Fleet Admiral   作:Eitoku Inobe

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失ったもの

「そうか…なら話してしまうとしようか…私が無能者だと悟った日の事を…」

 

セルネアン准将の言葉はいつにもまして重たかった。

 

悲しみと後悔を含んだ彼の声は話を始める。

 

言葉の重たさと声に混じる感情がその場の空気を重くしていった。

 

「まだあの時の私は大佐だった…」

 

この言葉を皮切りに彼の過去が物語として繋がれる。

 

それはグリッツ・セルネアンの過去だ。

 

後悔と悲しみの過去であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数十年ほど前セルネアンはまだジュディシアル・フォースの大佐であった。

 

彼は長い間共和国の為と命を賭して戦っておりその知名度は低くとも仲間内からは慕われ優秀な指揮官の一人だと記憶付けられていた。

 

また彼には弟がいた。

 

父親は軍人ではいのだが兄の跡を追って弟もジュディシアル・フォースに入隊した。

 

昔から仲の良い兄弟だった。

 

兄は兄としてのあるべき姿をと努力し、弟はそんな兄を尊敬し慕っていた。

 

彼の弟、“ハリス・セルネアン”は兄とは違い地上部門の将校であった。

 

されど彼の才能は兄グリッツが認め自らを超えると思うほどの程の指揮能力を有していた。

 

彼らは互いに切磋琢磨し軍役を積み重ねていった。

 

やがては二人ともゼント提督やエヴァックス参謀の様な高級将校達からも信頼を得ていった。

 

だが運命には容赦などない。

 

-アーカニアン革命-

 

彼らもまたコロニーズで発生したアーカニアン革命の鎮圧の命令を受けて出撃しようとしていた。

 

兄グリッツは艦隊を率い弟ハリスは地上部隊を率いて。

 

「兄さん!」

 

パイオニアーのドックで物資の積み込みを監督しているとハリスの声が聞こえた。

 

軍服から上はまるで変わることのない弟の姿だった。

 

「ハリス…お前の大隊はもういいのか?」

 

「準備万端、いつでも戦えるさ。革命軍も余裕で蹴散らせる」

 

若いハリスは笑みを返す。

 

彼はまだ20代だがすでに少佐。

 

優秀な大隊指揮官で兄のグリッツとは10歳近くの年が離れていた。

 

ハリスは自らの大隊を誇らしげに語っていた。

 

「コマンドー部隊だって配属されたし元より優秀な兵士ばかりだ。向かう所敵なしと言って良いほどだよ」

 

グリッツも微笑を浮かべ血気盛んな弟に忠告した。

 

「油断するなよ?革命側の兵力はサイボーグ兵士だと聞くからな」

 

あくまで噂話の域であったが現に敗残兵などの怪我の具合を見ても相手は相当強敵だ。

 

先に戦った自治領主艦隊も敵の優秀な指揮官の影響で大敗したと聞く。

 

相手は近年類を見ないほど強敵だ。

 

しかしハリスはそんな兄の心配をよそに勝利を確信していた。

 

「兄さんこそ流れ弾で消し飛ばされたりしないでくださいよ?」

 

「当たり前だ、パイオニアーはそう簡単に沈まん」

 

2人は苦笑をこぼす。

 

すると件のコマンドー隊隊長と部下のルファン准尉が2人近寄った。

 

「大佐、艦隊の最終点検完了しました」

 

「少佐、全大隊員グリッツ艦隊に収容完了」

 

2人は互いに部下の報告を聞き部下を下がらせる。

 

「さてじゃあ続きは勝利した後で」

 

「ああ、また後でな」

 

2人は互いに軽い敬礼と共に別れた。

 

これが最後の会話になるとも知らずに。

 

 

 

 

 

 

 

革命の鎮圧は彼らが考えていた以上に長期戦になった。

 

敵艦隊も巧な戦術で撤退しこれと言った打撃を与えられず地上戦ではサイボーグ兵の強さに圧倒されていた。

 

すでに自治領主の私兵軍二個大隊が壊滅しジュディシアル・フォースや惑星防衛軍の部隊も少なからず損害を被っていた。

 

『このままいたずらに攻勢を掛けても損害が増すばかりなのに…ジェダイの無能者どもはなぜそれが分からんか…!』

 

ホログラム越しでゼント中将が苛立つ。

 

