長い間投稿をせず、嘘をついてしまう形になってしまい、申し訳ありませんでした。
という、正直に謝るということの卑怯さ。
尾白猿夫は武芸者である。
齢十五にして武を身につけた正真正銘の天才。
また、その精神も熟しており、謙虚かつ誇りを忘れない彼に信頼を寄せる人々は数多い。
ゆえに、誰もが悔やむ。
その貧弱な個性を。
いくら体を鍛えようと、いくら経験を積もうと、いくら戦術を学ぼうと、射程と出力の差が全てを蹂躙する。
筋力トレーニング、部位鍛錬、瞑想。
地味な個性とはいえ、それを活かさんと努力を重ねた。
強個性の持ち主が幅を利かせる世の中において、彼の努力は幼い子供たちの目にひたすら滑稽にうつった。
笑われ、貶された。
誰も待ってはくれなかった。
足並みを揃えようともしなかった。
だから追い抜いた。
足掻いて、足掻いて、ひたすら足掻く。
彼を笑い、虚仮にしていた子らはいつしかその姿に惹かれ、己の過去を悔い、彼への言動を心より謝罪した。
その時彼は気づいたのだ。
越えられない壁など無いのだと。
ある日に街で見たヒーローの背中に憧れ、それを志した彼は、周囲からの反対を受けながらも勉学に励み、本番前最後の合否判定にて合格を射程に捉える。
試験当日も実力を遺憾無く発揮し、躓くことなく筆記試験を終え、続く実技でも順調に得点を積み上げていった。
そして、真の
「”因果晒し”!!!」
その声を聞いた刹那の後、世界が揺れた。
否、そう錯覚するほどの衝撃波と轟音が俺の元まで届いた。
なんと例えるべきか。地震?津波?嵐?落雷?
そんなものじゃない。自然の暴威など遥かに超えた超常の殴打。
まるで神の一撃。
だが、彼の強さはそこではない。本質はそこにはないのだ。
俺は、あの0ポイントヴィランを目の前にして、採点者へのアピールになるだろうな、と考えた。
個性の都合上、派手に破壊するのは無理でも、よじ登り、カメラがあるだろう頭部を攻撃できればあるいは、と。
それでも躊躇した。だってそうだろう、あの巨体だ、万が一奴の攻撃を受けることがあれば命に関わる。
彼が0ポイントヴィランの前に現れたのは、俺がほんの数秒、逡巡している時だ。
ああ、先を越された。流石雄英。集まる受験者も、俺の壁となり、立ちはだかってくれそうなやつばかりだ。
なんて、今思うと実に浅はかな己に自嘲の笑みが浮かぶ。
彼は何故かあの0ポイントヴィランの履帯の下へと潜り込むように地面に覆い被さったのだ。
死んだ、と思った。奴が通り過ぎるとそこには赤いシミと彼の純白の翼が地に張り付いていることだろう。
しかし、奴が彼の上を退くと、そこには五体満足の彼がいた。
何故?個性?履帯に隙間があった?
あまりの展開に呆然とする俺の元へ彼はやってきた。
その腕に何かを大切に抱くようにして。
彼は
おそらく、透明化が可能な個性持ちなのだろう受験生を俺へと託し、彼は再び奴へと歩みを進めていったのだ。
そして、今し方の一撃だ。
何が壁だ。
俺が乗り越えようと思っていたのは壁などではなく、柱だったのだ。
あまりにも太く高い柱を壁であると勘違いしただけ。
乗り越える?違うだろう。彼は立ちはだかったのではなく、支えていたのだ。
一つの命が崩れてしまわぬように、奴を相手に必死に支えていたのだ。
次元の違う相手に競争を挑んだ己が滑稽で、愚かしくてたまらない。
だが、それでこそ意味がある。
俺は崩れ去った家々の残骸に囲まれながら、心底雄英を受けてよかったと思った。
その言葉を聞いた瞬間、自分の耳を疑った。初めは新入生の緊張を解すための冗談かとも思ったが、相澤先生の覚悟を伴った真剣な表情にその可能性を排除する。
彼が除籍?ふざけるな。
もし、彼に、閏寺さんに雄英にいる資格がないのだと言うのなら、この場にいる全員が同様に資格を持たない。
入試で見せた圧倒的暴力。そして、先程の個性把握テストでの巧みな技の数々。
まさしく、武の一つの到達点にいるだろう彼に、一体何が不足していると言うのだろうか。
誰もが、相澤先生への不信感を隠さずにいた。
だが、誰もその理由を問い詰めない、問い詰められない。
相澤先生の鋭い眼光に怯んだ?違う。
除籍を言い渡された当人が笑みを崩さないままに一切の口を開かないからだ。
