Fleet Admiral   作:Eitoku Inobe

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我が家は常に軍族軍族また軍族。

戦う組織に勤めて戦う組織で一生を終えることもある。

父も祖父も兄弟も皆戦いの場へと赴き我が命を賭けて誰かの為にと戦った。

当然死んだ者もいるだろう。

生きて寿命を迎える者もいる。

最期は皆自由だ。

しかし人生は、自分の生涯はそうではない。

決められてしまっている。

他の血縁者と同じように。

俺は軍に行き軍で与えられた生の大半を終える。

そこに決定権も自由も何もない。

一生をこの碌でもない国のために捧げるに等しい。

そして自らの一生はその為だけに準備される。

生まれた瞬間からずっとだ。

子供の頃から俺は戦う事と覚悟や使命とやらを教えられた。

父にも母にも他の兄弟にもだ。

俺はそうやって悶々と日々を過ごしていた。

何か重いものを背負わされ何かに縛られたように。

その時は思わなかったが今なら言える。

辛かった。

辛いという感情すら分からなかった。

ただ当たり前だからやるしかないとずっと言い聞かせていた。

だが本当はやはり苦しく辛かった。

屋敷の窓から見える青い空の景色も俺には鎖に閉ざされ雲掛かって見えた。

あの先に行っても何処に行っても俺の使命は、一生は決して俺を離さない。

自由なんてなかった。

あるのは先祖から受け継がれる使命を果たすことのみだ。

ある日俺は既にハンバリン防衛軍の大尉だった兄に尋ねた。

先に使命として軍に入っていた兄だ、何か見出せたのかもしれない。

もしかしたら自分もそんな氏名に何かを見出せるんじゃないかと。

「苦しくないのか」と。

すると兄はこう答えた。

「苦しくなんてないさ。僕はただ使命を全うしてるだけだ、与えられた物に対する使命を」

そして兄はこう言った。

「お前にもいつか分かるさ。いつかな」

分からなかった。

結局自分の見出せるものは何もなく苦しみも変わらなかった。

鎖は歳を取る度に大きくなっている気がした。

当たり前だ、年齢を重ねれば重ねるほど使命を果たす時が来る。

そして期待通り…かは分からないがアカデミーを卒業し軍…ジュディシアルに入った。

ほぼ軍隊みたいなもんだろう。

与えられた使命を果たす時が始まった。

閉鎖的な場所で理由もなくただ先祖の使命を習慣的な義務として果たす。

重荷は更に降り掛かり鎖は更に太く重たくなった。

地獄だった。

各地で勤務を重ね俺は少しばかり雲の切れ間から外を見れた気がした。

その隙間から見れえた世界だけでも十分自由を感じた。

軍でも家でもない場所、俺はそこになんの関わりもない。

何を持っていても絶対に行けない場所だった。

自由があり使命も何もない場所。

ずっと求めていたものがそこにはあった。

それでもその場所に向かうことは許されない。

使命がある。

果たすべきものがある。

ただ渇望し見つめる事しか出来なかった。

幸い俺はどうやら軍人としてかなり優秀な方らしく当時の人手不足も相まってすぐに提督まで昇進出来た。

だからなんだと言うのだ。

何も嬉しくない。

誇らしくもなく逆に重荷が増やされるだけだった。

そして遂にその日は来た。

ある時俺はジュディシアルの一個艦隊を率いてとある敵を征伐していた。

なんとか損害なしで敵は倒せた。

民間人の犠牲も少なく最良の勝利だったと言える。

だがあの時こう言われた。

「人殺し」と。

まだ小さな子供に「親を返せ」と言われた。

その子供が敵の子なのかそれともただの民間人だったのかはもう分からない。

だが間違いなく奪ってしまったのだ。

この手で。

なら俺は今まで何をしてきた。

そもそも使命とはなんだ。

他人を殺して何の使命となるのだ。

子の親を奪い一体何がある。

使命とはなんだ。

なんの為に生まれて来たんだ。

生きている意味など、使命を果たす意味など何処にある。

やがて俺には何かが見えた。

光る扉のような何かが。

まるでその先に答えがあるような気がして。

俺は入ってしまった。

その扉の先に。



これは当時の記録で最年少で提督となったとあるヴァント家の1人のたわいもない小話である。


彼女の秘密

ゼファントは珍しく青いジュディシアル・フォースの軍服を着込んではいなかった。

 