実際度重なる戦闘の割には得られる戦果は少なくその代償は大きかった。

 

それでも効力を上げつつあるのはこちらが圧倒的な物量を誇っているからだろう。

 

サイボーグ兵の軍隊とはいえ数は少なく物量を全て捌き切れてはいない。

 

このまま損害に目を背けながら戦っても勝てるだろう。

 

それが上策かと言われたら苦笑を浮かべるしかないが。

 

「暗号通信によると今夜の再攻勢時にハリスの大隊が夜襲を掛けるとか。敵地上要塞は我々の本隊の攻撃を受けて戦力が一方に集中しています」

 

『彼ならうまくやるだろうが…問題は軌道上の艦隊だ、あれを潰さなければ』

 

「敵将アーガニルは優秀ですからね…要塞が陥落したとなれば容赦なく要塞を攻撃するでしょう。そうなったらハリスの大隊も本隊も危険だ」

 

ゼント中将が頷く。

 

艦隊指揮官のアーガニルはジュディシアル艦隊や他地域の連合艦隊を悉く退けている強敵だ。

 

自治領保安艦隊を殲滅した時に彼は通信回線を開き自らをアーガニルと名乗った。

 

それはジュディシアル・フォースと戦った時と同じだ。

 

だがグリッツはあの男と初めて対戦した時に「必ず貴様の船を地べたに叩き沈めてやる」と言い返した。

 

その時の戦闘は流石に旗艦撃破とはいかないまでもゼント艦隊とセルネアン大佐の機動部隊でようやく彼の艦隊を退けることが出来た。

 

「私が行きます。我がパイオニアーはアクラメイター級の中でも最新鋭で重火力です、敵の背後を突けば必ず行けます」

 

セルネアン大佐が考えた戦術がゼント中将の旗艦“グローリースコネクション”に転送される。

 

彼はしばらく戦術を読みセルネアン大佐に提案する。

 

『我が艦隊の付属機動部隊から二隻やろう。急いで向かっているが私達本隊は間に合いそうにない。すまんな』

 

「中将…!ありがとうございます」

 

『容易い御用だよ。それにジェダイどもの鼻を赤してやろうではないか』

 

ジェダイ嫌いの中将が子供じみた悪い笑みを浮かべる。

 

敬礼とともに通信が切れた。

 

「待ってろよハリス…」

 

地上で戦いに備えている弟の名を呼ぶ。

 

今思えばもっとこの時にハリスと連絡を取っておくべきだった。

 

もしそうしていれば運命は大きく変わっていただろうから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パイオニアーに引き連れられた二隻のアクラメイター級は多少荒っぽい方法だったが無事敵に悟られず敵の背後に着くことができた。

 

だが攻勢の合図は未だ出されてはいない。

 

地上部隊の再度攻勢時はこちらにも連絡があるはずだ。

 

「そろそろだな…」

 

「しかし友軍艦隊と地上部隊の反応がありませんね…どうしたのでしょうか?」

 

「まあ遅かれ早かれ来るだろう」

 

彼らは一抹の不安を抱えながら他の艦隊の到着を待った。

 

流石にたった三隻ではあれほどの艦隊には勝ち目はない。

 

しかし彼らに届いたのは艦隊ではなくある一報だった。

 

突然画像の荒いホログラムが浮き上がりグリッツに向けて叫んだ。

 

『セルネアン…今すぐ地上部隊を回収して撤退す…んだ…!』

 

ゼント中将だ。

 

電波が悪いのかホログラムは今にでも途切れそうだった。

 

『ジェダイが勝手…攻撃作戦を中断しやがった!今そっちに向かっている所…』

 

「そんな!どうして!」

 

『カルト連中…理由なん…知ったことか!とにかく地上部隊の…収を!』

 

「ですが軌道上に敵艦隊が!」

 

セルネアン大佐は悲痛な声をあげる。

 

すると通信士官の一人がグリッツに叫んだ。

 

「大佐、ハリス少佐の大隊が攻撃を実行しました!現在地上では戦闘中です!」

 

グリッツは青ざめた。

 

まずい。

 

全てが最悪の状況だ。

 

艦隊は容易に大隊を攻撃出来るし要塞内の敵は本隊の攻撃がないから全力を大隊の方へ向けられる。

 

『私の艦隊の到着を…て…引き付けている間に回収するんだ』

 

