Fleet Admiral   作:Eitoku Inobe

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腐りゆく大地

 

-コア・ワールド 共和国首都惑星 コルサント 軌道上防衛艦隊駐留地点-

コルサントの軌道上。

 

銀河共和国は軍隊を持っていなくともジュディシアル・フォースやセネト・ガードのような治安部隊は例外である。

 

それに我が身我が星を守る為と独自に自衛の為の惑星防衛軍を設立したり元よりそう言った類の軍隊を保持している惑星政府もあった。

 

軌道上に位置する“コルサント本国防衛艦隊”もそのうちの一つだ。

 

枠組みとしてはコルサントの惑星防衛軍、惑星防衛艦隊であり彼らの艦隊は常に鉄の守りを敷きこの広大な首都惑星を守り続けて来た。

 

コルサント市民1兆人以上の命は彼らとコルサントの地上部隊、ジュディシアル・フォースなどに任されていると言っても過言ではない。

 

「サリマ提督、大セスウェナ領域の保安軍より報告が」

 

そんな防衛艦隊の司令官である“ヴィーズ・サリマ”提督は旗艦ガーディアンのブリッジで部下の報告を聞いていた。

 

「あそこの軍が何故私に…まあいい、ホロテーブルに出してくれ」

 

「はい」

 

2人はブリッジに備わっているホロテーブルに移動した。

 

士官はそのままテープデータを差し込みホログラムを起動した。

 

テープデータに添付されていた情報を二人は読み取る。

 

「これは………まさか!」

 

サリマ提督は送られて来た情報の意図を一瞬で見抜いた。

 

そして一気に戦慄の表情となった。

 

冷や汗が彼の額を冷たく流れる。

 

「確か今地上では大規模犯罪組織の捜査が行われているな?」

 

「はい、コルサント攻撃を画策する艦隊がいたらしいですからね。しかもその間に地上の対空システムや防衛システムがいくつか異常行動を起こしていたとか」

 

「この情報は地上の部隊やジュディシアル・フォースにも贈られているか?」

 

士官は頷いた。

 

「この情報はハンバリン、アナクセス、コルサント、クワットなどに送られています。当然ジュディシアルの幹部将校達にもです」

 

「……私は今すぐ地上に降りる。それとゼント提督や他の諸将に連絡を、これは大変なことだ」

 

サリマ提督は足早にブリッジを後にしようとした。

 

しかし何が何だか分からない察しの悪い士官は彼に尋ねた。

 

「お待ちください。どちらへ向かわれるのですか?」

 

説明する時間はなかったが要点だけ彼に放り投げた。

 

「ジュディシアル・フォースの本部に決まっている。後数日、数週間、数ヶ月もすればここは…」

 

そうここはああなる。

 

ああなってしまうのだ。

 

「ここは戦場になる。防ぐ為には今行動するしかない」

 

「戦場…」

 

その言葉の重みは理解していてもどうしてそうなるのかまだ士官には理解出来ていなかった。

 

「とにかく私はジュディシアル本部に行く。緊急時はミーケル中将を頼れ!それとヴァント中将も呼び出せ」

 

そう言い残し彼の副官が足早に背後に着くとと彼は今度こそブリッジを後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「艦隊はいつ来るのだ?」

 

フェルシルはふと隣で茶を入れるフォンフに尋ねた。

 

「貴方様が旗を上げる頃に御座います」

 

「盟友は…そうか他にもういないのか」

 

「はい…残念ではありますが…」

 

フェルシルは“()()()()()”。

 

それは自然と流れる涙であった。

 

「フェルシル?どうかされましたか?」

 

フォンフは彼を心配して声をかけた。

 

「フォンフ…静かにしてくれ、今は弔いの時間だ」

 

「申し訳ありません…失礼いたします」

 

そう言ってフォンフは静かに部屋を後にした。

 

彼はあの革命のあの戦い以来身体に受けたダメージのせいで感情のコントロールが効かなくなる事が多々あった。

 

特に彼の意思に関係なく涙腺が崩壊し涙が流れる事が多い。

 

それはサイボーグとして戦士としての悲しき運命だろう。

 

