Fleet Admiral   作:Eitoku Inobe

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第二次アーカニアン革命/後編

アーガニルはブリッジで笑みを浮かべた。

 

そうだ、やはり彼でなくては。

 

彼を倒し革命を成し遂げる事で全てが果たせる。

 

全ての蹴りがつき、ようやく全てが始まる。

 

そして奴の旗艦は再びあの時のようにアーガニルの前に立ち塞がった。

 

これが二度目の対決だ。

 

たった一隻で友軍艦を蹴散らし今もなおアーガニルに向かって直進する。

 

正しく一騎当千の強者だ。

 

ようやくやつにも武人としての誇りが戻ったか。

 

ならば真っ向から打ち当たり滅ぼすのみ。

 

これこそ真の仇討ちだろう。

 

「全砲門を前方敵艦隊へ!!両翼の艦はセルネアン以外の艦を屠れ」

 

指示を出し彼は椅子から立ち上がる。

 

彼の瞳は今までとは違う色で彩られていた。

 

喜びか、はたまた戦いと革命に魅入られた狂気か。

 

彼自身ですら理解が及ばないのだから誰も知る事はないだろう。

 

「敵艦、防衛戦を突破!間も無く我が艦と接触します!!」

 

やはり防ぐ事は出来ないか。

 

分かっていたが少し驚いた。

 

それもそうだろう、奴らとは気迫が違う。

 

練度も性能も違う。

 

「次に繰り出す手は実体弾による攻撃…エネルギーを偏向シールドと対空に回しつつ主砲をチャージしろ!!」

 

長い間セルネアンの戦術を読んできた彼には分かる。

 

ならばそれにあった攻撃を返すのみだ。

 

「敵艦、ミサイル、魚雷を発射」

 

「対空防御の後全手法を一斉射!!」

 

セルネアンの艦から大量のプロトン魚雷と震盪ミサイルが放たれる。

 

捨て技にしては派手にやるじゃないか。

 

しかし無意味だ。

 

放たれた砲弾は全て対空砲のレーザーや分厚い偏向シールドに阻まれ微粒子となって消え果てた。

 

次はアーガニルのターンだ。

 

爆煙から飛び出した800m以上はある大型重クルーザーの主砲が次々と放たれる。

 

アクラメイター級の偏向シールドと頑丈な装甲により阻まれるがしれでも相当の進藤が彼らを襲うだろう。

 

だがこんなの挨拶の一撃に過ぎない。

 

さあ見せてくれセルネアン、君がこの数十年の歳月を掛けて得た物を。

 

煙幕からセルネアンの艦は現れた。

 

偏向シールドが展開されているのにも関わらず奴はまっすぐ向かってくる。

 

両者のシールドが干渉し合い何かが擦れ合う音が聞こえる。

 

この距離ならば容易にシールドは貫通されてしまう。

 

それを見越してのことだろう。

 

敵艦は主砲を一斉に発射しアーガニルの旗艦にダメージを与えた。

 

爆発が起き艦に振動が走る。

 

「撃ち返せ!!下船部砲の用意急げ!!」

 

奴らの腕前なら上部の主砲で砲撃しても軽々避けられてしまうだろう。

 

ならば上船部の主砲で撃つと見せかけて下船部の砲で確実にダメージを与えるまでだ。

 

「撃て!!」

 

案の定敵艦は上船部の主砲の射角から離れ下船部の方へと退避した。

 

そこに数十発のレーザー砲が放たれる。

 

偏向シールド同士の干渉で一時的に薄くなった所をレーザー砲は食い破り艦に直撃した。

 

続けてミサイルが放たれさらに爆発が広がる。

 

セルネアンは反撃として再び主砲を放ち艦の下船部にもダメージを与えた。

 

奴はそのままエンジンを蒸し最大加速で一時的に退避した。

 

「逃がすな奴をトラクター・ビームで捕らえろ!!」

 

ワルフォイが的確に指令を出し艦に備わっている“トラクター・ビーム発生装置”が起動する。

 

さすがセルネアンが見込んだ副官だ。

 

