Fleet Admiral   作:Eitoku Inobe

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亡霊の覚醒

軍集団Aは補給を受ける為ある惑星の軌道上に待機していた。

 

作戦は今の所ほとんど成功していた。

 

海賊や犯罪組織の艦隊の連携はことごとく分断され逆にジュディシアル艦隊の強固な連携力で敵を撃滅した。

 

また補給路の確立や退路の完全なる封鎖によりジュディシアル・フォースは勢い付いていた。

 

しかし彼はどこか疑問に思っていた。

 

「敵艦隊はこれで3個艦隊が壊滅、にも関わらず未だ敵の戦術は変わっていません」

 

上官であり相手をよく知っているセルネアン准将静かに頷いた。

 

敵の総大将はアーガニルで間違い無いはずなのだがそれにしてはガサツな、愚策に近い戦術だった。

 

まるで諸将に作戦を放り投げているかのようなものだ。

 

「奴は何かを企んでいる…がいつ敵が出てくるか分からない以上職務を離れる訳にはいかんな」

 

「ですがある程度目標は知っておきたい所です…」

 

ゼファントが何かを考え込むような表情を浮かべる。

 

一つだけ確信はないものの考えが浮かんだ。

 

だがこれはあまりに綱渡りの戦いだ。

 

「その感じだと何か仮説は立っているようだな」

 

セルネアン准将が彼の心の内を大まかに読み取る。

 

ゼファントは苦笑を浮かべるとひとまずの仮説を彼に話した。

 

隠しておいたってなんの意味はない。

 

むしろアーガニルと戦った事のあるセルネアン准将に話して仮説を深める方が優先だ。

 

「もし奴が……今でも革命時に囚われているのだとしたら目標は…」

 

彼が全てを言い終える前にブリッジのモニターが起動し見覚えのある人物が三人映っている。

 

あまりに馴染みが深すぎる為ゼファントは半笑いを浮かべてしまった。

 

「少佐…それとアザフェルとゼネークト、なんで二人までいるんですか?」

 

ゼファントの声はどこか呆れに似た声だった。

 

『全く…いいか?お前が無茶苦茶な頼みをするから二人が今こうしているんだぞ?』

 

ため息をつきたいのはこちらだと言わんばかりにガコン少佐が目尻を押し疲れを取る。

 

相変わらず徹夜続きのようだ。

 

まあほぼ私のせいなのかもしれないが。

 

「それで何か分かったんですか?」

 

『君少しは躊躇いというものがな…まあいい、君が喉から手が出るほど欲しい情報なはずだ』

 

パイオニアーに転送されたその情報はあっという間にゼファントの表情をガラリと変えた。

 

彼はニヤケが止まらなくなり脳を高速で回転させ始めた。

 

モニター越しで若干ガコン少佐は引き気味だったが咳払いで空気を変え彼に伝えた。

 

『一応そっちにこの二人を送る、一応この情報が手に入ったのも二人のおかげだから感謝の一言くらい言っておけよ』

 

「はい少佐、それでは」

 

『ああ…すぐ戻ってこいよ。准将も御武運を』

 

ガコン少佐が准将に敬礼すると通信が途切れた。

 

それを確認したゼファントは微笑を浮かべ一言口にした。

 

「本当に頼れる人達だ」

 

優しい微笑みが傷つきそんな仲間達を多く失ったセルネアン准将の口角をわずかに上げる。

 

彼はゼファントに近づき先ほどから彼が喜んでいる情報について尋ねる。

 

「一体何が手に入ったのだね?」

 

「あぁ、これです。敵船を一隻鹵獲した時にアーガニルが連れて来た艦隊の動きが少しばかり分かったみたいなんですよ」

 

「で、そんなに喜ばしいのかね?」

 

「ええ、これによると近々その内の一隻が何やら物資を受取りに来るのだとか」

 

彼はタブレットをスライドしセルネアン准将に情報を見せる。

 

「そこで未だ意図が掴めないアーガニル艦隊を探る為こいつを“拿捕”します」

 

「さらっと言ったな…」

 

そんな若干の恐ろしさを感じるセルネアン准将は自身でも思考を巡らせ始めた。

 

彼をサポートするかのようにゼファントは彼自身の意見を口にする。

 

「船員はともかく航海記録などを得れれば少しはわかることがあるはずですから」

 

「うむ…」

 

唸るセルネアン准将にゼファントは作戦を提示する。

 

