もしキーストンがウマ娘に転生したら   作:H&K YAMATO

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特徴がないなんて知ったことか。

間違いだなんて信じない。

証明するんだ、強さを!


第10話 試合(トレーナー視点)

6月15日

 

その日はキースのメイクデビューだった。

 

俺とキースは一生懸命トレーニングをしてきた。

 

でも最近キースの様子がおかしい。

 

六月の初めからトレーニングにのめり込むようになったのだ。

 

確かにキースは以前から真面目にトレーニングをしていた。

 

でも今はそれに加えて、何か必死さを感じる。

 

以前はトレーニングの休憩時に俺と雑談することが多かったのに、最近は放っておくと休憩なしでトレーニングをしようとする。

 

俺の指示を破って自主トレーニングをしたことも何度かあった。

 

軽く注意をするだけではおさまらず、体操服にタイツを履いて足の疲労を誤魔化そうとまでしていたこともある。

 

普段と違う彼女の格好は新鮮で可愛かったが、もちろん怒った。

 

「お前が自主トレーニングをするたびに、トレーニングをみる時間を減らす。」と言ったらやらなくなったけどな。

 

それ以外は基本的にいつも通りだ。

 

最初はメイクデビューが迫ってきたからだと思っていた。

 

だけど、たまにグラウンドで別の方向を向いて無表情になることがある。

 

しかも何が不満なのか前掻きをしている。

 

一体どうしたっていうんだ?

 

それとなくキースに聞いても「なんでもない。」の一点張りだし。

 

ダイコーターやカブトシローに聞いても知らないっていうし。

 

特に怪我には繋がってない、トレーニングを真面目にやっているときたから踏み込みづらい。

 

だがそれも今日までだ。

 

今までは選抜レースに向けたトレーニングに集中したかった。

 

だから聞かなかったけど、終わったら話を理由を聞き出そうと決めている。

 

大事に育てたキースが、問題を抱えてレースに参加するので胃がシクシク痛んでいる。

 

俺が育てたウマ娘が初めてレースに出走するのだ。

 

今までトレーニングをしている時とは違い、すぐに駆け寄ってあげられない。

 

レースは成績としてURA(Umamusu Racing Association)の公式記録に残り、俺と彼女の一生を左右する。

 

ああ心配だ、何かミスをしている気がしてならない。

 

対戦相手の情報は全て知っている。

 

キースの体の状態も万全なはずだ。

 

でも俺のせいで彼女がレース中に怪我をするかもしれない。

 

結果が出なくて、諦めてしまうかもしれない。

 

そういう不安が湧き出てきて止まらない。

 

それでも俺は、もう彼女をターフに送り出したのだ。

 

あとは彼女を信じて祈るのみ。

 

今日のレースは芝1000mだ。

 

今のキースなら走りきれる、短距離のレース。

 

今回のメンバーは10人だ。

 

 

1番 ヤマヒサクイン

 

 

2番 キーストン 

 

 

3番 ラッキーダブル

 

 

4番 キョウエイホマレ

 

 

5番 ヒガシソネラオー

 

 

6番  チトセオー

 

 

7番 ワイエムトルコ

 

 

8番 シルバーヘア

 

 

9番 カワサキオー

 

 

10番 リユウゲキ

 

 

キーストンは内側なので有利な方と言える。

 

「おーい山本!探したぞ。」

 

レースが始まるのを観客席で待っていると、同僚のトレーナーの一人が声をかけてきた。

 

あいつはチトセオーのトレーナーだったはず。

 

「よお、加藤!調子どうだ?」

 

こいつは加藤という名前で割と情報通なやつだ。

 

「今日は山本と一緒に観戦したかったんだよ。」

 

「嬉しいけど、なんでだ?」

 

「いやあ、やっぱり父親があの有名トレーナーだからさ。お前なら凡骨の俺とは違う視点を持ってるかなと思って。、」

 

こいつは打算を隠さないから好きだ。

 

わかりやすい。

 

「でもさ、俺もお前も災難だよなあ、できればダイコーターとかカブトシローとかそういう才能があるウマ娘を堪能したかったよ。」

 