灰色のコートに身を包み珍しくおしゃれをしていた。

 

普段は基本あるか分からない休みの日も軍服のままで過ごす事が多い。

 

何せ楽だし下手に考えなくていいある種の合理性からだった。

 

そして彼は父ゼントにプレゼントされた“ダローリアン合金”で作られた腕時計を見つめた。

 

呼んだ側が早く行くのは礼儀として当然だが少し早すぎたかなとも思っている。

 

待ち合わせに選んだ“ディプロマット・ホテル”前は今日も大勢の観光客で栄えていた。

 

まだ午前中だというのに多くの観光客がホテルの周辺を彷徨いている。

 

むしろこの辺の地区は朝だろうが昼だろうが夜だろうがまるで変わらない、ずっと大勢の人で賑わっている。

 

逆に眠れなくなるほどだ。

 

それはそうと今日はいい天気だ。

 

大量のスピーダーや聳え立つ高層ビルによって多少遮られてはいるがそれすら通り越す程の太陽の光が照らされている。

 

そのせいか今日は多くの人が外に出ている気がする。

 

まあ気分的な感触なのだろうが。

 

「少佐!少佐ー!」

 

聴き慣れた美しい声が左の方から聞こえてくる。

 

ゼファントは振り返りベンチから腰を上げた。

 

誘った相手は知っての通りフィーナ・リースレイ少尉だった。

 

彼女も同じく青い軍服ではなくちゃんとした私服を着ていた。

 

そしてこれを説明するにあたってはゼファントの語彙力や今までの女性との経験不足でそれは不可能であった。

 

何せ今まで触れ合った女性といえば母フローネ、家のメイド、アカデミーでの友人くらいだ。

 

まず母親の私服なんてどれも当てにならないしメイドなんて四六時中同じ服装だ。

 

なんなら母も軍服姿の方が印象に深く残っている。

 

またアカデミーの友人たちも同様で私服を見る姿などほぼ皆無であった。

 

完全に機会がない訳ではないが彼は服装といったものにあまり頓着がないのでよく見てこなかった。

 

とにかく軍人になる事と友人を大切にする事がメインであまり恋愛面でも強くはない。

 

他人のそれこれは分かるが彼自身に向けられるそう言った好意はよく分からなかった。

 

こんな形でも顔が良く人が良く能力があるのでモテるのだからずるいものだ。

 

結果ゼファントには女性に対する、特に服装に対する経験値が圧倒的に不足しており故に感想もなかなか出て来なかった。

 

「えっと…似合ってる…と思う…よ?」

 

あまりに辿々しすぎる。

 

戦術や戦闘の若き天才がこんなにも女性に疎いと知ったら民衆は、彼を尊敬し始めた人達はどんな目で見ることやら。

 

少なくともアカデミーの親友達は「なんだいつものことか」で済ますだろうが。

 

ただ目の前の少尉はその事について薄々気づいていたらしく苦笑を漏らした。

 

「全く…たまには私のわがままにも付き合ってもらいますからね?」

 

「えっ?ああいいとも。誘ったのは私だしね、でどこの行きたい?」

 

「まずは…」

 

側から見たら2人は完全にカップルだ。

 

しかし一部の内側の者からすればそうではない。

 

片方は相手を“()()()()”、片方はそんな彼女を“()()()()”にいたのだった。

 

 

 

 

 

 

同時刻のジェダイ聖堂。

 

ついこないだ敵前哨基地襲撃の功労者であるサヴァントはようやく退院していた。

 

