Fleet Admiral   作:Eitoku Inobe

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襲撃

-覚悟-

 

夜。

 

恒星の輝きが一時的に隠れ辺りは真っ暗闇になる。

 

ハンバリンは工業都市であり都市区画は夜でも昼間のように明るかった。

 

だが基本夜になったら仕事を切り上げ家に帰るのが基本だ。

 

人々は昼間働いた金を遊興費や家族の為に使い1日をまた一つ終えるのだ。

 

都市部から遠く離れたヴァント家の邸宅でも同様で1日についた体の汚れを落とし寝静まろうとしていた。

 

がそれを許さぬ者達もいる。

 

邸宅を武装し顔をマスクで覆った男達が包囲している。

 

その部隊の隊長たる男はスイッチを押し持ち込んだ特殊なバトル・ドロイドを起動した。

 

少なくともこの手のドロイドは一般兵士並には戦える。

 

再び部隊長が合図を出す。

 

攻撃の合図だ。

 

 

 

 

その一報を聞いたのはゼファントを風呂に入れ今にも彼を寝かし付けようとする瞬間だった。

 

ゼントが異変に気付く。

 

「騒がしいな…」

 

カーテンを開き外を見る。

 

そこには異様な光景が広がっていた。

 

ゼントは悟る。

 

すぐさまカーテンを閉め妻と子を隠す。

 

「隠れろ、包囲されてる」

 

「えっ!?」

 

フローネが驚く。

 

ゼントの表情は平静を保ったままだが内心大焦りだ。

 

今更感が半端ないがコムリンクが鳴り出す。

 

『ヴァント中将、正体不明の敵勢力の奇襲です!ただいま警備隊を展開し応戦しておりますがすぐ突破されます!』

 

警備隊長は悲鳴に似た声をあげた。

 

コムリンクからは銃声や爆発の音が聞こえた。

 

相手はセンサーをすり抜けこの家に奇襲をかけられる手練れだ。

 

一般の警備隊では苦戦は強いられるだろう。

 

「自動防衛システムを起動し一旦後退、屋敷内で応戦しつつ非戦闘員を逃すんだ」

 

『了解!!』

 

通信を切ると部屋に従者を率いたオルホールがドアを蹴破り室内に入る。

 

「ゼント様!!」

 

「大丈夫だ、それより非戦闘員とゼファントを頼む、後武装の用意も」

 

オルホールが静かに頷き従者達を行動させた。

 

「ではゼファント様は地下に、ゼント様とフローネ様は?」

 

「当然人ん家を荒らす奴らがどんな目に遭うか教えてやるさ」

 

「かしこまりました…では」

 

オルホールがいつもとは違う表情になる。

 

「かつての“()()()()()()()()()()()()()”の技の数々を披露しましょう」

 

ゼントもオルホールと同じくニヤリと悪い笑みを浮かべる。

 

だがオルホールと違うのは額から冷や汗が出ているということだ。

 

あの“()()()()()”とあだ名されし男が再び剣を取流ということはゼントにとってこれ以上に恐ろしい事はなかった。

 

 

 

 

「一旦後退!!後退しろ!!」

 

警備兵達が小火器を用いて応戦しながら後退する。

 

だが彼らの持つブラスター・ピストルの威力では我々が身に付けているアーマーに傷一つ付かない。

 

一方こちらの隊員の持つブラスター・ライフルは高火力で敵兵に当てれば確実にダメージを与えられる。

 

部隊長が合図を出し隊員達が前進する。

 

がそう簡単にこの邸宅は陥落しない。

 

「グハァッ!!」

 

草地から突如ブラスター・タレットが展開され隊員が数名斃れる。

 

一定の間隔を空けて起動するブラスター・タレットは弾幕射撃のようにブラスター弾をばら撒く。

 

隊員達は草むらに隠れると邸宅全体が巨大な偏向シールドにより覆われる。

 

偏向シールドにブラスター・タレット。

 

強力な防壁が完成してしまった。

 

しかし隊員達は諦めない。

 

再び隊長は合図を出す。

 

意図を汲み取った一部の隊員達が一斉に爆弾のような物を投げる。

 

投擲された物質は周辺に青白いスパークを生み出しタレットをいくつか無力化する。

 