敵も大型艦である為この程度のトラクター・ビームでは動きを封じるとまではいかない。

 

しかしに足は止まった、隙が生まれたのだ。

 

戦場で少しの隙は大きなチャンスとなる。

 

「全主砲を敵艦へ!!撃ち続けろ!!」

 

再び主砲が火を吹く。

 

セルネアンの艦も負けじと主砲を斉射する。

 

両者の対決は当分終わりそうになかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

銀河のどこかで人の命が光と共に失われている頃、また別の惑星は大きな出会いが起ころうとしていた。

 

人が死する間に人が出会うとはなんと奇妙なことであろうか。

 

この広大な銀河である場所では命が誕生し、ある場所では命が失われ、ある場所では命と命が出会い、ある場所では命と命が殺し合っている。

 

奇妙にして奇跡、奇跡にして必然である。

 

惑星ヤーバナのある都市でそれは行われていた。

 

静かな出会いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一見すると目立つ物静かな衣服とローブを身に纏った男がヤーバナの街を歩く。

 

霧に覆われたこの惑星の肌寒さにはこれくらい分厚いローブの方が丁度いい。

 

男はそんなことを思いながら街を急足で歩いていた。

 

彼がこの地にやって来たのはある目的があった。

 

銀河は広くその分恵まれない子供も多い。

 

親を亡くしなんらかの理由で独りきりの子供だって大勢いる。

 

少なくともこの地にはそんな孤児達の面倒を見る良識はあった。

 

逆に言えばそんな孤児達を利用したり見捨てる場所だってあるのだ。

 

そしてこの男がこの地に呼ばれたのはそんな孤児達を集めた孤児院から連絡が入ったのだ。

 

元々この孤児院自体“()()()()()”の義援金を受けて成り立っている為何かあればすぐ情報は入るのだ。

 

曲がり角を曲がり大通りへと出た。

 

この近くにその孤児院はあったはずだ。

 

男は記憶の地図を手がかりにあたりを捜索した。

 

「ここか…」

 

霧が澄み渡る中男はお目当ての孤児院を見つけた。

 

「“ジェダイ・オーダー”の“サヴァント・メンター”です!お話しされた通り参りました」

 

彼は扉をノックし中に入った。

 

扉の先には誰もいなかったが部屋の奥から声が聞こえた。

 

彼が玄関で待っていると一人の女性が出てきた。

 

この孤児院の先生だろう。

 

「遠くから態々ありがとうございます」

 

「それで要件の子供は?」

 

「こちらです」

 

2人は無意味な小話はせずに本題へと移った。

 

孤児院の廊下を数メートルほど歩き曲がり角を1つ曲がった先にその部屋はあった。

 

院の女性が扉を開けサヴァントを案内した。

 

部屋の向こうには孤児院のシスターとなった女性に抱かれる幼い赤ん坊の姿があった。

 

「この子が話にあった」

 

「ええ、一週間ほど前この子が玄関に置かれていて」

 

「いつ頃でしたか?」

 

「朝方です、いつも外にジョギングに行く者がいるんですがたまたま」

 

「あたりに人はいませんでしたか?」

 

「ええ、本当に朝方だったので誰もいなかったそうです」

 

彼女の答えに嘘偽りは感じられなかった。

 

全て本当の答えだ。

 

サヴァントは静かに赤ん坊に近づいた。

 

見かけは生後間もない赤子だがまるで泣こうとせず静かに美しい銀に輝く瞳でこちらを見つめていた。

 

赤子に触れようとするとサヴァントは不意に何かを感じ取った。

 

この子には強い何かがある。

 

だが不思議な事に感じる何かはどこか虚無に近いような何かだった。

 

力はあるのにすごく軽く感じる。

 

サヴァントはその衝撃を隠し切れずにいた。

 

「やはりジェダイはお気付きになるんですね」

 

そう言って彼女は検査キットのようなものを取り出した。

 

これは生命体の身体に共存するミディ=クロリアンを測る検査キットだ。

 