だがフェルシルは逆にこの涙を亡き兄弟達を弔う聖なる涙だと思っていた。

 

例えそれが回路に撃ち込まれた弾丸のせいだとしても構わない。

 

彼らを想い弔う時間が少しでも必要だ。

 

それと同時に彼は強化された脳をフル回転で動かし策略を巡らせていた。

 

嘆くことは誰にでも出来る。

 

だが亡き者達の墓前に捧げ物をしなくてはならない。

 

革命の成功という捧げ物を散った仲間達に。

 

その為には今の我らでは力不足だ。

 

ならば力を蓄え相手を弱らせなくては。

 

最大の障害を全て取り除き革命の御旗を故郷とこの忌まわしい首都に掲げなくては。

 

すでに駒の配置は完了している。

 

最も使える駒は“()()()()()”に付けてある。

 

後は隊の編成をするだけだ。

 

涙を流しながら笑みを浮かべるフェルシルの顔は哀しく醜く歪んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゼファントが情報部のオフィスに顔を出したのはいつもより一時間ほど遅れてだった。

 

基本的に遅刻はしないゼファントが今日に限って遅れるなど皆不思議がっていた。

 

また何かに襲われたのではないかと言う余計な心配まで出始めていた。

 

しかし一時間後彼は変わらずに顔を出した。

 

「少佐、今日はどうされたのですか?」

 

モスト中尉は心配を含めた表情でゼファントに尋ねた。

 

しかしゼファントは野暮用があったと言うばかりで一向に本当の事を言わなかった。

 

情報部員達も深く聞いても仕方ないのでこれ以上詮索はしなかった。

 

「それで、早速報告をしてくれ」

 

それでも2人はまだ納得していなかったが埒が明かないので報告を始めた。

 

「先日少尉から聞いたままです。襲撃者は完全に姿を消しました」

 

「コルサント保安部隊も捜索を続けていますが未だそれらしい人物は発見に至っておりません」

 

ゼファントにとっては予測の範疇だった。

 

そこで彼は別の方向から尋ねた。

 

「破壊されたドロイドや現場の証拠は何かあったか?」

 

「いえ、弾痕もより詳しく調査しましたがダメでした。ドロイドの方も同様です。連中思ったより機密性が高い」

 

「そうか…」

 

ゼファントは少し落ち込んだように見えた。

 

しかしすぐに顔を上げ再び頭を回転させ始めた。

 

「ここまで情報を残さないとなると考えられる事は2つだ」

 

「2つ?」

 

モスト中尉がすぐに聞き返した。

 

ゼファントは頷き端的に説明を始めた。

 

「1つは雇われた凄腕の暗殺者ですでに失敗しコルサントから逃亡したか。もう1つは調査中のコルサント保安部隊に裏切り者がいるか」

 

2人はハッとした。

 

前者の予想はともかく後者の予想は意外だったのだろう。

 

モスト中尉がすかさず反論する。

 

「有り得ませんよ。あの保安部隊に裏切り者がいるなんて…」

 

「裏切り者というより成り済ましている可能性も十分有り得る。それに情報部もジュディシアル部門も保安部隊の捜査には介入してないんでしょう?」

 

「ええ…確かに保安部隊の一部が反対して…いやまさか…」

 

まさか裏切り行為に悟られぬように反発しているのか。

 

ゼファントの一言でモスト中尉も徐々に反論の根拠を失い始めた。

 

「まだ確証がないので何とも言えませんが調べてみる価値はあります」

 

ゼファントは席を立ち隣の椅子に掛けておいたコートを手に取った。

 

フィーナ少尉とモスト中尉もゼファントに続いた。

 

「中尉と少尉は宇宙港の捜査を。味方まで疑ってるのは私だけで十分ですから」

 

「いえ、私は少佐に同行します」

 

フィーナ少尉は珍しく真っ向から反対した。

 

モスト中尉もそんな彼女を意外そうな目で見ていた。

 

「でも宇宙港の捜査は大変でしょうし…」

 

「仮に保安部隊に襲撃犯がいたとして少佐が一人では危険です、私が守りますので」

 

「いやでも…」

 

