男の鬼だ。わたしや東城一家が鬼殺隊だってわかってるんだろうか?のこのこ出てきたって殺されるだけなのに。そう思ったが、ここにいるのは純粋な娯楽目的だ。隊服ではなく私服だし、日輪刀も持っていない。
どうしたらいいのかわからず、とりあえず司のそばに突っ立っているしかなかった。
鬼は手をひらひら振りながら、にこやかに話しかけてきた。
「やあ。こんなところであんたらに会えるなんて、運がいいな。あんたらを始末すれば、あの方にまた十二鬼月に戻してもらえるだろう。今度こそ上弦に入れるかも。」
「ということは、我々のことは知っているようだね。」
武流さんが落ち着いた様子で探りを入れる。
鬼の瞳には‘’下壱‘’の文字があるけど、ばつ印が付けられている。下弦ノ壱。元十二鬼月…
「ああ。鬼の中じゃ、あんたらは有名だ。人を食わない鬼なんて、他にいないからな。」
「気の毒だが、君を見逃すわけにはいかない。ここで会ったが運の尽きだ。」
「おやおや、それはこっちのセリフだぞ。捕まえようとしてるのはこっちだ。」
「わかってないのはてめーだろ。この人数差で勝てるとでも思ってんのか?」
徹が腕をボキボキ鳴らして、戦闘態勢を取ろうとしている。
「あんたら、今日輪刀持ってないだろ?しかも俺はたくさん人間を食ってる。あんたら‘’菜食主義‘’とは力が違うぜ。」
確かに、こいつのいうことにも一理ある。しかもこっちには人間(わたし)がいる。
その時、風が吹いて、わたしの髪が靡いた。司がその場に凍りつく。鬼もパッと顔をあげ、わたしを食い入るように見た。
全員に緊張が走る。司は歯をむき出しにして、防御の構えを取ると、凶暴な唸り声を上げた。これほど恐ろしい声を聞いたことがない。
「おい、こいつはなんだ」
「私たちの連れだ。」
「連れって、人間じゃないか。」
「下がるんだ」
武流さんは厳しく牽制した。
「なるほど、‘’おやつ‘’を持ってきたわけか。面白い…」
「この場から立ち去れ。お互い譲歩しようじゃないか。君はこの子と我々を見逃す。我々も君の追跡は1時間待とう。どうだ?」
少し沈黙が流れて、ふん、と言うと、鬼は不敵な笑みを浮かべ、その場から猛スピードで去っていった。
わたしは恐怖のあまり、その場に凍りついていた。司に肘を掴まれて初めて現実に引き戻された。
森に入ると彼はわたしを背負い、猛スピードで走り始めて、杏と徹が後を追ってきた。
司は激しい怒りに追い立てられるようにスピードを上げている。わたしを背負っているのに、他の二人が追いついて来られないくらいだった。
「どこに行くつもり?」
張り詰めた口調で聞いたけど、誰も答えないし、見向きもしない。
「ちょっと!わたしをどこに連れて行くつもり?!」
「一刻も早くここから去る。できるだけ遠くに。今すぐ。」
「やめて、一体どうなってるの、説明してよ!」
「仕方がないんだ、頼むから大人しくしてくれ。」
「司、ちゃんと話をしてからにしようぜ」
「うるさい!」
徹が司を落ち着けようとするが、彼は落ち着くどころかイライラして怒鳴った。
「あいつ、骸って鬼は、"追跡者"なんだ。杏、君だって気がついただろう?ぼくはあいつの心を読んだ。獲物を追い詰めることが生き甲斐なんだ。それに取り憑かれてる。下弦の壱を追放されたのも、入れ替わりの血戦で上弦に敗れたからだ。それなりに強い。そいつが澪を狙ってる。他の誰でもない彼女をだ!今夜にもすぐにでも追ってくる。」
「居場所はわかるはず…」
「あいつが澪の匂いを嗅ぎつけるまで、どのくらい時間がかかると思ってる?あいつはぼくが戦闘態勢を取る前からもうやる気でいたんだぞ。」
司が杏の言葉を遮って言った。
ちょっと待って、わたしの匂いを追跡したら、その先には…
「蝶屋敷のみんなが危ない!何されるかわからないわ。置き去りになんてできない!」
「澪の言う通りよ。他の手がないか考えるべきだわ。」
杏が司に説得を試みるが、あまり聞いてないみたい。
「選択の余地はない。それにあそこには柱であるしのぶがいる。継子のカナヲも優秀だ。問題ない。」
「任務でいなかったらどうするのよ!」
司は頭がいいけど、わたしのことになるとかなり過保護になり、視野が狭くなる。
「司、あんなやつ俺たちの敵じゃない。この子に指一本だって触れられるもんか。」
「それでもあいつは諦めない。潜伏して虎視眈々と機会を窺うはずだ。」
「それなら、俺だって狙わせてもらうぜ。」
徹がニヤリと笑って言った。
「わかってないな。一旦本気で狩りを始めたら、あいつは絶対に妥協しない。あいつの息の根を止めるしかない。」
「そうだな。元よりそのつもりだろ、俺たちは鬼殺隊なんだぜ。」
とりあえず蝶屋敷に鴉を飛ばして警告を出した。しのぶは非番で屋敷にいるらしく、カナヲは任務に出ているそうだ。ならなんとかなる…
事情を説明し、蝶屋敷から離れればとりあえずは安全だから、全員そこから避難するよう鴉に伝達させた。
「あいつが攻撃してくる姿は見えないわ。私たちが澪を一人にするまで待つつもりよ。」
「そんな機会は訪れないと、遅かれ早かれ気づくはずだ。」
司がピシャリと言った。
「最低2人、澪と一緒に行動するべきだ。それ以外のメンバーでやつを追う。」
ほとんど喧嘩という名の話し合いの結果、わたしと一緒に行動するのは杏と純で他の司、徹、百合、武流さん、恵美さんで骸を追うことになった。
司は最後まで納得していなかったけど、
『よく聞いて、澪がそばにいるところであいつを始末しようとすれば、彼女が怪我をする確率が上がるのよ。もしくは澪を守ろうとしてあなたがって可能性もある。そうなったら本末転倒よ。だから、あなたは澪のそばにいない方がいいと思う。』
そう杏に説得されて、渋々納得した。
「澪。君の身に何かあったら、たとえどんなことでもぼくは君を許さない。それはわかってるな?」
「うん」
彼は優しい口調だったけど、思わず息を呑んでしまった。
「杏、純は問題ないだろうな」
「ちょっとは信用してあげてよ。いろんな点から考えて、純はかなりうまくやってきてる。」
「君は問題ないな?」
「当たり前でしょ」
司は真剣な表情で、杏に言った。
「予知しても、余計なことは言うなよ」