感想をいただけなくとも、読んでいただけるだけで、非常にありがたく思っておりますので、どうぞよろしくお願いします!
雄英高校の教師陣は、基本的に会場で試験官を務めることはない。
会場内に無数に仕掛けられたカメラ。
それは、見事に隠蔽された小型の隠しカメラであったり、上空を飛ぶドローンであったりするが、重要なのは死角が限りなくゼロに近いと言う点だ。
だがそれは、死角がないと言うだけで、全てを捉えられると言う意味ではない。
「…視えたか?ブラド」
「…いいや、蹴りの初動を知覚したときには、既に振り抜いた後だ」
イレイザーヘッドこと、相澤消太は視たものの個性を抹消すると言う強力な個性を持つ。
そして、視ることで発動する個性の性質上、動体視力に関しては人並み以上に鍛えている。
また、ブラドキングこと管赤慈郎は接近戦を得意とする武闘派である。
相澤同様、動体視力や見切りなど、相手の動きを捉えることには確かな自信を持っている。
しかし、"視えない"。
二人は目線を交わし、自分たちでは判断がつかないと考えたところで、教師陣の輪から少し離れたところにいる巨漢に意見を求める。
「あなたはどうですか、オールマイト」
「それは、あれが"特殊な個性"であるか否か、ということで良いかい?」
「…ええ」
「それならば、答えはノーだ。あれは純粋な身体能力と卓越した技量による"蹴り"さ。それも、恐ろしく鋭い、ね」
「…では、あなたならばあれを真似できますか?」
「これもノーだ。私も蹴りの風圧で"離れた"対象にダメージを与えることはできるが、"切断"は不可能だろう。悔しいが、私はあれほどの技量を持ち合わせてはいない」
そう、件の受験者は、空を蹴り上がりながら、"遠く離れた"仮想敵を一撃で行動不能にしているのだ。
それも、頭部と体幹部の間の関節を断ち切るという形で。
個性の説明欄には、翼を持った肉体強化系だとある。
相澤は実技試験開始前、その個性から翼で空を飛び、機動力と恵まれた体格を生かした肉弾戦を仕掛けるものと考えていた。
しかし、蓋を開けてみれば、そのいかにもな翼を羽ばたかせること無く、何もない空間を蹴り上げ、空を"跳び"始めたのだ。
さらには、仮想敵に接近することなく、狙撃を思わせる貫手や、ギロチンの如き衝撃波を発生させる蹴りによって、一方的な破壊を始めた。
また、ビルや民家が壁となって見えていないはずの仮想敵にさえ、射線が通る瞬間に合わせて事前に衝撃波を飛ばす始末である。
「校長、やはりもう一度個性の詳細について開示を求めるべきです」
身体能力の高さは、個性で説明がつくだろう。
しかし、あの技は若干十八歳の若造に身につけられるものではない。
それが、例え"あの閏寺"のものであっても、だ。
「実はあちらから彼について簡単に教えてもらっているのさ!なんでも、『宗派史上、最強最巧の傑物』だそうだよ!現住職も彼を後継に推していたのさ!」
「…なるほど、つまり"次代の長についてこれ以上話すことはない"という訳ですか」
「すまないね。僕も、実際に彼らを受け持つ、君達現場の教師に詳しく教えてあげられないのは心苦しいのさ!けれど、政府方のツテを使おうにも、閏寺の影響力に押されてしまうのさ!」
校長と呼ばれる、二足歩行のネズミのような奇妙な生物、根津は、悔しそうに事の次第を説明した。
「個性制御の駆け込み寺、閏寺か」
「なにが駆け込み寺だ!国の暗部養成所じゃねえか!」
「口を慎みなさい、ブラド。仮にも国公認の保護機関で通ってる所よ。根拠の無い批判はするべきでは無いわ」
声を荒げるブラドキングを、ミッドナイトこと香山睡が窘める。
「彼女の言う通りさ、管君。ましてや国立の雄英に勤めている我々では、尚更のことなのさ!」
そこに根津の指摘も加わり、ブラドキングは渋々怒りを収めた。
「ま、まあまあ!雄英の生徒になるならば、彼についてはいずれわかるさ!ほら!オジャマギミックが動き出したよ!」
重い空気に耐えられなくなったオールマイトが、話を切り替えるため妙に元気な調子でモニターを指して言う。
それにつられて、教師陣の目線がモニターに向くと、各会場の巨大敵が動き出し、受験生達が必死に逃げる様が映し出されていた。
「…見込み無し」
「シヴィーー!これじゃお前のクラス去年の再現になるんじゃねえか?」
「うるさい、山田。…それより、お前いたのか」
「お、おう。なんか遠距離攻撃主体の俺には話せる領分じゃ無かったからな。あと山田はやめて」
「でも、山田の言う通りよ。また去年のようなことになれば、流石に雄英もあなたを庇いきれなくなるわ」