その姿が、暗にそう言われるだろうと分かっていて、事実を粛々と受け止めているようで。
教室で彼と楽しそうに話していた眼鏡の堅物そうな生徒すらも、言葉を発するのが憚られるようで、唇を噛み締めている。
そんな異様な沈黙の中、彼は背を向け、その場を去った。
その翌日、俺は朝一番に職員室へと向かい、相澤先生を呼び出す。
文句のひとつもなしに除籍を受け入れた彼の意思を汲むべきなのだろう。
きっと彼もそれで良いと判断したのだ。
だが、それは俺自身の意思を無視することを良しとするものではない。
雄英高校、日本におけるヒーロー育成教育機関の頂点。
これからの三年間、多くを学び、卒業する頃には心技体の全てがヒーローに相応しい人間へと、成長できることだろう。
しかし、それ以上に彼へ師事する方がいいと、確かに言い切れる。
あの
それらのうちの一つでも掴み取ることができるのなら、雄英で学ぶ必要なんてない。
職員室に入り、手近にいた教員へと相澤先生への取次を頼んだはずが、なぜだか休憩室へと通される。
そこには、見覚えのある生徒が3人、真剣な面持ちで視線をこちらへと向けており、長机を挟んだ反対側に相澤先生が座っていた。
「…お前もか、尾白」
少し疲れた様子の相澤先生は、俺を見て溜め息をつくようにそう言った。
どうやら俺は出遅れたようだ。
「はい。一晩考えましたが、彼だけが除籍というのは納得がいきませんでした」
「言ったはずだ。ここは雄英。自由な校風が売りだが、それは教師側も同じことだとな」
「それは、生徒の学ぶ権利を教師の好みで奪って良いということですか」
「除籍の理由を話すつもりはないが、好悪で除籍を言い渡した訳じゃない」
「そうでしょうか。彼が去った後にあなたが言った'合理的虚偽'という言葉。除籍される者がでなかったのであれば通る言い分です。でも違った。何もかもが滅茶苦茶。あなたは破綻者だ」
言ってやった。
そうなのだ。そこにだけは納得がいかなかった。彼が除籍を受け入れる意味は終ぞわからなかったが、相澤先生の除籍の言い渡しだけは、筋の通らないものだと確信している。
言い終わったと同時に相澤先生の視線が一層鋭いものになる。
俺を含め、生徒たちの間に緊張が走る。
「…俺の説明が十分でない以上、今回だけは見逃してやる。だが、以後そのような口を利いたときは、相応の処分を下すから忘れるなよ」
相澤先生は非を認めながらも釘を刺してくる。これは暗に何もいうつもりはないということだろう。
ならば、俺だって俺を押し通す。
「いえ、その必要はないと思いますよ」
俺の言葉に訝しむ相澤先生へ、鞄から取り出した紙束を差し出す。
紙面を見た相澤先生は目を見開き、次々と捲っていく。
「退学の申込書と、その他必要な書類、加えて、今回の件についての意見具申書です」
「なッ!!」
「…なるほどね。ここまで覚悟を決めてるのはこの中でお前だけだよ、尾白」
退学と聞いてか、眼鏡の生徒が驚きの声を漏らしているが、相澤先生の平静を乱すことはなかったようだ。
「このまま彼が除籍されるというのなら、俺も辞めます」
相澤先生は目を閉じ、数秒黙りこむ。そして、目を開けたかと思うと、苦虫を噛み潰したような顔で言い放った。
「お前たちの意見を聞いた上で、敢えて言う。閏寺を除籍にするという俺の意思は変えるつもりはない。そして、尾白、お前の退学にも反対する。だが、今回の除籍を認めるかどうかは今日の職員会議で決定することだ。その際にお前たち四人が閏寺の除籍を望んでいないと言うことと、今預かった意見具申書についてを意見することを約束してやる。だから今日はそれで納得して教室へ戻れ」
言い切った相澤先生は、疲れたようにしているが、その眼差しはこれ以上譲歩するつもりはない、と言わんばかりにこちらをギラギラと見つめている。
まあ、これだけ言質を取れたら良くやったほうか。決定如何によってはここを辞めるだけだ。
俺は、来た時よりも少しばかり軽い足取りで職員室を後にした。
俺は武芸者だ。
武を極めずしてヒーローを目指すべきではない。
なればこそ、
因みに私は相澤アンチではないです。この創作の進行上、このようになっているだけなので悪しからず。
感想等どんなものでも頂けたら幸いです。
これだけ期間を空けておいて厚かましいお願いかとは思いますが、何卒お願いいたします。