2人の不死 作:不死になった天邪鬼
「少し考えればわかるだろう?ああでも」
──落ちこぼれには無理か
いつも通りの罵倒を、いつものように聞き流す。
これが私の日常だった。
吐き気がするほど度し難い、理不尽きわまる
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
突拍子はなかったと思う。
いつも通り学院に行って、いつも通りに魔法は不発し、いつものように罵倒され、家に帰って静かに眠る。
そんな一日になるはずだった。
でもそうはならなかった。
急に学院長に呼び出され、同級生の何人かと一緒にバケモノ退治に行かされたから。
ああいや、バケモノというよりデーモンか。
とにかく不思議だった。魔法が使えない私が行ったところで足手纏いにしかならない。なのに何故か指名された。
一緒に行くのは同級生の中でも優秀な人達だったから尚更。
まぁでも荷物持ちと囮役くらいは出来るだろう。実際彼らも私に戦闘を求めてないだろうし。
せいぜい死なないように頑張ろうと、そう思っていた。
彼らの目に私は映っていないことに気づきながら。
実際のところ、私は現実味がなかったのだと思う。
どうせ私が死んでも
そう思っていたからどこか他人事だった。
だから今、デーモンに食べられそうになっていてもこうして考えることができているのだろう。
手足はもう動かない。流石に一日逃げ回ると体力が尽きちゃった。
デーモンを倒せば生き残れるけど、私に魔法は使えないし同級生は死んじゃった。
だから私はここで死ぬ。
死ぬ瞬間は祈るものだって聖女様が言っていたから祈ることにした。
でも困った。私は神様は信じてない。でもまぁ目を閉じて手を組んでいればそれっぽいか。
そうして空っぽな祈りを捧げながら、なす術もなくデーモンに食べられる。
いつまで立っても痛みが来ない。
痛みなく死ねたのかとも思ったけど、じくじくと痛む体がそれを否定する。
ああでも、どこかの学者が"死者は死んだ瞬間の感覚を永遠に感じ続ける"なんて仮説を提唱してたっけ。
もし仮説が真説なら私はもう死んでいるんだろうけど。
「おい、話せるか?」
ほら、まだ死んでない。
どうやら間一髪で死に損ねたらしい。
「まぁその傷だと話せても動けないか。おい、司教!治療してやれ!」
荒々しいその声が響いた後、温かな何かに包まれた。
まるで暖炉の前で微睡むような温かで穏やかな何か。
"司教"って言ってたし、3種の魔法体系の内の奇跡かな?回復系は奇跡の一強だし。
気がつけば足の痛みも疲労も軽くなっていた。
「おい、話せるか?」
おそるおそる目を開けた。
視界のほとんどは甲冑に占められていた。
赤くて鉄臭い甲冑。赤いのはデーモンの返り血だろうか。背には剣の柄も見えている。
私はこの人に救われたのだろうか?
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
あの後、甲冑さんが色々世話をしてくれた。
司教さんが治してくれたとはいえ全身かなりボロボロだったらしい。
甲冑さんはそれが心配だったようだ。顔も知らない人だけど心配されるのは少し嬉しい。
「おい、枝が出てるぞ。気をつけろ」
「おい、果物を見つけたぞ。食うか?」
「おい、ここは流れが速い。俺が背負って渡るぞ」
「おい、野営は初めてか?寒くないか?」
こんな調子で過保護なくらいに気にかけてくれる。
司教さん達も呆れた様子で眺めてる。でも止めるつもりはないみたい。
ちなみに、私は彼らに名乗ってない。名前は聞かれなかった。聞けば彼らも互いの名前は知らないらしい。
甲冑さん曰く、"名前を知ると情が湧く"らしい。情が湧くと困ることでもあるのかな?
「明日には学院に着くぞ」
甲冑さんがそう言った。
彼らは私を学院に送り届けるつもりらしい。逃げ回っていた時に迷子になったから気づけなかった。
言われてみれば昨日渡った川は見覚えがある気がする。
もう学院に行きたくない。
けどいいや。これ以上甲冑さんたちに迷惑はかけられない。
でも、どうして学院生だって分かったんだろう。
学院に戻った私は早速学院長に呼び出された。学院長は生存を祝ってくれた。少し嬉しい。周りにいる他の教授たちは詰問してきた。やっぱり嫌い。
いろいろ言われてるけど、要は"なぜ私
なんでも私が生き残る時は同級生全員が無傷で帰ってくるはずだったらしい。なのに私だけが戻ってきた。私がみんなを殺すか見捨ててきたと決め込んでるみたい。
そんなことできるわけないのに。
なんだ、デーモンを使って私を殺すつもりだったのか。失敗しても難癖つけて拘束するつもりだったのか。丁度今やってるみたいに。
「いや......なるほど、わかったぞ。お前一度死んだな。そして生き返ったんだ」
は?何を言って
「最近は不死も増えてますからな。こういうこともあるでしょう」
不死って創世物語に語られるアレ?
この人たちはあんな御伽噺を信じてるの?本当にありえない。
不死なんて存在しないし、一度も私は死んでない。
デーモンに殺されていないのは寸前に甲冑さんに助けてもらったから。ただ運が良かっただけだ。
「落ちこぼれのお前が人間のままデーモンから逃げられるわけがない。少し考えればわかるだろう?ああでも落ちこぼれには無理か」
もういい。これ以上
まだなお喚いている人たちを無視して踵を返す。学院長に一言伝えて学院を去った。
帰り道で唯一の学友に会った。彼は何も聞かずに"元気で"と一言。
彼の苦しげな顔が嫌に頭に残った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
学院を去ってから数ヶ月が経った。
私は今冒険者をやっている。
お金が必要ってのもあるけど、甲冑さんを探すため。
甲冑さんのことは冒険者だと言うことしか知らない。
だから、冒険者をやっていたらいつかは会えるよね?
細剣を振って報酬を受け取り、友達とご飯を食べて穏やかに眠る。
それが今の私の日常だった。
続きは気が向いたら書きます