ハイパースペースから出てきた敵艦に奇襲を加えそのまま兵員を突入させ制圧するという流れだ。

 

敵艦は小さく人員も少ない為さほど時間は掛からないだろう。

 

「コマンドー部隊を投入して艦を制圧することはできないでしょうか?最も迅速に敵艦を拿捕できると思いますが」

 

「いけなくはないが…」

 

准将は唸り声を上げた。

 

ジュディシアル・コマンドーとはジュディシアル・フォースの中でも特に選りすぐりのエリート達だ。

 

そう簡単に動かせるものではない。

 

だがその疑念は一人の将校の声と共に消え去った。

 

「我々は全然かまいませんよ」

 

2人は振り向くとジュディシアル・コマンドーの隊長であるアヴェック大尉がすでにアーマーを纏い立っていた。

 

どんと来いと言わんばかりに。

 

そんな彼にセルネアン准将は心配を口にした。

 

「だが危険ではないかね?」

 

「危険が嫌ならそもそもジュディシアル・コマンドーになってませんよ。俺たちゃ全員戦死しようが自己責任ですからね」

 

自嘲気味にセルネアン准将の心配を吹き飛ばす。

 

彼はゼファントを見つめると何故かニヤリと笑った。

 

「代わりと言っちゃあなんですがゼファント大尉を借りてってもよろしいですかい?」

 

「えっ?」

 

ゼファントは首を傾げた。

 

そしてすぐに察しが付いた。

 

「ほら現場で的確な指示を出すのがいないと」

 

「確かに……わかった許可しよう。大尉、しばらくは任せたぞ」

 

セルネアン准将は少し考えすぐ了承を出した。

 

子供染みたアヴェック大尉の笑みがゼファントの表情を苦笑いに変えた。

 

ため息が出たままゼファントはアヴェック大尉に引っ張られていってしまった。

 

そんな中でゼファントはぼさっと呟く。

 

「はあ…こういうのを言い出しっぺの法則って言うんだっけか…」

 

「なんか違う気が…」

 

誰かにツッコミを入れられながら引っ張られていくゼファント。

 

彼の苦笑は虚しく人生初の白兵戦へと駆り出される事となったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハイパースペースから一隻のコルベット艦が出現する。

 

アーガニルからある使いを頼まれたこの艦は足早に味方の犯罪組織艦隊へと向かった。

 

ブリッジでは操舵手や船長がコンソールを見つめている。

 

「時間はたっぷりとあるができる限り急ぐぞ、客将殿がお待ちだからな」

 

船長が部下達にいやらしい笑みを浮かべる。

 

ブリッジの者達もそれに釣られてニヤリと笑った。

 

皆もう少しで訪れる野望の達成を想像してその優越に浸っていた。

 

当然敵にバレぬよう最大限の警戒を行なっている。

 

「にしてもやけに静かな宇宙(うみ)だな…」

 

「この辺の宙域、衛星も惑星もありませんからね」

 

副長が一言付け加える。

 

船長がアームレストに肘をつき退屈そうな顔で外を眺めているとふと何かに気が付いた。

 

「おいあれはなんだ?」

 

副長や手の空いた乗組員が外を見るがまだ気づいていない。

 

船長は指を差し再び問う。

 

「あれだ、あれ、何か近づいてくるぞ」

 

指の先を見つめると点のような何かが大きくなる。

 

こちらに近づいて来ているのだ。

 

レーダー士官がモニターに目をやり確認する。

 

だがレーダーには何もなかった。

 

「レーダー…何も探知しておりません…」

 

「じゃあ前に見えているのは何だ?小惑星か?」

 

乗組員達が何度もレーダーを確認するがまだその正体を掴めずいにいた。

 

「レーダーに微弱な熱源を探知…」

 

「船…の残骸か?」

 

「回避しますか?」

 

「ああ…デブリなら何の問題もないが…一応な」

 

副長が頷き回避を命じる。

 

この時船長は一つの間違いを犯した。

 

ただ一言主砲のチャージと偏向シールドを展開するよう銘じておけばだいぶ変わっていただろう。

 

その間違いは肥大化し彼に降りかかる。

 

「回避行動完了しました」

 

「よし……いやダメだ…」

 

副長が不思議そうに彼に顔を向ける。

 

船長は席から身を乗り出しまなこをこれ以上にないほど大きく開け回避したはずので振りを覗き込む。

 

唖然としたまま船長はこう言い放った。

 