「いや、だから山田は」
「わかってますよ、ミッドナイトさん。しかし、見込みの無い半端者を雄英から出す訳にはいかない」
山田と呼ばれる、ボイスヒーロー、プレゼントマイクは、自分の言葉が聞き入れられないことを悟ると、小さくなって黙り込む。
そんな中、モニターには巨大敵を誘導するもの、逃げ遅れた他の受験生を助けるもの、果敢にも立ち向かうものが現れ始めた。
「おい、嘘だろう!あの受験生、0ポイントヴィランを吹き飛ばしやがった!」
「瓦礫に拘束された受験生を助けるための行動。ヒーローとしては悪く無いが、個性の制御がなってないな。あれではもう腕は使えない、そして着地のことも考えていない」
「だが、お前から見ても教え導く価値はあるだろう?」
「…まあな」
巨大敵を吹き飛ばした受験生に、場が湧き上がる。
久しい快挙に、教師陣の頭が熱を持ち始めた。
だからこそ、未だにいじけていたプレゼントマイクがふと顔を上げるまで、その異変に気付くものはいなかった。
「おい、あの0ポイントヴィラン、おかしくねえか?」
「あの会場は…確か透明化の個性をもった子がいるところね。あそこの0ポイントヴィランには各種センサーが取り付けられたはずだけど…」
嫌な予感を覚える教師達に、驚愕と焦燥のこもった叫びが聞こえた。
「馬鹿な!センサーが取り外されているっ!」
入試においての設備・機械の整備を担当している掘削ヒーロー、パワーローダーの声に、教師達の間に緊張が走る。
「すぐに停止させるんだ!」
「ダメです!指示を受け付けません!」
根津の言葉に、既に停止指示を送っていたセメントスが焦りを隠さず答える。
もし透明化の個性を持つ彼女が、逃げ遅れていたら。
教師陣は最悪の事態を想定し、中には顔を青くするものも現れる。
「オールマイト君!"いける"かい」
「全て"破って"いいのであればッ!!」
「当然さ!その程度のこと、未来ある若人の命に比べたら安いものさ!」
根津の問いに"一直線に向かってもいいか"と返すオールマイト。
根津はそれに是と答える。
そして、オールマイトがいざ、と前傾姿勢をとった時である。
速度を上げる巨大敵の前方に、件の袈裟を掛けた受験生が、一見何も無いところに覆い被さるように手足をついている様子が映し出される。
「まさかッ!」
それを言ったのは一体誰か。
あるいは、口に出されずとも、全ての教師達の心中に浮かんだ感情に、まるで言の葉が聞こえたように感じただけか。
それから数秒も経たないうちに、巨大敵は閏寺を轢き潰した。
履帯の中程まで差し掛かった頃に、ようやく巨大敵は異常を検知したようで、一瞬の停止の後にすぐさま離れていく。
そして、数十メートルほど距離をとったところで、巨大敵がその活動を停止した。
「パワーローダー君、あれは?」
「あのシリーズには、緊急停止行動がプログラムされています。駆動部へのなんらかの異常やシステム的なエラーなどを感知すると、低速でその場を離れ、各部エンジンを完全停止する機能です。なので、今は制御コンピュータのみが問題を点検している、は、ず」
そこでパワーローダーの言葉が詰まる。
なぜなら、巨大敵が再びエンジンの轟音を響かせ、動き始めているためだ。
第三者による工作活動。
根津の胸中では、可能性が確信へと至りつつあった。
「校長!"今度こそ"!!」
オールマイトがネクタイを緩め、しっかりと地面を踏みしめながら、根津に許可を求める。
「いや、その必要はないかもしれないよ!」
「何をッ!!」
「彼を見るのさ!」
根津の言葉にオールマイトが構えを解かないまま、モニターに視線を向け、それを視界に捉え、瞠目する。
『ずいぶん痛めつけてくれなさったな… さっきまでの私とは思いなさんな!!』
そこにあったのは、ただでさえ周りの受験生の倍はあろうかといった巨体を更に倍以上の大きさに膨れ上がらせた、閏寺の姿だった。
ただ背が伸びているのではなく、筋肉の膨張による巨大化。
その背筋は小さな丘のようだった。
「やる気かッ!彼は!」
ここにきてオールマイトが構えを解く。
今は彼の個性を探る絶好の機会だ。
遂にその巨体は巨大敵の全高を超えた。
巨人は樹齢数百年の大木を思わせるほどの厚みを持つ腕を振り上げ、巨大敵を見定める。
奇しくも、その姿は金剛力士像の如く。
ただ一点、異なる点があるとすれば。
彼は"笑って"いた。
そして、男の放った一撃による余波に巻き込まれる直前、ドローンのマイクがその一言をモニタールームへと伝えた。
『"因果晒し"!!!』
どんなものでも感想をいただけると励みになります。
よろしくお願いします!