ミディ=クロリアンの数値によってフォースの知覚能力も変化するのだ。

 

この子を調べたその数値はサヴァントを少しばかり驚かせた。

 

「これは…」

 

「ええ、かなり高い方です」

 

流石に2万以上と言った数値ではないがジェダイでもそれなりに高い方だ。

 

サヴァントはこの赤子の謎の出自とフォースの強さに益々惹かれて行った。

 

「きっといつかこの子もあなた方のようなジェダイになるでしょう、ですのでお引き取りをお願い出来ませんでしょうか?」

 

「ええ、この数値なら仕方ないでしょう。ちなみにこの子の名前は?」

 

彼女は戸惑い始めた。

 

「まだ名前はなくて…ジェダイの到着を待っていたので」

 

サヴァントは思考を巡らせる。

 

そうなると彼がつけてやるしかないからだ。

 

そこで彼は一つの名前を思い付いた。

 

「…“エイク”」

 

赤ん坊を抱える尼共々彼女はキョトンとした。

 

「…“エイク・イノーベル”…それがきっとこの子の名前です」

 

この赤ん坊に初めて名前が名付けられた。

 

苗字までどうしてこんなにスラスラ出てきたのか分からないがひとまずはいいだろう。

 

赤ん坊の名前はエイク・イノーベル。

 

我々がよく知る事となる人物がここに誕生したのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「偏向シールドが48%まで減少!このままでは…」

 

ルファン少尉が苦渋の声を上げる。

 

だがいくら被害が増そうと今のセルネアン准将の覚悟は揺るがなかった。

 

「全火力を敵ブリッジ、エンジンに集中しろ!!行動不能にする!!」

 

命令を出す瞬間でさえ艦をお揃う振動は止まらなかった。

 

次々と放たれるミサイルやレーザーの雨が敵艦に着弾する。

 

轟音と爆発が響くがそれでも敵の偏向シールドにほとんどが阻まれてダメージは少なかった。

 

周囲では友軍艦が必死の抵抗を見せてコルサントへの侵攻を阻止している。

 

「再び敵艦に殴り込みを掛ける!!敵の大型主砲に集中砲撃の用意!(トラクター・ビーム)を放て!!」

 

あの大型主砲は高火力のレーザーを周囲に拡散し艦隊全てに大打撃を与える恐るべき兵器だ。

 

仮にセルネアン艦隊が皆ここで無念のまま斃れてもせめて仲間の為あの砲だけは潰さなければならない。

 

それだけの覚悟と矜持が彼の中に甦ったのだ。

 

トラクター・ビームが敵艦を捕らえて引き寄せる。

 

先程のアーガニルと同じようにできる限り敵の動きを止めこちらに近づける事で狙いを正確にする為だ。

 

だが今のパイオニアーにそれ程の余力は残されておらずトラクター・ビームも効力は今ひとつだった。

 

それでもこのような状況下ではないよりはマシと言えよう。

 

敵艦に近づき一部船体が擦れ合う。

 

衝撃と軋む音が艦内に木霊した。

 

「全砲門撃て!!」

 

パイオニアーが再び砲火の轟音を立てる。

 

敵艦も同様に下船部砲で応戦しパイオニアーにダメージを与えた。

 

しかしダメージの大きさは敵艦の方が上だ。

 

シールドを打ち破り重レーザーの砲弾とミサイルや魚雷の実体弾が大型主砲を巻き込み爆炎を上げた。

 

「やったか!?」

 

期待と不安を込めたセルネアン准将の台詞は煙幕と化した爆煙から現れた物が答えとなった。

 

「まさか…」

 

彼の予期した通り敵の大型主砲は辛うじて原型を留めている。

 

少なくともダメージはあるようだが果たして…

 

「敵艦から高エネルギー反応探知!」

 

レーダー士官の報告がセルネアン准将の頼みの綱を切り落とした。

 

ダメージはあるが主砲は十分稼働可能と言う事だ。

 

だがそんなことでおちおち絶望などしていられない。

 

「偏向シールドを上面に展開!!最大船速で退避急げ!!」

 