ゼント中将は冷静に提案する。

 

しかしそんな余裕はもうなかった。

 

「すでにハリスの大隊は攻撃を開始しています!しかも連中の通信妨害のせいで連絡が取れない!我々だって光学カメラでようやく視認できたのですよ!」

 

ゼント中将は彼の心中を察してはいたがどうすることもできない。

 

『とにかく我が艦隊が引き付け…間に地上部隊を回収しろ!!』

 

グリッツはブリッジから惑星の方を見つめた。

 

軌道上の敵艦隊の動きがそれを物語っている。

 

地上に部隊を降ろしている。

 

このままでは物量に押し潰されて全滅してしまう。

 

セルネアン大佐は覚悟を決めゼント中将に進言した。

 

「我々で軌道艦隊を撹乱している間に地上に支援を!そうすれば少なからず救出と奪還が叶います…!」

 

『それでは君た…危険だ!』

 

「もう時間がありません!中将、戦場で!」

 

『待つんだ大佐!』

 

通信を切りセルネアン大佐は三隻のアクラメイター級に命令を出した。

 

「全艦戦闘隊形!目標敵旗艦!!」

 

パイオニアーを筆頭とした三隻がエンジンに青白い炎を彩り敵艦隊へ向け発進した。

 

「射程距離でなくても構わん、撃ってこちらに注意を引くんだ!!」

 

アクラメイター級の重レーザー砲が次々と火を放つ。

 

放たれた砲弾はセルネアン大佐の予見通り密集した敵艦隊にはさほど狙いを付けなくても命中し数隻の敵艦のエンジンを潰した。

 

敵艦から放たれる爆炎はパイオニアーからでも確認済みだ。

 

「このまま進み撃ち続けろ!」

 

敵艦隊は密集隊形を解きつつ前衛の艦で応戦しようとしていたがその数分が仇となった。

 

密集隊形を解いたおかげで敵艦隊への突破を容易なものにしたセルネアン大佐は真っ直ぐ旗艦に直進した。

 

「見えました!敵旗艦です!!」

 

士官の報告とほぼ同時にグリッツは命令を出した。

 

「全火力を敵旗艦へ!!撃て!!」

 

重レーザー砲といくつかのプロトン魚雷が同時に放たれる。

 

反撃と言わんばかりに敵旗艦もレーザー砲と震盪ミサイルを放ち艦と艦との一騎打ちとなった。

 

両者の攻撃は互いにシールドを打ち破り打撃を与えた。

 

被弾したパイオニアーに揺れが起こる。

 

「左舷に被弾!被害状況は…まだ戦えます!」

 

「よし!どんどん撃ち続けろ!」

 

ゼント中将から渡された二隻のアクラメイター級も他のフリゲート艦やコルベット艦を次々と打ち破りパイオニアーと敵旗艦の一騎討ちを妨害させないようにした。

 

その甲斐あってか互いに敵は絞られ今までにないほど苛烈な戦いと化した。

 

向こうが当てればこちらも負けずと被弾させる。

 

爆発の閃光が二隻を取り巻く。

 

両艦ともあちこちから爆炎を上げていた。

 

敵旗艦のミサイルがエンジンに被弾し一時的にエンジンが一つ機能停止する。

 

ブリッジのライトが赤に変わり緊迫感を煽る警報が鳴り響いた。

 

「エンジンブロックに被弾!このままでは…」

 

部下の士官が不安そうな声をあげる。

 

「怯むな!!撃て!!」

 

危機的状況の中セルネアン大佐は怯まず敵艦を睨みつける。

 

あれが艦隊総司令官のアーガニルの船であることも重々承知だ。

 

だからこそ堕とさねばならない。

 

沈めなければならない。

 

弟の為にも。

 

願いが通じたのか将又パイオニアーの砲手が優秀なのか定かではないが重レーザー砲が敵のエンジンを吹き飛ばしプロトン魚雷や震盪ミサイルがレーザー砲の幾つかを破壊した。

 

さらに都合の良いことに敵艦に刺さっていた不発弾が余波で爆発を起こした。

 

それが決定打となりこの恐ろしい旗艦を大破まで追い込んだ。

 

「敵艦大破、エンジン出力が低下し惑星の重力に引かれています!」

 

「このまま戦闘を続行する!!敵艦隊を…」

 

