学生時代に好きだったトワイライトを、鬼滅の刃の世界観にアレンジしてみました。
初投稿なので読みにくいところもあるかと思いますが、気長にお付き合いいただけるとありがたいです。
始まり
自分の死に様なんて、真剣に考えたことなどなかった。ここ数ヶ月、考える理由は十分にあったはずなのに。でも考えたとしても、こんなことになるとは、想像もしなかっただろう。
息を潜め、部屋の奥をじっと見つめた。鬼の紅い瞳。相手は愉快そうに見返してくる。
こうして死ぬことに不満はない。死ぬなら、愛する人の身代わりとして死にたかったから。それが叶う。きっと大きな価値がある。
わかってる。鬼殺隊に入らなければ、こうして死に直面することもなかったはずだ。でもたとえどんなに恐ろしくても、あの時決めたことに後悔はない。
短くても、その人生が夢のような日々を少しでももたらしてくれたのなら、その終わりに嘆き悲しんだりするべきじゃない。
鬼は、親しげなほほえみを浮かべ、ゆっくり近づいてきた。わたしを殺すために。
思えばわたしの人生、いつも平凡だった。学校の成績も、運動能力も、容姿も、全て並。良くも悪くもない。この先もそれは変わらなくて、普通に大人になって、結婚して、子育てをして、寿命が尽きて死ぬ。そう思っていた。
そんな平凡な人生に転機が訪れたのは13歳の時だった。両親が目の前で鬼に殺された。その時に鬼を倒した鬼狩りに、鬼殺隊の存在を聞かされた。
「いいか、今日起きたことは、どんなことがあろうと取り消せない。必ずフラッシュバックする。穏やかな世界に住むほど、残酷な思い出は鮮明に蘇る。だから選べ。血の記憶に怯えながら平穏な日常を求めるか、血の記憶から逃げるのではなく、仕事として飼い慣らすか。」
「飼い慣らす・・・?」
「政府非公認の組織、鬼殺隊という鬼を狩る組織がある。俺はその鬼殺隊に所属する隊士だ。最初に言っておく。俺はさっき言った選択肢の後者は勧めない。結局、平凡が一番幸せなんだ。寿命で死にたければ前者を選べ、孤児を保護する施設に送っていく。」
親を目の前で食い殺されて、いきなり今後の人生の選択をさせられているこの状況。普通ならパニックとか起こすものなのかもしれないけど、わたしは意外にも冷静だった。即決した。迷いはなかった。
「後者にします。」
「・・・戻れないんだぞ」
「構いません。」
平凡はもう嫌だ。誰かの役に立てるなら、寿命なんてどうだっていい。
「わかった、じゃあ育手を紹介する。名前はなんという」
「奏多澪(かなた れい)です。よろしくお願いします。」
鬼殺隊に入っても、わたしは平凡だった。入隊した理由も、鬼殺隊では一番よく聞く理由だったし、実力も並。
同期は鬼にされた妹を人間戻そうとする少年、いつもなぜか喚いているけど眠ると異常に強い少年、猪に育てられ、猪の被り物をしている少年、呼吸は使えないけど鬼喰いをする少年。そして自分以外で唯一の女の子、カナヲはほとんど喋らないけど、柱と引けを取らないほどの実力の持ち主。ここでもわたしは目立たない。
呼吸は水、特に派生の呼吸である花に適性があると言われたので、姉が使い手だったという蟲柱、胡蝶しのぶがいる蝶屋敷を拠点に、任務をこなす日々。
カナヲとはいい友達になれそう。口数が少ないのも、わたしにとってはありがたかった。
昔から女の子同士の華やいだ会話は苦手だったから。引っ込み思案というのもちょっと違って、なんというか、人とうまく付き合えなかった。誰にも心を開けないし、友人らしき人はいても、わたしはいつでも1人だった。いつもみんなに距離を感じていた。それに1人でいるのが気楽で好きだった。
時々、自分の目は世界の人たちと違うものを見てるんじゃないかって、不思議になることもあった。もしかしたら、脳に欠陥でもあるのかもしれない。
そんなある日、任務を終えて蝶屋敷に帰る途中のことだった。隠の人がどこからともなく現れ、ある人の屋敷に行くから、一緒に来て挨拶するように言われた。あっという間に目隠しをされ、背負われる。
挨拶する相手は、東城武流(とうじょうたける)。鬼殺隊公認の医者だ。彼は鬼である。
「人間と共存すること」を目指しており、人間の役に立ちたいと、医者として鬼殺隊を支えている。柱からも一目置かれている存在だ。鬼嫌いで有名な伊黒や不死川ですら、尊敬するような存在。
隊士は任務で怪我をして、東城の世話になることが多いため、毎年入隊したら挨拶をしに行くのが決まりなのだという。
しのぶ様からも少し話を聞いていた。尊敬できる医者だと。時々医学について相談する仲らしい。
東城様のお屋敷に到着すると、そこに見覚えのある男の子が3人、こちらに向かって歩いてきた。
向こうもわたしに見覚えがあったらしく、大きな箱を背負った子が話しかけてきた。
「やあ。君、今年の最終選別にいた子だよね?」
「ええ。奏多澪よ。よろしく、えっと…」
「ぼくは竈門炭治郎だ。こっちは我妻善逸と、嘴平伊之助。ぼくたちみんな同期だね。」
「そのようね。みんなも武流さんに挨拶しに来たの?」
「あぁ、今終わって帰るところなんだ。君はこれから?」
「ええ、そうなの。」
わたしが緊張しているのがわかったのか、炭治郎は微笑みながらわたしに話しかける。
「大丈夫だよ。すごく優しくて良い人だから、何も心配することない。」
