鬼滅版トワイライト   作:クッキーマロン

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贈り物

 

感覚も感情もない世界に戻りたい。でも、どうやっていたのか、もう思い出せない。

 

忙しくすることで無理矢理塞いでいた心の傷口が、ズキズキと疼く。

 

ーーーぼくなんて最初から存在していなかったかのように。

 

彼の言葉が頭の中を駆け巡る。

この間聞こえた幻聴のようにはっきりとはしていないけど。

 

こんなこと、いつまで続ける?

いつの日か、何ヶ月、何年後かにこの苦痛が耐えられるくらい和らいだら…彼と過ごした、もう二度とない人生最高の数ヶ月を思い返せるようになるかもしれない。

 

そこまで苦しみが薄らぐことがあるとしたら、きっと彼が与えてくれた時間に感謝する。わたしにはもったいないほどの時間だった。

 

でも…胸に空いたこの穴が、よくならなかったら?剥き出しの傷口が塞がらなかったら?

 

ーーー無茶なことや馬鹿なことはしないでくれ。

 

なんてバカバカしい、ありえない約束なの?

どう足掻いても、わたしたちが出会う前の世界に戻ることはできない。

 

馬鹿みたいだ。自分はそんな約束を必死に守ろうとしていたなんて。

 

彼はもういない。帰ってこない。約束を守る義理はないわけだ。わたしが無茶な真似をしたって、彼にはわからない。

 

馬鹿な約束を1人で守り抜くのをやめれば、無茶をすれば、少しは気が晴れるかも。そう思っていた時だった。

 

 

 

 

蝶屋敷に行くと、炭治郎、善逸、伊之助がいた。

 

「みんないたのね」

「あ、澪!久しぶり!」

「澪ちゃん!」

「子分じゃねェか!」

 

炭治郎たちもわたしに気がついて駆け寄ってくる。

 

「なんだお前、前に会った時と違うな?!ちっこくなったっつーか、痩せたか?もっと食わねえと強くなれねェぞ!夕飯は肉食え!」

「あのさぁ、お前もう少し気を遣うってことをさぁ…」

 

伊之助のことを善逸が嗜めるが、伊之助は何を言われているのか、よくわかっていないようだった。

 

みんな気を遣ってくれるけど、それがかえって申し訳なくなるから、正直伊之助みたいにズバズバ思ったことを言ってくれる方が楽だったりする。

 

「身長160センチで40キロは平気値だと思うけど。」

「40?!澪、君やっぱり今夜はお肉食べた方がいいよ、アオイさんに頼んでくる!」

「炭治郎、お前も気を遣えってんだよ!」

 

こういう時、意外と炭治郎はボケる(本人はいたって真剣)ため、善逸はツッコミ役だ。

 

この3人のことは好きだ。面白いし、見ていてとても楽しい気分になる。心の傷が和らぐ、数少ない瞬間だった。

 

伊之助がやりたい放題やり、炭治郎と善逸がツッコんで、大体善逸と伊之助が喧嘩を始めて収拾がつかなくなる。

 

今日もそのパターンで、女の子の扱い方について善逸が力説するも、伊之助に「意味わからねェことを抜かすな」と切り捨てられて善逸がブチ切れ、取っ組み合いの喧嘩をし始めた。

 

やれやれといった感じで、炭治郎が2人から離れて、わたしの方に歩いてきた。

 

「ごめんね、騒がしくて」

「いいの、みんな相変わらずね。元気そうでよかった。」

 

炭治郎はわたしに向かってちょっと気まずそうに微笑んだ。

 

きっと「君も」と言おうとして、やめたんだろう。明らかに最近のわたしは元気じゃなかったから。

 

「聞いたよ、戊に昇格したんだって?」

「ええ。」

「すごいなぁ、ぼくはまだ庚だよ。」

「ひっきりなしに任務に出てたからよ。炭治郎だって下弦の伍を討伐したんでしょう?すごいことだわ。それに最近常中を会得したって聞いたわ。すぐ追いつくって。」

「澪」

 

炭治郎はわたしの方を真っ直ぐ見ている。

吸い込まれそうになる、赤い瞳だ。

 

「今は辛くても…いずれ楽になる時がくる。完全に辛い気持ちがなくなることはないかもしれないけどね。でも、唯一苦しみが和らいでいく手段があるんだ。」

「なんなの?」

「時間だよ。長くかかるかもしれないけど、時が経てばそれだけ、少しずつ楽になっていくんだ。」

「…そうね。」

 

でも、わたしにはまだ無理だ。任務に行って忙しくすること以外に、苦しみを和らげる手段を見つけられない。時間だって、まだ数ヶ月しか経ってないのだから。

 

「そうだ、伊之助が面白いものを見つけてさ。ちょっと見てみない?」

「面白いもの?」

 

炭治郎について行くと、そこには見慣れないものがあった。

 

「これ何?」

「バイクだよ」

「ばいく?」

「海外の乗り物らしい。自転車よりずっと早く移動できるものらしいよ。」

「へぇ…」

 

聞けば、任務で都会の方に行った時、道端に捨てられているこれを見つけて、興味津々だった伊之助が拾ってきたらしい。

 

 

時々、運命はいたずらを仕掛ける。

それが偶然なのか、何か意味があるのかはわからないけど…多分これは運命のいたずらじゃない。無茶をする方法なんてこの世にはごまんとある。今になって、わたしが目を向けただけだ。

 

 

「じゃあ、これ修理してみない?動くかも」

「え、乗りたいの?」

 

炭治郎は意外だと言わんばかりの口調だ。

 

「えぇ、楽しそうだわ。ちょうどしのぶ様から任務と鍛錬以外のことをしろってしつこく言われてたところだし…みんなさえよければ、非番の日に集まって修理してみない?」

「いいね!善逸と伊之助にも言っておくよ。」

 

正直、バイクに興味があるわけでも、乗りたいわけでもない。でも早速何か無茶をできそうなことが見つかって助かった。

 

わたしたちは約束通り、任務の合間に集まって修理を重ねた。

 

炭治郎、善逸、伊之助と過ごす時間はとても楽しくて、自分でもびっくりするくらい、心の傷が癒えていくのを感じていた。

 

そして2ヶ月後には、なんとかバイクを原型に近い形にすることができた。

 

司。

約束は守るためじゃなくて、破るためにあるものなのよ。

 

 

 




大正時代にも、バイクはあったようです。一応調べました。
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