「そうですよ少佐、リースレイ少尉は優秀ですしきっと役に立ちますよ」

 

モスト中尉はそうフィーナ少尉をサポートした。

 

ゼファントはこれで反論する言葉を失った。

 

確かに単純な戦闘力は圧倒的にフィーナ少尉の方が強い。

 

ゼファント一人を守り蹴散らすのも全て朝飯前だろう。

 

さらにモスト中尉は続ける。

 

「私の方は手の空いている情報部員を何人か知ってるので人では心配しなくて結構です」

 

どうやら連れて行くのは確定のようだ。

 

なら仕方ない。

 

「…わかった、では少尉行きましょうか」

 

「はい、少佐」

 

彼女はいつも通りゼファントの後ろに付いた。

 

まだ彼女とは出会って数日しか経っていないが後ろに誰かがいるのは慣れてきた。

 

しかし流石のゼファントでも彼女の揺れ動く思考までは完全に探知出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドレイヴン大佐は自らの執務室の窓からコルサントの市街地を見つめていた。

 

本来ならただの大都市だが今のドレイヴン大佐からすればまた別のものに見えていた。

 

この惑星の大地は腐っている。

 

この惑星の地下は腐り朽ち果てている。

 

そしてこの国の指導者達も腐敗していた。

 

犯罪者や浮浪者に覆われたアンダー・ワールドはいつ崩壊が始まってもおかしくない。

 

いやすでに始まっているかも知れない。

 

むしろ一回崩壊しただろう。

 

かつてはコア・ワールド全体で人口爆発が起こりこのコルサントも、特に地下街は酷い有様だったらしい。

 

食料や仕事を求める浮浪者に近い者達が溢れかえりアンダーワールドでのデモや治安悪化が進行していた。

 

これらの問題は増えすぎた人口をアウター・リムに移民させる事で表向きには解決したらしいのだが実際はそうではない。

 

むしろ移民者と辛うじてアンダーワールドに留まった貧乏人達の怒りは二分され脅威は二つに増えてしまった。

 

しかも若干の空きが出来たアンダーワールドに居座ったあの連中は貧乏人の怒りなんかより余程の脅威だ。

 

今ゼファント少佐と部下達に追わせているあの大部隊はいつでもコルサントに、共和国元老院にその刃を突き立てられる。

 

そして受ける側の共和国はもう脆く、防ぐ我らの力はそこが知れている。

 

……今回ばかりは共和国もダメかもしれんな。

 

ドレイヴン大佐は自分らしくないなと思いつつも自嘲気味に笑みを浮かべた。

 

だがこのまま腐らせておく程楽観的には考えられない。

 

現実主義者たる彼は日和見主義者の元老院や政府とは根本が違かった。

 

尤もいち情報部士官のドレイヴン大佐がそこまで介入出来るかと言われれば無理な話だが…。

 

しかし宛は幾つかある。

 

そのうちの一つが来たようだ。

 

『大佐、ターキン中佐がお見えです』

 

「入りたまえ」

 

分厚いブラスト・ドアが開きドレイヴン大佐が期待する1人の男が入ってきた。

 

笑みを隠し平常の姿を見せる。

 

「ターキン、困るじゃないか勝手に情報を渡すなんて」

 

少しばかりのジョークと皮肉を込めターキン中佐の行動を挙げた。

 

すると中佐は彼特有の不思議な笑みを浮かべた。

 

「まさか気づいていたとは、さすがはドレイヴン大佐ですな」

 

「目は常に光らせておくものだ。君達のようにな」

 

2人は皮肉めいた笑みを浮かべた。

 

やはり彼は“()()()()()()()()()”だ。

 

私とは違う。

 

私達のような古い前世代の人間にはないものを彼らは持っている。

 

羨ましい限りだ。

 

「既に艦隊の方まで君は手を打っているそうじゃないか」

 

「ええ、古びた革命の因果を断ち切るいいチャンスですから。コルサントの方は?」

 

「知っての通りゼファント少佐と情報員を数名派遣している。時期に妙案を思いついてくれるだろう」

 

「ではひとつ尋ねたいことが」

 

「何だね?」

 

