Fleet Admiral   作:Eitoku Inobe

4 / 19
卒業の日

最終試験

 

あれから数年が過ぎついにゼファント達は卒業の時期に差し迫っていた。

 

だがあのゼファントが卒業間際になって焦る筈もなくいつも通り過ごしていた。

 

しかしそうでない者が大半だ。

 

ここまで退学処分の烙印を押されなかったが最終試験で失点すればどんな僻地へ飛ばされるかわからない。

 

「最終試験ってどんなもんなんだろうな?」

 

アザフェルがオークストルシチューを口に含みながら話す。

 

アカデミーでの最終試験はその年によって変わる事が多い。

 

当然候補生達には見当も付かなかった。

 

「去年の先輩達は1人ずつ戦略シュミレーションをやらされたって言ってたけど」

 

ゼネークトはパンを齧りながら先輩達の話を持ち出す。

 

「今年も模擬戦だろうな。とりあえず戦術の見直しとかをしておいた方がいい」

 

「模擬戦かぁ…まさかとは思うけどお前達と戦うって事はないよな?」

 

「可能性はない事はないが」

 

ゼファントは取り敢えず答える。

 

実際ドロイドやコンピューターとの模擬戦よりも生身の人間と模擬戦を重ねた方が得るものもある。

 

むしろそちらの方が両者にとってより現実的で生々しい感覚を味わえるだろう。

 

「嘘だろ…僕の実力じゃゼネークトとは互角だしゼファントには勝てるかどうかも怪しいからなぁ」

 

「おっ待て、なんで俺がお前と互角なんだ」

 

あくまでお前には負けてないぞとゼネークトは念を押した。

 

「それに最終試験前からそんなこと言っててどうすんだよ。敵に勝てないからって戦場でも音を上げるのか?」

 

「まあそうだけれども…」

 

ゼファントに諭されアザフェルが言葉を失う。

 

これも強者の余裕というべきなのか。

 

「おやおやアザフェル様には俺たちのこと眼中にないってか」

 

突如後ろから声が聞こえる。

 

ヴァンガロだ。

 

あれから数年経った今でも彼の嫌味な物言いは変わらない。

 

ヴァンガロも決して完全な能無しなわけではない。

 

だがそれ以上に性格が悪く他者から嫌われる言動が目立つ。

 

何より自分の能力を分かっているのか他者を見下し自分に自惚れる傾向があった。

 

「いや…そんな事はないけども」

 

適当に返すアザフェルにヴァンガロはさらに続ける。

 

はっきり言って彼と付き合うのは面倒くさい。

 

それにゼファントはともかくアザフェルに対してヴァンガロは必要以上に強く当たった。

 

「模擬戦ってのはだいたい当たってるだろうな。覚えとけよアザフェル、必ずお前を倒す」

 

いつも通りヴァンガロはアザフェルを敵視した。

 

ゼファントとゼネークトはその光景を見慣れ過ぎて苦笑も浮かび上がらない。

 

「はいはい…全く卒業間際だってのになんだアイツは」

 

てくてくと去っていくヴァンガロの一行を見つめながらアザフェルはため息を吐いた。

 

その様子を見ながらゼファントは誰とも目を合わせず独り言のように呟いた。

 

「諦めるんだなアザフェル、人はそう簡単には変わらないさ」

 

 

 

 

数日後最終試験の内容が発表された。

 

彼らの予見した通り試験の内容は模擬戦であった。

 

しかし内容は想像を絶するものだった。

 

数名の候補生でチームを編成し艦隊を組み別チームと戦う。

 

つまり団体戦だ。

 

今までの最終試験はほとんどが個々での戦いだったが今年はどうも違うようだ。

 

そしてチームの振り分けと対戦の相手が発表された。

 

運が良いのかなんのか知らないが同室の3人は同じチームであった。

 

そして対戦相手は…

 

「嘘だろ…あのヴァンガロかよ」

 

「可哀そうにアザフェル、これでお前はさらにアイツの目の敵にされる」

 

「なんで僕だけ可哀そうなんだよ!ゼファントもゼネークトも一緒に戦うんだぞ!」

 

ゼネークトが彼の肩を優しく叩く。

 

そしてゼファントも彼の肩を叩いた。

 

ゼネークトは「俺は違う」と、ゼファントは「諦めろ」と表情で訴えていた。

 

アザフェルはなんともいえない表情だった。

 

「で僕たちは同じチームだが…」

 