傷をバクタや包帯で治したとはいえ重症には変わりなくすぐ病院に搬送された。

 

完全に崩落した瓦礫に埋もれ重傷を負いながらも戦ったらそうなる。

 

しかし強靭なジェダイ・ナイトの肉体としっかりとした設備の医療技術で数週間もかからず退院したのだ。

 

「はぁ……今頃ゼファントはうまくやってるかなぁ…」

 

別の場所である種の戦いをしているゼファントの事を思いサヴァントは何故か苦笑を漏らした。

 

なんとなくある面では不器用そうな人間だ。

 

久しぶりのジェダイ聖堂は居心地がいい。

 

彼はようやく自由に歩ける足で聖堂内のアーカイブを目指していた。

 

ドアが開き懐かしい場所に足を踏み入れる。

 

何千何万以上、銀河一とも誇れる程の資料が残されているこの場所こそ“ジェダイ・アーカイブ”だ。

 

幼い頃何度も通い詰めあの伝記を読んだ思い出の場所。

 

むしろ第二の我が家といったところだ。

 

最近は任務などが重なり訪れる回数は減っていたがそれでも思入れは変わっていない。

 

「えっと、革命戦時の資料は」

 

「アーカニアン革命の事ですか?」

 

ふと後ろから声が聞こえた。

 

サヴァントが振り返ると懐かしい姿がそこにあった。

 

「マスター・ヌー!お久しぶりです」

 

サヴァントは一礼する。

 

優しそうなジェダイ・マスターでこのアーカイブの主任司書である“ジョカスタ・ヌー”は微笑んだ。

 

昔からアーカイブに通っていたサヴァントにとっては馴染みの人物だ。

 

「お久しぶり、それでアーカニアン革命の資料をお探しですか?」

 

「ええ、おっしゃる通りです。ちょっと色々ありましてね」

 

サヴァントは笑って誤魔化した。

 

もしこれがジェダイとは関係のないゼファントの指示だと知ったらいい顔はされないだろうから。

 

軍人とは嫌われるのも込みで仕事なのだとゼファントは言っていたっけな。

 

ジュディシアルとジェダイは深い繋がりがあるがそれでもどこかジェダイの方が立場的に上というのは否めない。

 

それがある種共和国の軍事の伝統なのだろう。

 

何万年も前から軍事はジェダイが司る事が多かった。

 

「それならちょうどこの通りの一番端にあります。なんならマスター・ウィンドゥにも聞いてみては?」

 

「えっ何故です?」

 

「彼は確かアーカニアン革命に参戦していました。何か知っているはずですよ」

 

サヴァントは顎を撫でた。

 

確かに当事者に聞いてみるのはいい案かもしれないが今はやめておく事にした。

 

ひとまず主観的なものではなく客観的な情報の資料が欲しい。

 

「ありがとうございます。でもまずは資料から」

 

「わかりました、何か困った事があったならいつでも呼んでくださいね」

 

「わかりました」

 

サヴァントはまた一礼すると早速資料の方を探し始めた。

 

言われた通り確かにアーカニアン革命時の資料は通りの端にあった。

 

早速そのうちの一つを取り出す。

 

「さて…革命時のサイボーグリストと……」

 

サヴァントは早速手に取った資料を読み始めた。

 

(ゼファントは言っていた…怪しいのは生死不明の地上指揮官だと…)

 

サヴァントはゼファントの言葉を振り返り資料を読み取る。

 

そのほとんどが死亡と記録がつけられているがたった一つだけ“()()”と書かれているものがあった。

 

その名は“G()C()-()0()9()”…“()()()()()”。

 

やはりゼファントの読みは正しかったのかもしれない。

 

奴はまだ生きていてこのコルサントのどこかに潜んでいるのだ。

 

コルサントの暗闇だらけの大地に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やはり生き物に高い知能がある以上よっぽどの事がない限り衣服は纏うものだ。

 