「あれはデブリではない…船だ」

 

「そんなまさか…」

 

副長が否定するよりも先に艦に大きな振動が響いた。

 

ブリッジも揺れが起こり船長も席から落ちそうになるのを堪えた。

 

乗組員達も歯を噛み締めながら必死に衝撃を堪える。

 

「状況報告及びシールド展開!」

 

乗組員の一人がコンソールを確認し報告する。

 

「右舷に被弾、原因は調査中!」

 

「いや先程のデブリだ!!あれが撃って来たのだ…!!」

 

「しかし熱源反応は…」

 

また振動が響き会話が遮られる。

 

展開しかけの偏向シールドでは簡単に破られてしまう。

 

「熱源確認!2つの熱源が急速に本艦へ向かってきます!」

 

「何!?」

 

副長は相当驚いていたが船長は苦渋の表情を作るだけでそれほど動揺していなかった。

 

「エアブロックの守りを固めろ…」

 

乗組員が船長の顔を見る。

 

乗組員は理解が及ばない表情で未だ命令を実行していなかった。

 

苛立った船長は怒声を浴びせ早くするよう叫んだ。

 

「急げ!!連中が来る……」

 

船長の急速な怒号が全員の行動を一段と素早くさせた。

 

副長は船長の顔を見つめた。

 

まるで何かに怯えている様だ。

 

「この戦法は間違いない…奴らが乗り込みに来る…」

 

「敵艦こちらにさらに突っ込んできます!」

 

「バカな!」

 

副長のあり得ないという表情よりも先に長細いブリッジを持つ敵艦がこちらに思いっきり体当たりを敢行する。

 

今までにないほどの振動が艦を襲い乗組員達を振り倒す。

 

「被害状況は…」

 

「遅かったか…!」

 

船長がアームレストを叩き悔しそうな表情を浮かべた。

 

その直後乗組員の一人が悲鳴の様な声で報告する。

 

「敵艦、エアブロックを突破!!」

 

「まさか我が艦を乗っ取りに…でも一体どこの部隊が…!?」

 

「来るぞ…“()()()()()()()()()()()()()”達が…」

 

 

 

 

 

 

 

 

エアブロックが爆発し破片と煙が飛び散る。

 

この区画の防衛を命じられた兵達が爆発から目を瞑り自然に眼球を守る。

 

だがこの瞬間の資格の喪失が彼らの命の喪失に繋がった。

 

白い煙幕の中から謎の人影が現れ仲間の一人を斬殺する。

 

隣の兵士はブラスター・ピストルを構えるが彼も背後から現れた謎の人物によりナイフで喉を切られ絶命した。

 

他の兵士が煙幕に向かってブラスター・ライフルやブラスター・ピストルの引き金を引くがまるで効力がなさそうに思えた。

 

煙幕の中が何故か光った。

 

彼らがその光に気づく頃には皆脳天や急所にナイフが刺さり絶命していた。

 

「たく、もっと歯応えのある奴じゃねぇのか?」

 

煙幕から数名とても頑丈そうなアーマーを身に付けた男達が現れる。

 

片手には戦斧や剣を持ち盾やブラスター・ピストル、ナイフなどバリエーション豊かな装備を持っている。

 

ヘルメットは丁度T字を描くようにモニターが付いておりいつでも的確な状況判断が可能だ。

 

「第二分隊はこのまま各所を制圧、第三分隊はエンジンと他のエアブロックを潰せ」

 

「了解」

 

隊長の命令により屈強な戦士達が散らばる。

 

彼らこそがジュディシアル・コマンドー

 

オルホールやアヴェック大尉など銀河系でも相当優秀な兵士達がその任を担っている。

 

どの部隊よりも接近戦や白兵戦などの実戦に特化した部隊でありその戦闘力、戦力はジュディシアル・フォース最強と言われれるほどだ。

 

またその名に恥じず彼らが参戦する戦いの殆どは勝利で幕を閉じている。

 

今回その部隊がこのコルベットに牙を剥いたのだ。

 

「ドロイド、ハックを頼む」

 

アヴェック大尉の命令により軍用アストロメク・ドロイドが艦のコンソールにアクセスし始めた。

 

「こいつの護衛を頼む、得られた情報は全て艦隊へ転送しろ」

 

後から乗り込んだ通常のジュディシアル兵にアストロメクの面倒を見る様頼んだ。

 

部隊の隊長は快く頷き-ご武運を-とねぎらいの言葉を掛けてくれた。

 