「おいバカ聞こえるぞ!なんでこんなとこで言うんだ!」

 

「聞こえやしねえって、それよりお前キースがなんて言われているか知らないのか?」

 

そうして俺は加藤からキースや俺がなんて言われているのかを少しだけ教えてもらった。

 

ああお前らか、キースが悩んでいた理由は。

 

今まで先輩トレーナーとばっか関わってたから知らなかったけど、同期の間でそんなふうに言われているんだな俺たちは。

 

こういうふうに観客席で、ずっと悪口を言ってればキースだって気づくよな。

 

俺は母さんがウマ娘だったから、ウマ娘の耳がどれほどいいか身を持って知っている。

 

でもトレーナーの全てがそういうやつばかりじゃない。

 

「見てろよ、お前らのそんなチンケな認識、キースはぶち破ってみせる。」

 

かつてトレーナーだった親父から聞いたことがある。

 

周りからバカにされているウマ娘は折れるか・奮起するかの二択で、折れてしまうやつの方が圧倒的に多いのだと。

 

幸いにもキースは後者だったようだ。

 

俺はいつの間にか担当が潰れてしまう危機で、しかもそれに気づかない間抜け。

 

ああ悔しい、悔しいよ。

 

俺はキースが苦しんでいる時に何もしてあげられていなかったじゃないか。

 

もっと彼女に寄り添うべきだった。

 

俺がしていたことなんて、ただ自分の作ったトレーニングメニューを押し付けていただけだ。

 

俺はトレーナーになるということを全く理解していなかった。

 

過剰な練習をした時は怒るだけじゃなく、理由をちゃんと聞くべきだった。

 

メイクデビューのせいだなんて決めつけちゃいけなかったんだ!

 

キースが帰ってきたら謝ろう。

 

「気づいてやれなくてごめん」って

 

そして褒めてやろう、よく頑張ったなと。

 

だけど今は、あいつのレースをみよう。

 

しっかり見るのが俺の務めだ。

 

全員のゲート入りが終わり、いつものように近くの拡声スピーカーから実況がスタートする。

 

 実況「晴れ渡る青空の中、このトレセンレース場、第1模擬レース芝1000m、バ場の発表は良となっています。10人のウマ娘がこのレースに挑みます。」

 

さあいけキース。

 

実況「各ウマ娘、ゲートに入って体勢整いました・・・・・スタートです!」

 

ゲートが開いてウマ娘が走り出す。

 

ハナを奪ったのはキースだ。

 

赤い帽子を被った俺のウマ娘が、体操服で先頭をかけていく。

 

実況「全員綺麗なスタートをきりました。そしてハナを主張したのは2番のキーストンです。」

 

解説「以前スタートダッシュで失敗しましたキーストンですが、しっかり練習してきましたね。逃げウマとして好走が期待できますよ。」

 

実況「2番手争いは3番ラッキーダブル、5番ヒガシソラネオー 上がっていきます。」

 

解説「これは暴走ですかね?キーストン、すごい速いペースだ!どんどん後ろと差が開いていますよ。」

 

 俺はキーストンに何度かラップタイムを意識して一定のペースで走らせようとした。

 

一人で走っている時は問題ないのだが、他の娘と併走すると後ろが気になっていつも一定のペースで走ることができない。

 

本人曰く、「どうしても抜かされるのがいやでしょうがなく、勝手にペースが早まってしまう」のだと。

 

だから逆に考えたのだ、「暴走しても走りきれるスタミナをつければいいじゃない!」と。

 

今はまだスタミナを十分につけることができていないから、キースが全速で走りきれるのは調子にもよるが1600から1800mぐらいまで。

 

だからまずはあいつに自信をつけさせるために、距離の短いレースでデビューさせた。

 

これから距離は伸ばしていけばいい。

 

実況「ハナを奪って行ったのはキーストンです。逃げる、逃げる!後方との差がどんどんひらく。大丈夫なのかキーストン、現在8馬身。距離はいま残り800mを通過したところです。」

 

解説「すごいスピードですね。この速度で走りきれるなら大したものですよ。」

 

そう思うだろ。でもキースは走り切るぞ。

 