投げ込まれた[イオン・グレネード]の効力は絶大だ。

 

隊員やドロイドが一斉に前進する。

 

この手のシールドはブラスター弾や爆破の衝撃を100%カットするがある程度弾速の遅い物であれば簡単に通してしまう。

 

その為隊員達は最も簡単にシールドを突破し屋敷へと侵入した。

 

だが第二の防壁が展開される。

 

屋敷内の至る所からブラスター・ライフルの銃口が現れ侵入者を迎撃する。

 

何名かの隊員とドロイドは弾丸を喰らい息絶えたが物陰に隠れた隊員やドロイド達はブラスター弾を掻い潜り応戦し始めた。

 

しかし装備が整い練度が高いのは襲撃者達の方だ。

 

このままでは少なからず死傷者が増えるだろう。

 

たまたま一部のジュディシアル・フォース隊員この屋敷に報告と警護の為残っていた為それでようやくまともな戦いにはなっている。

 

だがゼントには必勝の切り札があった。

 

引き金を引く敵の2人の隊員の首が宙を舞った。

 

血飛沫を出して倒れ二度と動かなくなった。

 

周囲の隊員が怖気ずく。

 

まるで攻撃が見えなかった。

 

何かが光る瞬間すでに2人の首は切れていた。

 

「おやおやそこのドロイドも狙ったはずが外してしまった…老いたな、私も」

 

自嘲するかのように正面玄関から現れる男はもう一本の剣を抜き構える。

 

隊員達はブラスター・ライフルを構え直す。

 

すると隊長がその老人を見て目を見開く。

 

「貴様…まさか“ジュディシアル・コマンドー”のオルホールか…!」

 

百戦錬磨と部下達から謳われた隊長が彼を見て驚く。

 

冷静な隊長が一瞬にして焦り始めた。

 

オルホールはニヤリと笑い剣を向ける。

 

「だとしたらどうなんだ?言っておくがすでに主の庭を荒らしあの方々の心を騒がせたお前達は生きて帰さんぞ?」

 

隊長の動揺に流石の部下達も不安に襲われる。

 

だがドロイドはそんな事知ったことではない。

 

備え付けのブラスターを構え今にでも発砲しようとする。

 

「久々に始めるとしようか、まだ腕は落ちていないかな?」

 

 

 

 

ゼファントは地下へ向かって必死に走った。

 

地下にはシェルターと作戦室が広がっており地下から別の地区へ移動する事も出来る。

 

とは言えあのベットがある部屋から地下までは相当の距離があり流石にゼファント1人では心配だということで2人ほど護衛がついてくれた。

 

1人はジュディシアル・フォースのクイン・ドラーヴェ伍長。

そしてもう1人は警備隊員でハンバリン防衛軍の[マチョフ・ゴラードン]兵曹長だ。

 

2人ともブラスター・ライフルを構えゼファントを守るように走る。

 

「大丈夫ですからね坊ちゃん!」

 

「俺たちがしっかりお守りしますよ!!」

 

荒い息を整えながらゼファントは頷く。

 

しかし時々流れ弾が窓ガラスを突き破り屋敷内へ侵入してくる。

 

その度に2人はゼファントを守るよう覆い被さりブラスター・ライフルで応戦する。

 

「大丈夫ですかい?」

 

ドラーヴェ伍長は優しく声をかける。

 

「うん…」

 

ゼファントが立ち上がり窓の外を見るとたまたま戦闘の様子が見えた。

 

驚愕の光景も。

 

彼が見た光景は到底信じられないものだ。

 

爺がオルホールが2本の剣を器用に扱い敵兵を斬り裂く。

 

ブラスター弾を軽々と避けまた2人ほど斬り殺す。

 

これほどまでに一方的で容赦のない戦いはなかった。

 

また1人また1人とオルホールとブレードの餌食になっていく。

 

完全に敵は逃げ腰だ。

 

そして敵が怯んだ所を窓から一斉射撃で敵兵を殲滅する。

 

ゼファントは当然する余地もなかったがこれがゼントの考えた作戦であった。

 

オルホールの遊撃により敵が膠着もしくは怯み切った所を集中射撃で各個撃破する。

 

実際効果は絶大だった。

 