「ああ、行くぞゼファント大尉!!」

 

「えっあっはい!」

 

数年ぶりに戦闘用のアーマーを着たゼファントの腕を掴む。

 

「前線で指示してくれる奴が必要だ!さあついてこい!」

 

「わかりましたよ…こんなことになるならもっと格闘訓練を受けておくべきだった…」

 

ゼファントが何かを愚痴っているがそんなことお構いなしにアヴェック大尉とその部下達は進んで行く。

 

ドアが開いた瞬間敵兵がブラスターを連射したが頑丈なアーマーを砕く事は出来ずアヴェック大尉のバイブロ=アックスの一振りにより全員が首を落とす。

 

その見事な腕に思わずゼファントも簡単の声をあげるほどだ。

 

物陰に隠れていた敵兵が悲鳴を上げ一目散に逃げようとするがゼファントが放った弾丸により2人とも斃れた。

 

「意外とやるな」

 

「これでも射撃訓練はトップだったんですかね」

 

笑みを返すとアヴェック大尉はバイブロ=アックスを掲げ隊員達に命令を出す。

 

「いいか、目標は敵のブリッジだ!!全員で突っ走れ!!」

 

コマンドー達が己の武器を掲げ声をあげる。

 

「行くぞ!!」

 

アヴェック大尉が先頭に立ち今にも閉まりかけそうなドアをこじ開ける。

 

その間に隊員達がドアを潜り抜け敵兵達を次々と斬殺する。

 

敵兵達も何とか応戦しようとするが彼らの頑丈さと素早さに敵わず次々と流血の絵画を壁に描き命を散らした。

 

扉を破ったアヴェック大尉が敵兵の脳天に戦斧を叩きつける。

 

二度と動くことのない敵兵ごと戦斧を振るいながらまた一人の敵兵を斬り刻む。

 

一人の隊員がバイブロソードで敵兵の顔面を刺しつつホルスターからブラスター・ピストルを抜く。

 

混乱する敵兵が気付く頃にはその兵の脳天は見事な穴が空いていた。

 

またある隊員がホルスターからナイフを取り出し応援に駆けつけた敵兵に投げつける。

 

見事に命中し敵兵は皆鎖の様にバタバタ倒れた。

 

そのジュディシアル・コマンドーは腕のアタッチメントからソードを取り出し敵の横っ腹に突き刺す。

 

そのまま息絶え絶えになった兵士が動かそうとするバトル・ドロイドに投げつけた。

 

「隊長と大尉は行ってください!」

 

隊員の一人が斬りかかりながら2人の道を開く。

 

「だが!」

 

「アストロメクの報告だとこのまま上がればすぐそこがブリッジです、早く!」

 

隊員達の想いを汲み取ったアヴェック大尉とゼファントは静かに頷き走り去る。

 

彼らは走っていた為気づいていなかったがその隊員が一言ー頼みましたよ隊長ーと彼らを送り出してくれていた。

 

2人は必死に走った。

 

道中敵兵の攻撃があったが2人にとってはそれは足止めにすらならなかった。

 

近ずく者は戦斧で血飛沫を飛ばしブラスターの弾丸を喰らう。

 

「ドロイドの報告によればあそこがブリッジの最後の扉です!」

 

「よし!俺が前に出る!後ろで援護を頼むぞ!」

 

静かに頷きゼファントはブラスター・ライフルを構える。

 

アヴェック大尉がブラスターの代わりに入れておいた爆弾を取り出し扉に投げつける。

 

時限式では無く衝撃を感知し爆発するタイプである為壁に触れた瞬間その爆弾は大爆発を起こした。

 

煙の中を2人は突っ切る。

 

破片が何のその、アヴェック大尉はブリッジに突っ込みブラスター・ピストルを構えようとする敵の腕を叩き落とした。

 

彼はそのまま一番真ん中の席に座っていた船長と思われる男を人質に取る。

 

「おい海賊のクソ野郎ども!こいつがぶち殺されたくなけりゃ降伏しな!」

 

バイブロ=アックスの刃先を船長であろう男の首元に向ける。

 

ゼファントもブラスター・ライフルを向け彼らを牽制した。

 

眼前に死が迫っているにも関わらず男はため息を吐き動じない。

 

「データ消去が間に合わなかったか…だが崇高なる我らの目的は間も無く始まる!!」

 

「船長!!」

 

