もしキーストンがウマ娘に転生したら 作:H&K YAMATO
気に入っていただければいいのですが。
「こんにちは〜、シンザンだよ。よろしくね〜」
シンザン先輩は思ったよりも穏やかそうな人でした。
背が低いのは知っていたが間近で見るとかなり小さい印象を受けます。
「う〜ん、それにしても今日はい〜い天気だね〜」
彼女が伸びをしながらのんびりと言います。
「風も気持ちいいし〜。」
風が吹いて彼女の茶色い髪が揺れていました。
「こんな日は地面にころがりたいな〜」
確かに今日も晴れて良バ馬です。
でもレースで1着を量産し、皐月賞までとった人がこんなぽやっとした人だなんて信じられません。
今は日本ダービーに向けて調整中だと聞きますが、なぜ併走を受けてくれたのでしょう。
「わしはカブトシロー。今日は併走してくれておーきんね。(ありがとうね)名前は好きに呼んでいっちゃが。(いいよ)」
シローちゃんはこの前1番だった子で九州出身だそうです。
黒髪で小柄な体が元気な性格とマッチしています。
言葉がちょっとわかり辛いですが面白い娘です。
「お近づきの印にチーズ饅頭ひとつどや? いらん? じゃあわしが食べるわ。」
競走前なので遠慮しておきました。
どんな味か気になります。
「ちょっと! なんでレース前にお菓子を食べていますの!? 立って食べるなんてはしたないですわ!」
この娘はダイコーターちゃんです、私はダイちゃんと呼んでいます。
親が運送会社を経営しているお嬢様だそうです。
「ぐらしーあんこは、くもんがねげな。(かわいそうだねあの子は、食うもんがないらしい。)」
「なんて言ってるかわかりませんわ!」
「ひとつどや?」
「いりませんわ!」
ダイちゃんが饅頭を拒絶すると、シローちゃんは悲しそうな顔をして
「ごめんなさい。」
「あ、あの、申し訳ございません。言いすぎましたわ。」
「じゃあチーズ饅頭食べる?」
「え゛っ、その、いただきますわ。」
「おーきんね。一個50円ちゃ。」
「詐欺ですわ!」
「てげおもれ。(とっても面白い)」
遊ばれていますね。
有名な先輩との併走ですから緊張していましたが、二人のやりとりをみてたら緊張がどこかに飛んで行きました。
でもトレーナーがトレーニングをつけてくれたんだから、この前みたいな無様なレースはしたくないです。
「キース、今日はトレーニングだからな。この前みたいに足がガクガクになるまで全力で走るなよ。」
表情で考えてることがわかっちゃうみたいです。
トレーニングの成果も見せなきゃいけませんし、ある程度セーブもしなきゃいけない、両方しなきゃいけないのが辛いところですね。
「まずは逃げで走ってみてくれ。」
ゲートに入ります。
今回の距離は1600mです。
私が全速力で走り抜けられる距離、スタミナに不安はないので絶対に負けられません。
さあトレーナーさんの合図を待って、
スタートしました。
我ながら完璧なスタートです。
このまま逃げ切ってやります。
目と耳で周囲を確認します。
すぐ後ろについてきているのが二人、先輩とダイちゃんですね。
シローちゃんは差しか追い込みだと思います。
そうして残り800mの所まで進んだところで、シンザン先輩がポツリとつぶやきました。
「それじゃ〜、そろそろいっくよ〜。」
その瞬間、ドバン! ドバン! ドバン!と爆発するような音が後ろでし始めました。
そして先輩がどんどん近づいてくるのを耳で感じます。
そんなところからスパートするんですか!?
しかもそれ踏み込みの音!?
芝が絶対に抉れてますよそれ!
どんな脚ですかほんとに。
やばいです、そんなことより追いつかれるもっとペースを上げないと。
こわい、こわいよ、音がどんどん近づいてくる。
抜かされる!
結局私は400m地点で抜かされそのままゴールしました。
「いや〜、みんなけっこう速いね〜。」
これがG1ウマ娘ですか。
私は息も絶え絶えで返事もできないくらいなのに、向こうは息一つ乱れていません。
次の併走では先行の位置で走ってみました。
先輩は変わらず先行、シローちゃんが逃げで、ダイちゃんが差しです。
近くで見る先輩はさっきより怖かったです。
だって先輩がスパートをかけ始めると、抉れた芝の欠片がこっちに飛んで来るんですよ!