操舵手や技術士官達の動きが急速に早くなる。

 

破れかかったシールドのあちこちが蘇り青白い光が筒状のエンジンから飛び出そうとする。

 

しかし一足遅かった。

 

その場を過ぎ去ろうとするパイオニアーをこの大型主砲は逃さなかった。

 

右舷側のデッキに主砲の全エネルギーが直撃した。

 

これほどのエネルギーではシールドも簡単に突破され消し飛んだ。

 

攻撃を遮る“盾”を失ったパイオニアーは無防備となった。

 

迸るエネルギーの塊が無慈悲にパイオニアーに食らいつく。

 

右舷側のデッキと砲塔群、エンジンの全てが大破し“()()()()()”。

 

当然ブリッジもタダでは済まない。

 

今までに無いほどの振動と大ダメージによる艦のトラブルが一気に彼らを襲った。

 

パネルや制御装置がスパークを散らし小爆発を起こした。

 

「…っ!!右舷に被弾!!損傷は…!」

 

そんな状況下でも乗組員達は諦めず状況報告を始める。

 

「ダメージコントロールを!!くっ!!」

 

「准将!!」

 

セルネアン准将が命令を出そうとした瞬間彼の周囲に火花と小爆発が起こり忽ち巻き込まれてしまった。

 

彼はそのまま意識を失い倒れ込んでしまった。

 

最後まで敵を睨みながら。

 

最後まで命令を下しながら。

 

深い深い深淵の記憶へと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここは…どこだろうか…

 

全てが白に覆われ場所すらわからない。

 

私はさっきまで何をしていたんだろうか…

 

記憶を辿っても何も出てこなかった。

 

セルネアンは立ち上がり辺りを見渡す。

 

本当に真っ白で何があるのかさえ掴めていない。

 

辺りを確かめる為にも少し歩いてみようか。

 

セルネアンは何故かフラつく体を押さえながら歩き始めた。

 

すると3歩歩いた所で彼の前に人影が映った。

 

忘れもしないあの人影が。

 

「ハリス!!」

 

声を上げ人影の下へ走る。

 

そこには彼が思い描いた通り死した弟ハリス・セルネアンがどこかを見つめていた。

 

流石に愛しなので抱きつくような真似はしないが大粒の涙をこぼしあり得ない再会を心の底から喜んだ。

 

「生きて…いたのか…?」

 

ハリスは何故かこちらを向かない。

 

だがなんとなく表情はセルネアンの声を聞いて微笑んでいるように思えた。

 

ハリスは彼の言葉に直接声はかけなかったが彼に向かって話し始めた。

 

「やっぱり兄さんはすごいよ、ここまで戦ってきた」

 

やはりセルネアンの方は向いてくれないらしい。

 

「あっああ…だがそれはお前も一緒だ、お前には私以上に才能がある」

 

弟を励ます。

 

するとハリスは何処か哀みを含んだ笑みを浮かべた。

 

「違うよ、兄さんには必ず立ち直って戦い続ける心があるんだ。誰にも打ち砕けない強い想いが」

 

「ハハ、何を言っているんだハリス?それはお前だって…」

 

ハリスは首を振った。

 

「僕は…もうダメだ、だから兄さんが…いや兄さんと“彼”が僕や僕達の代わりに最後まで戦って欲しいんだ」

 

この時初めてハリスはセルネアンに顔を向けた。

 

あの時から変わる事のない弟の顔にはやはり笑みが残されていた。

 

「みんなが、仲間が待っている、行ってくれ兄さん、最後まで戦って守り抜いてくれ」

 

「そうか…やっぱりお前は…」

 

その瞬間セルネアンは全てを思い出した。

 

きっとこれは夢か何かであろう。

 

しかしそんなひと時の夢に弟が現れたと言う事は何か意味があるセルネアンは感じた。

 

それこそフォースのお告げであろうか。

 

彼は自嘲気味に笑った。

 

「もうすぐ“彼”が来る、だから兄さん…頼んだよ」

 

哀愁と兄への期待が込められた最期の言葉はセルネアンによって受け止められた。

 

