読んでくださる方にはほどほどにお付き合いいただきたいと思っております。
誤字等についての指摘もお待ちしております。
真新しい制服に身を包み、国立雄英高等学校の正門の前に立つ老け顔の大男。
ああ、俺だ。
ウルージだ。
時刻は午前6時を回った所だ。
当然、開門はまだまだ先。
寺の朝は早い。
どのくらい早いかというと、今朝だけで写経を終え、さらに雄英の学内地図を丸暗記したほどだ。
この、どこからそんな金が出てるんだと突っ込みたくなるような雄英の巨大施設の数々。
そして、それらを全て収めてまだ余りある広大な敷地。
合格通知とは別で配送されたパンフレットには、学内の詳細なマップが掲載されており、かなりのページ数を占めている。
合格通知と同封しなかったのは、そのパンフレットらしからぬ厚みのせいだろう。
いくら時間があっても、今も俺の懐で確かな重みを感じさせているコイツをわざわざ読むような生徒はいないだろう。
ただし、俺は例外だ。
もちろん、原作でも何度か触れられていた広すぎる雄英の敷地や設備に興味がなかったわけではない。
だが、それ以上の理由があった。
何のことはない。
俺は、およそ十割の若者が所有している文明の利器を持っていないのだ。
そもそも、俺の住む寺がそこそこの山奥に位置しており、まともに電波が届かないというのもある。
そして、寺の方針で、スマホを買い与えるということをしないとなっている。
閏寺が個性を制御できない子どもの保護機関であるため、それほどおかしなことでもないとは思う。
が、身長がもろ人外の俺は他の子どもたちと同じ寝所で過ごすことは叶わず、別の棟で半ば隔離されている状態だ。
まあ、寂しい。
することもない。
一人の環境は、六式習得のための一見馬鹿らしい修行にはうってつけだったが、それを加味しても時間があり余る。
余った時間は瞑想か写経、たまに托鉢。
俺は個性制御のために寺に入っているため、本物の僧ではないが、並の修行僧より遥かに悟りに近いことだろう。
なんせ功徳積みまくりである。
だからか、手持ち無沙汰になったときは、こうして色々考えてしまうようになった。
心の中ではウルージさんムーブをせずとも良いし。
その後もなんだかんだと思考を回し、今日使うウルージさん語録をシミュレートすること一時間。
ようやく午前7時を回っただろうかというところで、探知範囲にこちらにまっすぐに向かってくる動体が入ったのを確認した。
俺の見聞色の覇気は、どちらかといえばエネルのように広域を見通すようなタイプ"ではない"ため、もうじきこの動体も目視できる距離に入るだろう。
そして、その姿を目にしたとき、俺の心に熱が灯った。
それは、"知った顔"でありながらどこか遠い存在だったものを初めて見る興奮。
飯田天哉。
原作における主要人物の一人だ。
二次元と三次元という違いはあるが、俺の中にはっきりと残る"知識"にある特徴と完全に一致した姿。
俺の原作についての理解は、"前世の記憶"ではなく体系化された"知識"によってなされている。
だからこそこの十数年間。
その容姿が朧げになることはなかった。
あるいは、これも転生の特典の一つなのかもしれない。
どうやら、彼もこちらの存在に気付いたようで歩調を変えて速度を上げた。
彼我の距離が十メートルほどにまで近付いたところで、お互いの目線がはっきりと交わる。
彼は一つ目礼をすると、さらに距離を詰め、真一文字に引き結ばれた口を開いた。
「失礼、雄英の先輩…でしょうか。俺は今年度入学の飯田天哉と言います。開門までまだ時間があるようですし、学校のことについて色々と教えていただけないでしょうか」
彼、飯田君は、緊張のためかわずかに震える声で尋ねてきた。
あとなんか腕がカクカクしてる。
というか全体的にカクカクしてる感じがする。
いつかパスタマシーンとかやってくれないかな。
あと、先輩というのも勘違いだ。
まあ、コスプレおじさんとか言われなかっただけ、良しとしよう。
若干、先輩の後に疑問符がつきそうな気配があったが。
だが、これの返答に語録は使えないな。
ある程度の能力の弱体化は仕方ないか。
俺の個性は、寺の住職に、翼や異常な体格などを異形型、筋肉の膨張や硬質化などの肉体の変質を変形型とした、複合型の個性だと判断された。
しかし、俺の見解は異なる。
まず、"ウルージさん"の肉体や能力が常時発現している異形型。
そして、制約による弱体化の発動型。
これら二つが合わさった複合型の個性だと考えている。
また、検証の結果、この制約は減点方式であることがわかっている。
基本的に、ウルージさんらしからぬ言動をすると膂力や能力の強度が低下していく。
体感としてはその低下速度は一つの言動で一割ずつと言ったところだ。
これの恐ろしいところは、時間経過などでも点数が回復しない点だ。
ただし、原作やアニメ版、劇場版でのウルージさんの台詞を言ったり、ネットで語られるウルージさん伝説を実現することで加点される。
その上昇速度は、高い方から、"原作の台詞"、"アニメ版・劇場版の台詞"、"ウルージさん伝説"の順だ。
注意点もあり、台詞を言うときは相応しい場面でないといけないし、伝説の実現は証人となる人間が居ないといけない。
いかんな。
また考え込む癖が出てしまった。
黙り込む俺を見て、怒らせたのだと思ったのか、飯田君は先ほど以上にカクカクしだした。
慌ててもああなるのか。
「…そう慌てなさんな、眼鏡の人。私は閏時僧正、先輩ではなく同じ新入生だ。」
減点は…無さそうだな。
減点は加点に比べ、その基準がいまいち分かっていない。
同じ言葉でも、状況によって減点される場合とそうでない場合がある。
だからこそ、加点を積極的に狙っていかないと、いつの間にか貧弱になっている、なんてこともある。
実際、一度訳もわからぬまま最低まで減点をくらったことがあるが、体が細くなり、首にかけられた数珠も相まってぱっと見エースのようだった。
顔はウルージさんだが。
あのときは雑コラ感が凄かったな。
飯田君は俺の言葉を聞いて、ひどく驚いているようだ。
そりゃあこの顔で同級生ですなんて言われても信じ難いだろう。
「そ、そうなん、いや、そうなのか!?…そうなんですか?」
一瞬、敬語無しでいけるかと思ったが、やはり難しいか。
俺に対して敬語抜きで話せるのは、閏寺の住職かマジモンのヴィランぐらいだ。
ずっと敬語を使われていては肩が凝ってしまうし、できればタメで話してほしいが、怯えずに話してくれている以上、求めすぎと言うやつだろう。
「あァ。…私は学内の慣習などは知らないが、施設や雄英構内の地理は頭に入っている。それならばお前さんに教えられるだろう」
「なるほど、俺も学内のマップには目を通していますので…ならば、お互いに気になる施設を話し合うと言うのはどうでしょう!」
「…では、そうしようか」
思ったよりも距離を詰めてくるな。
あのパンフレットにまともに目を通すとは、かなりの真面目君だな。
しかし、案外仲良くなれそうだ。
そして、この話は思ったよりも盛り上がり、教師が門を開けにくるまで続いた。
「それでですね、
「あァ…」
というか、教室でも続いた。
このときにはすでに、俺もかなり心を開き、ちょくちょくウルージさんムーブが怪しくなりはじめる。
この後めちゃくちゃ弱体化した。
感想には出来るだけ返信したいと思っておりますが、語録が尽きてしまうといけないので、ある程度普通に返してしまう場合もあります。
どうかご容赦を。
追記:誤字報告をしてくださった皆様、大変助かります。
全てのウルジストに感謝を。