既に襲撃者のほとんどは首のない死体になるか腹に弾を食らった死体になり転がるかのどちらかだ。

 

ドロイドも集中砲火に耐えきれず爆散しスクラップに成り果てる。

 

「こりゃひとまずこっちの勝ちだな…」

 

ゴラードンが不意に漏らす。

 

だが襲撃者達にはまだ一つ手があった。

 

「おいなんだ!?3体ほどドロイドがクソ速え!!」

 

ゴラードン兵曹長が叫ぶ。

 

デストロイ・モードを起動した3体のバトル・ドロイドが高速でブラスターの弾幕を掻い潜る。

 

そのまま真っ直ぐ屋敷の正面玄関を突破すると階段を上り始めた。

 

「まずい…こっちに向かっている…」

 

『ゴラードン、ドラーヴェそっちに敵が向かっているぞ!!』

 

コムリンクからも危機を伝える声が聞こえる。

 

2人は頷きブラスター・ライフルを構える。

 

「坊っちゃんはできる限り逃げといてください」

 

「えっでも!」

 

「早く!!いつか合流しますよ」

 

ゼファントは迷った。

 

恐らくここで彼らを置き去りにすれば助かる可能性は低いだろう。

 

だがここで逃げなければ自分も死ぬ。

 

彼が考えるよりも早く敵のバトル・ドロイドは階段を踏み込み現れた。

 

2人は険しい表情を作り出し引き金を引く。

 

何発かの弾丸は当たり腕を吹っ飛ばしたがまだ完璧に機能停止には至っていない。

 

3体のドロイドは格闘戦でゴラードンの腹部を強打しドラーヴェを壁に叩きつけた。

 

2人の護衛はあっけなく敗れた。

 

そのまま3体はゼファントに狙いを定める。

 

このままでは死んでしまう。

 

ドラーヴェもゴラードンも殺されてしまう。

 

そんなのは嫌だ。

 

彼は自分の死よりも自分を守ってくれた2人の死を怖がった。

 

殺させはしない。

 

その瞬間彼の覚悟は決まった。

 

青い瞳に力強い光が灯された。

 

表情を変え右足で思いっきり地面を蹴る。

 

危機を察知したドロイドはブラスター弾を放つがこの距離では当たるはずもなかった。

 

そのまま気絶したドラーヴェのブラスター・ライフルを掴み重く硬い引き金を引く。

 

当然だ。

 

その一発は人すら殺せるのだから。

 

放たれた一発はドロイドの脳天を貫き完全に機能を停止させた。

 

が代わりに物凄い反動がゼファントを襲った。

 

肩に衝撃が走り今にでも吹っ飛ばされそうになる。

 

だが彼は男だ。

 

なんとか堪え冷静に次の狙いを定める。

 

残りの力を振り絞りドロイドを狙い撃つ。

 

後は1体のみ。

 

しかしその1体も救援に来たゼントや警備兵達により始末された。

 

兵達が周囲の安全を確認し2人の安否を確かめる。

 

「大丈夫だ、気絶してる」

 

「ゼファント!!」

 

ゼントとフローネはブラスター・ライフルを持つ我が子を抱きしめた。

 

2人とも涙を流している。

 

「よかった無事で…本当に…」

 

「すまなかった父さんが不甲斐ないばかりに…」

 

あまりに強く抱きしめられるのでゼファントはちょっと苦しそうだ。

 

でも彼は不思議と笑みをこぼした。

 

恐怖からくる涙ではなく優しい笑みを。

 

 

 

「さあ吐け、なぜこの家を襲った」

 

オルホールは2本のバイブロソードを隊長の首に当てた。

 

部下も他の隊長も皆斬殺されており最後に彼だけが生き残った。

 

あれほど鮮やかな奇襲だったというのにまさかの返り討ちだ。

 

絶望を通り越して笑いが込み上げてくる。

 

「知らんな…」

 

残りの力を振り絞りそう答える。

 

オルホールにまた怒りが走る。

 

「私は今怒っている別に目の一つ潰したってなんとも思わない」

 

「フンッ…そうかい」

 

隊長はどこか笑っていた。

 

さて終わりにするか。

 

俺の部隊もこれで店じまいだ。

 

「俺は何も知らないし何も知らされていないぜ…」

 

