鬼滅版トワイライト   作:クッキーマロン

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今までの話を、司の視点から書いてみました。


葛藤(司視点)

 

「司!どうしたんだ、どこに行く!?」

 

武流さん、ぼくの育ての親の驚き困惑する声が後ろで聴こえるのも無視して、ぼくはこの場から離れるのに必死だった。ダメだ。ここにいては、武流さんの、僕の築いてきた全てのことが無駄になってしまう…!!

 

 

鬼殺隊。それは政府非公認組織でありながら、鬼を狩る組織。しかし、僕は鬼でありながら、鬼殺隊の隊士として、鬼を狩っている。

 

ぼくが鬼になったのは、200年ほど前のことだ。当時ある伝染病が流行っており、両親はそれに感染して亡くなった。自身も感染して治る見込みがないため放置されているところを、その日当直医だった武流さんに救われて鬼になった。※

 

鬼だから呼吸は使わないが、相手の心を読める能力と、常人の3倍以上のスピードで走る能力があったぼくは、お館様と武流の勧めで、入隊することになった。

 

 

ぼくは人間の血を飲まなくても生きて行ける。ぼくの家族はベジタリアンみたいなものだ。動物の血のみで飢えをしのげる。

 

しかしお腹はいっぱいになっても、飢えは完全には満たされない。欲望は皆無とはいかないけれど、5日〜1週間に1回、動物の血を1リットルほど飲めば、喉は渇かない。

 

これは武流さんの主義だった。

 

『いいかい司。絶対に人間を襲ってはダメだ。彼らは守るべき存在なんだ。人間を守りなさい。』

 

怪物にはなりたくなかった。これからも大丈夫だと思っていた。ところが。

 

「あ、司。彼女は今年の選別に合格した新入りの隊士。挨拶しに来てくれたんだ。澪、こちらは司。わたしにとっては息子のような存在なんだ。」

 

ある日、武流さんが女性隊士を一人連れてきた。どうやら今年の最終選別に受かった新人隊士らしい。

 

「奏多澪と申します。よろしくお願い申し上げます、東城様。」

 

そういって一人の少女が、頭をぺこりと下げる。こちらこそ、と言おうとしたその時。

 

ふわ、と風が吹き、彼女の髪がこちらになびいた瞬間、ぼくは凍りついた。

 

ぼくは今、2つの壮絶な葛藤している。

 

一つは、今すぐ彼女を襲って血を飲め、と本能が叫んでいること。

 

もう一つは理性で、絶対に彼女を襲ってはいけない、この場から早く立ち去ること。ぼくは後者を選んだ。そして最初の場面に戻るわけである。

 

 

 

猛スピードでその場から離れて、どれくらい時間が経ったのかもわからなくなった。気がついたら山の中だった。

 

「一瞬でも彼女を襲おうだなんて…ぼくは、なんてことを…!」

 

恥ずかしかった。武流さんの言いつけを、あと一歩で破ろうとしていた自分が。

 

 

走るのを止めると、その瞬間に彼女の香りが蘇ってしまう。理性を保っていなければ、この瞬間に屋敷に引き返してしまいそうだった。

 

あんな態度を取ってしまった後だ、こちらから挨拶のし直しと謝罪に行かなければならない。それはすなわち、ぼくにとっては拷問を意味する。飢死寸前の状態で、目の前に大好物があるのに食べることは叶わないことと同じ苦しみを味わうことになる。何らかの予防措置を取らなくては・・・

 

 

耐えられるだろうか。いいや、耐えられるかじゃない。耐えなければならないんだ。でなきゃ、ぼくら家族は全員斬首される。

 

鬼殺隊公認の鬼の一族とはいえ、一つ決まりがあった。それは、過去のことは免責とするが、これから一族のうち1人でも、一度でも人間を襲った場合、全員その場で斬首するという取り決めだった。

 

つまり、連帯責任ということである。武流さんは自身の欲求を制御する絶対的な自信があったし、家族全員を信じていたから、承諾した。

 

やっぱり、鬼になんかなるべきじゃなかったのかもしれない。ぼくは本来なら、疫病で死んでいたはずなんだ。あの時死んでいたら、こんな辛い目には…

 

今まで我慢できていたのに。そしてこの先もできると思っていた。確かに動物の血だけでは、飢えが完全に満たされることはない。でも、1年ほどで慣れた。

 