ドレイヴン大佐は質問を許した。

 

ターキン中佐は一つの疑問を隠す事なく尋ね始めた。

 

「なぜ彼に“()()”を付けたのですか?あれでは捜査以前にゼファント少佐が危険で」

 

「彼は君と同じでそんな柔い男ではない。その点は問題なしだ」

 

「ならば余計に気になる。何故“()()”である彼女を少佐に差し受けたのかが」

 

まさかそこまで読んでいるとは。

 

なら話しても良いかもしれない。

 

幸いターキン中佐は口が堅く誰かに話すことも口を割られることもないだろう。

 

それにゼファント少佐や他の者に漏らす事はないと考えられる。

 

「中佐、君は彼女…リースレイ少尉をどう思う」

 

ドレイヴン大佐は敢えて質問を質問で返した。

 

ターキン中佐は尻込みする事なくありのままを喋った。

 

「“()()”である以外は優秀でしょう。諜報能力、戦闘能力の両方を兼ね備えた正に期待の星だ」

 

「ではそんな彼女が“()()()”を持ったまま“()()”に変わったとしたら?」

 

ターキン中佐は珍しく口を開け納得を浮かべていた。

 

しかしすぐにその表情は陰謀詐術を企む笑みと変わった。

 

「なるほど…ですがうまくいくでしょうか?」

 

「高望みしすぎと言われればそれまでだが私はできると踏んでいる。ゼファント少佐にはそれだけの技能がある」

 

ドレイヴン大佐は椅子を動かし腰掛けた。

 

デスクに肘を立て指を組み始める。

 

彼が考え思い描いていることは至極非道な事だ。

 

だがそれが勝利へとつながるなら躊躇う必要はないだろう。

 

彼女には精神的に犠牲になってもらう。

 

「さて…二重情報員のリースレイ少尉が誕生するのを待とうじゃないか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

宇宙港の履歴を調査するモスト中尉はタブレットを眺めながら唸っていた。

 

今仲間と手分けをして調査しているが怪しい点は殆どない。

 

もしかしたら少佐の方が当たってたかもなと思いつつモスト中尉は命令を出した。

 

「次は貨物船の方充填で行くぞ、密航してるかも知れん」

 

彼と同じコートを纏った情報員達が頷く。

 

全員散開しそれぞれが仕事を始めた。

 

モスト中尉も再びタブレットで幾つかの船の監視映像を眺め始めた。

 

数秒後彼はある異変に気づいた。

 

そこで隣にいる同じく情報員の“キーリク”中尉を引っ張る。

 

「おいこれこの貨物船おかしくないか?」

 

「何が、特に変なものは積んで無いぞ?」

 

「そうじゃなくて床を見ろ、僅かに線が入ってる」

 

モスト中尉は指を差しキーリク中尉に示した。

 

「本当だ…それに荷物箱が二重構造になっている」

 

「何ぃ?これは…“ロイス”!」

 

中尉は持ち場を終わらせた“ロイス”少尉を呼んだ。

 

すると彼と共に作業をしていた宇宙港の警備官達も駆けつけた。

 

「この貨物船に突っ込むぞ、警備官達も来るんだ、それと少佐とオフィスに連絡を」

 

「はい」

 

ロイス少尉は返事と共に頷きコムリンクで連絡を取った。

 

キーリク中尉とモスト中尉に率いられる警備官達はそれぞれ銃器を手にし監視映像の貨物線へ向かった。

 

自然と彼らの足取りは早くなる。

 

それにその貨物船は意外と近くに停泊していた為すぐ辿り着けた。

 

「お前がこの船の所有者か?」

 

貨物を下ろす作業をする“グラン”の男は困惑しながらも「そうだ」と答えた。

 

「共和国情報部だ、この貨物船を調査させてもらう」

 

「調査?いや私は怪しいものは何も…」

 

「黙って従ってくれ、いくぞキーリク」

 

「ああ」

 

ブラスター・ピストルを突き付けグランの男を黙らせる。

 

2人の中尉は数名の警備官と共に貨物船の中へ入った。

 

一応に備えてブラスター類の火器を構える。

 

