鬼滅版トワイライト   作:クッキーマロン

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間話① 純の過去

 

 

「君の手に起こったことが、1000回は繰り返されたって感じかな。」

 

純は静かに答え、ちょっと悲しげに笑って腕を撫でる。

 

「鬼の肌に傷痕を残せるのは、鬼の歯だけだから。」

「でも、どうして…」

「ぼくは少しばかり育ちが違うんだよ、他のきょうだいとは。始まりが全く別のものだったから。」

 

純は厳しい口調で言い切る。

わたしはゾクっとして、純を凝視した。

 

「ぼくがまだ人間だった頃、しょっちゅう各地で争いが起こっていた。一揆ってやつだな。小規模のものも含めたら数え切れないほどね。ぼくは昔から背が高かったから、いつも年齢を偽って戦いに参加していたんだけど、誰も何も言わなかった。どの戦いでも重宝された。頭は人並み以上にキレる方だったし、将来はかなり有望だった。みんないつもぼくに好意をもち、意見に耳を傾けた。カリスマ性がある…父はそう言っていた。もちろん、今ではおそらくそれ以上の何かだったってわかってるけど。」

 

純には他人の感情を操る能力がある。それは人間の時から持っていた、人を惹きつける魅力、カリスマ性があったからだ。

 

「その晩のことは鮮明に覚えている。女子供を避難させた後、本拠地に戻る途中で、ある2人の女性に会った。道に迷っているのかと思って、声をかけてみたんだ。すぐに馬を降りて、助けを申し出た。でも次の瞬間には、微かな月明かりに照らし出されたその顔を見て、驚きに言葉を失った。あれほど美しい女性は間違いなく、今まで見たことはなかった。肌は白く、見惚れてしまったのを覚えている。

 

『言葉もないみたいよ』

『んんっ、すてき。彼は良さそうね、若くて強靭で…それだけじゃないわ、ほら、感じない?』

『ええ、そうね。こいつは生かしておきたいわ。』

『あなたがやって花、この男を生かしたいなら。わたしじゃ殺してしまうのがオチだもの。』

『そうね、わたしがやる。あの方にも喜んでもらえそうだわ。』

 

うなじのあたりがゾクッとした。彼女たちが何を話しているのか、理解できなかった。でも、本能的に危険は察知していた。

 

『あなたお名前は?』

『樺沢純と申します。』

『是非とも生き抜いてちょうだいね。あなたのこと、気に入ったんですもの』

 

そういうと彼女は…"花"はぼくに近づいてきて、ぼくの首を掴んで噛んだ。それからぼくは新しい人生に導かれた。」

 

純は思い詰めたような表情で、話を一旦やめた。

 

「花が無惨の部下と知ったのは、そのすぐ後のことだ」

「えっ!?」

 

純はわたしの反応を予想していたかのように落ち着いている。

 

「もちろん、武流さんが無惨の元を去った後だ。花は当時の上弦の伍だった。無惨は上弦は別格として、下弦の鬼があまりにも弱くすぐ死ぬので、なんとかしなければと思っていた。その時は上弦も下弦も全て埋まっていたから、ぼくが十二鬼月に入ることはなかったけど、代わりに下弦の鬼の訓練を任された。ぼくは戦いに長けていたし、鬼になってから他人の感情を操る能力を手に入れたから、訓練するのにこれほど都合のいい能力はなかった。成果を上げると、無惨はよく‘’褒美‘’をくれたから、ぼくはますます強靭になっていった。」

 

褒美…すなわち、"食料"だ。人間。

純が他の家族より血への欲求を抑えるのが難しいのは、このせいだったんだ。

 

 

「花はぼくをすごく気に入っていて、ぼくも彼女を崇拝していた。他の生き方があるなんて思いもしなかったからね。今の自分たちの生き方があるべき姿だと、花は説いた。ぼくもそれを信じた。

 

ぼくは無惨のお気に入りでもあった。と言えば聞こえがいいけど、能力を使って感情を操ってお気に入りだと思わせてただけだ。ぼくが無惨の呪いにかかってないのも、操ってそうさせないようにしていたからだ。面倒なことになりそうだったからね。

 

ぼくは花と愛し合っていると思ってたけど…違ったんだ。彼女はぼくを利用していただけだった。ぼくが成果をあげるたび、彼女は無惨にぼくをスカウトしたのは自分だと言っていた。

 

