2人の不死 作:不死になった天邪鬼
「クァイ......お前まさか」
──不死になったのか?
仲間の言葉を聞く前に逃げ出した。
それが問題を未来に遠ざけるただの逃避だと分かっていても、俺には逃げるしかなかった。寂しくて残酷な現実を見たくなかった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
その日はありふれた1日になるはずだった。
いつも通りコミュニティでクエストを受けて、いつも通りの仲間達と一緒にバケモノどもを斃して、いつも通り酒場で潰れるまで呑んで、泥のように眠る。
そんな日常の一幕になるはずだった。
だが、そうはならなかった。
バケモノが前情報よりずっと弱くて狡猾で数が多かったから。
仲間が1人死んだ。不意打ちだった。
1人死んでもやることは変わらない。バケモノを皆殺しないと全員が死ぬ。
少しでも生きるために雪崩のように押し寄せるバケモノどもに剣を振り拳で叩く。
少しでも気を抜けば死ぬ。実はもう死んでいるのかもしれない。正しく死闘だった。生死の区別がつかないままがむしゃらに殺して狩って、そして死んだ。
なのに、首はおろか指の一本も欠けていない。その事実が嫌に不気味で気持ち悪かった。
戸惑っていてもバケモノは減らないから、気持ち悪さを置いてとにかく殺した。
殺せば殺すほどバケモノの中からナニカが俺に流れ込んでくる。拒めないそれも気持ち悪くて剣筋が荒れた。
流れ込むナニカが止まったのはバケモノを皆殺した後のことだった。
何度死んだかわからない。でも俺は生きている。白昼夢のような違和感は消えなかった。
正直、何が何だかわからない。必死過ぎて死ぬ幻覚を見たと考えたかった。
唯一生き残った仲間の俺を見る目を見るまでは。
怯えた目だった。理解できないものを見る目だった。
数時間前では考えられない目で俺を見ていた。まるで格上のバケモノを見るかのような目で。
その目を見て理解した。
俺はバケモノなんだと。死んだのは錯覚ではなく事実で、俺は生き返ったのだと。
理解できてしまった。
「なぁクァイ.......一つ聞いていいか?」
止めろ。言うな。
何を聞かれるか想像がついた。だから、それを聞かれたくないと思った。聞かれたが最後、俺は人ではなくなってしまうから。
まだ微塵で残っている"不死は俺の勘違い、死の危機に晒されて未来視を得ていた"可能性を信じていたいから。
「クァイ......お前まさか」
逃げだした。
その先を聞きたくない。俺はバケモノじゃないと信じていたい。そんな思いで最早唯一になった仲間を血みどろの戦場跡に置き去りにして俺は逃げた。逃げて走って太陽が3度昇る頃に俺は自覚した。俺はバケモノだ。創世物語に語られる不死になったのだ。なってしまった。
不死でもない人間が3日も走り続けられるわけがなかった。
走り疲れて死ぬ度に俺は生き返っているようだった。
そうして俺は、"冒険者クァイ"は、
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
俺がクズになってから約3年経ったある日、俺は傭兵の真似事をやっていた。金を稼ぐためだ。
不死とはいえども腹は減るし疲労は溜まる。それをしのぐには社会的に生活する必要があるし、社会的な生活のためには金が必要だ。
死ねば空腹も睡魔も果ては疲労まで綺麗さっぱり消し飛ぶ身だが、俺は未だに死ぬのが怖い。死ぬたびに大切なナニカが欠けているような気がするのだ。それが何かはわからない。だが、思い出せない記憶が増えた気がする。気のせいかもしれないが。
とにかく、目の前で死ななければ俺が不死だとはバレない。容姿に変化はないからな。
ただ、創世物語には不死はミイラみたいな見た目になると書いてあったから、フルフェイス兜は手放せない。今のところ兆候はないが、念のためだ。俺以外の不死に会わないからどういうきっかけでミイラ化するかもわからない。
傭兵ということもあって四六時中甲冑を着込んでいても疑問に思われない。宿屋でも兜を外さないのは訝しまれたが、顔にデカい傷があると言えば問題なかった。好き好んでエグい傷跡を見たがるやつは少ないからな。少数の物好きとは関わらなければいいだけだ。傷があるのは嘘じゃ無いしな。
とにかく今の俺は傭兵であり、かつてクァイトと呼ばれた人間とは無関係。
そういうことにしている。だからというわけではないが、今後一生名乗るつもりもない。クァイト以外に俺に名前はないからな。同じ名前を名乗って不死だとバレて追われるのは勘弁だ。
不死はバケモノ、忌み者だ。例え不死になる前が王だろうが英雄だろうが、ましてや奴隷だろうが扱いは変わらない。
例外なく世界中のお尋ね者。捕まったが最後、どこにあるともわからない不死院なる牢獄に囚われる。らしい。実際はわからないが殺しても死なないバケモノなんて二度と出てこないように幽閉されるだろうさ。
そんなのはごめんだ。俺はまだ人間だから。せめてミイラになるまでは人として過ごしたい。たとえ四六時中怯える日々を過ごすとしても。
だから俺は今日も仕事に向かう。
何食わぬ顔して同僚に挨拶して、味がしない食事を食べ、酔いもしないのに酒を呑む。そして同僚が潰れだしたら頃合いを見て眠るのさ。浅くて薄い氷のような悪夢を見るために。
これが人としての死を望んだ