ちっぽけな貨物船は通路を入るとすぐ映像にあった貨物エリアに入った。

 

「これだ…さて簡単に開いてくれるかな」

 

モスト中尉はキーリク中尉と共に貨物船の床の底を外した。

 

すると中には同じ箱が大量に出てきた。

 

「取り出そう」

 

キーリク中尉と息を合わせ箱を持ち上げる。

 

2人掛でも結構重たい箱だ。

 

「中身はスパイスか何かでしょうか?」

 

警備官の一人が不思議そうに覗き込む。

 

「さあな、開ければわかる」

 

そう言ってモスト中尉は箱を開けた。

 

中身は想像していた物とは違かった。

 

「おいおい…これってもしかして…」

 

箱の中身はどっしりと詰め込まれた“武器(ブラスター・ライフル)”だった。

 

しかもどれも威力が高いものだ。

 

まさか隠された箱全ての中身がこれなのか…?

 

そんな不安がモスト中尉の中を過った。

 

しかしそんな不安は間も無く更なる最悪となった。

 

「ちゅっ中尉殿これを!!」

 

警備官が引き攣った声と共にモスト中尉達を呼んだ。

 

「どうしたって…これは…」

 

その光景を見たモスト中尉は思わず絶句した。

 

それだけに値する光景だからだ。

 

二重構造になっている箱の中身を取り出すとその下には大量の“爆弾が詰め込まれていた”。

 

見た所かなりの数だ。

 

「まさかこんな量の武器が密輸されてたのか…一体…」

 

しかしもう道は分かりきっていた。

 

全て尊い革命の為の貢物だったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゼファントとフィーナ少尉は既に捜査中のコルサント保安部隊員を掻き集めていた。

 

俗に警察官などとも呼ばれるアンダー・ワールドの隊員達は皆特殊な装備を身に付けており素顔は誰一人見えなかった。

 

「ゼファント少佐、現在捜査を行なっていた隊員は全て揃っております」

 

指揮官である警部補が敬礼と共に少佐の前に出た。

 

表情から察するに彼は早く捜査を始めたがっている。

 

「捜査中すまない警部補。だがこれは重大な事なんだ」

 

「いえお構いなく」

 

「ありがとう」

 

軽く言葉を述べるとゼファントはゆっくりと直立不動の警官達を眺めた。

 

彼らは一体そのマスクの下で何を考えているだろうか。

 

ジェダイでもないのだからゼファントには判らない。

 

しかし予測は出来る。

 

「私が今から話すのは“()()()”の話だ、だから水に流してくれても構わないだが命令には従って貰う」

 

若干の脅しではあるがそれでも構やしない。

 

これくらいしないと襲撃犯を燻り出す第一歩にはならないからだ。

 

「皆が追っている我々を襲撃した犯人だが…知っての通りまだ見つかってはいない」

 

警部補が頷く。

 

「だから私はある仮説を考えた、もしかしたら君達の中にその“()()()()()()()()()()”のではとね」

 

警部補の表情が驚きに変わった。

 

警官達の中にも思わず声を漏らしてしまった者もいた。

 

すかさず警部補が反論する。

 

「しかし少佐殿、私の部下達は裏切り行為をするような者は誰一人…」

 

「知っている、だから裏切りではなくすり替わりだと私は考えた。いつ…かは分からないがなんらかの方法を使い部下と犯人が入れ替わっていたとしたら」

 

「そんな事可能なのでしょうか…?」

 

「さあな、だがこれからわかるはずだ。全員装備を外してくれ」

 

動揺で警官達は命令を実行するのが遅くなっていた。

 

「これは命令だ、出来れば早くして欲しい」

 

その一言でフィーナ少尉がホルスターに手を掛ける。

 

ゼファントはそれはまだ早いと諭した。

 

ゆっくりゆっくりと彼らはヘルメットを外した。

 

初めて見る警官達の素顔だろう。

 

見るからに困惑していた。

 

彼らには申し訳ないがこれも必要な事だ。

 

すると中に不思議な連中が現れた。

 

「ほう…君達、何故“()()()()()()()”?」

 

ゼファントがヘルメット付けたままの警官達を問い詰める。

 