「ああ…任せろ…!」

 

ハリスは優しく微笑む。

 

「じゃあね、兄さん」

 

「ああ…」

 

「ありがとう兄さん、そして頼んだよ。“君”」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…しょう……准将!!准将!!」

 

ルファン少尉の悲痛な呼び声と共にセルネアン准将は目を覚ました。

 

彼の周りには数名の士官と軍医が取り囲んでいた。

 

ルファン少尉のように何人かは頭から血を流し負傷していた。

 

それも当然だ、あれだけの被害を被ったのだから。

 

「よかった!!目を覚ました!!」

 

「あぁ…少尉…今は…」

 

痛む体をゆっくりと起こし彼は状況を聞いた。

 

だが親切なのか嫌らしい男なのか敵将は少尉の代わりに状況を教えてくれた。

 

『おやおや司令官閣下のお目覚めか』

 

何度か聞き馴染みのある声だった。

 

それもセルネアン准将にとっては苛立たしいあの声だ。

 

「アーガニル…!!」

 

サイボーグ指揮官はなおも健在だった。

 

『あいも変わらずお見事だセルネアン、まさか我が艦にこれだけの被害を与えあの大砲も長距離射撃を不可能にしてしまうとは』

 

敵の総大将は彼を褒め称えゆっくりと拍手を送った。

 

奴の背後には新たな副官がニヤニヤとこちらを見つめている。

 

アーガニルは席を立ちモニターに顔を近づけた。

 

『そんな君達にひとつ選択肢を与えよう、今ここで敗北を認め道を開ければお前達は皆見逃してやろう』

 

セルネアン准将を取り囲む士官達は皆このサイボーグを憎しみの目で見つめた。

 

『だがもしそれを断るなら…君達の見窄らしい敗残艦隊は皆ここで名誉の死を遂げてもらおう』

 

まさか最初の一言と立場が逆転するとは。

 

奴は直接こう言っている、降伏か死か。

 

選ばせているのだ。

 

『その判断は指揮官であるグリッツ・セルネアン、君が決めろ』

 

態とらしい。

 

これが奴なりの復讐なのか。

 

『部下を皆殺すかそれとも生かすかは君の自由だ、さあどうする?』

 

奴の目はこう訴えている。

 

-お前はもう終わりだ諦めろ-

 

しかしセルネアン准将は小さく笑い捨て眼前の敵大将にこう吐き捨てる。

 

「ふん!!答えはノー、そんな選択肢両方破棄だ!!」

 

アーガニルの表情が今までにないほど引きつり笑みを形作る。

 

『ハッハッハッハッハッハッハ!!やっぱり君はそう言うだろうと思った、では名残惜しいがお別れだ』

 

本当にアーガニルの表情には憐れみが映し出されていた。

 

宿敵の最期なのだから当然と言えばそうかもしれない。

 

「そうだな…お前が死に革命は失敗する!!」

 

『最期まで…不愉快で怒りを呼ぶ奴だな…全艦砲撃用意!!目標敵全艦隊!!』

 

士官達がハッとする。

 

周囲の艦はともかく現在のパイオニアーでは偏向シールドの展開は不可能だ。

 

このままでは確実に敵艦の砲撃をもろに喰らい轟沈まで追い込まれてしまう。

 

ここまでか…死が目前に迫り乗組員の中には諦めを浮かべる者すらいた。

 

やはりこの男は諦めていない。

 

セルネアン准将は最後の瞬間まで敵将を睨みつけていた。

 

『さようなら仇敵よ、あの世で我が兄弟に詫びるといい。憎たらしい悪魔め』

 

『提督!!ハイパースペースより二隻の艦影を探知!!』

 

その報告を最初に聞いたのは味方からではなく敵からであった。

 

まさに今セルネアン准将達が死の淵に立たされている瞬間彼は来たのだ。

 

「これは…ゼファント大尉のハンマーヘッドコルベットです!!」

 

士官の報告と共に宇宙空間から一隻のハンマーヘッドコルベットと敵艦が出現した。

 