隊長は最後にそう答えた。

 

それ以上は何も答えなかった。

 

口に含ませていた毒を飲み込み一瞬のうちに自殺したのだ。

 

結局この襲撃は一晩もかからずに鎮圧された。

 

謎をいくつか残して。

 

 

 

-知られざる側面-

襲撃の夜が明け朝日が登った。

 

ゼント達の勝利を祝うかのように登る朝日は屋敷を照らした。

 

屋敷の周りにはハンバリンの警察や防衛軍、ジュディシアル・フォースが集まり事件を捜査していた。

 

しかしほとんどの襲撃者が死亡した為彼らの生きた証言は得られず捜査は難航すると予測されていた。

 

「中将、今後の事も考えて御子息は安全な所へ避難させた方が宜しいのではないでしょうか?」

 

部下の1人がゼントに提案する。

 

ゼントはそれも考えはしたが首を縦に振った。

 

「あの子が納得しないだろう。それにあの子は自分のことは自分で守れる力がある」

 

ジュディシアルの軍服にコートを着たゼントは数時間前まで戦闘が行われていた庭へと踏み込む。

 

まだ流血が草木に飛び散っており戦闘の激しさを想像させた。

 

「それと…この捜査に“ジェダイ”も参加すると…」

 

ゼントの表情がガラリと変わった。

 

怒りや苛立ちに満ち溢れた顔で部下に近寄る。

 

頭に血が登りめじらしく我を忘れる。

 

「絶対に家には入れないぞ!!あの宗教信者どもは関係ないはずだ!!」

 

「いっいえ!!これはジェダイ評議会からの命令だと…」

 

部下が怯えて縮こまる。

 

しかしゼントの怒りは収まらない。

 

「あの連中が戦闘に介入するだけでも虫唾が走るのになんで家にまで入れなきゃならないんだ!!あんな連中は絶対に家に入れん!!」

 

「しっしかし…」

 

「入れるとしたら私は腹を切る!!いいか絶対に入れんぞ!!」

 

事情を知らない警察やハンバリン防衛軍の一部の者は唖然とした表情で見つめていた。

 

だがいくらそな表情で見つめられてもゼントの怒りは収まらない。

 

ある1人を除いて。

 

「父さん…?」

 

玄関からゼファントの声が聞こえた。

 

寝起きでまだパジャマ姿のままだ。

 

怒鳴り散らす父を見て彼は心配そうな目で見ていた。

 

実の息子にこんな目で見られたら流石のゼントの怒りも一旦は収まる。

 

「ごめんなぁゼファント、起こしちゃった?」

 

「うんうん、大丈夫だよ」

 

「そうか、父さんは仕事に行ってくるよ朝食を食べて早くお友達と遊んできなさい」

 

「うん…」

 

ゼントは微笑み彼の頭を撫でた。

 

すぐ立ち上がると部下に命令してゼントは宇宙へと上がった。

 

しかし息子の心配な目は無くなることはなかった。

 

 

 

 

「おーいアザフェル!!」

 

木の下で待つアザフェルはゼファントの声を聞き満面の笑みを漏らした。

 

彼の邸宅が何者かによって襲撃されたニュースはアザフェルの耳にも届いている。

 

心配していつもより早くこの場所に来ていたがどうやら無事なようだ。

 

「ごめんごめん遅くなっちゃって」

 

「いいよ、それより君の家が…」

 

「ああ…うん、色々あったよ」

 

苦笑いで受け流すゼファントの表情を見てアザフェルは彼が本当に無事な事を確信した。

 

いつも通り彼らはボードゲームをしながら話をし出した。

 

普段はたわいもない話だったが今日ばかりは違った。

 

「僕今日知ったんだ」

 

なんの脈絡もなくゼファントが話し出す。

 

アザフェルはただ耳を傾けていた。

 

「知らない事が沢山あった…僕は家族や一緒に過ごしている人のことすら知らない事があった」

 

彼の脳裏には剣を振るうオルホールの姿と“ジェダイ”という単語を聞いて怒る父の姿があった。

 

今までこんな姿見せたことはなかった。

 

ずっと父はともかくオルホールに至っては普通の執事だと思っていた。

 

だが違った。

 

2人とも自分の知らない一面があった。

 