ぼくは存在意義を見出せなくなり、段々疲弊していって、もう鬼殺隊に殺されてもいいから、無惨のもとを去ろうと決めた。

でも、長きにわたる殺戮と流血で、ぼくは人間らしさをほとんど失っていた。紛れもない悪鬼、凶暴極まりない化け物だった。

 

できるだけ人間を襲わないようにはしたんだ。努力はした。襲うにしても、殺人を犯したりした犯罪者にした。なんの罪もない人を襲うのはまずいと思う良心はかろうじて残っていた。

 

長いこと血への欲望をすぐさま満たす生活しかしてこなかったから、自制するのは難しかった。未だに、完璧に身につけたとは言えない。」

 

純は話に没頭していた。わたしも同じだった。そこで意外なことに、純の打ちひしがれた顔が穏やかな笑みへ変わった。

 

「ある日、嵐の日だった。街に出て、雨の中に立っていたら人目につくと思って、ある茶屋に入った。そこに"彼女"がいたんだ。もちろん、ぼくが来ることを見越して」

 

純はクスリと笑った。

 

「ぼくが店に入った途端、彼女は座っていた椅子からひょいと立ち上がって、まっすぐ近づいてきた。衝撃的だったよ。攻撃するつもりなのか分からなくて。過去の経験から、ぼくは彼女の行動をそう解釈するしかなかったんだ。でも彼女は微笑んでいた。それまでぼくが感じたことのない感情を発散させていたんだ。

 

『ずいぶん待たせてくれたわね。』

 

彼女は笑ってそう言った。」

 

話を切った純の顔は、今まで見たことがないくらい、穏やかで優しい表情をしていた。

 

そして知らないうちに、杏はわたしのすぐ後ろに立っていた。

 

「そしたらあなたは軽く会釈してこう言ったのよ。『申し訳ありません、お嬢さん』ってね。」

「君は手を差し出した。ぼくは何も考えず、その手を取った。ほぼ一世紀ぶりに、希望を胸にして。」

 

純は話しながら、杏の手を取った。

 

「わたしはただただほっとした。もう永遠に会えないんじゃないかと思ってたから。」

「杏が教えてくれたんだ。武流さんとその家族について予知したことを。そんな生き方ができるとはとても信じられなかったけど、杏が前向きな気持ちにさせてくれた。それで、2人でみんなを探すことにしたんだ。」

「そしてみんなの度肝を抜いたんだろ」

 

司は呆れ顔で純を一瞥すると、わたしに説明してくれた。

 

「ぼくは徹と狩りに出ていたんだけど、そこにいきなり現れて、初対面なのに名前を言い当てて、経歴も何もかもお見通しで、家に案内してくれと頼んできた。家に入ったら残りの家族の名前と経歴を全員言い当てて、どこの部屋に引っ越してくればいいかって聞いたんだ」

 

そうだったと純と杏は笑っている。

 

「部屋に戻ったら、ぼくのものは全部地下室に入れられてた。」

「だって司の部屋が一番眺めがよかったんだもの」

 

杏は肩をすくめながら笑った。

純はまた真剣な表情に戻る。

 

「それからすぐのことだ、お館様が、鬼殺隊で働かないかと接触して来た。過去のことは免責と言われたけど、ぼくには本当にもったいないくらいだ。ぼくが過去にやってきたことは、"免責"の一言で許されることじゃない。代わりに何でも話したよ。上弦の情報は断片的にしか知らなかったけど、下弦のことはかなり詳しく知っていたからね。それから、無惨のことも…」

 

息を呑んだ。武流さん以外に、無惨のことを知っている、否、見ている人がいるとは思っていなかった。

 

「素敵なお話ね。」

 

すると3組の瞳が問いかけてきた。どうかしてるんじゃないの?と言いたげに。慌てて言い直す。

 

「結末がってこと。杏と会えて、めでたしめでたしってなったことだし。」

「あぁ。杏が全てを変えてくれた。今の環境は気に入ってる。」

 

そうよね。杏と純は、わたしと司と同じくらい、お互いのことを想ってる。それは見ていればわかる。

 

「お前のことはいつも気にかけてたんだぞ、司。ぼくは杏に会って、生きる意味を見つけられた。でもお前は200年間、迷子みたいに生きてたから。だから君と会って結ばれることになって、本当に嬉しいんだ。結婚式、楽しみにしてるよ澪。」

「ありがとう、純。」

 

初めて知った、純の過去。

不思議なことに、聞いてもあまり怖くなかった。過去に他の東城家の誰よりも人間を喰っていたと知っても。

 

義理の兄になる人のことを知れてよかった。前より距離が縮まった気がする。

 

残るは…

 

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