鬼滅版トワイライト   作:クッキーマロン

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負け戦

 

 

目的地に着いて入り口を通り抜けると、暗くて空っぽだった。でもやっぱり懐かしい。

教室内に、ある音声が鳴り響いている。

 

「澪さん?!澪さんですか?!」

 

なほ!!

その声がする方に近づき、わたしはある収納スペースの襖を開けた。

 

「澪さあーん、助けてえー!」

「今行くわ、なほ!」

「ちょっと二人とも!ギョッとしたじゃないですか!二度とやらないでくださいっ!すみときよもですよ!」

「でもしのぶ様笑いましたよ!」

「作戦成功ですね!」

 

テレビ画面の中で、わたしとなほ、すみ、きよが笑い転げている。しのぶ様も怒っているような笑っているような不思議な表情をしている。

 

いつぞやに計画した、「しのぶ様を驚かせる作戦」だ。なほが面白がって、録音しておいたものが再生されている。

 

ゆっくりと振り返ると、あいつは裏口の脇にじっと動かずに立っていた。私たちは長い間見つめ合う。

 

あいつが微笑んだ。こっちへ向かって歩いてくる。

 

「すまないな、でもこの騒ぎにあの3人組のお嬢さん方を巻き込まない方がいいだろう?」

 

礼儀正しくて、柔かい口調だった。

それでわかった。みんなは無事なんだ。この異常なほど青ざめた顔と暗赤色の瞳に怯えることもなかったんだ。心からほっとした。

 

「そうね。」

「騙されたのに怒ってないんだな」

「ええ。だってあの子たちは無事だってわかったから。」

「本気でそう思ってるんだな。全く不思議だよ。人間ってのは本当に面白い。自分の命を捨てても、誰かを守ろうとする者もいるらしい。」

「あなたには一生わからない価値観なんでしょうね。」

 

骸は興味津々といった様子でわたしを見ている。

 

「愛しの彼が俺に復讐してくれるって言いたいんだろう?」

 

まるでそう望んでいるような口調だ。

 

「まさか、そんなことない。少なくともわたしはやめてと頼んだもの。」

「そうか。で、返事はなんだって?」

「わからない。手紙を残してきただけだから。」

「中々ロマンチックじゃないか。‘’さよならの手紙‘’ってわけだ。あいつが君の頼みを聞いてくれると思ってるのか?」

 

頼みを受け入れられたら困る、と言った様子だ。声が少し厳しくなった。

 

「わたしはそう願ってる。」

「なるほど。つまり、俺たちの願いは一致しないってわけだ。あいつが君の希望に沿わないことを祈るとしよう。」

 

わたしは何も言えなかった。さっきまで普通に受け答えできていたことが嘘みたい。

 

「これがなんだかわかるか?」

 

手には何か黒い機械が握られている。見たこともない機械のようだ。

 

「これは映像を残しておける機械だ。海を泳いで異国に行った時に頂戴してきたんだ。外国には日本にはない便利なものがたくさんあるようだ。君の姿も声も保存できる。愛する彼に、君も何か残したいだろう?」

 

鬼に体力の限界はほぼないに等しい。泳いで他の国に渡ることも容易いんだろう…

 

「それにしても君は不幸だったな。俺の狙いはあいつ、東城司だ。君じゃない。君は運悪くあの場に居た、ただの人間にすぎない。付き合う相手を間違えたな。」

 

相手は微笑みながら、わたしに近づいてきた。吐き気がする。

 

これからわたしは痛い目に遭わされる。あいつの瞳が、そう語っている。ただわたしの血を飲んで喰い、飢えを満たすだけで済ますつもりはないんだ。

 

わたしの周りをゆっくりと歩いている。なんだか品定めをされているみたいだ。「稀血じゃない割にはいい香りだ」、とかなんとかぶつぶつ言っている。

 

骸はすっと身をかがめた。攻撃の構えだ。

ニヤリと笑い、歯がむき出しになってぎらぎら光る。

 

無駄だとわかっていても、わたしは反射的に逃げようと裏口へ走った。

 

でも次の瞬間、やつは目の前にいた。ハッとする暇もなく、凄まじい一撃が鳩尾を直撃した。後ろに吹っ飛ばされて、頭が壁に叩きつけられる。ガラスがバリバリ割れる音がした。鏡は歪み、破片が散乱する。

 

あまりの衝撃に、痛みは感じなかった。

あいつがゆっくりと近づいてくる。

 

「なかなかいい演出だったなあ。」

 

わたしは聞こえないふりをして、四つん這いになったまま、もう一つの出入り口に向かおうとする。でもすぐに襲ってきた。

 

片足でわたしの脚を踏みつけてきた。ゾッとするような悲鳴が響き渡った。嘘みたい、自分の声だ。

 

「泣き叫ぶ君をみたら、あいつも俺を追おうとするだろう。そしたらもっと楽しめそうだし、返り討ちにして倒せば、あの方にまた十二鬼月に戻していただける。」

 

わたしの意識は飛びかけている。でもありったけの憎しみを込めて、あいつを睨んだ。するとやつは面白がって、わたしの折れた脚をぐいっと押した。

 

絶叫する、というのを初めて体現した。まさにこのことだ。苦悶の絶叫。

 

「痛いよなあ?本当に人間は脆い。愛する彼に、俺を追いかけてもらった方がいいんじゃないか?」

「だめよ!」

 

案の定、辛うじて出た声は掠れていた。

 

「だめ、お願いだから…」

 

脚の痛みに加えて鏡が突き刺さって、頭の皮膚が切り裂かれるのを感じた。あたたかい濡れたものが、畳に染み込んでいく。

 

もうこうなったら、さっさと終わらせてほしい。早く息の根を止めて。わたしをこの痛みから解放して。それだけを願った。

 

痛みと吐き気、そしてめまいの中で、希望が見えた。さっきまではただ楽しげだったあいつの目が、今では抑えきれない欲望に燃え上がっている。

 

この部屋は血だらけだ。わたしが大量に失血したから、あいつは血への欲望に駆られている。どんな計画だったにせよ、もうそれほど長いことわたしをいたぶってはいられないはずだ。

 

さっさと終わらせて。

 

薄れていく意識の中で、わたしはひたすらそう祈った。

瞼が閉じていく。そしてわたしの意識は遠のいていった。

 

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