鬼滅版トワイライト   作:クッキーマロン

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紹介

 

次の非番の日。また彼は蝶屋敷にやって来た。

 

「今日はどんな予定なの」

「そうだな…うちの家族に君を紹介するっていうのは?」

 

思わずごくりと息を飲み込んだ。

 

「流石に怖くなってきた?」

 

そうならいいのに、と思っているような口ぶりだ。

 

「うん」

 

認める。否定なんてできっこない。

 

「嫌われないかしら…いや、もうすでに嫌われてるかもしれないけど、あなたがわたしみたいな子を紹介しようとお屋敷に連れてきたりしたら、びっくりするんじゃない?」

「鬼の屋敷に行くのが怖いんじゃなくて、みんなに嫌われるのが怖いわけ?」

 

笑っているけど、ちょっと呆れてるみたい。

 

「笑わないでよ、わたしは真剣なの。」

「ごめんごめん。とりあえず着替えておいで、ここで待ってるから。」

 

 

 

着る物がなかなか決まらない。鬼の恋人の屋敷に招かれ、家族に紹介されるときの服装についての解説本なんてあるわけがない。

 

「お待たせ。」

「綺麗だよ。」

 

さらっと言われて、真っ赤になる。こういうことを無自覚でやるからこの人は…

視線を逸らした。

 

「わたし、これからのことについてあれこれ考えないように必死なのよ、だからさっさと出発しない?」

「おまけに君が不安なのは、これから‘’鬼の一家‘’に会うからじゃなくて、その鬼たちに自分が認めてもらえないかもしれないから、なんだよな?」

「そうよ!」

 

全く!わたしは本気だって言ってるのに冗談っぽく言って…

 

 

 

 

ここに来るのは2回目だ。でも正直、ほとんど記憶になかった。だってこの世のものとは思えない美貌の持ち主に挨拶したら無視されて、その理由も教えてもらえなかったから。

 

「改めて見てみると、とっても素敵なお屋敷ね。」

「君が最初に来たのは病棟の方だろう?ここはあそことは違う。住居は別棟だから」

 

ああ、なるほど。

 

「覚悟はいい?」

「全然…でも行くわ。」

 

笑い声をあげようとしたけど、喉に引っかかって出てこない。相変わらず、わたしの喉は役立たずだった。

 

彼の育ての両親、武流さんと恵美さんが、玄関で出迎えてくれた。

 

武流さんとはもちろん面識があったけど、その若々しさと恐ろしいほどの完璧な外見に改めて衝撃を受けた。

 

奥さんの恵美さんは柔らかいキャラメル色の巻毛。小柄で細身な感じ。とっても優しそうな人だ。

 

にっこり微笑んで歓迎してくれているけど、近づいてくる気配はない。きっと怖がらせないように気を遣ってくれているんだ。

 

「武流さん、恵美さん。澪だよ。」

「よく来てくれたね、澪。」

 

先生は計算した慎重な足どりで近づいてきて、ためらいがちに手を差し出した。わたしも前に出て握手する。

 

「またお目にかかれて嬉しいです、東城先生。」

「どうか名前で呼んでくれ」

「武流さん」

 

恥ずかしげに笑いながら言った。司は明らかにほっとしているようだ。

 

武流さんの奥さんの恵美さんも微笑みを浮かべ、握手しようと前に出てきた。ひんやりした、大理石のような感触がする。

 

「よくいらしてくださったわね。」

 

心がこもった口調だった。すごく優しそうな人。お母さんみたい。

 

「わたしもお会いできて嬉しいです。」

 

本心だった。まるで童話の主人公を目の当たりにしたみたい…本物の白雪姫のようだ。

 

「杏と純はどこ行ったんだ?」

 

司が問うが、誰も答えない。しかし次の瞬間、2人が姿を現した。

 

「司!」

 

杏は興奮しながら呼びかけると、走り寄ってきた。黒髪のショートヘアが、外側にぴょんぴょん跳ねている。

 

「こんにちは、澪!」

 

杏は弾けるように身を乗り出し、わたしのほっぺにキスした。ただでさえピリピリしていた武流さんと恵美さんが、これには度肝を抜かれたようだった。

 

わたしもびっくりしたけど、なんだか受け入れられている気がして嬉しかった。司が隣で凍りついたのを感じて、逆にびっくりしたくらいだ。

 

「わあ、確かにすごくいい香り。」

「おい、杏…」

「大丈夫よ、わたしと澪は絶対親友になれるわ!」

 

そこへ純がやってきた。背が高くて、威風堂々としている。司が前にカリスマ性があるって言った意味が、ようやく実感できた。

 

「よく来たね、澪」

「こんにちは、純」

 

純はわたしと距離を置いたままだ。でも、不思議と怖くはなかった。

 

「みなさん、よろしくお願いします。とっても素敵なお屋敷ですね。」

「ありがとう。来てくださって、みんな本当に喜んでいるのよ。」

 