いつしかそれは必需品から娯楽へと変わっていく。

 

娯楽はまたいつしか芸術や伝統へと受け継がれゆくのだ。

 

そして今ゼファントはそんな娯楽に付き合っていた。

 

「私服なんて私は数着しか持っていないからな…というか着る機会がない。後よく分からない」

 

独り言のようにゼファントは苦笑を浮かべた。

 

彼は今試着室の前の壁に寄りかかっていた。

 

「絶対覗かないでくださいね少佐」

 

室内からそんな声が聞こえた。

 

ゼファントもため息混じりにまた苦笑を浮かべて応える。

 

「当たり前だろぉ?こんな所でセクハラまがいなことしてなんの意味が…」

 

「できましたよ!」

 

カーテンが開きさっき選んだ服を着たフィーナ少尉が出てくる。

 

とても似合ってる。

 

いつもの制服姿とは違いとても愛らしく美しさが出ている。

 

しかしゼファントにはそれを表現する語彙力はなかった。

 

「どうですか…?」

 

「いいと思うよ、うんいいと思う」

 

「もうさっきから同じ感想ばっかり…」

 

「ごめんごめん、でも似合ってるよ」

 

「もう…フフ」

 

2人とも苦笑を浮かべ笑い合っていた。

 

たわいもない会話だったが一時の幸せを感じた。

 

一瞬だけこんな時間がもっと続けばいいのになと思ったがすぐに改める。

 

こんな時間を守る為に行動しているのだ。

 

まやかしではなく本当の意味でこんな時間を過ごして貰えるように。

 

「ありがとう…ございます」

 

フィーナ少尉は珍しく照れていた。

 

「そんな照れることないだろう?」

 

下手に照れられると誉めた本人も恥ずかしくなる。

 

2人は苦笑を浮かべあっていた。

 

「いえ、あまり私服を褒められた事なかったもので」

 

「全く…どれ私が払ってやろう」

 

「いえそんな!」

 

ゼファントは徐に財布を取り出し始めた。

 

階級の差もあってかフィーナ少尉は遠慮した。

 

「だから言っただろ?私が誘ったんだからこれくらい礼儀だって」

 

「…お気遣い感謝します…でも」

 

そこで一旦言葉は区切られた。

 

ゼファントは頭にハテナマークを浮かべた様な表情になる。

 

「いや…やっぱりなんでもありません」

 

ゼファントはあえて言葉にせず微笑で応える。

 

やはり“()()()()()()”のか。

 

ならまだ彼女はやり直せる。

 

人間が本来持っているものは善性なのか悪性なのか。

 

それは分からない。

 

が、今の彼女は間違いなく善性を残している。

 

そしてどこかで過ちを認めているなら…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コルサントの街を歩いているともう昼時になってしまった。

 

2人は近くのレストランで一旦食事を取る事にした。

 

この周辺のレストランは基本ハズレはないだろう。

 

アンダーワールドとかならともかくだが。

 

ゼファントはこの店の名物の料理を頼みフィーナ少尉はサンドイッチやサラダなどを頼んだ。

 

「やっぱりこう言う料理を食べちゃうと軍用レーションの生活には戻り辛くなるな。まあ、文句も言ってられないが」

 

日々の生活を皮肉りながらゼファントはこの料理を褒めた。

 

「確かに、そうですね」

 

少尉も微笑を浮かべている。

 

そこでゼファントは独り言のように彼女に言い放った。

 

「少尉もだいぶ感情豊かになって来たよね」

 

「えっ?」

 

少尉の手がそこで止まった。

 

恐らく同時に思考も停止したのだろう。

 

ゼファントはあえてそのまま続ける。

 

「最初にドレイヴン大佐の前で会った時は本当に無表情でどうなるかと思ったよ、ハハハ」

 

「そうでしたね…情報員はみんなこんな感じでは?」

 

「確かに、でも少なくとも私は今の少尉の方がいいと思うよ」

 