彼だ。

 

彼が帰ってきたのだ。

 

ハリスの言う通りだ。

 

たった一隻で帰ってきた。

 

「ゼファント大尉!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハイパースペースを抜け出てゼファントが最初に確認したのは敵艦隊と交戦し傷を負ったセルネアン准将の艦隊であった。

 

圧倒的な物量に押し潰されようとしている。

 

「敵艦多数感知!!」

 

「大尉、このまま我々が参戦してももう勝ち目は…」

 

パイス艦長が諦めに似た言葉を発する。

 

しかしゼファントは首を振った。

 

「いや戦線には突入せずハイパースペースを同じく出たあの“()()”を援護します」

 

アヴェック大尉とパイス艦長は唖然としていた。

 

「一体どういう…」

 

「あの艦には…」

 

「敵艦の砲撃来ます!!」

 

ゼファントが説明しようとした瞬間狙いが緩い砲撃がスフィルナ級を掠めた。

 

「シールド全開!とにかく大尉の命令通りあの艦を援護する!」

 

操舵手が命令に従い舵を切る。

 

アヴェック大尉とゼファントは一部陣形を変化させる敵艦隊を見つめた。

 

「一体どうするつもりだ?」

 

「あの敵艦…いや“()()()”をどれか適当な他の敵艦にぶつけるかして破壊します。要は私がいつもやるあれですよ」

 

「ああ…だが適当な艦じゃダメなんじゃないのか?」

 

「えっとそれは」

 

「大尉!大尉宛に敵旗艦より通信です!!」

 

「繋いでくれ」

 

またしても会話が遮られてしまった。

 

モニターには当然敵将アーガニルの顔が映った。

 

『やあゼファント・ヴァントくん、態々殺されに来るとはご苦労な事だ。安心して貴様も革命の生贄となるが良い。素晴らしい大義の為の犠牲だ』

 

威勢のいい言葉でアーガニルは彼を脅した。

 

だがそんな子供じみた脅しに屈するゼファントではない。

 

「そんなくだらないごっこ遊びの為には死ねないね。逆に私とジュディシアルの軍歴にお前の討伐を加えてやろう」

 

アーガニルはゼファントの皮肉を鼻で笑った。

 

若干苛立っているだろうか。

 

サイボーグ相手だと煽りが効いているか分からない。

 

『面白い、貴様の脆弱な艦如き一撃で苦しまずに葬ってやる』

 

「ご親切にどうも、こっちは残念ながらお前を最期まで苦しめながら殺すとしよう」

 

皮肉の罵り合戦の末通信は途切れた。

 

ゼファントにとっては動けないセルネアン准将の艦よりもこちらに注目を集める事で敵の攻撃を少しでもこちらに向けようと言う意図があったのだが他の乗組員からしてみればただの悪口の言い合いであった。

 

通信士官の下に近寄り彼に命令を出す。

 

「セルネアン准将に繋いでくれ」

 

士官は頷きキーボードを操作する。

 

先ほどまでアーガニルが映っていたモニターに今度は負傷した乗組員とセルネアン准将が映り込んだ。

 

『よく来てくれた…だが…』

 

それ以上の言葉はいいと彼は首を振った。

 

「そちらこそご無事でないとは言えよく戦い抜いてくれました。まだ行けますか?」

 

セルネアン准将は周囲の士官達に顔を見合わせた。

 

確認を取ると彼は静かに頷いた。

 

「残りのエネルギーを全て主砲とシールドに、残った魚雷とミサイルも装填してください」

 

『どうするつもりだね…?』

 

「間も無く私の特務艦が敵艦に衝突するか撃破されます。そしたらアーガニルの船の動きは止まりますので一気に撃ってください」

 

なんと恐ろしい奇術師であろうか。

 

時間があまりない為説明を所々カットし過ぎてセルネアン准将も理解は半分しか及ばなかったが大体は理解した。

 

要はチャンスが来た時に背後から撃てとの事だ。

 

短い間だが確かな信頼関係が出来上がっているからだろう。

 