「大佐!ハイパースペースより友軍艦隊です!ゼント中将のハンバリン連合艦隊です!」

 

セルネアン大佐がブリッジからハンバリン艦隊を確認する。

 

『大佐!今すぐ地上部隊を出す!もう少し辛抱して踏ん張ってくれ!』

 

「中将…!」

 

『頼んだぞ!!』

 

「はい!!」

 

旗艦の損失とハンバリン艦隊とセルネアン艦隊の挟み撃ちが決定打となり軌道上艦隊は壊滅。

 

地上に部隊が送られ地上でも勝利を得た。

 

艦隊総司令官と要塞に篭っていた地上部隊司令官の戦死は大きな打撃となり革命宇宙軍はその後の戦闘で連敗。

 

革命の失敗に直結する事となった。

 

しかしこの時期のセルネアン大佐に送られた報告は数々の勝利だけではなかった。

 

最大の悲劇が混じっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「嘘だ……嘘だ!そんなはずは…」

 

ハリスの大隊の“()()()()()”であるコルグ大尉が涙を浮かべながら報告する。

 

他の部隊長達も皆苦渋の表情を作りある者は悔し涙を流していた。

 

「宣告申した通り…我が第三十二突撃大隊大隊長ハリス・セルネアン少佐は…敵基地攻撃時に…名誉の戦死をなされました…!」

 

その瞬間コルグ大尉の涙のダムが決壊する。

 

兄であるセルネアン大佐は未だにその事を受け入れられなかった。

 

「付近で戦闘していたこのベッツ少尉が少佐の麾下分隊が砲撃されたのを目撃したと…」

 

若き少尉が彼の前に出る。

 

ベッツ少尉も全身が傷だらけだ。

 

しかし彼は痛みと苦しさを堪えセルネアン大佐の前にたった。

 

「自分がこの目で確かに見ました…少佐殿は最期の最後まで自分達の為に命令を下さいました……!あの基地が陥落したのも少佐殿のおかげです…!」

 

ベッツ少尉も流石に涙までは堪えきれず涙を流し始めた。

 

勇猛果敢で知られたジュディシアル・コマンドーであるアヴェック中尉ですら目を瞑り涙を静かに垂らしている。

 

「大佐殿!少佐はハリス少佐の死は彼の方を守りきれなかった自分達にあります…!許しを乞うつもりは微塵もありません!ですがどうか…」

 

コルグ大尉が涙を流しながら彼に頭を下げた。

 

「よせ…お前達は何も悪くない…頭を上げてくれ…みんなよく戦った……お前達は悪くないんだ…悪いのは…」

 

守れたはずだった。

 

勝ったと思った。

 

だから慢心していた。

 

本当ならきっと手を打てたはずなのに。

 

爪が甘かったから。

 

だから悪いのは。

 

「悪いのは私だ」

 

この時セルネアン大佐は気づいていなかったが彼らと同様涙を流していた。

 

彼の頭の中は自責の念でいっぱいになった。

 

自分が早く助けにいかなかったから。

 

早いうちにハリスの部隊と連絡が取れないことが分かっていればもっと未来は変わっていたはずだ。

 

そんな事で頭がいっぱいになった。

 

 

 

 

 

 

 

革命の終結後セルネアンは准将となった。

 

また戦死したハリスは名誉を重んじられ二階級特進で大佐となった。

 

彼の大隊も当面の間はコルグ大尉が指揮官となった。

 

指揮官戦死とはいえハリスの大隊はあれだけの激戦であったのに犠牲が少なく大隊として存続を維持出来るものだった。

 

彼は最期に最終的な勝利に繋がる戦果と大隊を遺していった。

 

だがセルネアン准将の胸にはぽっかり痛みを伴う穴が空いたままだった。

 

何が准将か。

 

優秀な弟も救えない救い難い低脳が准将になって良いものか。

 

きっと自分はこれから何人もの弟と同じ存在を作っていく事となるだろう。

 

彼は准将という階級と周囲からの“革命戦争の英雄”という評価によりさらに自分を責めるようになった。

 

同時に如何なる時も弟が生きていたらということも考えるようになった。

 

元々両親が早いうちに亡くなってしまったセルネアン兄弟はずっと二人で支え合って生きていた。

 

もはや己の半身も同然なのだ。

 