船長はどこからとも無く取り出したブラスター・ピストルを自分の頭部に向けた。

 

アヴェック大尉が感づきそのブラスターを振り払おうとした時にはもう遅かった。

 

「客将殿に栄光を!!」

 

引き金が引かれ勇敢な船長の一生は幕を閉じた。

 

力を失いアヴェック大尉の腕の中に倒れ込む。

 

「しまった!!」

 

「船長の後に続け!」

 

副長である男の発言により全員がブラスター・ピストルを取り出し頭を撃ち抜いた。

 

あまりに一瞬の事だった為二人ではどうしようもなかった。

 

その宗教狂信者達の様な行動にアヴェック大尉ですら絶句し言葉が出なかった。

 

コルベット艦はジュディシアル・コマンドー達の活躍により友軍の死傷者を誰一人出さず幕を閉じた。

 

データもほとんどが健在であり航海記録や映像が山の様に残されていた。

 

ゼファントは技術班が来る一足先に探れるだけのデータを探っていた。

 

「船長の航海記録と日記か…」

 

アームレストについているタブレットを操作しつつ船長の日記をタップした。

 

ここ数日、数ヶ月間の日記を読む。

 

ほとんどたわいもない話だったがある1日にゼファントの推理を確定させることが書いてあった。

 

「これは。まさか!!」

 

その日の日記をより詳しく読み取る。

 

アヴェック大尉や他の兵士が声を掛けるが今のゼファントには届かない。

 

まるで何かに取り憑かれたかのように日記を読む。

 

「まずい…大尉、今すぐ艦隊に緊急連絡を!!」

 

「急にどうしたんだよ…できない事はないが…」

 

「なら早く!!」

 

あまりの形相にアヴェック大尉が軽く後退りした。

 

「わかったわかった…」

 

ホログラム回線を開きながらアヴェック大尉は何かをぶつぶつ呟いていた。

 

しかし今のゼファントには焦りしかなかった。

 

今彼はいや“共和国の首都(コルサント)”は最大の窮地に立たされていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まさか気付くとはな…」

 

「ええ、ですが我らの罠に嵌った事は間違いありません」

 

旗艦のブリッジでアーガニルとワルフォイがモニターの映像を眺める。

 

ゼファントが鹵獲したコルベット艦は実はこの艦からいつでも監視映像を写せる様になっているのだ。

 

2人は今のゼファントの焦り様から彼が“()()()()()()”に気づいたを察知した。

 

最もあのコルベット艦自体がゼファントやセルネアン准将の艦隊を遠ざける為の罠なのだが。

 

その事にはまだ気づいていないようだ。

 

「もう止められんさ」

 

アーガニルがほくそ笑む。

 

「コルサントを急襲し元老院とそこに蔓延る権力者達を人質に取る…そして奴らにこう宣言させるのさ」

 

彼は人知れず計画を話し出す。

 

その壮大さにワルフォイや他の乗組員達は静かに頷きその重みを感じていた。

 

「革命家達の釈放とコロニーズ全域の開放を!我らの夢の続きを!兄弟達の悲願を果たす時だ!」

 

それは革命家達が創り上げた亡霊が求めた世界の確立だった。

 

彼はアーカニアだけで無くコロニーズ全体に自由を望んだのだ。

 

やがては生き残りの兄弟や同志達を集めより強力な共同国家を建設するのが彼の望みだった。

 

もう誰にも干渉させず誰の指図も受けない。

 

同志達に自由を齎せという彼の哀しきプロトコルが今もなお発令したままなのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼が造られた(うまれた)のはアーカニアン革命が勃発する少し前だった。

 

指揮官タイプとしてエイリアンや機械の体を集めて造られたアーガニルは誕生してから数日間戦術という戦術を全て叩き込まれた。

 

それと同時に革命家達の理想なんてものもラーニングされた。

 

この数日間が彼の今後を確定させた。

 

アーカニアを解放する自由の戦士。

 

それをまとめ上げ勝利に導くのがアーガニルだった。

 

だが彼は知らなかった。

 

革命家達は己の考えを貫き通す為に禁忌に手を出している事を。

 

正義なんてどこにもないことを。

 

数日が過ぎた後彼は他のサイボーグの仲間達と触れ合う機会が与えられた。

 

兄弟ともいうべきサイボーグ達との出会いはアーガニルに革命の成功をより一層強く願わせた。

 

互いに同じ想いを持ち笑い合う仲間達。

 

