流石の無気力少女ヌーもここまでされて黙っているわけにはいかない。得意の黒魔法アンコクをククルに発動しようとする。が、それを察したククルは近くの漫画を手に取り盾のようにヌーに向けた。

 

 「何すんじゃ。危ないじゃろ。お主の大切なものが消えてええのか? ほれほれ。」

 

 それはこの間買ったばかりの新刊。これではヌーは攻撃できない。最低でも後10回は読み直したい。思わずうっと息を飲み、魔力を霧散させる。今まで賛辞如何程にもあれど、ここまでコケにされたことはなかった。あまりの悔しさにうっすらと目尻に涙が溜まり始めたが、ククルは全く気にした様子を見せず、漫画を片手にベットから更なる獲物を探しに移動する。

 

 「お? なんじゃこれ。不思議な板じゃな。」

 

 ククルが目に付けてしまったのはノートパソコンである。このルドラサウム大陸では非常に珍しい最新機器である。しかもノートパソコンはそれなりに重いが、ククルでも持ち運ぶ事ができる程度のもの。これは結構な金銭的な価値が見受けられるかもしれない。

 

 「ほふん。悪くないかもしれん。おーいヌーとやら。これくれんかの。」

 

 ククルとしてはこれからも長きに渡って引きこもるアテン・ヌーには金銭など必要としていないだろうという思い込みがあった。それに加えさっさと要件を済ましたいがために、こんな脈略のない一連の行動を取ってしまっているのだが、ヌーからしてみればイカれたアバズレである。

 

 「絶対にっ!嫌っ!!」

 

 と怒鳴ってしまうのも仕方ない。何よりひきこもりにとってパソコンとは叡智の極み、人生の意味そのものである。渡せるわけがないし、渡すつもりもないのである。他人が触るだけでも絶対に許せない。それなのに、ククルはあろうことかパソコンを持ち上げてしげしげと見ているではないか。魔法を打つわけにもいかず、ヌーは実に数年ぶりの全力疾走でククルの元へ、いやパソコンの元へと駆けた。

 

 「返して!!返してよ!!!」

 

 「おっ!?うぉ、やめんかこのっ!」

 

 「「あっ。」」

 

 

 一瞬の静寂の後、今日この日よりアテン・ヌーを夜な夜な苦しめる破壊音が響き渡った。飛び散った部品がカランカラン、と感情を奏でた。

 

 

 ヌーは失った。そらもう色々と失った。その場に膝をつき、ジャンクとなった己の分身を無心で見つめる。たくさんの思い出があった。そこには明るい(?)未来が詰まっていたのだ。

 

 「その…なんじゃ…。………スマンカッタ。」

 

 尋常ならざるその様子にククルもやり過ぎたかなと反省した。しかし彼女が反省しようがしまいが、壊れたものは戻らない。

 

 「ねぇ…。わたし、アテン・ヌーっていうの。」

 

 言葉を発しながらも、彼女の視線は微動だにもせずに、ただひたすら一点を見つめていた。

 

 「は? う、うむ。それは知っと「あなたの名前は?」」

 

 「くっ、ククルククル…じゃ。」

 

 なんじゃ…? ククルは不思議な感覚に陥っていた。

 

 「そう…。それじゃあ…。」

 

 ゆらりとヌーは立ち上がる。はて目の錯覚か、彼女の周りには黒い瘴気のようなモヤがかかっているようにククルには見えた。

 

 

 

 

 「………殺す。殺す殺す殺すころすころすころすコロスコロスコロスコロス!!!!!!」

 

 

 

 

 「あっ。」

 

 ククルは気づいた。ああそうじゃ、この感覚は____これはまるで超神プランナーと会った時のような_______。

 

 ここにククルの生涯の障害たる天敵、アテン・ヌーは誕生する。

 

 


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