今、彼は何て言った?
聞き間違いじゃなければ、結婚、とか…言った気がするのはわたしだけ?
「……で、この話のオチは何?」
司はため息をついた。
「恥をかかせないでくれよ澪、ぼくはたった今、君に求婚したんだぞ。それなのに君は冗談扱いするのか?」
「司、ふざけないで。」
「真剣な話だって言っただろ。ぼくは本気だ。」
彼は本当にまじめくさった顔でわたしを見つめる。この瞳からは逃れられそうにない。まさか、本気なの?
「だってわたし…まだ17歳なのよ。」
「澪、ぼくはもう200歳を超えてるんだ。いい加減身を固める時期だよ。」
わたしは理解が追いつかなくて、顔を背けた。それを見て、彼は顔を顰める。
「嫌なのかい?」
「そうじゃないわ、だって…お館様が許さないでしょ、結婚だなんて」
「そっちの心配?お館様にはもう許可を取ったよ。」
「なんですって?!」
驚いて、思わずバッと振り返る。
「許可されたの…?!」
「君のご両親は亡くなってるからね。誰に許可を取るべきか考えたら、真っ先に浮かんだから。」
嘘でしょ、鬼殺隊を束ねるお方が、人間と鬼の結婚を許した?信じられない。
「信じてないね?まあ無理もない。ぼくも最初はそうだったからね。でも、ぼくが許しを乞うた時、お館様はなんて仰ったと思う?」
『わたしに止める権利はないよ。君は澪なしでは生きていけないみたいだからね。彼女を失ったら君がどうするか…あんな形で死を選ぶと知った以上はね。でも、当初の条件を忘れないで。澪を傷つけないこと。それを守れるのであれば、わたしは何も言わない。人の想いは永遠で、不滅だからね。』
「だってさ。でも、お館様より難関なのは…」
「……しのぶ様ね。」
「そうだ。許されるとは思えなくてね。君を散々傷つけてしまったから、憎まれてて当然だ。それはぼくも同じで、自分自身を許せずにいるところだし。黙って結婚するのも考えたが…筋は通したいし、報告は避けられない。」
「まぁそんなに心配ないわよ。反対されたら、蝶屋敷を出て行くから。」
「それはつまり、返事は"はい"ってこと?」
彼が身を寄せてくる。灰色の瞳は優しくとろけ、でも燃えるように激しく、わたしの集中力を粉砕する。
「答えてくれ、頼むよ」とため息混じりに問いかける。
「指輪を差し出せばもう少しすんなりいったのかな?」
「いいって、そんなのいいから!そんなものなくたって、わたしはあなたしか…え、うそ…」
目の前の光景に思わず言葉を失い、息を呑んだ。
「黙って。」
彼が囁く。ひざまずき、長いまつげ越しにわたしを見上げた。
「奏多澪。約束するよ、永遠に君を愛すると。来る日も来る日も、永遠に。君と結婚するという名誉を、ぼくにくれないか。」
言いたいことはたくさんあった。でも全部なかったことにして、わたしも囁く。
「はい。」
彼はわたしの返事を聞くと、ホッとしたように微笑んで、わたしの指にそっと指輪をはめた。
「すごくお金をかけたりしてないわよね?もしそうなら上手い嘘をついて。」
「全然かけてないよ、本当だ。お下がりだからね。ぼくの父が母にあげたものなんだ。」
「そう、なんだ」
驚きで声が弾んだ。
「でも、高価な指輪よりこっちの方が罪悪感を感じるんだけど…こんな大事なもの、わたしが受け取っていいの?」
「他でもない君に受け取って欲しいんだ。でもちょっと…時代遅れかも。古風っていうか…ぼくみたいにね。もっと現代的なものが欲しいならそれでもいいんだよ。」
そんなわけない。
彼のお母さんは疫病で亡くなった。最期の最期まで息子を心配して。息子を救いたいという強い想いが、迷っていた武流さんに司を救うと決心させて、彼は生き延び、今こうしてわたしの目の前にいる。感謝しかない。そんな人の指輪をいただけるなんて…
「わたしは古風なものが好きなのよ。こんなに綺麗なもの、見たことないわ。」
「気に入った?」
「すごくすてき。」
「君の美しさには負けるけどね。」
また、そういうことをさらっと言うからこの人は。でも…結婚を承諾したら、彼の言葉を前よりは疑わずに聞けるようになったかもしれない。
わたしが彼を愛してるのに負けないくらい、わたしを愛してくれる人。わたしは永遠に彼のものだ。彼は永遠にわたしのもの。
わたしたちは遠い道のりを来た。その道は運命によって導かれ、交わった。この先も、道は続いている。でも、わたしたちにはお互いがいる。わたしたちは、結ばれるために生まれて、生き延びてきたんだ。