「はっ!!?」
飛び起きると、そこはやはり汽車の中だった。
「むー…」
「禰 豆子ちゃん、無事だったのね!」
通路を挟んだ隣の席には、伊之助と善逸が寝ている。その前には煉獄さんも。なぜか少女の首を掴んでるけど…
でも炭治郎はいなかった。
「お兄ちゃんはどこいったかわかる?」
「む」
禰 豆子ちゃんは天井を指差した。
そうか、車両の上にいるんだ。そこに、わたしたちに夢を見せていた鬼がいるのかもしれない。
「わたしはお兄ちゃんと一緒に鬼を探すから、禰 豆子ちゃんは煉獄さんたちを起こしてくれる?」
「む!」
とりあえず、禰 豆子ちゃんと別れて走り出す。
「炭治郎ー!!澪だけど!いるなら返事してー!」
「澪、ここだ!5両目の上にいる!」
ジャンプして車両の上に乗り、少し走ると炭治郎と合流できた。
「炭治郎!ごめん遅くなって。」
「いや、君も起きる方法わかったんだね。」
「鬼が近くにいる?」
「多分。匂いがかなり近くなってるんだ、多分…」
そう言って前方を見ると、人影が見えた。
お互い顔を合わせて頷くと、日輪刀を構え、気配を消して近づいていく。
「あれぇ、起きたの?おはよう〜まだ、寝ててよかったのに〜」
そう言って、手をひらひら振っている。
こいつ白々と…!
「せっかく良い夢を見せてやっていたでしょう?家族の夢、そっちの君にはボーイフレンドと幸せに過ごす夢。夢っていうのは、本人の潜在意識が強く反映される。君たちに見せたのは幸せな夢だから、君たちの願望が夢に現れたんだろうね。もし家族が殺されずに生存している世界、ボーイフレンドが鬼ではなく人間として出会っている世界か。なかなか魅力的じゃないか。」
即刻こいつの頸を跳ねてやりたい。
そう思っていたら、炭治郎からもすごい殺気を感じた。
「人の心の中に土足で踏み入るな!俺は」
「わたしは」
「「お前を許さない!!」」
わたしも、本当に怒り心頭だった。
わたしの夢の中に入った少女。彼女を含め、子供を利用して心が痛まないなんて正気じゃないし、絶対に許せない。
『男の方は耳に飾りをつけてるな。無惨様が始末しろって言ってた奴だ。運がいいなぁ、向こうから来てくれるなんて。夢みたいだ、これでもっと無惨様の血をいただける…!ん?それで後ろにいる女は…』
今まで何人もの人間に夢を見させて、廃人にしてきた。でも澪は精神の核に到達するどころか、無意識領域にすら入れなかった唯一の人間だった。
「水の呼吸、拾ノ型 生々流転」
「花の呼吸、淕ノ型 渦桃」
炭治郎と澪はそれぞれ技の構えを取り、それを見た魘夢も血鬼術を発動させた。
「強制昏倒睡眠の囁き お眠りィ〜」
くる!
すぐに自決する覚悟を決めるが、風景は変わらない。
「炭治郎!!」
そして次の瞬間、炭治郎が体勢を崩した。慌てて構えを解き、彼が車両から落ちないように手を引っ張る。数秒後、炭治郎は自力で目覚めて再び構えを取る。
『(効いてない…?)眠れ』
間髪入れずに血鬼術が襲いかかる。炭治郎が術にかかるたび、わたしは彼が落ちないように支えた。
この術、炭治郎にだけ向けられてるんたろうか。わたしは弱いから、見向きもされてないんだ。そう自分に言い聞かせる。
『違う、この男は何度も術にかかっている。その度にかかったと自覚して、覚醒のための自決をしている。夢とはいえ、感覚はリアルだ。相当な胆力がいるのに…!
かかっていないのは女の方だ。こいつは術にかかってすらいない。今まで俺の術が効かなかった奴はいなかった。今いる柱でさえかかっているというのに…!