彼女を諭すように静かに微笑んだ。

 

この時ばかりは本当に優しい、聖人のような微笑みだ。

 

どこか人を惹き付けるような微粒子も含まれているような気がする。

 

「そうで…しょうか…」

 

「ああ、君は笑顔の方が似合ってるよ」

 

この時何故かはわからないがフィーナ少尉の“()()”が大きく揺らいだ。

 

始末する対象であるのにも関わらず彼女は躊躇いをいつも以上に覚える。

 

それが運命なのかはたまた理由があったのかはこの時の彼女には理解できなかった。

 

ただ“()()()”のような、恐怖や震えを感じる躊躇いがあった。

 

「少し用を足してくるよ、失礼」

 

ゼファントは席を立ち便所の方へ向かった。

 

そしてこの時彼女には大きなチャンスが訪れた。

 

「お待たせしました、ジョーガン・ティーです」

 

「そちらの席に」

 

彼女の手の向きから察し店員は静かにジョーガン・ティーをゼファント側のテーブルに置いた。

 

「ごゆっくりどうぞ」

 

定員は何も知らず去っていく。

 

暗殺用の毒を食後に到来する茶に含ませればゼファントは確実に死ぬ。

 

多少疑われるにしても任務は成功だ。

 

フィーナが使う毒は確実に殺せる上に突然の心臓発作による死と見分けがつかなくなる。

 

疑われても確証は掴めない。

 

しかも今ゼファントはいないのでこのジョーガン・ティーに毒を仕込むなど子供でも出来る。

 

そしてその毒は今フィーナの隠しポケットに入っている。

 

ジョーガン・ティーは余裕で彼女の手の届く距離内にある。

 

いつでも仕込める。

 

いつでも殺せる。

 

いつでも任務を終わらせられる。

 

いつでも…。

 

しかしいつでも殺せる手がこの時は動かなかった。

 

何故か彼女の手は動かなかった。

 

今まで命令を無視した事などあり得なかった。

 

それから彼女はしばらく動けなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

店を出た後2人はまたコルサントのオフィス街を散策していた。

 

特に予定もないがないならこれから適当に組み合わせれば良い。

 

まだ互いの利害は一致していないのだから。

 

近く売店で買った飲み物を飲みながら2人は歩いていた。

 

すると少尉が持っていたコムリンク付きのホロプロジェクターの着信音が鳴った。

 

「すいません少佐、情報部から」

 

「そうかい、私もまたトイレに行ってくるよ。飲みすぎたかな…」

 

「じゃああのビルの前で」

 

フィーナは指を差しゼファントも頷き了承した。

 

「わかった」

 

2人は一旦離れた。

 

フィーナは周囲を何回か見渡すと路地の方へ早歩きで向かった。

 

あまり人に聞かれたくないからだ。

 

彼女はまた人目が少ないことを確認するとホロプロジェクターを起動した。

 

「急になんです?」

 

『君に今すぐの任務を与える』

 

この時彼女は少し不思議に思っていた。

 

いつもなら指導者であるフェルシル本人が命令を直接出すのだが今回は副官格のフォンフからだった。

 

『ゼファント・ヴァントが我が主の正体に近づきつつある』

 

「ええ、実際もう…」

 

『そしてもう一つ、彼は我々の“()()”全てに気付いている恐れがある』

 

フィーナはその言葉に驚愕しある一面では納得していた。

 

情報の少ないこの段階で全ての元老院攻撃拠点や本拠点に気付けるなど不可能だ。

 

サヴァントも確かに前哨基地に気付いていたがあれは特殊な勘だ。

 

特殊能力などないはずのゼファントが気付けるなどやはり不可能である。

 

納得というのは彼の秀でた才能とまだ若いのにも関わらず経験や判断力が豊富だ。

 

そして彼は常に真実を“()()()()()”。

 

聞いた話によるとアーガニルの旗艦を機能停止にした時も周囲の士官達は誰も気付かなかったそうだ。

 