全員が一斉ヘルメットを外そうとしない3人の方を見た。

 

三人とも全く動かない。

 

「さっきも言った、これは命令なんだよ。それにできれば早くして欲しいとね」

 

悪い笑みを浮かべ3人を更に突き詰めるが効果はあまり見られない。

 

ジレを切らしたというか焦った警部補は3人に怒鳴り散らす。

 

「何をしておるのだ!!早く脱げ!!」

 

「警部補落ち着いて下さい。まさかそのヘルメット他の警官より重いのかな?」

 

警部補を落ち着かせゼファントはゆっくりと彼らに近づく。

 

3人の警官はまだ黙ったままだった。

 

「急かしていても一応の時間はある。いくらでも待とう」

 

笑みが広がるにつれ周囲の緊張が広がった。

 

だがゼファントは微動だにしない。

 

いつもの彼とはまるで違う感じだ。

 

「これ以上命令違反を犯すと逆に捕まえなきゃならん。なんなら私が取ってやろう…」

 

「…お前を殺す」

 

警官の一人が小声で喋った。

 

ゼファントは敢えて聞き返した。

 

「ヘルメットあると聞き辛いな…なんだって?」

 

「お前を殺させて貰うぞ!ゼファント・ヴァント!我らの為に死ね!!」

 

そう言ってその警官がなんとゼファントにブラスター・ピストルを向けようとした瞬間彼は動いた。

 

「ふぐぅッ!!」

 

潰れた声を出したのはゼファントではなく警官の方だった。

 

よく見ると彼がゼファントが横っ腹に食らわせた右手の裾から何か鋭利なものが飛び出していた。

 

「さすがはターキン家(辺境域の王)だ、くれる物も一味違う」

 

ニヤリと笑いゼファントは気絶した警官を立て代わりにした。

 

残りの2人は一斉にホルスターからピストルを抜き構えた。

 

その様子を眺めつつ一言言い放った。

 

「私を撃ってみろ。そうすれば仲間に当たってお前達は後ろの警官達に何されるかわからんぞ!」

 

ヘルメットを被り直した警官達やフィーナ少尉が彼らにブラスターを向けていた。

 

逃げ道はもはやないだろう。

 

「それにお前達の仲間はまだ死んではないさ。この武器は殺すようには出来てないからね」

 

「だから降伏しろと?断る!」

 

偽の警官…襲撃犯の一人は腕についたスイッチをいくつか押した。

 

すると建物の影からブラスター・ライフルを連射しながら迫り来る数体の“GUシリーズ・ガーディアン・ポリス・ドロイド”が現れた。

 

襲撃犯に操られたポリス・ドロイド達はかつての同僚たつ警官達に容赦なく猛威を振るう。

 

数名の警官が凶弾に倒れ負傷してしまった。

 

隙を見計った2人の襲撃犯は負傷した仲間を置いて警官を突き飛ばし逃げ出した。

 

ゼファントはすぐさま命令を出す。

 

「警部補達は負傷者を守りつつドロイドの掃討!少尉は左に逃げた奴を捕らえろ!私は残りをやる」

 

「了解!!」

 

2人は別れそれぞれ敵を追った。

 

ここで逃すものか。

 

ゼファントの目は執念に満ち溢れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パルパティーン議員は落胆していた。

 

危機感というものがまるでない。

 

数日前に会議を開いたヴァローラム氏や他の元老院議員、行政員全て現状を正しく認識していない。

 

今のコルサントは危機に晒されているのだ。

 

かなり大きな部隊が元老院を人質にし大義という名の暴力で市民を恐怖に陥れようとしている。

 

本来国家としては早急に対処すべきはずなのに彼らは皆目を背け油断しきっていた。

 

全員が口を揃えてこう言う。

 

「1,000年の間平和が保たれてきたのだ。それが崩れるなどあり得ない」と。

 

それは慢心だ。

 

1,000年平和だったとしても明日はどうだか分からない。

 

なんなら千年前は平和など存在しなかったのに。

 

そして明日はその平和が崩壊しているかも知れないのだ。

 