それにだ、この女の夢に入った子供が襲われたことからして、おそらくこいつはなんらかの防衛能力があるに違いない。』
その直後に夢から覚めた炭治郎は、悪夢を見せられたのか、さらに殺気立っていた。
「言うわけがないだろうそんなこと!俺の家族が!俺の家族を、侮辱するなーーー!!」
不自然なくらいあっさりと、鬼の頸が斬れて落ちた。
こんなに簡単でいいの…?
それは炭治郎も感じているらしく、わたしたちは顔を顰める。
まだ終わってない。
絶対に何かある。
「あの方が…」
喋ってる?!
声がする方に、わたしと炭治郎はバッと振り返る。
「柱に加えて耳飾りの君を殺せって言った気持ち、凄くよくわかったよ。存在自体がなんかこう…とにかく癪に触ってくるかんじ。」
頸を斬っても死なない!?
「素敵だねその顔!そういう顔を見たかったんだよ。頸を斬ったのにどうして死なないのか教えて欲しいよね?いいよ、俺は今気分が高揚しているから。赤ん坊でもわかるような単純なことさ、それがもう本体ではなくなっていたからだよ。今喋っているこれもそうさ、頭の形をしているだけで頭じゃない。君たちがすやすやと眠っている間に、俺はこの汽車と融合した!」
本体が別にいる。それもおそらく人ではない形で。どうやって探し出す?
乗客を守りながら探して十二鬼月を斬るなど、2人では絶対に不可能だ。
「この汽車のすべてが俺の血であり、肉であり、骨となった。この汽車にいる乗客200人余りが俺の体をさらに強化するための餌であり、人質だ。守り切れる?端から端までうじゃうじゃしてる人間達全てを、俺にお預けさせられるかな?」
そう言うと、魘夢は列車の中に消えた。
「まずいな、どうする…?!」
「とりあえず乗客の安全確保が優先だわ、善逸たちが目を覚ますまで、2人で分担してなんとかやってみるしか」
「そうだな、でも2人じゃ…煉獄さん、善逸、伊之助!!寝てる場合じゃない、起きてくれ頼む!!禰 豆子ーー!眠っている人たちを守るんだー!」
炭治郎が叫んだその時、車両の天井を突き破る音が聞こえた。
「ついてきやがれ子分ども!猪突猛進!伊之助様のお通りじゃあああ!」
「伊之助、この汽車はもう安全なところがない!汽車全体が鬼になってるんだ!乗客を守ってくれ!」
それを聞いた伊之助は、自分は親分として申し分なかったとかブツブツ言っていたけど、みんなまとめて助けてやるとやる気になったみたいなので、一安心だった。
かと思えば後ろの方の車両からは雷鳴のような音が聞こえた。
あれは善逸の技?みんな起きたの?状況が全然わからない。連携が取れない…
そう思っていた時、いきなり目の前に炎を纏った羽織が見えた。この羽織は…
「奏多少女!」
「煉獄さん!」
「ここに来るまでにかなり細かく斬撃を入れてきたので、鬼も再生に時間がかかると思うが、余裕はない、手短に話す。」
「はい!」
「この汽車は8両編成だ、俺は後方5両を守り、残りの3両は黄色い少年と竈門妹が守る。君と竈門少年、猪頭少年はその3両の状態に注意しつつ、鬼の頸を探せ!」
「頸って…、でもこの鬼は」
「どんな形になろうとも、急所はある!」
「炭治郎たちはどこですか?」
「君に言ったことをさっき伝えたから、この近くにいるはずだ。君も気合を入れろ!」
そう言うと、一瞬で移動して行ってしまった。
すごい…!って感心してる場合じゃない、早く合流しないと…!