ならば期待に応えるのみ。

 

『任せてくれ』

 

「頼みました。我が艦はこのまま特務艦を支援する!」

 

「了解!」

 

パイス艦長が乗組員に命令を出し始める。

 

「敵は必ず今日で負ける。今日で終わりが来る」

 

その一言はセルネアン艦隊の反撃の合図であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アーガニルは行動不能となったセルネアンの艦に背をむけ小生意気なゼファントの乗り込む艦に火力を集中させた。

 

一部艦を反転させ同様に攻撃させているがあまりに距離が遠すぎる為いまいち攻撃が当たらない。

 

「敵艦に砲火を集中せよ、コルベットなら沈められる」

 

たかがコルベットと油断は出来ないがそれでもかの艦ができることは少ない。

 

友軍艦に命じ奴とセルネアン艦隊は確実に分断させている。

 

もはやどうにも出来まい。

 

「提督、同じくハイパースペースから出撃した友軍艦が一隻不可解な行動を取っています」

 

「一応針路を予想しろ、恐らくは」

 

「奴がゴザンティ級でしたように無人艦での特攻ですな?」

 

「流石だ、その可能性が大であろう。いや、ならば…」

 

アーガニルは思考を巡らせ最善の回答を導き出す。

 

「全火力を先行する友軍艦に向けろ、あの艦は我が旗艦を狙うはずだ」

 

「全火力を前方敵艦へ!」

 

ワルフォイが細かな伝達を始める。

 

奴が特務艦を利用した奇策が得意なのは重々承知だ。

 

ならばその奇策を打ち破り弱点を突くのみ。

 

奇術といえど所詮は奇妙なだけであって理論さえ固まれば常策で十分打ち破れる。

 

それだけの腕が彼にはある。

 

同じ方法に何度も引っかかるほど間抜けでもバカでもない。

 

「さて十八番を取られた若造がどんな行動に出るか」

 

「要注意ですな」

 

2人は悪い微笑を浮かべた。

 

しかしアーガニルはあまりに頭の回転が強化され高速化したせいかある一つの考えを失念していた。

 

その艦が“()()()()()()()()()”可能性に。

 

徐々に距離を詰める特務艦は次々と砲撃をもろに喰らい爆発の火の手をあちこちから上げた。

 

所詮は無人の艦。

 

人が操るように精密な操作は不可能だ。

 

ついに爆発が起こり特務艦は大破した。

 

「フッ」

 

アーガニルが鼻で笑い勝利を再び確信した時それは起こった。

 

突如艦内に警報音が鳴り響き全ての隔壁が閉ざされた。

 

ライトが赤に染まり危険な状態を表している。

 

「何事だ!状況を報告せよ!!」

 

ワルフォイが少し声を荒げる。

 

乗組員達は必死に原因を探った。

 

「これは…“()()()()()()”!!電子システムに感染するウイルスが我が艦に侵食!現在艦の制御システムの45%がコントロール不能!」

 

「バカな!?発生源はどこだ!!」

 

あのアーガニルが彼らの前では初めて動揺を見せた。

 

「囮艦の遠隔操作端末です…」

 

「まさか…!!」

 

アーガニルはその瞬間今までにないほどの屈辱と悔しさを味わった。

 

奴が放ったあの特務艦は特攻用などではない。

 

ウイルス展開用のブービートラップだったのだ。

 

恐らく艦を破壊するか一定以上の距離に侵入されるかでそのトラップは発動するのだろう。

 

遠隔操作の端末に侵入し忽ち恐ろしい速度で増殖をはじめ艦を蝕む。

 

しかもあり得ないほど高速で。

 

「艦のコントロール不能率59%!!」

 

「サブエンジン停止!!偏向シールド停止!!主砲も応答を停止しました!!」

 

「そんな…バカな…」

 

アーガニルは狼狽した。

 

そんなことがこの短時間にできるのか。

 

あり得ない。

 

奴は一体何者なのだ。

 

「提督!!」

 

再び悲鳴に満ち溢れた乗組員の声が聞こえる。

 