彼はこんな日々が革命成功後も続けばいいと思った。

 

兄弟達は皆それぞれ卓越した戦闘能力と素早い頭の回転で最強の軍隊の一員となった。

 

だが彼らにも統率者が必要だ。

 

彼らよりもより優れた判断力とカリスマ、そして用兵の実力が。

 

それら全てを備えたのがアーガニルだ。

 

アーガニルの造られた天才的な戦術能力は瞬く間にサイボーグ達の信頼を勝ち取った。

 

信頼の分だけ艦隊の結束力は高まる。

 

また地上部隊のサイボーグの兄弟達もも彼を信じ革命軍全体が彼を頼る様になった。

 

そしてついに革命の時が来た。

 

革命軍はアーカニアでも宇宙でも破竹の勢いで敵を打ち破りあっという間にアーカニアや周辺地域を支配した。

 

特にアーガニルの艦隊の戦果は凄まじく自治領主達の防衛艦隊を殲滅し未だに一隻の損害もないのだ。

 

自治領主の呼びかけに応じて周辺艦隊も駆け付けるが悉く敗れアーガニルの戦績に勝利の文字を増やすだけだった。

 

アーガニルもそれに付き従う兄弟達も皆革命の成功を確信していた。

 

だが共和国とジェダイの到来により事態は変わりつつあった。

 

もう一つの悲劇と共に。

 

 

 

 

 

 

 

「艦隊の損耗率は今のところ大したものじゃないが…」

 

「ああ…だが仲間を失った…次は必ず奴らを葬るぞ」

 

副官格のサイボーグである“プリル”が頷いた。

 

共和国艦隊の巧な物量による波状攻撃とコルベット艦による機動戦によりアーガニルの艦隊は初めて宙域から撤退した。

 

その艦に彼らは数隻の友軍艦を失いまさかの撤退に意気消沈していた。

 

だがこの間にもアーガニルは次の戦術を練っていた。

 

一度の敗北は一度の大勝利で補い積み重ねればいい。

 

今回は負けたが次は大勝利だ。

 

完膚なきまでに叩きのめしてあの黒髪の髭面の将校の首を晒し上げてやる。

 

奴はこう言った。

 

「必ず貴様の船を地べたに叩き沈めてやる」と。

 

ならば言い返してやろう。

 

地に沈むのはお前の方だ、お前をいつか見下ろしてやる。

 

尤もまずは敵の艦隊司令官の方を先に潰さなければならないが。

 

機動部隊指揮官のような雑魚を相手にしても革命にはなんら意味はない。

 

「敵の総指揮官は?」

 

「あの艦隊はハンバリンのゼント・ヴァント中将の艦隊だな。艦隊指揮官としても相当優秀だ」

 

「データを集めてくれるか?」

 

「ああ」

 

彼はタブレットを手渡した。

 

この間にも自分の欲しい物を察知してくれていたようだ。

 

アーガニルはタブレットを弄りつつ新たな戦術を考えた。

 

(奴はベテランだ…だがベテランだからこそある程度の法則、規則性も見えてくる…)

 

するとふとある疑念が浮かんだ。

 

(待て…今敵は我々の艦隊を曲がりなりにも追い詰めている…ならこの好機を逃すのか?)

 

あまりに深入りし過ぎた考えだが的は遠からず得ているだろう。

 

消耗していてもここである程度の打撃を与えれば今後の艦隊戦を優位に進められる。

 

それに敵艦隊は革命軍の艦隊に比べて性能は格段にいい。

 

ならば奇襲攻撃なども成功しやすいのではないか。

 

その疑念が頭の中を覆い尽くした。

 

するとある報告が入る。

 

「地上の基地より緊急連絡!現在我々は敵部隊の奇襲攻撃を受けているとの事!」

 

「数は?」

 

「わかりません、ただ少なくとも大隊規模の模様!」

 

「前衛の艦を地上の援軍に回せ、我々は敵艦隊の奇襲に備えて待機だ!」

 

ブリッジが一様に慌ただしくなる。

 

疑念通り敵は来た。

 

それも既に地上に敵がいたとは。

 

足元が切り崩されれば艦隊も危うくなる。

 

それは何としても避けたい事だった。

 

だがこの時アーガニルはある程度勝利に確信があった。

 

周辺には友軍艦隊がいるし大隊規模なら送った増援を合わせて基地は防衛出来る。

 

勝利と敗北の確率は五分五分…いや6:4くらいだろう。

 