鬼であるぼくが鬼を狩ることで、人間に感謝してもらえた。ありがとうと言われるたびに、自分は存在していいんだと少しずつ思えるようになった。それなのに。

 

彼女の香りは、武流さんやぼくが築いてきた今までのこと全てを、一瞬で崩壊させかねない威力を持っていた。もちろん、彼女に一切非はないし、他意もないことはわかっている。それでも…

 

 

鴉を使って武流さんに伝言を飛ばした。

『すみません、しばらく家をあけます。1週間ほどで戻りますから心配しないでください。』

 

 

 

「オヤカタサマがオヨビダ!」

 

ちょうど1週間が立って帰らなければと思った頃、鎹鴉にそう言われて、絶望感に打ちのめされた。でも確かに、お館様に隠し事などできるわけがない。でも合わせる顔もなかった。

 

 

「よく来てくれたね、司。」

「とんでもございません。」

 

ぼくの相手の考えが読める能力が効くのは、お館様も例外ではない。ぼくから何があったかを聞き出そうとしている。でも、お館様もぼくの能力は知っているから、ぼくの前ではいつもかなり気を遣って考えているようだった。

 

「呼ばれた理由は何となくわかっているかもしれないけど、武流から君がいなくなったと聞いてね。心配になったものだから。」

「申し訳ございません。もう大丈夫です。戻りますから。」

「君が武流に何も言わずにどこかに行くなんて、よっぽどのことだろう。君は優しいから、何か自分が悪いと思っていることがあるんじゃないかな?」

 

ぼくが何も言わないから、もっと詳しく話してくれと促してくる。

 

やはり、この方は何もかもお見通しだ。わかっている。隠し事など不可能だ。

 

「先日、奏多澪という女性隊士が、入隊の挨拶をしに屋敷に来ました。彼女の香りが鼻腔を掠めた瞬間、自制心が効かなくなっていくのを感じました。彼女の肌が発散させる香りはまるで…やったことはありませんが、麻薬のような感じで。それで一秒でも早くその場を立ち去らないと、彼女を襲ってしまう。そう思って、走ってその場を離れました。」

「なるほど。」

「謝って済むことではないのはわかっています。どんな処罰も甘んじて受けます。」

 

ーーーあぁ、だめだ。次に出てくる言葉は、自分にはもったいない。

 

「処罰だなんてとんでもない。司、君は自分を誇っていいんだよ。君は壮絶な誘惑を目の前にして、それに負けなかった。彼女を傷つけなかった。武流も、君を誇りに思っていると思うよ。」

 

ーーーやっぱり・・・

 

「わたしにはもったいなきお言葉…ありがとうございます。恐縮ですがお館様、もう一つ、ご報告したいことが。」

「いいよ、なんだい?」

「御館様もご存知の通り、ぼくは他人の考えが読める能力があります。しかし、彼女のことは、全く読めませんでした。」

 

わずかに、お館様のまとう雰囲気が変わった。興味深々のようだ。

 

「当時、それどころじゃなかったということは考慮したかな?」

「はい。たしかにおっしゃる通り、あの時のぼくは理性を失いかけていて、冷静に考えられなくなっていたのは事実です。それでも、近くにいた武流さんや隠の考えははっきり読み取れました。」

「なるほど。なぜかはわかるかな?」

「ずっと考えているのですが、わかりません。なんだか、思考にもやがかかっている感じで…何もわからなかったのです。今までこんなことは一度もありませんでしたので、例外は彼女だけということになります。」

「それはとても興味深いことだ。もしかしたら、特定の血鬼術が彼女には無効である可能性があるね。」

「はい。わたしもそう考えております。」

「事情が事情だから、彼女とは任務等で一緒にならないように取り計らうけど、どうする?」

 

そう言いつつも、このお方はぼくの答えを見越している。

 

「いえ、大丈夫です。どうか、お任せを。」

 

そう言うと、お館様は微笑んだ。

 

「わかった。わたしは東城家みんなを信じているからね。」

「はい。」

 

 

 

 

それから数日後、蝶屋敷を尋ねた。予防措置として、今朝3リットルの鹿の血を飲んだ。喉は乾いていない。

 