「セルネアンの旗艦からプロトン魚雷、ミサイル、レーザー砲が発射されました!!」

 

「回避を…」

 

いや無理だ。

 

艦の制御不能率は今現在60%以上を越しているだろう。

 

すでにエンジンは停止しシールドもないこの艦では防ぐことは出来ない。

 

振動と爆煙が彼らを静かに襲った。

 

アーガニルはその場から転げ落ち倒れ込んだ。

 

乗組員から報告が届く。

 

「全エンジン停止!!メイン反応炉にも被弾確認!!この艦は間も無く爆沈します!!」

 

それはこの艦の終わりを意味していた。

 

「あり得ん…こんなことが…」

 

「全員退艦の準備を!!アーガニル殿さあ早く!!」

 

ワルフォイと数名の乗組員が絶望するアーガニルを無理矢理にでも引っ張る。

 

瞬間彼らの旗艦はいくつかの破片と爆発に成り果てた。

 

夢と理想と共に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「敵旗艦の爆沈を確認!!」

 

「よし!!」

 

アヴェック大尉は脇目も憚らずガッツポーズを浮かべた。

 

ゼファントも内心ほっとした。

 

正直あれは賭けであった。

 

前々からあの手のウイルスは研究して来たとは言え成功する確証はどこにもなかったからだ。

 

だが無事に敵艦は崩壊した。

 

ひとまずは勝利だ。

 

「さて後は残存艦隊の片付け…いやその必要もないみたいですね」

 

レーダー士官のモニターを見てゼファントはそれを確証した。

 

彼らも来てくれたのだ。

 

次の瞬間ブリッジには全方位から出現するジュディシアル艦隊の姿があった。

 

大量のアクラメイター級やカンセラー級、CR90と言った顔ぶれが出現したのだ。

 

そして敵艦隊に向け次々と攻撃を開始する。

 

「友軍艦艇確認!!ヴァント艦隊、コバーン艦隊、アンティリーズ艦隊、キリアン艦隊です!!」

 

それはジュディシアル・フォースの中でもなのある艦隊だった。

 

優秀な彼らの射撃は恐ろしく正確だ。

 

敵艦は四方の攻撃に耐えきれず爆散していった。

 

「これで終わり…だな」

 

アヴェック大尉は噛み締めるようにそう言った。

 

「ええ…終わったんです…彼らの革命も、その夢も」

 

ゼファントも悲しくそう応えた。

 

2人は静かに敬礼した。

 

滅びゆく革命主の艦隊に向けて。

 

セルネアン准将も同じく敬礼した。

 

死した仇敵とその艦隊に向けて。

 

そしてようやく彼らの時計は進み始めるのだ。

 

あの時の革命から止まった時間がようやく。

 

たった一人の男の手によって。

 

多くの者の魂によって。

 

今を生きる者の時間が進み始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

惑星コルサント。

 

この地は相変わらず戦火とはまるで関係のない平和で発展に満ちた都市だ。

 

この地には当然彼らの本拠地もある。

 

今日はいい天気だ。

 

美しい太陽が彼らを祝うかのように照らす。

 

大ホールには大勢のジュディシアル・フォースの将校と政治家や高官たちが集まっていた。

 

優秀な軍人達を崇める為に。

 

2人の将校が拍手の喝采とともに壇上に上がる。

 

グリッツ・セルネアン准将もとい少将と。

 

「ゼファント・ヴァント」

 

「ハッ!」

 

敬礼と共に壇上の高官の前に立つこの青年ゼファント・ヴァント。

 

「貴官の功績は多くの銀河市民を危機から救い我が共和国を救済した英雄に相応しい。よって貴官にはジュディシアル英雄章を授け少佐に昇進する事とする。以後も全力を持って職務に励むように」

 

「ハッ!」

 

勲章と新しい階級章と共に彼は下がった。

 

再び拍手が湧き上がる。

 

今日は少将に昇進したセルネアン少将と少佐に昇進したゼファントの祝賀会の日だ。

 

 

つづく

 




この話もようやく移行完了である
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