「ええそう見たいね!」

 

「うわっ!リエス!?」

 

リエスが近づきいつも通り笑みを浮かべる。

 

ゼファントが前言った通り人は良い意味でも悪い意味でも簡単には変わらない。

 

それはヴァンガロの嫌味な部分もそうだしリエスのこう言った人柄の良さもそうだった。

 

変わることが何もいい事とは限らない。

 

「ほらよく見て私たち同じチームでしょ?」

 

「ちょっ当たって…」

 

照れ全く人の話を聞いていないアザフェルにリエスはさらに話をする。

 

「貴方達がいるなら私も負けはしないわね」

 

主にゼファントの方を見ながらリエスは余裕そうな表情を浮かべていた。

 

「言ってくれる…この編成だと私が戦術を考えることになるんだが…」

 

ゼファントが苦笑いした。

 

アザフェルもゼネークトも艦隊を率いる才能は十二分にあるが戦術を考えるレパートリーはゼファントの方が上だ。

 

また彼の人望や人物像から言っても十分指揮官としての才能がある。

 

後の2人もない訳ではないのだがゼファントと比べるとまだ成長途中といった感じだ。

 

となると必然的に全艦を率いるのも作戦を立案するのもゼファントとなる。

 

「大丈夫、貴方の指揮なら必ずみんなを勝利に導けるわ」

 

リエスが彼を落ち着かせる。

 

「そうかい、負けないように編成は考えておくよ」

 

「おーいアザフェルいくぞー?」

 

赤面し固まるアザフェルをゼネークトは引っ張る。

 

ようやく我に帰ったアザフェルはリエスに手を振りひとまず別れを告げた。

 

 

 

数日後振り分けられたチームはそれぞれ集まり作戦を話し合う機会が設けられた。

 

流石に作戦もミーティングもなしに候補生達に「艦隊を作って戦え!」などとは無理な話だ。

 

各チームがそれぞれ作戦を練り相手のチームを打ちまかそうと必死になっていた。

 

それはゼファント達のチームも一緒だった。

 

彼らは今ゼファントが考えた戦術を聞いていた。

 

「ってこの作戦は…」

 

するとリエスが思わず絶句する。

 

「ああ…無茶苦茶だ…」

 

アザフェルも苦笑を禁じ得ない。

 

「これ本当にやるつもりなのか…?何か悪いものでも食べたのか…?」

 

ゼネークトも半信半疑であった。

 

他の候補生達に至っては口を開けたまま動かない。

 

それだけゼファントの持って来た作戦が酷いものなのだ。

 

「だがこれが上手くいけばこちらの損害はほぼ0で敵艦隊を殲滅できる。シュミレーションで生み出される物体は基本的に実物と同様と捉えてもらって構わないそうだからな」

 

「それはそうだが…」

 

「敵はヴァンガロだ、少なくとも艦隊運用では優秀…ならばこの作戦が有効だと思うのだが」

 

候補生達は顔を見合わせる。

 

どうするかと隣の相手の顔色を伺っていた。

 

みんな判断しかねている。

 

するとアザフェルは少し目を瞑り顔を叩く。

 

決意の表だ。

 

「僕は賛成だ、少し突拍子もない方がいいじゃないか」

 

「確かに」

 

ゼネークトが笑声を立てる。

 

同室の2人の絆は相当硬いものだ。

 

「私も賛成するわ。確かにこれが一番効率的だと思う」

 

リエスも賛成し他の候補生達も頷きあう。

 

どうやら作戦は決まったようだ。

 

ならば後は微調整するまで。

 

候補生達は勝利を確信し次なる戦いに心を羽ばたかせていた。

 

 

 

 

初めての艦隊戦

艦隊戦というのはその艦隊の練度と指揮能力が求められてくる。

 

例えばいくら大軍であろうとも指揮官が無能であれば宝の持ち腐れだし、敗残兵の集まりであっても指揮官が優秀ならば強力な者になる。

 

また上官と部下の信頼も重要だ。

 

指揮官が優秀であっても部下達が上官を信じず全力を出さなければ勝てる戦も勝てなくなる。

 

繊細だが一度絆や練度が強固になった艦隊ほど恐ろしい。

 

大軍すら打ち破り挙げ句の果てには国家一つすら滅亡に追いやる事も可能だ。

 

逆に大敗してしまえば市民の不安感を煽り軍の弱体化の原因になってしまう。

 