「ええ、そうよね。これから任務もあるし、緊張してる場合じゃないわ・・・」
「任務?どこ?」
「えっと…たしか、ここから南に5キロくらい行ったところかな。」
それを聞くと、炭治郎の顔がぱっと明るくなった。
「ぼくたちもこれから南に行くんだ。違う任務かもしれないけど、一緒に行こうよ、待ってるから。」
「わかった、ありがとう。」
庭で少し待っていると、建物から人が出て来た。正確には"人"ではないけど…
隠の人がわたしを軽く紹介する。
「東城様。今年入隊した新入隊士をもう1人連れてきました。」
「ありがとう。2人にしてもらえるかな。」
それを聞くと、隠は「御意」というと、すぐに下がった。隠からの信頼も厚いらしい。
「やぁ、はじめまして。君が奏多澪さんだね。わたしのことは、しのぶからも聞いているかな。」
すごく穏やかな口調だ。聞いていて安心する。鬼とはとても思えない。わたしの緊張もすぐに解けた。
「はい、東城様。お初にお目にかかります。奏多澪と申します。何卒宜しくお願い致します。」
自己紹介をして、頭を下げた。しのぶ様とも交流があるのだ、失礼があってはならない。
「こちらこそ。何かあったらいつでもおいで。」
「武流さん、そろそろ回診の時間だ。」
「そうだったね。あ、澪。こちらは司だ。わたしにとっては息子同然の存在でね。」
挨拶の途中で、青年らしき"人"がやって来た。見たところ、同い年くらいか、少し年上って感じ。でも司という名前を聞いて思い出した。彼も鬼だ。
存在だけは知っていた。司様は、武流様の養子なのだと。彼が疫病で死にかけていた時に、当直医だった武流さんに鬼にされて生き延びたらしい。
こうして間近で見ると、恐ろしいくらいに顔が整っている。鬼は人間をおびき寄せるために、端正な顔立ちになると聞いたことがあるけど、それを加味してもだ。きっと、人間だった時から容姿に恵まれていたのだろう。どんなに端正な映画俳優でも敵わないくらい、かっこいい・・・
って、見惚れてる場合じゃない。
とりあえず、彼にも挨拶をしないと…
「今年新規に入隊しました、奏多澪と申します。宜しくお願い致します、司様。」
その時、今まで吹いていた風向きが突然変わり、わたしの方から司様の方にふわっと風が吹いた。その瞬間、彼は端正な顔を歪めた。我慢ならないって感じの顔つきだ。
わたしはびっくりして、赤面しながら一歩下がった。そして彼は反対方向へものすごいスピードで走って行ってしまった。
「司!どうしたんだ、どこに行く?!」
武流さんも訳がわからないという感じだ。
「澪、すまない。普段はあんなことないんだが…わたしにもあの子がどうして行ってしまったのかさっぱり…」
「いいんです、お気になさらないでください。」
わたし、何かしてしまったんだろうか。ただ、挨拶しただけなのに…
変な匂いがするとか?髪を嗅いでみた。お花の匂いがする。お気に入りの洗髪料の香り。許容範囲だと思うけど…
司のほかにも何人か家族がいるようだが、あいにく全員任務に出ているとのことだったため、今日のところは帰ることにした。
モヤモヤしながらも、歩いて炭治郎達の元へ戻ると、伊之助は木に勝負を挑んで突進していたけど、炭治郎と善逸は怪訝な顔をしている。
「澪ちゃん、君、東城司さんに鉛筆でも突き立てたの?すごい形相で走って行っちゃったみたいだけど…」
善逸がわたしに言った。
見られてたのか…急に恥ずかしくなった。
「わたしはただ挨拶しただけなの。でもなんか嫌われたみたい。彼は何も言わないで走って行っちゃった」
「なんだとぉぉぉお?!女の子を無視するなんて、なんて無礼な奴なんだぁぁぁ!!」
「静かにしろ善逸!武流さんに聞かれたらどうするんだ!」
喚く善逸を炭治郎が宥めるが、その炭治郎も不思議がっていた。
「でも確かに理由も言わないで無視なんて、変だね。東城家はとても洗練された鬼殺隊公認の鬼の一族で、礼儀正しいことで鬼殺隊の中では有名らしいのに…」
そうなんだ…まぁ、お館様にも、柱にも認められてるんだからそうよね。
そんな礼儀正しい一族の1人を、わたしは不快にさせてしてしまったの?挨拶しただけで?
言葉遣いも丁寧にしたつもりだった。あんな嫌な顔をされるようなことをしたつもりはないのに…
考え込むわたしを見かねて、炭治郎と善逸が慰めてくれた。
「挨拶しただけなんだろう?澪は何も悪くないよ。」
「そうだよ。きっと疲れてたとか、取るに足らない理由のはずだよ。気にすることないって。」
「ありがとう、炭治郎、善逸。」
それからわたしたちは途中まで隠に背負われ、同じ場所でおろしてもらって、4人で南の町へ向かった。結局、方向が同じだっただけで任務は違ったため、途中で別れることになった。
「今日は会えてよかったわ。みんな気をつけてね。」
「君も。またどこかで会えるといいね!」
炭治郎は手を振って、見送ってくれ、伊之助は善逸に引きずられるようにして連れて行かれる。
鬼殺隊は階級に関わらず、ひっきりなしに任務が入ってくる。今後もしょっちゅう会えるわけではないだろう。殉職率も高いから、これが最後になる可能性もゼロじゃない。
人見知りのわたしでもおしゃべりできて少し元気が出たし、嬉しかった。同期という名の友人がいるのは、何かと心強い。
でもわたしの頭の中は東城司の、あの射抜くような鋭い瞳に、すっかり支配されていた。