それを失ってしまった悲しみと喪失感はセルネアン准将の心をじわじわと壊死させていくに十分であった。

 

次第に生きる気力も原動力も彼から消え失せた。

 

それから彼は夢を見るようになった。

 

弟ハリスが自分の目の前で笑みを浮かべている。

 

その度に彼は今までのことが夢であったように思い込み彼の元へ走った。

 

しかし夢はそれ以上夢を見せてはくれない。

 

彼が弟に近づこうとした瞬間一発の弾丸がハリスを消し飛ばす。

 

爆風によりセルネアン准将が吹き飛ばされあたりは一瞬にして戦禍の後となった。

 

セルネアン准将顔を上げると必ずハリスはその場から消えていた。

 

彼が立っていた跡には彼自身も彼の肉片すら残されていなかった。

 

あるのは絶叫とそれにより目覚めを引き起こす後味の悪さだった。

 

あれから何度もこのような夢を見るようになり次第にセルネアン准将はこう思うようになった。

 

-これは弟からの憎しみだ-

 

 

 

-自分は死んで低脳な兄が生きている事への怒りなのだ-

 

 

 

-そして自分と同じように戦場で死ねという思いだ-

 

徐々にその考えに全身を浸すようになったセルネアン准将は戦場に死を求めるようになった。

 

だがよくある無茶な突撃や特攻は全くと言って良いほどしなかった。

 

彼にはもう一つの思いがあったからだ。

 

弟のように戦場でこれ以上他者を死なせてはいけないと。

 

その為彼は人一倍人の死に敏感になった。

 

市と隣り合わせの職業なのに死が人一倍恐怖だった。

 

だから無茶でも仲間や市民なら助けようとするのだ。

 

結果2つの考えに挟まれたセルネアン准将の数年間はまさに生き地獄であった。

 

死にたいが死ねない。

 

自殺すらできない。

 

次第に彼の気力や鋭気はどこかへ消えていった。

 

こうしてかつての将来を有望されたジュディシアルの将校は今の姿へと変貌していった。

 

今日この日までは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今でも時折見るよ…もう相当昔の話なんだがね…」

 

外を見るセルネアン准将の表情はいつにも増して覇気がなかった。

 

ゼファントは心中を察し口を紡いだ。

 

「憐れむなら憐んでくれ…貶すなら貶してくれ。救い難い生半端な人間だということは私が一番よく知っている。だから何も守れず何も出来なかった」

 

自重気味に彼はそう口走った。

 

するとゼファントは彼に優しい口調で言った。

 

「私はまだ何か言える立場ではありませんが一つ。准将、前を向いてください」

 

セルネアン准将は突き刺さるようなまっすぐな彼の瞳を見た。

 

その若き熱意に満ちた瞳が訴えかける。

 

青い瞳だ。

 

そして青い炎が灯されていたような気がした。

 

「准将には戦死されたハリス大佐の分まで戦ってハリス大佐が見れなかった世界を生きる義務があると私は考えます」

 

「義務…か…」

 

「ええ、そうやって彼の分まで戦い続けることが少なからずハリス大佐へ報いる事ではないでしょうか。貴方が苦しんだって、死のうとしたって大佐はきっと喜ばないでしょう。むしろ大佐の想いと共に貴方が戦って生き抜いていけばきっとハリス大佐も喜ぶのではないでしょうか?」

 

ゼファントはいつにもなく真剣だ。

 

「こんな所で足踏みをしていればそれこそハリス大佐も悲しむでしょう。我々は常に前に進まなければなりません」

 

その一言はセルネアン准将に大きく突き刺さった。

 

確かにゼファントの言う通りなのかもしれないと彼は思い始めてきた。

 

「…少々言い過ぎました…すみません」

 

あえて謝るゼファントは最後にこう言い残す。

 

「ですが生きている人間が死んだ人間に出来る事は死んだ人間の為に戦い続けることだと私は思います」

 

彼は敬礼しその場を後にした。

 

残されたセルネアン准将は何か深く考え始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

セルネアン艦隊は無事にジュディシアル艦隊が集結中のポイントにジャンプアウトする事が出来た。

 

彼らの眼前には数十隻以上のジュディシアル・フォースの艦が艦列を組んでいた。

 

中には移動型の衛星基地まで存在していた。

 

ブリッジの士官達は忙しなく艦隊に連絡を取りコードを送信している。

 