食い下がったけど、先輩の背中を見るだけで終わりました。
まるで追いつける気がしません。
次は差しで走りました。
今度はダイちゃんが逃げ、シローちゃんが先行、先輩は変わらず先行です。
全然追いつけません。
そもそも私は加速力が強い方ではないですし、みんなの背中を追うのはもどかしくて辛いです。
そして3周走り終わり、今日の併走は終わりということでみんなそれぞれのトレーナーのところに戻って行きました。
去り際に先輩が「いい息抜きになったよ、みんなありがと〜。」って言っていたのが頭から離れません。
受けてくれたのは、ストレス解消のためですか。
ギリッと奥歯が軋む音がしました。
多分耳も後ろを向いていたと思います。
年が違うとはいえ、敵としてもみられていないのが情けないです。
とぼとぼとトレーナさんの前まで歩いて戻ります。
「ごめんなさい、トレーナーさん。また、私負けちゃいました・・・」
せっかくトレーニングをつけてもらったのに、また無様なレースでした。
「いや、キースはよく頑張った。」
頑張っても結果があれじゃあだめです。
「今日は脚質を見極めるためのトレーニングだから!別にこれだけで人生終わるわけじゃないから!」
必死にトレーナーさんが慰めてくれます。
ちょっと元気が出てきました。
「ところで、今併走してた君たちを見て思ったことを言いたいんだけどいいかな?」
「はい・・・」
「まず多分だけどキースは逃げが1番向いてると思う。3回走ってタイムが1番いいのが逃げだったし、選抜の時も逃げで走ってたし。」
「はい・・・。あ、私も抜かされるのが嫌いなので、逃げで行きたいです。」
「あとスタートダッシュは前よりよくなってる、一緒に頑張った成果だよ。」
「はい・・・」
「今度からはトップスピードと加速力をメインに鍛えていこうな。」
「はい・・・」
少しはやれると思ったのに悲しいです。
「キース、もうちょっとこっちにきてくれ。」
「はい・・・」
ふらふらとトレーナーさんに近づきます。
そして突然肩をガシッと掴まれました。
「ヘゃ!?トレーナーさん?」
そのまま耳元で囁かれます。
「キース、お前はすごいやつだ。」
「トレーナーさん!? ちょっとまってぇ、みみ、びんかんだからぁ、やめてぇ!」
トレーナーさんの息が耳に当たって背中がゾクゾクする。
これやばい、あたまが、とける・・・
「いいや、やめない。お前はこの程度で自分がダメなやつだと思ってるよな。」
「はいぃぃ。そうでしゅ。」
「お前は毎日サボりもせずトレーニングにくるすごいやつだ。」
「しかも弱音ひとつ吐かない。」
「強敵とぶつかっても諦めない。」
「今は勝てなくても、お前の根性は1番だ。」
「お前を俺が1番にしてやる。だからついてきてくれ。」
「いきます、いきましゅからぁ! もうわかったからはなれてぇ!」
手を胸に当ててぐいっと押し、体を離しました。
顔が熱い、尻尾が止まらない。
これ以上続けられたら本当にまずかったです。
トレーナーさんは優しいと思ってました。
けど強引なのも悪くないですね。
またちょっとぐらいやって欲しいと思います。
「でさ、もう少し先になるけど次の併走相手を考えたんだ。」
「そうなんですか。どんな娘ですか?」
顔の火照りを手で仰いで覚ましながら聞き返します。
「君に逃げを見せてくれるような娘がいいと思ったんだけど。」
「はい。」
「メイズイにしようかなって。」
「嘘でしょ・・・」
トレーナーさんに強敵と戦わされるキース
これがトレーナーさんからの鞭。
でその後のささやきASMR。
これがご褒美。
落ち込んでる娘をぐずぐずにするの楽しい。(筆者の性癖)
追記
みなさんがフジキセキ引きますか?
私はマチカネタンホイザを待ちます。