実況「ここで現在の順番をお知らせします。先頭は2番キーストン、大きく引き離されて1番ヤマヒサクイン、3馬身開いて5番ヒガシソラネオー、3番ラッキーダブル 1、続いて6番チトセオー ここまでで先頭集団を形成しています。2馬身開いて10番リユウゲキ、続いて7番ワイエムトルコ、続いて10番リユウゲキ、殿は9番カワサキオーです。レースは今先頭が残り600mを通過したところです。」

 

解説「レースはまだ半分です、キーストンがハナを主張していますが、逆転は十分あり得ますよ!」

 

いやもうそんなものはない。

 

実況「さあ残り400mです。5番ヒガシソラネオーと3番ラッキーダブルが外から追い上げてき、えっキーストン加速、加速しました。さらに後方との差が開きます。信じらません、どこにそんな脚を残していたのか!」

 

後ろの追い上げを感じるといつもこうだ。 

 

これはあいつの長所でもあり短所。

 

例えれば今まで100%の力で走っていたけど、終盤でさらに力を入れて120%の力で走る。

 

足のことなんかまるで考えず限界を越えていく。

 

残していたんじゃなくて、脚の寿命を削って引き出す。

 

だから他のウマ娘よりも早く走れる。

 

あいつは根性があるから限界を超えて走れる才能があった。

 

多分必要があれば、肉体が壊れるような限界速度もきっと出せてしまう、そんな才能。

 

本当はこんな走りなんかさせたくない。

 

トレーナーとしては100で抑えさせて、いかに勝つのかを考えるのが正解。

 

実況「キーストン、脚色は衰えない。ゴールまではあと100m。」

 

解説「これはもう決まりでしょう。」

 

ああでも全速で走るキースはやはり素晴らしい。

 

俺があいつの走りで惚れたところはここだ。

 

「負けるもんか!」って、「先頭は私だ!』って全身で叫んで走っているあいつはかっこいいんだよ。

 

実況「キーストン今、1着でゴールイン!大楽勝です。なんと差は10馬身!影すら踏ませませんでした。さあそして二番手争いは・・・・」

 

あいつの脚が壊れそうというなら、それを支えるのがトレーナーだ。

 

だから俺の身命をとして支えてみせる。

 

もとよりあいつの掛かり癖は直すの難しいし。

 

実況「確定しました。キーストン、なんとレースレコードです!」

 

解説「これからが楽しみですね。」

 

0.59.6という数字が掲示板に表示された時、俺は思わず立ち上がっていた。

 

加藤がなんか言っているのが聞こえるが耳に入ってこない。

 

「キースぅうううううううううううう、よくやったぁああああああ、えらいぞぉぉ!!!!」

 

喉も裂けよとばかりに叫び、両手を大きくふる。

 

見ていたよ、これからも見ているよ、と伝えたい。

 

キースもこちらに向けて手を振っている。

 

これはまだ旅の始まりに過ぎない。

 

でも、たとえ道の先が敗北であったとしても、俺はきっと後悔しない。

 

そう思った。

 




少し自分語りをさせてください。

今回書かせてもらったメイクデビューの場面、個人的にかなり思い入れがあります。
それは、この場面が私のゲームでの体験をもとにして書かれているからです。

私は育成ゲームで初めて育てるキャラというのは、どんな作品でも特別だと思っています。
それは、初めて育成するキャラがそのゲームの印象を左右すると思っているからです。
筆者にとっての特別はサイレンススズカでした。

彼女の固有スキルがメイクデビューで発動し、先頭を維持したまま駆けて行ったのを見て、

かっこいい・美しい・誇らしい・かわいい そんないくつもの感情がごっちゃになって、

このゲームに夢中になる音がしました。

その後もゲームを続けて、ダイワスカーレットに先行、キングヘイローやナイスネイチャで差し、ゴールドシップで追い込み、とそれぞれの脚質の楽しさを教えてもらいました。

それでも私が今狂うおしいほどに逃げが好きで、書いている小説のウマ娘までもが逃げの脚質なのは、サイレンススズカの影響があると思います。

あなたにとって特別なウマ娘は誰ですか?

もしよろしければ感想で教えていただけると嬉しいです。
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