『こちら艦隊司令部α、パイオニアーは司令部αの第三ベイに着艦せよ』

 

衛星基地の一つがパイオニアーに着艦を促す。

 

「了解、それと我が艦隊には第十二機動部隊の負傷兵と損傷艦を積んでいる、直ちに手当てと修復してもらえないだろうか?」

 

『任せてくれパイオニアー、必ず助ける』

 

通信士官の言葉通りパイオニアーが着艦した後すぐに軍医と整備士達が艦に駆け込んだ。

 

代わりに総司令のセルネアン准将と副官のゼファント、ジュディシアル・コマンドーの隊長であるアヴェック大尉は作戦室に呼ばれた。

 

どうやら基地内の放送を聞く限り他の艦隊司令官も同様に呼ばれているようだ。

 

作戦会議が開かれるらしい。

 

3人が室内に入るとすでに何人かの将校が雑談を交わしていた。

 

「外の艦隊も見たが中々の数だな」

 

「ええ、各地域から相当の艦隊が集められているんですね」

 

そんな話をしているとゼファントにとってとても馴染みのある人物が話しかけてきた。

 

「ゼファント?お前ゼファントか!」

 

「父さん!」

 

それは見覚えのある実の父親だった。

 

親しみを込めて互いに軽くハグを交わした。

 

彼はハンバリン艦隊の一部を率いて参戦したのだ。

 

「お久しぶりです提督」

 

「セルネアン…そうかお前は彼の艦隊に配属されたんだな、でどうだセルネアン?息子はちゃんとやっているか?」

 

「はい、とても優秀で私も助かっています」

 

ゼントが微笑を浮かべる。

 

「そうか、まあ次の戦いはいい狩場となる。しっかりやれよゼファント」

 

「言われなくても全力を尽くしますよ」

 

2人は軽い敬礼で話を終えると全ての将校が集まったのか早々と会議が開かれた。

 

中央の大型ホログラムが起動しミッド・リムの地図が現れる。

 

「我々は活性化するミッド・リム内の犯罪勢力を一掃する為に今回遠征艦隊を結成されました。以下の戦術に従い犯罪勢力を一掃します」

 

ホログラムに彼らジュディシアル艦隊が映し出された。

 

「まず犯罪組織の主力を殲滅する軍集団A。次に残党の討伐及び治安維持を目的とする軍集団B。補給路の確保、犯罪組織のミッド・リム外への逃亡を阻止する軍集団Cに分けられます」

 

ホログラムでは分かりやすく艦隊の戦力が大まかに3つに分けられ説明通りそれぞれの任務に当たっている。

 

将校達は真剣に説明とホログラムを見つめた。

 

自分たちの命が掛かってくるなればこれくらいは当然だろうが。

 

「犯罪組織は連合を組み大規模な戦力で攻勢に出るでしょう。その為互いの連携が重要となってきます」

 

戦力的には明らかにジュディシアル艦隊の方が上だが一隻を数十隻で取り囲まれ殲滅されるような事が長引けばその優位も失われる。

 

以下に敵の連携を打ち破り各個撃破で潰していくかが重要だ。

 

「細部は各艦隊指揮官に任せますが大まかな指示は参謀部と戦術研究課から送られるものに協力従事していただきます」

 

その点については将校達からは文句は出なかった。

 

ゼントのような将校からすればジェダイの指揮下に入るよりよっぽどマシなのだろう。

 

最後に説明する将校が全員に通達する。

 

「この作戦は今後のミッド・リム内の平和に大きく残るでしょう。当然失敗は許されません」

 

その二言の重みは全員が重々承知していた。

 

失敗すればジュディシアルだけの問題ではなくなる。

 

「それでは各艦隊の検討を祈ります」

 

それは作戦会議の終了を意味していた。

 

将校はそれぞれ雑談に戻るか自分の艦隊に戻るか自由にしていた。

 

ゼファントは戦術を練る為にパイオニアーに戻った。

 

これが始まりだ。

 

ゼファント・ヴァントが歩む戦いの歴史への第一歩が今から始まるのだ。

 

宿命の相手を得て。

 

彼のも歯車が動き出す。

 

 

 

つづく




ようやくここまで移し替えたぞ…(文章をプラスして若干話を付け加えてるからこうなるんだよ)
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