それをなんとしても防ぐ為に議員を含めた政府が対処しなくてはならなぬのに完全にその事を放棄している。

 

恐らくこのままでは元老院は墜ちる。

 

ジュディシアル・フォースやコルサント保安部隊に期待せざる負えないがそれが無理なら元老院、引いては“()()()()()()()()”はすぐそこだ。

 

己の喉もの付近まで刃が近づいていると言うのに目を閉じ耳を塞ぎきっているとは。

 

彼が初めて議員になった時から経験してきた事だがここまでになると絶望すら感じてしまう。

 

だがパルパティーン議員が違うのはそこにあった。

 

普通の議員ならばこの時点で全てを諦め自分自身をその堕落に委ねるであろう。

 

しかしパルパティーン議員は希望を捨てず己の肩書きから得たものを最大限活用している。

 

そのような行動が彼に魅力を与え大勢の支持を得るほどになっているのだと周りの者達は思っていた。

 

「議員お疲れでしょう、少しお休みになられては?」

 

秘書の一人が専用のフィスに座り職務に励むパルパティーン議員にそう進言した。

 

しかし議員は疲労を誤魔化し心配を和らげさせるかのように笑みを作った。

 

「いや大丈夫だ、それよりセネト・ガード隊に元老院地区周辺を入念に警備するよう伝えてくれ」

 

「わかりました」

 

秘書はそういうとオフィスを出た。

 

すると入れ替わるかのようにもう一人の秘書がオフィスに入ってきた。

 

「議員、ハンバリン艦隊のゼント・ヴァント提督が面会を求めております」

 

「面会?彼は艦隊と共にハンバリンにいるはずでは?」

 

パルパティーン議員は聞き返した。

 

「それが例の件で内密に召集が掛かっているらしく…」

 

「ターキンだな?やはり軍人として一生を終わらすには惜しい男だ」

 

秘書がその言葉に頷いた。

 

この時パルパティーン議員は一つの名案を思いついていた。

 

「悪いが面会は断ってくれたまえ、代わりに一つ提案を」

 

「はぁ……?」

 

「ゼント提督のご家族を食事に誘っておいてくれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「待て!」

 

ゼファントはブラスター・ピストルを撃ちながら襲撃犯を追う。

 

逃げる相手の早さは中々のものだがゼファントも負けてはいない。

 

それに先日のお返しと言ってはなんだが相手の足や腕にブラスターのかすり傷を与えてやった。

 

痛みと疲労による二重の辛さは襲撃犯の逃げる速度を確実に落とさせている。

 

奴の顔は見えないが相当苦しいだろう。

 

そこでゼファントは相手を追い詰めるのではなく確実にダメージを与える方にシフトチェンジした。

 

あえて足を止めブラスター・ピストルの狙いを正確にする。

 

これで失敗したら確実に逃げられてしまうだろう。

 

無論逃すつもりはないのだが。

 

彼が見つめる先には必死に走る襲撃犯の姿があった。

 

数日前は立場が逆だったのにこうなるとは些か皮肉を感じずにはいられない。

 

だがそんな事を気にしている余裕はない。

 

両腕でピストルを構え引き金を引く。

 

放たれた弾痕は真っ直ぐ目標を貫いた。

 

襲撃犯は足に強烈な一撃を喰らい大きく転けた。

 

痛みで何か声を出しているがそんな事ゼファントにはどうでも良い。

 

執念というべきか襲撃犯は足を撃たれ血を垂れ流してるにも関わらず地べたを這ってでも逃げようとしている。

 

厄介な事に襲撃犯は奪い取った警官の衣服を着ている為スタンモードの攻撃の威力が薄い。

 

それにブラスター・ピストルのスタンモードではたかが知れている。

 

なら殺傷能力の高い状態で確実にダメージを与えねば。

 

ゼファントは這いずる襲撃犯の左肩に無慈悲に一発弾丸を撃ち込んだ。

 

そうしてやつを無理矢理起こす。

 

「さてお前達のボスについて話してもらおうか?」

 

「フッ…無理な話だな…」

 

やはりそう簡単には口を割らんか。

 

自白剤を使う事もやむなしとゼファントが思ったその時何かがカチッとなる音がした。

 

まさか!

