もしキーストンがウマ娘に転生したら 作:H&K YAMATO
俺は彼女を選んだ。
彼女には諦めが悪い娘が好きだと言ったが、それは半分本当で半分嘘だ。
俺は自分と似ている彼女を放って置けなかったのだ。
それは俺がトレーナーになろうと思った理由にも関わってくる。
俺の親父はトレーナーだった。
でも俺は親父からトレーナーになることを反対されていたのだ。
親父はトレーナーで成功するには運が良くなければダメだと言っていた。
最初に選んだウマ娘の才能で、トレーナーの人生はだいたい決まってしまうらしい。
普通のウマ娘はオープン戦レベルを勝てるのがせいぜいで、重賞レースを勝てるのはほんのわずか。
毎年行く人もの生徒が学校をさり、いいウマ娘にめぐり会えなかったトレーナーは契約解除を繰り返すことになるのだという。
業界の厳しさを知っているからこそ俺にトレーナになって欲しくなかったんだろう。
以前絵本をかいて成功したことがあったから、作家ならいいと言われた。
俺はそんな父の反対を突っぱねてトレーナー養成校に進学し、トレーナー認定試験に合格した。
父とは最後まで意見が合わず、勘当同然でトレーナーになったのだ。
親父に夢を否定されても頑張れたのは母さんがいたからだ。
母さんは俺の夢をこっそり応援してくれた。
俺がトレーナーの勉強している所を見られたくなくて、父さんが寝た後に勉強していることを知っていた。
知ってて黙ってくれていた。
しかもたまに夜食を作ってくれた。
母さんがいたからこそ今の俺がある。
そんな俺だから、最終直線で抜かされても諦めなかった彼女を助けたくなった。
まあ彼女は知らなくてもいいことだ。
俺とキースは寮の門前で契約を交わした後、次の日に早速一緒に書類を提出しにいった。
ライバルであるカブトシローやダイコーターもトレーナーが決まったらしく、すでに書類を出しに来ていたようだ。
契約名簿に名前が書いてあった。
きっと手強いライバルになるだろう。
キースのトレーニングだが、スタート練習から始めることにした。
彼女の得意脚質はまだ判断できていないが、ゲート練習はどの脚質でも必要だと考えてすることにしたのだ。
それと並行してグラウンドを走らせてスピードを鍛える。
ゲート訓練が終わるまではこの予定で行こうと思う。
しかし、新人でまだ経験が少ない俺は教科書通りのことしか知らない。
だから俺以外の人にも手伝ってもらうことにした。
翌日から俺とキースのトレーニングが始まった。
俺とキース、そしてもう一人がグラウンドに集まっている。
「ということで今日はトレセン学園理事長秘書のたづなさんに来てもらいました。はい、拍手。」
パチパチと俺が手を叩く中でキースが目を丸くする。
「え!?すごいです、あのトキノミ・・・」
「たづなです。」
「あの、ですがあなたは」
「たづなです。」
「・・・」
「たづなです。」
「ハイ、ヨロシクオネガイシマス。」
キースは、たづなさんに圧されて黙った。
「で、今日からたづなさんにゲート練習を教えてもらうぞ。」
俺はゲート機材の準備や補給用の水分を用意し、たづなさんがキースに集中力を保つコツを教えている。
たづなさんの教え方が上手いのかキースがすごいのか、あるいはその両方か。
キースは半月でスタートダッシュを物にした。
それどころかキースは、ゲートが開く時のモーター駆動音が鳴った瞬間にスタートできるようになった。
開く瞬間の狭い隙間にぶつからないようにスタートする。
これで誰にも邪魔されないように前に出れるのだ。
目にわかる進歩に彼女も喜んでいた、彼女にはその調子で頑張ってほしい。
たづなさんを呼ぶことができたのは、トレーニングが終わった後に彼女の仕事を引き受けているからだ。
最初はレース界のレジェンドにお近づきになっておけば、いいことがあるかなぐらいの気持ちでしかなかった。
だから研修期間の時に普段どんな仕事をしているか興味本位で質問に行ったのだ。
けど彼女が忙しすぎた。
彼女の通常業務はこんな感じだ。
朝5:00に登校してまず、溜まっている書類を分ける。
理事長決済が必要な書類とそうでない書類の仕分けをするのだ。
そして理事長の机に置く。
その後朝ごはんを食べながらパソコンを開き、学校に来ているメールをチェックする。
生徒の要望メールなど返信できるメールはその場で返信し、食品の仕入れ先などの取引先のメールは理事長に転送する。
そしてここまでで午前が終わる。
今度は昼食を食べながら、俺たちトレーナーからの提出書類のチェックをする。
レースの出走申請やトレーニング施設の予約申請など、不備があれば否認、なければ承認の箱に入れる。
トレーナーの数が多いので夕方5:00ごろまでかかっていつもかかってやっと終わっている。
ここで6:00ごろまで休んだ後、今度は校内の見回りを始める。
窓や扉の戸締りを確認し、残っている生徒がいれば帰宅を促す。
最後にグラウンドのナイター照明を消して帰宅する。
この時点で8:00である。
そして家に帰ってご飯を食べる。
そしてお風呂に入って少しの自由時間。
11:00には寝る。
これは通常業務で、俺たちの研修期間などの繁忙期はもっと忙しい。
最近家に帰っていないと言われた。
正直頭おかしいんじゃないかと思う。
学園のために体張りすぎだろ。
どうして今まで誰も手伝っていなかったのか、彼女も助けを求めなかったのが不思議でしょうがない。
俺はキースが授業を受けている間、彼女の書類仕事を手伝うことにした。
まだ一人しか担当がいないし、栄養ドリンク常備の彼女を見ていられなかったからだ。
そうしたらただ手伝ってもらうのも悪いからということで、彼女から何か手伝えないかと言われて今に至る。
社畜根性すごいな。
というわけで、キースはパワーアップしたし、たずなさんは仕事が少し楽になったしでwin-winだ。
たづなさんにはこれからも色々便宜を図ってもらおう。
「トレーナーさんやりましたぁ!ちゃんとスタートダッシュできるようになりましたぁ!」
キースが笑顔で報告にくる。
俺も嬉しかった。
「よくやったぞキース!頑張ったな、おめでとう!」
汗をかいているので、タオルで彼女の頭をワシャワシャと拭いてあげる。
ふへへ〜と声をあげながら気持ちよさそうにしている。
「ところでキーストン、明日から君の脚質を見極めるために実践形式の併走トレーニングをしてみようかなと思うんだ。大丈夫かな?」
「大丈夫ですよ、むしろ望むところです。相手は誰ですか?」
「同期のダイコーターとカブトシローだろ、あとスペシャルゲストがいるぞ。」
「誰ですか?」
「シンザンだよ。」
「はい?」
テッテテー
野生のシンザンが現れた!
キーストンは逃げようとした!
しかしトレーナーに回り込まれてしまった!
5冠ウマ娘からは逃げられない。