すると炭治郎の声が聞こえてきた。
「澪、どこだー?!」
「ここよ、今行く!」
「前方に急所があるらしい!伊之助と向かってるから、君も1両目に向かってくれ!」
「わかった!」
先頭車両に着くと、伊之助がいの一番に手を上げようとしている。
「待って伊之助、注意しないと…!」
案の定、鬼の手が何本も出てきて、伊之助に襲いかかる。
必死に避けているが、頭と腕、足を封じられた。まずい、と思ったその時、炭治郎が動いた。
『水の呼吸 淕ノ型 ねじれ渦!』
「炭治郎、伊之助!頸はどこ?!」
「それが、この真下みたいなんだ…」
でも、下を見ても何もない。鉄板の床があるだけだ。まさか…
『獣の呼吸 弍ノ牙 切り裂き!』
伊之助が技を繰り出すと、あらわになった。骨が。頸の骨が。
正直言って、気持ち悪くて吐き気がする。
炭治郎が技を出すも、肉ですぐに防がれ、裂け目が塞がった。
「伊之助、澪!呼吸を合わせて連撃だ!誰かが肉を斬り、残りが骨を断とう!」
「そうね!」
「良い考えだ、褒めてやる!」
行くぞ、と動き始めたその時。目の前に無数の眼が現れた。
血鬼術…!!
『強制昏倒睡眠・眼』
次の瞬間、炭治郎の声が響いた。
「伊之助、澪!夢の中で自分の頸を斬れ、覚醒する!」
夢だと認識できるよう、風景が変わった瞬間に自決する覚悟を決める。でも何も起こらない。
まさか、これも夢とか…?
でも、横を見ると炭治郎が白目になっていたけどすぐに覚醒していた。
ということは、ここは現実だ、間違いなく。
まさか、自分は術にかかってない…?
そんなことを考えていたら、炭治郎が自分の首に刀をかけていた。
まずい、夢と現実を混同してるんだ!このままじゃ…!
駆け出した瞬間、わたしより先に伊之助が炭治郎の手を掴んで止めた。
そうか、伊之助は被り物を被ってるから、視線をどこに向けているのか分かりづらいんだ。
なんて悠長なことを考えていたら、今度は先頭車両にいた車掌が、伊之助に猛スピードで突っ込んでいくのが見えた。
「伊之助!」
まずい、あれは夢の中にいた時に見た、少女が持っていた錐だ。あれで刺されたら…!!
しかも伊之助は上半身半裸のため、隊服の防護もない。
咄嗟に伊之助と車掌の間に入った。無我夢中で、後先考えないで。
当然、錐は突き刺さった。わたしの脇腹に。
痛みで一瞬顔が歪むけど、とりあえず車掌さんの首を突いて気絶させた。
「澪!!」
「子分!!」
炭治郎と伊之助の声が聞こえたけど、今はわたしのことより鬼の頸だ。骨を断たないと…!
「澪!大丈夫?!」
「大丈夫だから!2人は鬼の骨を!!…っ…!」
喋ると、傷口から血が滲んだのがわかった。
まずい…鬼を斬るのは2人に任せるしかない。
「ごめん、援護はするから、2人で鬼の頸を…!」
「もちろんだ、任せて!くれぐれも無理しないで!」
「あとは親分に任せておきやがれ子分!」
伊之助が骨を露出させ、炭治郎が斬る。
炭治郎の刀の切先が、赤く染まった。
彼は確か水の呼吸のはずなのに、なぜ赤…?でも、凄く華麗で、まるで舞のような…
『ヒノカミ神楽 碧羅の天!』
そして次の瞬間、魘夢の絶叫が響き渡り、汽車が脱線し始めた。
澪は魘夢の血鬼術が効かないのに列車内で術にかかったのは、切符を介したためです。
直で食らうと効きませんが、切符を切るという物理的動作を挟んだので術にかかりました。
澪が魘夢の術にかからないのは、司が澪の考えを読めないのと同じで、澪は精神的なものを防ぐ能力を持っているからです(本人は無自覚)。