 

「おいお前今まさか!!」

 

「察しがいいじゃないか…あの方にこれ以上ご迷惑をかけるわけには…グハァ!!」

 

襲撃犯は全てを言い終える事なく吐血した。

 

そして奴は一矢報いるかのように吐血した血をゼファントの頬を掠らせた。

 

襲撃班はもう二度と動くことは無くなった。

 

これで貴重な手がかりを一つ失ってしまった。

 

「はぁ…血なんて付けやがって…そんなに死に急ぐ必要もないだろうに…警部補、そっちは?」

 

ため息を吐くとゼファントはコムリンクを開いた。

 

『ドロイドは掃討しました。多少軽症者を出しただけで無事です』

 

「それはよかったです、それで襲撃犯の方は?」

 

『捕らえております。しかし毒の入った器具を口内に所持していました。幸いギリギリで防ぐことができましたが』

 

「ああ…私はやられたよ。すまないこっちはダメだ」

 

『そちらに応援を送りました。間も無く着くかと』

 

「助かります」

 

そう言うとゼファントはコムリンクのスイッチを切った。

 

彼は見えるはずのない空を見つめていた。

 

いくら軍人で人を殺す職業にいるとは言え自分のせいで誰かが死ぬのは罪悪感がある。

 

しかも判断を誤らなければ救えたかも知れないのだ。

 

この時自分の非力さと愚かさにひどく憤りを感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フィーナ少尉の動きは速かった。

 

すでに敵を組み伏せ銃口を脳天に叩き付けている。

 

相手は完全に降伏のポーズを取っていた。

 

「まさか降伏するとは…呆れるわ」

 

「これは降伏ではない同志よ…あの男を殺すチャンスだ」

 

瞬間フィーナの目が鋭くなった。

 

こいつまさか私の正体を…。

 

冷静さを欠かず表情をそのままの状態で問い詰める。

 

「どういう事?」

 

「決まっているよ、君が俺を連行したと見せかけて俺があいつをブラスターで殺す。そうすればあの方からの使命を達せられる」

 

なるほど命欲しさに降伏したわけではないようだ。

 

だからこそフィーナは冷徹な目で彼に言い放つ。

 

「確かにいい案ね…私があなたを始末しなければ」

 

襲撃犯の表情は変わった。

 

唖然としすぐ絶望に変わった。

 

「何を言っているんだ…?俺を始末…?ハハ、冗談は…」

 

彼女は冷徹にブラスターを額に押し付けた。

 

絶望の表情はさらに広がる。

 

「やめてくれ!俺も君もあの方に忠誠を誓った仲間じゃないか!!」

 

「ええ、でもね襲撃に失敗して正体すらバレたあなたはもう“()()()()”なのよ」

 

「やめろ!!俺にはまだチャンスが!!」

 

「ごめんなさい。今度は失敗しないと良いわね」

 

銃声と共に同志と名乗った襲撃犯は鮮血を噴き出し地面に斃れた。

 

頬に付いた血を乱暴に拭う。

 

彼女は冷たかった。

 

いや何もなかった。

 

殺す事に躊躇いは無くそこに生まれる感情は何もないのだ。

 

それは幼い頃から死を何度も目にし死と隣り合わせに生きてきた結果だ。

 

生きるためには他人の生き血を唆る他ない。

 

彼女はブラスター・ピストルをホルスターに仕舞いコムリンクを取り出した。

 

ーまただー

 

私に対して何も思わないはずなのに誰かを殺す度違和感を覚えた。

 

理由は分からなかったが何故か頭を抱えた。

 

痛みに似た何かを感じる。

 

しかし彼女はそれらを全て振り捨てた。

 

この時のフィーナ・リースレイはまだ何も知らなかった。

 

本当の自分を。

 

彼女は自分すら殺している事を。

 

つづく




ナチ帝国でもこの話でもしょっちゅう出てくるコルサント本国防衛艦隊ですがこれは決してEitoku Inobeがコルサント本国防衛艦隊が好きと言う事ではありません。
むしろ何故か毎回出て来るんですよね。
不思議っすね()
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