そして勝利した者は英雄となり敗者は愚か者として1,000年に亘り愚行が語り継がれる。

 

今日の試験は彼らにそのような素質があるかが試されるのだ。

 

 

 

 

「それじゃあ各員頼んだぞ」

 

『おーけー』

 

『任せとけ』

 

アザフェルとゼネークトが不敵な笑みを浮かべた。

 

彼らには分艦隊を率いるという役が課せられている。

 

にもかかわらずその不敵な表情は変わらない。

 

この作戦は敵艦隊を殲滅するか先に降参させたものの勝ちとなる。

 

その為基本は真正面からの艦隊砲撃戦となり相当の激戦が予想されるだろう。

 

与えられる戦力は

 

アクラメイター級軽アサルト・シップ三隻。

 

CR70コルベット六隻。

 

カンセラー級スペース・クルーザー九隻。

 

スフィルナ級コルベット十二隻。

 

これをどう活かすかが重要だ。

 

すでに試験は始まっており多くの候補生が勝利を喜んだり敗北を受けて意気消沈している。

 

「それでリエス、例の部隊はどうだ?」

 

『ほぼほぼ成功よ。後は私達が例の場所に誘い込めばこっちの勝ちだわ』

 

ゼファントは顎を触りながら考える。

 

そしてついに命令を出した。

 

「よし全艦ポイントF-2に移行」

 

シュミレーション場のジュディシアル艦隊が進軍する。

 

慣れない手つきで同じ候補生達がブリッジを操作していた。

 

「ゼファント…ほんとにこんな作戦成功するのか?」

 

副官役のパエリア候補生が心配そうな表情で見つめてきた。

 

他の候補生達も大なり小なり同じ思いだろう。

 

しかしゼファントは優しい目つきで彼を宥めた。

 

「私が失敗したことあったか?」

 

「なかったが…今回ばかりは不安だ…」

 

「心配すんな、死にはしないよ」

 

その言葉にパエリアは苦笑し再び職務に戻る。

 

確かに死にはしないが艦に伝わる衝撃は本物に限りなく近い。

 

それに自分の今後が懸かってくるとなれば緊張もするだろう。

 

「正面に艦隊発見!識別番号確認…ヴァンガロ艦隊!!」

 

ゼファントとパエリアがブリッジを見る。

 

突撃隊形で進み続けるジュディシアルの艦隊があった。

 

候補生の報告通りヴァンガロの艦隊だ。

 

敵艦は既に主砲をこちらに向け攻撃体制に移っている。

 

どうやら戦闘が始まるようだ。

 

 

 

「そろそろゼファント艦隊とパエリア艦隊の衝突ですな」

 

メガネをあげガコン少佐がモニターを見つめドリンクに手をつけた。

 

暑くはないが少し緊張しており喉が渇いてしまったからだ。

 

教官一同の目線が皆モニターに集められる。

 

特にゼファントの戦いとなれば尚更だ。

 

この模擬戦で勝利すればゼファントは文句なしの主席卒業となる。

 

それと同時に尉官最高級の地位と共にジュディシアル・フォースの士官となるのだ。

 

「相手はヴァンガロ候補生か…とりあえず勝率はゼファントが70%と言ったところだろう」

 

ギーリス教官が冷静に状況を指摘する。

 

別にゼファントに肩入れしてるからの勝率ではない。

 

それほどあの化け物じみた候補生と一般の優秀な候補生では差が出るのだ。

 

実はゼファントは人ではなく戦術論を叩き込まれたサイボーグのが教官達の専らの噂だった。

 

尤も実際は“()()()()()”なのだが。

 

「ええ…ですがこの戦術」

 

ガコン少佐が困惑しながらタブレットを見せた。

 

「それはもはや戦術ではない、“奇術”だよ…だがあいつなら成功させるだろう」

 

ギーリス教官が苦笑を浮かべた。

 

ガコン少佐も思わずメガネを挙げギーリス教官に同情する。

 

他の教官達に至ってはこの作戦が成功するとは誰も思っていないらしい。

 

「というか良いんですかこんな作戦?ヴァンガロのことだから反則とか言い出しますよ?」

 

ガコン少佐がタブレットを見せながら危惧を訴える。

 

「規定に書いてないし良いだろう別に。それにそこまで頭が回らないヴァンガロが悪い…もっともこれは意地悪すぎるがな」

 

「全くですよ…」

 

ガコン少佐が溜息をつく。

 