工作を行った兵でさえ一体何に使われるかすら最後まで知らなかったらしい。

 

彼はいつも矛盾した一面を持っている。

 

全てを曝け出しているようで仲間にすら何も見せていない。

 

誰かを確実に信頼しているがその上で誰にも重要な真実は伝えず最後の瞬間まで隠している。

 

やがては誰からも信頼されなくなりそうだがそこを彼は彼自身の性格やその独特の接し方でカバーしている。

 

真っ白な人間に見えてその実態は真っ黒。

 

無害に見えて一番の強敵。

 

そして本当にそんな彼を理解出来る者など誰だっていないのだ。

 

「私への任務は?」

 

フィーナはすぐに本題へ入った。

 

不用意なことは考えない方が任務に支障が出ない。

 

『暗殺は一旦中断し真意を確かめろ、恐らく奴の家にあるはずだ』

 

「わかりました、すぐ実行します」

 

『確か今奴と共にいるんだったな、悟られないよう頼むぞ』

 

フィーナは静かに頷き通信は切れた。

 

彼女はまた人目を気にしてから路地を出た。

 

まだゼファントは来ていない。

 

待ち合わせ伸びる前に立つと彼女は心と任務内容を整理した。

 

ひとまずゼファントを手にかける事は当分先になる。

 

それが良い事なのかはともかく心の底ではなぜか安堵を覚えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃サヴァントは資料をしっかりと読む為テーブルの方に移動していた。

 

若干大量の資料を真横に置いたせいで変な目で見られていたが。

 

しかし今の彼にはどうでもいい事だった。

 

とにかく重要なのは知る事と彼に伝える事だ。

 

それが何よりもこの一連の事件を解決する上で大切だ。

 

「フェルシル…革命軍のサイボーグ連隊を率い前線の衛星の基地を制圧…」

 

ここまではゼファントから聞いた話と同様だ。

 

問題はここからだった。

 

「その後ハリス・セルネアン少佐率いる大隊の奇襲を受け軌道上艦隊と時を同じく壊滅」

 

次の場面に移行するとそこにはとんでもない事が書かれていた。

 

「しかしサイボーグ軍をコントロールするメインコンピュータにはまだ“()()”の表記がなされていなかった…」

 

一瞬凍りつく。

 

死んでいなかった。

 

間違いなく確実に奴は生きている。

 

サヴァントは更に読み進めていった。

 

「同様にいくつかのサイボーグも同じ表記がなされていなかったがジェダイの鎮圧隊は機器の故障などを理由に捜索はしなかった……」

 

おいおい嘘だろ。

 

サヴァントはこの時ほんの少しだけ当時の鎮圧に出向いたジェダイ達に怒りを覚えた。

 

もし彼らがあの場でもしもを考えてそのサイボーグを捜索していれば今こんな事にはならなかったはずだ。

 

今頃こんなところでこんなことしなくていいしあんな大怪我を負わなくても良かった。

 

彼は大きなため息を吐いた。

 

しかしもはやどうしようもないのでそのまま文章を読んだ。

 

「また戦場にフェルシルと思われる肉片が散らばっていた事から死亡と断定した…サイボーグなんだから体の一部無くなってそりゃ平気だろ…まあ普通の人間もそうだが…」

 

皮肉と共にサヴァントは再びため息を吐いた。

 

恐らく敵の指揮官は十中八九フェルシルだろう。

 

しかし相手がわかったなら後はやる事は分かっている。

 

彼の特性を調べ戦術や戦いの数々を纏める。

 

それがゼファントに頼まれた事だ。

 

後一仕事とサヴァントは自分に喝を入れた。

 

後少し、この戦いの鍵を手に入れるまで後少しだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当に家来るのか…?まあ家って言っても帰る事は殆どないが…」

 

ゼファントは一応断りを入れた。

 

突然フィーナ少尉が彼の家に行きたいと言い出したのだ。

 