まだ十分巻き返せる。

 

「友軍艦隊に連絡し増援を請え、その間に我々は防衛陣を敷き直すぞ」

 

「ああ、艦隊再編!」

 

ゆっくりと艦隊が集まる。

 

代わりに命令を出すプリルを傍にアーガニルは再び戦術を練り始めた。

 

だがそのわずかな時間も彼には与えられなかった。

 

艦に振動が響き後方の友軍艦が爆発を起こしていた。

 

「状況報告!」

 

「敵艦がデブリの裏から急速に接近中!友軍艦数隻被弾!」

 

「シールドを展開しつつ反撃!敵前回頭は避けろ、縁を描く様にゆっくりと敵に回り込むんだ!」

 

艦の推力では一回転しているうちに集中砲火を受けて撃沈しかねない。

 

艦隊を円状に二分して回り込めば打撃を受けず包囲することが可能だ。

 

この時の彼は最善の回答を最悪の状況下で編み出していた。

 

「密集隊形を解け!敵の砲撃命中率をできる限り下げるんだ!!」

 

艦隊が徐々に疎らになっていく。

 

「まずは敵艦を潰せ!目標は三隻だ、冷静に押しつぶせば行ける!」

 

「一隻真っ直ぐこちらを目指して突っ込んできます!!」

 

「何!?」

 

敵艦の砲撃を受け艦が揺れ動く。

 

正規軍の使う重レーザー砲だけあって火力は中々のものだ。

 

当然ただやられるほど甘くはない。

 

「反撃しろ!全砲塔一斉射!!」

 

旗艦の砲塔が敵の大型艦に狙いを定める。

 

放たれた砲撃は最初のうちはシールドに阻まれたが徐々にそのシールドも打ち破られ打撃を与えられる様になった。

 

だがそれはこちらも同じだ。

 

敵に与える打撃の分こちらも被害を被っている。

 

まさに艦と艦との一騎打ちだった。

 

「敵のシステムに集中的に狙いをつけるんだ!」

 

命令通り放たれたミサイルが敵艦のエンジンを一つ潰す。

 

既に右舷の一部にも深刻なダメージを与えておりあと一押しで敵艦は戦闘不能だ。

 

「勝利は近い!撃ち続けろ!」

 

あと一押し、あと少しで我々の願いが想いが叶う。

 

真に自由が手に入るのだ。

 

だが不運なのかそれとも敵将の意志の強さなのかは分からないが苛烈さと命中度を増した敵艦の一撃が旗艦に重大な一撃を与えた。

 

「エンジンブロック2番、3番大破!」

 

彼は苦渋の表情を作るが悲劇はまだそれだけでは終わらない。

 

轟音と大爆発が艦を襲い今までにないほどの揺れを引き起こす。

 

「反応炉にダメージ!この艦は…この艦は間も無く重力に引かれ地上に墜落します!」

 

乗組員の一言がアーガニルの心にヒビを入れた。

 

間も無くこの船は沈むのだ。

 

そうすれば著しく艦隊の指揮率が下がるだろう。

 

それでは大打撃を被ってしまう。

 

軋む音と爆発の余波が艦を襲う。

 

さらに不運を呼ぶ報告が彼の聴覚システムに届く。

 

「ハイパースペースより敵艦隊!恐らくゼント中将の敵艦隊です!」

 

「馬鹿な…」

 

崩れ落ちるブリッジの中でアーガニルはハイパースペースから数隻の敵艦が現れるのを目撃した。

 

出現した敵艦隊はありったけの火力をぶつけてきた。

 

戦列に穴が開けられたこの状態では巻き返しは厳しいだろう。

 

敗北は決まってしまった。

 

「指揮官!!」

 

「総員退艦を…」

 

この時アーガニルらしくもないサイボーグらしくもない諦めの言葉が彼の脳裏に過った。

 

退艦してどうする。

 

艦隊の敗北と壊滅はもう決定したも同然だ。

 

ならば夢を見たまま死ねば幸せなのではないか。

 

もう我らには…

 

「いくぞ!!」

 

プリルは崩れ落ちる旗艦の中で彼の手を掴みブリッジを飛び出した。

 

既にあちこちから火の手が上がりスパークや小爆発が乗組員の命を奪う。

 

その光景を見ながらアーガニルは更に悲観的になるがプリルは諦めず彼の手を引っ張る。

 

「早く走って!!」

 