「戦場では柔軟な発想力と対応力が必要になる。これが成功すればその点においてはゼファントは満点だ」

 

あえて理由をつけゼファントの肩を取り持った。

 

「さてゼファントはどの位の損耗率で終えられるかな」

 

ギーリス教官は再びモニターに目を向けた。

 

 

 

ヴァンガロの堪忍袋は徐々に限界を迎え始めた。

 

敵は何をしようとしているのかは知らないがスフィルナ級が六隻ほど少ない。

 

たかが小型コルベットの数が少ないのはどうでも良いが相手の数が少ないのにも関わらずこちらが劣勢だ。

 

しかも敵は旗艦や主力艦に見向きもせずコルベットや護衛艦ばかり狙う。

 

こちらは集中的に敵の旗艦を狙い早期の終結を狙っているのだが中々上手くいかなかった。

 

おかしいではないか。

 

ヴァンガロの口調も段々と荒々しいものになって行く。

 

「全火力を旗艦クルーザーに集中しろ!!」

 

「だがコルベットは…」

 

「良いから急げ!!連中の指揮系統さえ崩れれば此方にも勝機は…」

 

僚艦のCR70が一隻小破する。

 

これで艦種は問わず小破する艦は五隻目だ。

 

未だに敵は一隻も小破していない。

 

どんな戦法かは知らんがその事実がヴァンガロの自尊心を大きく傷つけた。

 

早く反撃し討ち滅ぼさなければ彼の気が済まない。

 

「ゼファントめ…とにかく全艦火力を上げるんだ!!」

 

シールドに回されるエネルギーが次々と主砲に回される。

 

攻撃力は大幅に上がったがその分防御力は下がった。

 

当然その影響を見逃すゼファントではなく敵のアクラメイター級から強力な一撃が放たれた。

 

敵艦の砲撃をもろに受け爆発は広がりついに耐えられなくなる艦が現れた。

 

「第三分艦隊スフィルナ級二隻撃沈!」

 

「第二分艦隊カンセラー級一隻撃沈!」

 

「我が本艦隊もカンセラー級二隻とCR70一隻撃沈!」

 

「バカな…」

 

あっという間に大打撃を受けてしまった。

 

当然主力艦が撃沈されていない為まだ巻き返しの機会はあるがそれでも痛手には変わりない。

 

「防御陣形を取ろう!今ならまだ間に合う!」

 

「馬鹿を言うな!!主力艦がたかがコルベットの盾となるなどおかしいではないか!!」

 

「だが損害が!!」

 

「まだ間に合う…指揮官のゼファントさえ討てば!!」

 

「敵艦隊艦載機を発艦!!」

 

2人の口論は通信役の候補生により遮られた。

 

敵は艦載機のV-10トレント・スターファイターを発艦させた。

 

「たかが艦載機など…此方の同様に艦載機を出して応戦を!!」

 

同様にV-10を発艦させるが一足遅かった。

 

先行した1機がイオン魚雷を発射し格納庫が開かなくなったのだ。

 

これにより三隻から発進するはずだったヴァンガロ艦隊の艦載機は2個中隊しか発艦できずスターファイター戦は劣勢を極めた。

 

性能差を数でカバーされ友軍中隊の損害が益々広がった。

 

「全艦で対空防御!」

 

「ダメだ!損耗艦が多すぎて対空網が薄すぎる!!」

 

ヴァンガロが舌打ちをする。

 

まさかクルーザーではなくコルベットや附属艦を狙っていたのはこのための布石とは。

 

破壊される遊軍艦を見つめながらヴァンガロは苦虫を噛み潰す。

 

「残った艦で迎撃を!!」

 

「七時の方向より敵艦隊!」

 

バカな。

 

敵は今正面にいるはずなのに。

 

まさか別働隊が。

 

いやたかだがスフィルナ級で何ができるものか。

 

あんな古ぼけたコルベットに出来る事などせいぜい対空防御くらいだ。

 

艦隊戦の雌雄を決する事など不可能なはずだ。

 

「…っ…!ですがこれは…」

 

ブリッジ士官役の候補生は絶句した。

 

ヴァンガロは早く答えろと怒鳴り散らす。

 

「敵艦隊小惑星を縦にしてまっすぐ向かってきます!!」

 

「何!?」

 

ヴァンガロがブリッジで驚いている頃ゼファントはいつも通りのポーカーフェイスで状況を見つめていた。

 

敵の魂胆が丸わかり過ぎてある種つまらなく感じていた。

 