しのぶに居場所を聞くと、庭で訓練中ということだった。助かった。外は香りが分散されやすい。彼女の訓練が終わったところで声をかけた。

 

「やあ。」

 

できるだけ優しく、穏やかに話しかけた。半径3メートル以内に接近した瞬間、彼女の香りが鼻腔をかすめ、気を失いそうになる。

 

彼女は驚いてぼくの方に振り向いた。

彼女が髪を耳にかけるしぐさをしたことで、また香りが拡散される。あやうくぼうっとなってしまった。

 

「ぼくは東城司だ。先週は失礼な態度を取ってしまって申し訳ない。奏多澪さんですね。」

「お気になさらないでください。これからよろしくお願い申し上げます、東城様。」

「そんな堅苦しい呼び方は。名前で呼んでください。」

「ありがとう、ございます…」

 

当たり障りのない会話の中で、彼女から目を離せなかった。

やっぱりだ。今までどんな相手の心も読めたのに、彼女の考えていることが全く読めない。

 

自分を怖がっているのか、本当に許してくれたのか、全然わからない。心の内を読めなかったのは彼女が初めてだ。

 

少しでも彼女のことを知ろうと、しのぶに話を聞いてみた。

 

『え、澪のことですか?』

 

しのぶは、ぼくが他人のことについて質問したことにびっくりしているようだ。まぁ当然か、ぼくが人間に興味を持ったのは、澪が初めてなのだから。

 

『いい子ですよ。明るい性格ではないですが、優しくて友達思いですし。真面目で鍛錬もいつも熱心にやっています。ご両親を鬼に殺されて入隊したようですが、弱音を吐いたことは一度もありません。ただその…災難を呼びやすいといいますか。ちょっと抜けていて、よく怪我をするんですよ。この前も蝶屋敷の階段から転げ落ちて大変でした…。』

 

物静かなタイプ・・・我慢強く、友達思い。でも少しドジを踏む、か。

 

 

 

彼女と関われば、地獄行きなのは間違いない。ライオンが羊に恋をしたようなものだ。そして自分と関わるせいで、彼女を危険な目に遭わせる可能性は高い。

 

いや、しのぶの話では、自分に関わらなくても彼女は危険な目に遭いそうだ。

気づかれないように少し尾けて、様子を見るか…

 

そう思って蝶屋敷を少し覗いてみれば、よく蹴つまずくわ、転ぶわ、ぶつかるわで想像以上に危うかった。これでよく今まで任務で死ななかったものだ。

 

それで任務を少し尾けてみれば、案の定帰り道に酔っ払いに襲われていて、見事に災難を引き寄せていた。

 

『なにか隠していらっしゃるでしょ』

『どうしてわたしを助けたんですか』

 

答えられなかった。

答えは「君に興味があること(から)」だが、彼女は人間だ。鬼と人間が近づきすぎることはタブーだ。

 

 

 

彼女は今まで会ったどの人間とも違う。

恐ろしいほど魅力的な血の持ち主であることに加え、自分の能力の一つである、相手の考えを読めるのが彼女にだけ通じないこと。とても興味深い。

 

同時に、とてもイライラする。考えが読めないというのも一因だが、1人の人間ごときにこれほどまでに振り回されるとは。思考を乱される。それがなんとも歯痒かった。

 

しかし、どうしても無視することができない。彼女は唯一無二の存在だ。

 

本来なら深く関わるのは避けるべきなのはわかっている。とりあえず、警告しよう。自分には関わるな、と。わかった、と言われればそこまでだ。

 

 

しかし案の定、警告した際に彼女から返ってきた言葉は思いもよらないものだった。

 

『もっと早く気づかなくて、残念でしたね。後悔しなくて済まれたのに。』

 

澪を助けたことを後悔している?どうしてそんな思考になるのかわからない。一体彼女は何を考えている?

 

他人の考えを読めるようになって随分だから、考えがわからないことがこんなにイライラするということを忘れていた。

 

 

 

これからどうする?

寿命が尽きるまで、傍から危険な目に遭わないように見守るか?

 

今はそうしよう。まだ「今」は。

 

 

 

 

 

 

 

 

※武流は鬼殺隊専属の医者になるまで、一時的に一般の病院に鬼という正体を隠して勤務しており、そこで瀕死状態だった司を見つけて鬼にしています。

 

 

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