いやそれも違う。

 

2人はあえてそんな姿を自分の為に隠していてくれたのだ。

 

「でもみんな僕を守る為だった…」

 

ゼファントはじっと空を見つめる。

 

アザフェルも彼の言葉一つ一つに頷く。

 

「だから僕はそんなみんなを守りたい、僕は軍人になるよ」

 

それは家訓の影響もあったがゼファントが下した幼く固い決断であった。

 

「軍人になってみんなを守る」

 

「それじゃあ僕もついていくよ」

 

「えっ?」

 

アザフェルの意外な一言にゼファントは首を傾げた。

 

「僕だってみんなを守りたいんだ」

 

 

 

ハンバリン防衛艦隊。

 

拠点である軌道上の基地にゼントは向かった。

 

この基地にはハンバリン防衛軍やジュディシアル・フォースの隊員など様々な部隊が駐留している。

 

ハンバリンは共和国にとっても重要な星だ。

 

それ相応の防衛力がある。

 

ゼントは基地の自室に向かい扉を開けた。

 

「おっどうやらまだくたばってないようですね。閣下」

 

ひょうきんな態度の男がゼントに声を掛ける。

 

あまり機嫌の良くないゼントはうんざりするような顔をした。

 

「もっと気の利いた言葉くらいかけてくれんのか?ウォルス」

 

ウォルス・スレイブ中佐は悪い笑みを浮かべた。

 

スレイブ家は代々ヴァント家の副官として使えている一族だ。

 

その為“スレイブ”の名の者は複数いて必ずヴァント家に使えている。

 

オルホールだってそうだ。

 

彼も先代のヴァント家当主に使えており優秀だったそうだ。

 

彼ウォルスも優秀ではあるがどこか掴み所なく面白い人物だとゼントは知覚する。

 

「まあ事件の方は迷宮入りでしょうな、調べた所あの部隊は傭兵隊で恐らくクライアントとは大した接点もないでしょうし」

 

「だろうな…服毒自殺するあたり筋金入りだとは見えるが」

 

ゼントは椅子に座りコンソールをタップした。

 

モニターが浮き上がり仕事に掛かる。

 

「それでぶっ壊したドロイドの方は?」

 

「今技術部の連中が調査中ですよ、なんでもあのドロイド全く見た事がないとか」

 

「ほーん」

 

ゼントは背もたれに寄りかかり少し考える。

 

「まあ十中八九今までヴァント家に敗れてきた者の仕業でしょうな」

 

「それ、数が多くて敵わん」

 

1000年近く市民の為に戦い続けてきたヴァント家の敵は多い。

 

言ってしまえば四方八方敵だらけだ。

 

ついこないだだってインナー・リムのギャング艦隊を蹴散らしてきたのだ。

 

「それかジェダイだったりして」

 

ウォルスがおちょくる。

 

「あり得るなむしろその線が一番濃厚だ」

 

冗談と分かっていてもあえてゼントは本気で捉えた。

 

相変わらず面白い関係だ。

 

そこでウォルスはいいニュースを吹き込む。

 

「そういえばハンバリンの防衛軍は一旦解体されてジュディシアル・フォースに併合されるそうですよ」

 

ゼントの表情が変わる。

 

だが予測されていたことのようにすぐ平常通りになった。

 

「そうかやっぱりか。まあ共和国もハンバリンに影響力を出したいだろうしこの惑星の予算ではあの軍を維持するのは難しいからな」

 

ゼントは的確に状況を認識する。

 

ウォルス中佐はまだ続ける。

 

「艦隊も併合されるそうですし、言っときますけどその初代艦隊司令長官は閣下ですよ?」

 

「はぁやっぱりか…」

 

「そのまま提督に昇進だそうです、確かにここら辺でまともに艦隊を動かせるのなんて閣下だけですが」

 

彼は鼻で笑う。

 

実際ゼントの艦隊運用は素晴らしいものだ。

 

「まさかその艦隊司令長官は世襲制じゃないだろうな?」

 

「ええまあ」

 

ゼントの注目する点はそこだった。

 

「ならいい…ゼファントまでこんな所の指揮を取る必要はないからな、彼はもっと上をいける」

 

「たとえば?」

 

ウォルス中佐が尋ねる。

 