旗艦や主力のクルーザーばかりにに砲火を集め指揮系統を乱そうとしている。

 

戦いの雌雄を決するのは主力クルーザーや大火力を持つ艦だとヴァンガロは思っているようだ。

 

昔はそういう時代もあったしもしかしたらこれからそういう時代が来るのだろう。

 

だが今は違う。

 

巨大なクルーザーであろうと戦術や兵器を組み合わせれば打ち破る事すら出来る。

 

自軍の戦力と同じくらいの敵艦隊だって同様だ。

 

少なくともそれがこのジュディシアル・アカデミーでゼファントが学んだ事だ。

 

そしてこの一手で全てが決まる。

 

そうすればほぼ確実に此方の勝ちだ。

 

だからこそ最後の一手を確実に決めなければ。

 

「ゼファント、いつでも行けるそうだ」

 

パエリアが報告する。

 

「よし攻撃開始」

 

六隻のスフィルナ級がエンジンを全開にし進撃した。

 

敵のアクラメイター級は必死に小惑星を攻撃するがこの時代の艦砲ではあれほど大型の小惑星を砕くことなど不可能だ。

 

最大船速で回避しようとするがそれはほぼ不可能だった。

 

ついには小惑星とアクラメイター級が衝突する。

 

艦の走行は剥げスパークと爆発を起こした。

 

ブリッジが抉られ押し潰される。

 

ペシャンコに拉たブリッジの残骸が艦体と衝突しさらに爆発を連鎖的に起こした。

 

小惑星を付けたスフィルナ級はそのまま進み次々と敵艦を巻き込み破壊していった。

 

あまりに一方的過ぎて同情の心すら湧いてくる。

 

「うわぁ…あんな風にはなりたくないね」

 

ゼファントが冗談まじりに言い放つ。

 

もし実際の戦場だったらあの艦にいる者達の絶望感は半端なものではないだろう。

 

どうしようもない敗北と死が間近に迫っているのだから。

 

「よく言うよ自分で考えついたくせに」

 

パエリアは突っ込みゼファントは微笑をこぼす。

 

その微笑はどこかこんな非道な事を思い付く自分を恨んでいるようだった。

 

そうこうしているとついにヴァンガロ艦隊の残存軍から降伏の申し出が出出た。

 

すぐに了承すると戦闘シュミレーションが停止しゼファントの勝利のまま幕を閉じる。

 

彼はホッと一息つく。

 

初めての艦隊戦はこうして勝利に終わったのだ。

 

 

 

「候補生ナンバーA-024ゼファント・ヴァント」

 

「はっ!」

 

彼の名前が呼ばれ一歩前に出る。

 

校長とギーリス教官が壇上に立っており微笑を浮かべていた。

 

今日は卒業式だ。

 

当然のようにゼントとフローネは来賓席に堂々と座っていた。

 

ゼファントには見えなかったがオルホールは端っこの席で一人涙を流していた。

 

「貴官の卒業をここに認め証書とジュディシアル・フォース“大尉”の称号を授けるものである」

 

候補生や来賓、保護者問わずあたりにざわめきが走った。

 

基本卒業しても得られる階級は中尉が最高のはずだ。

 

しかしゼファントは異例の大尉であった。

 

皆驚きを隠し得ないであろう。

 

静かに証書と階級章を受け取り頭を下げる。

 

軍人ゼファント・ヴァント大尉はこうして誕生したのであった。

 

と同時に彼を戦場へと呼ぶ声が遠くから聞こえ始めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

ヴァント特佐は記録書を読みながら時折笑いをこぼす。

 

特に面白い場面はないのだが父親の過去というのは意外に笑みが溢れるものだ。

 

「大尉ねぇ…全く私はアカデミーを一応まだ卒業できていないのに」

 

「良いじゃないですか、その分お兄様は経験を積まれているんですし」

 

スペクテイターがそう慰める。

 

「それに昇進のスピードはお兄様の方が早いですわ、19の時には既に少佐でいらしてましたし」

 

「まあそうだけれども…はあいいや次を読もう」

 

昇進話をされるとどうにも嬉しい気分にはなれない。

 

特に“()()()”を聞いてしまった後には。

 

それでも彼は進む他なかった。

 

それを証拠に再びページを捲る。

 

またヴァント家の歴史が若き次世代の当主に受け継がれるのだ。

 

 

 

つづく

 




こっちでも投稿なり〜
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。