あまりに唐突だった為流石のゼファントでも困惑気味だった。

 

「良いんですよ、それにもっと情報部員としても話をしたいですし」

 

「そうか…なら何かご馳走するよ。一応料理の一つや二つくらいは作れる」

 

ゼファントは微笑みと共に彼女に進言した。

 

「ありがとうございます、お言葉に甘えて頂きますね」

 

自然と2人の口角は上がった。

 

しかし両者ともなんとなく感じ取っていた。

 

そこに哀愁が含まれてる事を…。

 

ゼファントが借りているジュディシアル・フォースの官舎は案外近かった。

 

地下鉄に乗り二駅も通り越せばすぐ近くの駅に辿り着けた。

 

この官舎は他にも多くの将兵やその家族が住んでいて静かではあったが暖かみを感じられた。

 

2人の家路までの会話はそっけなかったりしたがそれでも着々と信頼のようなものが見え始めていた。

 

否定したいだろうがこれは客観的な事実だった。

 

ゼファントは家の玄関の前に立つとコートのポケットにしまった家のキーを取り出した。

 

「お邪魔しますね」

 

フィーナ少尉は静かに家の中に入った。

 

ゼファントは一旦荷物を秋のある部屋に置いておくと早速台所の方へ向かった。

 

少尉は何かを“()()”ようにキョロキョロしていた。

 

「出来るまで適当にくつろいでおいてくれ、トイレとかはあっちにある」

 

ゼファントは指を差し方向を教えてくれた。

 

「じゃあ少し借りますね」

 

「おうさ、もしかしたら結構時間掛かるかもだから」

 

少尉は一礼するとリビングを出てトイレの方へ向かった。

 

しかし本当の目的地はそこではない。

 

彼女が探るのは彼の寝室か、書斎だ。

 

恐らく目的の情報はそのどちらかに隠されているのだろう。

 

トイレの隣にあるゼファントの書斎に忍び込んだ。

 

この家は小さく一階建てである為探す範囲が狭くて助かる。

 

彼女は密かに持ち歩いていた手袋を着け静かに奥へ奥へと進んでいく。

 

まだ彼が住んで1年とちょっとな為本棚はほとんど埋まっておらず机の上もかなり綺麗だった。

 

フィーナはゆっくりとまずは机の上から調べ始める。

 

タブレットや端末、重要時に直接サインする為のペンしかなかったが彼女はとにかく隈無く探した。

 

だがやはり机の上にはなかった。

 

元々期待はしていなかった為すぐに諦め今度は机の中を調べ始めた。

 

殆どの引き出しが鍵付きのものだったがゼファントはそう言ったものに一切手を付けていなかった。

 

その為驚くほど探索は素早く終わった。

 

中身は殆ど関係のない悪く言って仕舞えばガラクタばかりであった。

 

「どこにもない…じゃあやっぱりまだ掴んでいないという事…?」

 

そう言いながらフィーナは一箇所だけこの机に違和感を覚えた。

 

一つ引き出しが開かない。

 

いくら力を入れても開かないという事はもしかしたこの引き出しの中に…。

 

若干の期待を膨らませながら引き出しに触れようとした時。

 

「その引き出しには何も入ってないよ」

 

声と共にフィーナは思わず座り込み彼女が忍び込んできたドアの方を絶望の眼差しと共に見つめていた。

 

遂に見つかってしまった。

 

彼は変わらない表情のままドアの前に立っていた。

 

何一つ変わらずまるで知っていたかのように。

 

そうか…やっぱりこの人は…。

 

絶望感と謎の納得がこの時のフィーナの心に襲いかかった。

 

「言ったじゃないか。君は笑顔の方が似合うって、ね?少尉」

 

ゼファントは全てを知ろうとし知った上でも彼女を受け入れるつもりだった。

 

それが上に立つ者の務めであるからだ。

 

父や祖父や先祖達がきっとそうして来たように。

 

 

 

 

 

つづく

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