ゼントは数秒の間隔もなく答えた。

 

「クリエム・ヴァントと同じく元帥になれるだろう」

 

「元帥は難しいんじゃないですかね?特にこんな平穏な時代に元帥なんて必要ないですし」

 

ウォルス中佐は否定的な意見を述べる。

 

がゼントはまだ息子を信じていた。

 

「いやどうかな、あと数十年経てば平穏も怪しい…私の予見では少なからず大戦争が起きるはずだ、きっとゼファントならそこで武勲

を立て共和国を勝利に導けるはずだ」

 

ゼントの表情は輝いていた。

 

彼は一瞬のうちに未来を見通し息子の躍進を確信していた。

 

 

 

荒れた庭を手入れするのも執事の務めだ。

 

破片や気味を片付け花々を植え直す。

 

オルホールの表情はどこか優しくどこか悲しかった。

 

久しぶりに彼は剣を振るった。

 

もう剣を振るうことには罪悪感はない。

 

ただゼファントを守りきれなかった事、危機を与えてしまった事に対しては罪の意識を感じる。

 

ゼファントは何度も気にしないでとは言ったがやはり執事として己が許せない。

 

悔やんでも仕方ないと清算した時彼の子が聞こえた。

 

「爺ただいまー!」

 

ゼファントの声だ。

 

「お帰りなさいませゼファント様」

 

オルホールは立ち上がり頭を下げる。

 

ゼファントは少し立ち止まってからオルホールに想いをぶつけた。

 

「爺は僕たちのために戦ってくれたんだよね…」

 

その瞬間オルホールはハッとする。

 

まさか見られていたのか。

 

だからなんだという気持ちの方が大きかったが少なからず彼に自分の見せたくない一面を見られてしまった感触は拭いきれない。

 

嫌われたな。

 

当然だろう、あれだけの人を斬殺したのだから。

 

しかしゼファントから放たれた言葉は意外性を極めた。

 

「ありがとう、僕たちを守ってくれて」

 

いつも通りの笑みを向けオルホールに礼を述べる。

 

純粋だからこそその感謝の言葉は躊躇いもなく出てきた。

 

きっともう少し歳を取っていたら少し変わっていただろう。

 

オルホールは唖然としていたがすぐに気を取り戻し暖かい笑みをこぼす。

 

オルホールには笑顔が似合うとこの時ゼファントは思っていた。

 

「でも大丈夫、僕がいつかみんなを守る」

 

ゼファントは彼の目をしっかり見て言う。

 

「僕がいつか大人になってみんなを守るよ」

 

少年の決意は固かった。

 

一晩のうちに別人のように成長している。

 

長いい間彼のお守りをしていたオルホールにとっては涙が出そうになる程喜ばしかった。

 

「頼みましたよ…ゼファント様」

 

ゼファントがにっこり微笑む。

 

これが彼の出発点。

“ゼファント・ヴァント上級元帥”の出立点である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2人はペラペラと記録書を捲りヴァント家の歴史を学び直す。

 

戦略やその当時の当主の様子などが事細かに記されてあった。

 

当然現当主の記録も。

 

「へぇ父さん昔そんな事があったんだ」

 

息子は記録書を読みながら声を上げる。

 

「ねえお兄様?いいんですの?こんなことして…お父様に怒られるんじゃ…」

 

「いいんだよ別に、だいだい息子が父の事ちょっとくらい知ってたって何の問題もないだろう?」

 

息子はそう彼女に言い聞かせるとまた記録書を読み出す。

 

「ええ16歳の時にアカデミーに入学して4年間軍学に励む…父さんの学生時代か」

 

「かなり早くに入学したんですね」

 

「まあ家は軍族だからね、私なんて15の頃にはもう戦場にいたし…」

 

彼は苦笑いを浮かべる。

 

彼女もそれ知っているのか同情するように苦笑いを浮かべていた。

 

「さてじゃあ読んでいこうか、父さんの昔を」

 

彼の息子“エルト・ヴァント”上級特佐ページをまた捲った。

 

艦娘の“スペクテイター”を連れて。

 

つづく




取り敢えず3話は置いておく(唐突)

そういやわしの誕生日ってフランス革命の頃らしいんすよ(唐突)
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