鬼滅版トワイライト   作:クッキーマロン

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一歩踏み出して

 

心の中に入られて喜ぶ人間はいない。

夢も同じだ。

 

ここが夢だと教えるまでは、本人は夢が現実だと思っている。

 

『夢の中だと知らせると、本人の潜在意識が異物を感じ取り、排除しようと攻撃してくるから、動きづらくなる。でも、本人が必死に目覚めようとすれば、その分隙ができる可能性もある。精神の核を破壊するには、それに賭けるしかない。とりあえず、味方だと思ってもらわないと…』

 

「夢と現実の境目はないんです。ここからが夢だって、わかって見ている夢はないですよね?ここが現実だとしたら、あなたはどうやってここに来たか覚えていますか?」

「……」

 

たしかに、全く覚えていない。わからない。いきなり場面が変わって…

 

「覚えていないということは、ここは夢の中なんです。今この瞬間にも、何者かが夢を使ってあなたの心に侵入しようとしています。ここにいては危険です。」

 

そう言うと、少女は空を見上げた。

 

「天気が変ですね。重力も、なんだか違和感を感じませんか?」

 

外を見ると、晴れているのに雨が降っている。

 

そして平衡感覚も変だ。なんだかさっきから、地面が傾いているような気がする。

地震かと思っていたけど、まさか本当に夢の中なの…?

 

疑問を持ち始めているわたしを見て、少女は畳み掛けるように言う。

 

「ここが夢であると認めてください、わたしが守りますから。」

「わ、わかった…」

「では聞きます。現実の世界では、あなたは何をしていましたか?」

「えっと…わ、わからない…」

「ついさっきまで見ていた夢を思い出せないのと同じで、夢の中で現実のことを思い出すのは、とても難しいんですよ。でも、頑張って思い出してください。」

「たしか…」

 

司…

鬼…

鬼殺隊…

任務…列車…

 

列車?そうだ、列車の中!

 

「列車の中、だった…!」

「だからです、さっきから重力がおかしいのはそれが理由です。カーブに差し掛かっていて、身体が傾いているんですよ。わたしはあなたの心に侵入しようとしている人物から守っています。今この瞬間も危ないんです。」

「わ、わかった…どうすればいいの」

「ついて来てください」

 

こうして少女はうまく澪を連れ出した。一緒に歩きながら、夢の境界線を探る。

 

『ここだ…』

 

一つ下の階層でも、夢の端まで来た。

少女はおもむろに錐を取り出す。

 

「あの、それは何…?」

「許して、幸せな夢を見るためなの!」

 

澪の質問には答えず、少女は錐を振り下ろす。

 

しかし。

 

キィン!と音を立てて、錐が弾かれた。何度やっても、バリアのようなもので守られているようで、破れない。

 

やはり、ここでも無意識領域に入れない。

一体なぜ…?

 

せっかく夢の深いところ、夢の中の夢にまで来たのに。

 

少女は驚きで目を見開き、数歩後ろに下がると、へなへなとその場に座り込んだ。

 

「あの方に、怒られる…精神の核を破壊できなかった…」

 

あの方?精神の核?

聞いてもよくわからない。

 

「大丈夫?あの方って誰?わたしにできることはある?」

「あったわ、精神の核を破壊して、廃人になってくれればよかったの!!」

 

少女は涙をボロボロこぼしながら半ば叫んでいた。

 

「それだけでよかったのに!そうしたらまた素敵な夢を見せてもらえた!」

「ねぇ、その人に弱みでも握られてるの?それとも大切な人を人質に取られてる?」

「そんなんじゃない!わたしにとって大切な人なんて、もういない!」

 

そう言うと、少女は今までのことを話し始めた。

 

「お父さんもお母さんも鬼に食われて死んだ。でも、誰も鬼がやったなんて話、信じてくれなかった。だから精神病院に入れられたの。」

 

わたしは絶句した。

こんな、まだ10歳前後のか弱い女の子を、精神病院に…?!

 

「それから毎晩、悪夢を見るようになった。両親が殺される夢。ある日、そんな日々から解放されたくないかって、幸せな夢を見たくないかって、声をかけてきた人がいたの。」

 

息を呑んだ。

彼女が言う"人"は、おそらく人ではないと悟ったから。

 

「すぐに飛びついたわ。その人が病院から出してくれて、この列車に乗せられた。」

「……この列車で、40人以上行方不明になってるの。まさか、そいつが…?」

 

少女は俯いた。

 

「自分が悪いことをしているっていう自覚はあった。自分たちが廃人にした人を、あの方がどうしているかも…薄々わかってた。」

 

喰われた。そういうことだろう。

 

「それでも…幸せな夢を見せてもらえると思ったら、やめられなかった。もう二度と、悪夢は見たくない…何もかも、なかったことにしたいのに…」

 

わたしはかがみ込み、少女と目を合わせた。

 

「わたしもね、両親を鬼に殺されたの」

 

今度は少女が息を呑んだ。

 

「だから、あなたの気持ちはよくわかる。今でも時々、両親が殺された時の夢を見るし。でもね、どんなに悲しくても、打ちのめされても、生きて行くしかないの。前に進むしかない。」

 

それを聞いて、少女は顔を歪めた。その言葉は聞きたくないと言わんばかりに。

 

「非情な言葉に聞こえるかもしれないけど、紛れもない真実で、現実なの。そしていずれ、あなたを心から愛してくれる人が現れた時…ほんの少し気が楽になるわ。」

「わたしにも、そんな人が現れる…?」

「現れるわ、絶対よ。保証する。このわたしでさえそうだったもの。」

 

ふと司の、あの完璧な美しい顔が頭に浮かんだ。

 

「わかった、ごめんなさい…」

「わたしの仲間も眠っているとしたら、相当まずいわ。どうやったら夢から出られる?」

「……あんまり楽しいものじゃないの」

「教えて」

「わたしは何度やっても慣れない。感覚はリアルだから。」

 

少女は顔を顰めると、思い切ったように言った。

 

「夢の中で死ぬの。」

「!それって、普段見てる夢の時と同じなのね。」

「確かに、死ぬ直前で目が覚めたりすることはあるから、それと似てるかも。」

「手段は何でもいいの?」

「えぇ、何を使っても、どんな方法でもいい。とにかく死ねば目が覚める。」

 

 

 

 

これは夢だ。わかってはいる。

 

でも、躊躇せずにはいられない。しかも、悠長に自殺方法を選んでいる時間なんてない。今この瞬間にも、列車内の乗客に危害が及んでいるかもしれないのだから。

 

考えた結論は、飛び降りだった。

一度やったことがあったし、打ち付けられた瞬間に目が覚めることを祈った。

 

ここは夢の中だ。自分が考えたものがそのまま作り出される。

だから、わざわざ崖のような場所を探す必要はない。

 

ふと場面が変わり、わたしは崖の淵に立っていた。あとは一歩踏み出すだけ。

 

わかっている。あの時とは違う。

前に崖から飛び降りた時は、司の声が聞きたくて、わざと危険なことをしようとした。

 

今はもう危険なことはこりごりだし(まぁわたし自身が災難を呼ぶ磁石だけど)、目を覚ますためだ。やるのよ!

 

わたしは一歩踏み出した。吸い込まれるように地面に近づく。衝撃を受けたと自覚した瞬間、わたしの意識は何かに吸い寄せられるように上昇した。

 

 

 

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