徐々にアーガニルも走り出し2人は艦の脱出ポッド区画に到着した。

 

他の乗組員たちはまだここに訪れていない。

 

「アーガニル、君は絶対に必要なんだ、革命を成功させるためにも」

 

「それはお前も同じだ、俺たち兄弟は誰一人も欠けることなど…」

 

プリルは静かに首を振った。

 

「君が生きていてくれないと誰が他の兄弟を指揮するんだよ、だからさ…頼んだよ」

 

「おい待てプリルそんなこと!!」

 

プリルは全身の力を込めてアーガニルをポッドの中に突き飛ばしスイッチを押した。

 

スイッチを押した瞬間素早く扉が閉まり脱出ポッドは放たれた。

 

だが彼には見えていた。

 

扉が閉まる瞬間プリルが迫り来る爆発の炎に巻き込まれた事を。

 

彼が最後の最後まで自分を信じて笑みを浮かべていた事を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後脱出ポッドのハイパードライブはどこか適当な惑星へとジャンプした。

 

恐らく故障が原因だろうが結果的にアーガニルが革命軍に舞い戻る事はなかった。

 

彼は遠く離れた地で革命の失敗と革命家達の処刑もしくは逮捕を耳にした。

 

その瞬間アーガニルは深く絶望し生きる希望を失った。

 

サイボーグと言っても彼は半分有機生命体だ。

 

当然生きているしある程度の感情もある。

 

特殊タイプとして造られたアーガニルだから当然他のサイボーグよりもそれらはより濃く出ている。

 

彼はさまざまな惑星を流離った後アウター・リムのある惑星で一人己の生命を終わりにしようとしていた。

 

生きる理由も存在する理由も何もない。

 

いまだに自分の中にあるプロトコルはしつこく“()()”の文字を並べているがもうどうでもいい。

 

兄弟もいない。

 

何もかも終わったのだ。

 

銀河系から見捨てられ、何もかも。

 

彼が命を絶とうとした瞬間声が響いた。

 

「おやおや、名将アーガニル殿がこんな所で命を終わらせてしまうとは」

 

その嫌味に満ちた声は彼の手を止めた。

 

アーガニルの目つきは鋭くなり姿の見えぬ相手に対して叫ぶ。

 

「誰だ!!」

 

「おやおや失礼、名乗りを忘れていた…ブラック・サンという名に覚えはありますかね?」

 

彼はハッとした。

 

その悪名高い名に。

 

「我らと共に再びめざすつつもりはありませぬか?貴方の目的を」

 

「だがもう私に力は…」

 

「力は我らが支えましょう、代わりに我らは貴方の知略を借りたいのです」

 

それは最後のチャンスだった。

 

彼のプロトコルがうるさく叫ぶ。

 

革命を成し遂げよ”と。

 

気がつけば彼は再び艦隊を率い革命の真似事をしていた。

 

だがそれでもよかった。

 

もうアーガニルに遺されたものは復讐と革命の達成だけだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「兄弟達よ…見ているか?ついに始まるぞ」

 

アーガニルは亡きサイボーグ達が彼を見つめている様だった。

 

革命の再興を願って。

 

所詮は建前、されど理由としては上々。

 

コルアントにはまだ仲間がいる。

 

救い出してやらねば。

 

共に協力し夢の続きを始めよう。

 

他なる場所からも同志は集まる。

 

だがその火蓋を切るのは我々だ。

 

いや私だ。

 

私の艦隊だ。

 

亡霊に指揮された黒き太陽(ブラック・サン)の艦隊だ。

 

「私は始めるぞ…再び始めるのだ」

 

アーガニルはニヤリと笑う。

 

ようやくなのだ、笑わずにいられるか。

 

「遂にだ…もう何年も待った…さあ行こう、あの眩しき星へ…忌まわしい連中の巣窟へ…!」

 

アーガニルは席を立ち腕を振るう。

 

それはいよいよの命令の合図だ。

 

共和国の小さな大きな危機の始まりだ。

 

「全艦ハイパースペースへ!!目標は共和国首都惑星コルサント!!これより第二次アーカニアン革命を開始する!!」

 

艦隊のエンジンが光り輝き全艦が宙域から消える。

 

それは亡霊達の最後のダンスの始まりだ。

 

夢の続きであり現代の英雄最初の戦いだった。

 

 

つづく

 




いや午前中ぶりですね()
俺はどんどんこっちにお見舞いしていくぞぉ!
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