恵美さんの口調には気持ちがこもっている。勇気がある子だって思われてるんだろうか…

 

 

ふと居間の方を見ると、ピアノがあった。すごく高価だろうに…でも外見は和風のお屋敷でも室内はかなり洋風な感じで、ピアノがあっても違和感はない。

 

わたしが目を奪われていることに、恵美さんが気がついた。

 

「あなたも弾くの?」

「いいえ、でもあまりに綺麗なピアノだから…弾かれるんですか?」

「あら?司は自分に音楽の才能があることを言っていないの?」

 

恵美さんは声をあげて笑った。

 

「聞いてません。」

 

彼の方を見ると、とぼけた顔をしている。わたしは目をすっと細めて睨みつけた。

 

「予想はつきますけど」

「ひけらかすような真似はしてないでしょうね?下品ですよ。」

「ほんのちょっとだけさ。」

 

司はニヤリと笑い、恵美さんはその顔に表情を和らげた。

 

「本当は控えめすぎるくらいなんです。」

と思わず庇ってみた。

 

「彼女に弾いておあげなさいよ。」

「ひけらかすのは下品だって、今自分で言ったじゃないか」

 

彼が抵抗する。

 

「どんな規則にも例外はあるんです。」

 

恵美さんが切り返した。

 

みんなの視線に耐えきれなくなった司は、うんざりしたような視線をこっちに向けてから、鍵盤に向き直った。

 

彼の指先が鍵盤を流れるように動き、部屋は綺麗な旋律で満たされていく。あまりに複雑で豊かで、1人で演奏しているなんてとても思えなかった。

 

気がつくと、驚きのあまり口をぽかんとあいてうなだれていた。

 

「どう、気に入った?」

「この曲、あなたが作ったのね」

 

気がついて、息をのむ。彼はうなづいた。

 

「どうした?」

「なんだか、自分がすごくちっぽけに思えてきた。」

 

それを聞くと、彼はテンポを落として、もっと静かな感じに変わった。複雑に重なり合う音符の中に子守唄のメロディーが聞こえてきた。

 

「これは君を想って書いた曲だよ。どう?」

 

なにも言えなかった。感動で。

 

「みんなは君を気に入ってる。」

 

彼は何気なく言った。

 

「とりわけ恵美さんと杏はね。」

 

いつの間にか、部屋は空っぽになっていた。

 

「みんなはどこ?」

「きっと2人きりにしてくれたんじゃないかな」

「みんなって言うけど、百合と徹は…」

「百合のことは心配ない。そのうち折り合いをつける。徹はぼくがいかれてると思ってる。まあその通りだけどね。でも、徹は君をどうこう思ってるわけじゃなくて、百合を説得しようとしてるんだ。」

「百合はわたしの何が気に入らないのかな、会ったことも話したこともないけど…」

「まず何より、僕たちの本性が受け入れられずにいる。それにちょっと嫉妬してる。」

「えっ…百合がわたしに、嫉妬?」

 

信じられない。ありえない。一体どこの世界に、百合みたいな"美の女神"みたいな人が、わたしみたいな子に嫉妬する理由があるっていうの?

 

「君は人間だから。自分もそうだったらって思ってる。」

 

ああ、そう言うことか…

確かに、自ら望んで鬼になるケースは稀だ。

 

「でも純も歓迎している感じじゃ…」

「あぁ、それはぼくのせいだ。あいつは僕たちみたいな"菜食主義"生活を初めて一番日が浅いんだ。それにちょっと事情があって、他の家族よりも血への欲望を抑えるのが難しい。だから君に近づきすぎるなって言っておいた。」

 

それはおそらく、司が言う「自分から言うには荷が重すぎる純の過去」に関係しているんだろう。

 

「武流さんと恵美さんは、ぼくが幸せなら、2人も幸せなんだよ。たとえ君に目が3つあって、水かきがあっても恵美さんは気にしないさ。喜んでるんだよ、ぼくが君のことを話すたびに嬉々としてる。」

「杏はすごく…興奮してたみたいね。」

「杏は独特なものの見方をしてるから。」

「そのことを説明してくれる気はある?」

 

一瞬、沈黙が流れる。彼はわたしに何か隠していて、わたしはそれに気がついている。でも多分教えてくれないんだろうな。今は。

 

それから彼は、家の中を案内してくれた。

 

「こっちが百合と徹の部屋、あっちが武流さんの書斎、それから杏の部屋…」

 

わたしは気がつくと、武流さんの書斎の前に立っていた。

 

「気になる?」

「武流さんって何歳?」

 

質問をさらっと無視して、そっと聞いた。

 

「300歳は超えてる。」

 

思わず彼を凝視してしまった。わたしの瞳には、数えきれないほどの疑問が浮かんでいることだろう。

 

彼は話し始めた。

鬼殺隊公認の医者、東城武流の、苦悩に満ちた過去のことを。

 

 

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