因果の晒しもの   作:バラム

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因果転生

 

 未だ陽も出ぬうちから瞑想を行う。

 静寂と暗闇の中で己を見つめ、今日という一日を最善のコンディションで迎えられたことを再確認する。

 

 「もう、後はない、か」

 

 これが俺に残された最後のチャンスであることに、否が応でも緊張してしまう。

 そうして歯を食いしばり、心の整理がつくまでただ黙して堪える。

 

 やがて、街の家々の間から漏れ出た光を受け、ゆっくりと瞼を持ち上げる。

 

 「・・・もう出ないとな」 

 

 俺の住んでいる山の中腹にあるこの寺から、目的地の雄英高校までは電車を乗り継いで二時間ほどだ。

 今から向かえば開門の一時間前には到着できるだろう。

 

 口の端を釣り上げ、余裕の籠った笑みを浮かべる。同時に、自身の身を包む袈裟を整えた。

 

 「・・・行こう」

 

 今より"俺"は"私"となる。

 

 

 

 

 

 月並みで悪いが俺は転生者だ。とはいえ、生まれた時から精神が成熟しているタイプの転生ではなかった。

 知識を植え付けられている、とでも言うべきか。

 だからこそ、五歳かそこらで自分の置かれている状況に気づくことが出来た。

 それは、転生特典付きでヒロアカの世界に放り込まれているということ。

 誰もが一度は妄想するアレである。

 すぐに気づけたのには訳がある。

 他の園児と比べて遥かに筋肉質な体に、純白の翼。

 加えて日本人らしからぬ彫りの深い顔だ。

 その頃の俺は、セフ○ロスか、○蘭か、大穴で一方通行か、なんて浮き足立っていたが、その四年後である。

 俺の真の個性を理解したのは。

 

 怪僧ウルージ。

 

 ONE PIECE、2年前のシャボンディ諸島にて初登場の、良くも悪くもインパクト大のキャラクターだ。

 正直、小学校にあがるくらいの時分に、薄々二枚目のツラではないと感づいていた。

 だが、能力だけ個性として発現している場合もあるだろうと、そのやけに彫りの深い面を見ないように、シャドウフレアだの、並行世界への干渉だの、ベクトルの操作だのと色々試していたのだ。

 その数々の奇行に、両親は相当心配していたことだろう。

 

 それは、BLEACHの刃禅の真似事をしてみたときのことである。

 なんだか、やけにしっくりと来たのだ。

 まあ、なんとなくその可能性も考えてはいたのだ。

 認めたくはなかったが。

 そこからは早かった。

 まず、我が家の庭に生えている若木の幹を殴ってみる。

 いくら分厚い筋肉がついているとはいえ、所詮は九歳児の拳。

 葉を揺らしざわざわと音を立てる程度である。   

 次に、木の幹に頭をぶつけ、額に血が滲んだまま、殴りつけた。

 すると、ゴウッと音を立てながら放たれた一撃は、若木をたやすくへし折り、周りの花壇の花を散らせた。

 

 「これ、因果晒すやつや。」

 

あまりの轟音に慌てて駆けつけた母は、その一言を放って倒れた俺を、病院へと運んだらしい。

 母は個性の反動か副作用だと考えたらしいが、診断結果は過度なストレスを受けての失神だったそうだ。

 当然である。

 俺は、自身の個性がよりにもよってあのウルージであることに強いショックを受けたのだから。

 

 ONE PIECE本編では、ウルージの登場シーンはそう多くない。

 また、登場したとしても、そこそこの活躍はするものの、圧倒的な力を見せつけることは無かった。

 しかし、その濃いキャラと独特の台詞回しが読者を惹きつけ、すぐさま人気者になったのだ。

 ネットの玩具とも言うが。

 劇場版でも、本編の主要キャラたちを差し置いて、最も早くボスを殴り飛ばしたのはウルージだったし、作中屈指の実力者である将星の一人を破り、追ってきた他の将星から逃げおおせた海賊もウルージ以外には殆どいなかった。

 

 うん?ウルージの説明がくどいって?まあ待て。

 これは、俺の個性を理解する上で、非常に重要な話なのだ。

 

 そうして、ある程度個性について検証を進めていたときである。

 俺の個性にはある制約があることが分かったのだ。

 

 ウルージ"さん"であり続けること。

 

 先程説明した通り、ウルージはネット上の一部の界隈でカルト的な人気を誇っていた。

 そこでは、ウルージの言動を深読みし、本編でも多くは語られていないのを良いことに、作中最強のキャラとして祭り上げているのだ。

 こうして生まれたのがウルージさんである。

 

 要は、底の知れない実力者を俺は演じなければならないのだ。

 その制約を破ると、守るのとでは、個性の強度が数十倍以上違ってくる。

 最早別物だ。

 

 そのことがわかってからは、寺に入り、僧としても、戦士としても修練を積んだ。

 どうにかウルージさんムーブを崩さない程度に実力と精神力がついた頃には、俺の歳は15を数えていた。

 

 そりゃ、ギリギリ間に合った、と雄英のヒーロー科を受けるだろうよ。

 どこかのクソナード君みたいに、あの巨大ロボを吹き飛ばす自信もあった。

 だが、俺は気づいていなかった。

 

 雄英は日本最高峰の入学難易度を誇る、名門中の名門だ。

 つまり、筆記試験もそれ相応のものが用意される。

 いくら個性がモノを言う社会とはいえ、勉学を無視できるほどかと言われるとそんな訳はなく。

 前世の知識で多少は解答欄を埋めることができたが、半分以上さっぱりである。

 

 俺はそのまま、筆記試験の途中で、逃げるようにして寺へと帰っていった。

 もちろんウルージさんロールは崩していないが。

 不幸中の幸いは、原作開始の一年前、つまり、主人公が受験する入試の二回前の試験であったことだ。

 

 誰だって自分の知るキャラたちと同じ空間で過ごしたいと思うだろう。

 それから、猛勉強に猛勉強を重ねた結果、俺はなんとかボーダーを越えられる程度にはなった。

 一年後の試験は受けはしたが、前年と同様に筆記試験を終えてから、実技試験を受けずに帰宅した。

 しかし、今回はボーダーに届いたことを確信したのである。

 前回とは試験放棄の意味が違う。

 実技試験の内容がわかっている年に受けた方が合格は確実だろう?

 

 そして、今日。

 主人公たちが受験する、入学試験当日である。

 

 実の所、昨年の試験でボーダースレスレだったときは、肝を冷やしていた。

 そして、この一年は一昨年以上の猛勉強である。

 模試でも、ほぼ満点に近いくらいには届くようになった。

 

 さて、ここまで意味もなく転生以降の俺の人生を思い返していた訳だが。

 なんてことはない、ただ緊張を紛らわせているだけのことである。

 

 なぜなら。

 俺の今いる寺の住職に、寺を継ぐことを打診されていたのだ。

 そして、それが2年前のことである。

 雄英に入るつもりだった俺は、角の立たないように断ったが、それを二年間も続けていれば、住職も段々と痺れを切らしてくる。

 なんとか頼み込んで、今年は雄英の受験をさせてくれることになったが、来年は無いとキッパリと告げられた。

 

 失敗できない。

 その重圧が俺をここまで追い込んでいるのだ。

 

 そうしているうちに。

 

 「一年振りだな、雄英よ」

 

 俺は笑みを絶やさず、その門をくぐった。




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