鬼滅版トワイライト   作:クッキーマロン

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結婚式

 

 

扉が開くと、列席者がひそひそ話したり、もぞもぞ動いたりしているのが聞こえてきて、頬に血が上った。頬を染めて恥じらう花嫁…ベタだけどもちろん、わたしがそうなるのはわかっていた。

 

足元の白い花の洪水に目を奪われた。会場のありとあらゆるものから、白いリボンとともにしだれ落ちている。

 

美しい会場から視線を切り離して、大勢に注目されているのに気がついてますます赤くなりながら、ようやく10メートル先くらいに立っている司を見つけた。

 

途端に周りの景色は目に入らなくなった。列席者の誰1人、視界に入ってこない。わたしの目に映ったのは、司の顔だけだった。視界いっぱいに広がり、わたしの心を奪う。瞳は情熱的な灰色。完璧な顔は感動しているのか、息を呑むような歓喜の笑みを浮かべた。

 

 

誓いの言葉は簡単な伝統的なもので、星の数ほど繰り返されてきた言葉だった。

 

誓いの言葉が読み上げられた瞬間、ずっと天地が逆転していたわたしの世界が正しい位置におさまった気がした。

人目を一身に浴びる恐怖とか、祝いたくない誕生日のように、この日を恐れていたなんて…馬鹿みたい。

 

誓いを言う時になって初めて、自分が泣いていたことに気がついた。

 

「誓います」

 

聞こえるか聞こえないかの囁き声をなんとか絞り出し、司の顔が見えるように涙を振り払った。

 

「誓います」

 

司の言葉は朗々と、そして誇りにあふれていた。

 

司の手がわたしの顔を、頭上で揺れる繊細な白い花びらか何かのように、優しく包み込む。こんな素敵な"人"がわたしのものなんだという、夢のような現実を飲み込もうとするので必死だ。

 

司は優しく愛を込めてキスをしてくれた。列席者も、会場も、時間も、何もかも頭から消えた。

 

彼がわたしを離して初めて、大勢の人の目があるという現実を認識した。

 

列席者は拍手喝采した。彼に促されて、みんなの方を向く。

 

なんとなく予想していた光景が広がっていた。

なほ、すみ、きよは号泣していたし、炭治郎やアオイはいつも通り礼儀正しく、善逸は伊之助を静かにさせておこうと必死だ。

 

 

それからわたしは、列席者に次々とお祝いの言葉をかけられることになった。

 

何より先に、挨拶に行くべきはお館様だ。

交際だけじゃなくて、結婚まで認めてくださるとは思っていなかったし。

 

「おめでとう澪。君の幸せを願っているよ。」

「ありがとうございます、お館様。お屋敷を会場として使わせていただいたことも…重ねてお礼申し上げます。」

「こちらこそだよ。自分の子ども同然の君たちの結婚式を見届けられるなんて、本当に光栄だ。」

 

 

 

そして甘露寺様。わたしを見るなり駆け寄ってきて、抱きしめてくださった。力が強くて、少し苦しかったけど嬉しい。

 

「きゃぁぁぁぁあ!!澪ちゃん、本当におめでとう!!」

「ありがとうございます、甘露寺様。お忙しいところ、出席いただき感謝申し上げます。」

「そんな畏まらなくていいのよ、澪ちゃん!あぁ、なんて綺麗なの!ずっと応援してたから、自分のことのように嬉しいのよ!伊黒さんも任務がなかったら来れたのに…」

 

わたしは思わず目をまん丸にしてしまった。

 

「あの、甘露寺様。伊黒様も来る予定だったんですか?」

「えぇ、一緒に行くお約束だったんだけど、急な任務が入っちゃって。残念だわ〜」

 

あの鬼嫌いの伊黒様が?信じられない。

不死川様と同じく、武流さんのことは尊敬していても、司や他のメンバーのことは完全に信用しているとは言いがたい。

 

……そうか、伊黒様は甘露寺様のことが好きなんだ。そうに違いない。

これは嬉しい発見だった。

 

 

 

 

それから宇髄様。3人の奥様も一緒だった。

 

「よぉ、おめでとさん。派手なカップルだとは思ってたが、まさか結婚するとはなぁ。中々やるじゃねェか!」

「ありがとうございます、宇髄様。」

「しかし、あの地味娘が随分と化けたな。」

 

ちょっと!と奥様の1人が宇髄様の肩をパシッと叩いた。司もすかさず口を挟む。

 

「天元、澪は元から美人だよ。」

「あぁ、そうだよな。まぁ、幸せにやれや。」

「ありがとうございます。」

 

 

 

それに炭治郎、善逸、伊之助。

 

「わぁ、澪、とっても綺麗だよ。」

「ほんと綺麗だ。でもぼくには禰 豆子ちゃんがいる、禰 豆子ちゃんがいる……」

「お前、別人みてぇだな。本当に子分なのか?」

 

みんならしい言葉に、思わず笑ってしまう。

 

「みんな忙しいのに、来てくれてありがとうね。」

「こちらこそ、招待ありがとう。とっても素敵な式だった。鬼殺隊は続けるんだって?」

「えぇ。わたしの居場所はここ、鬼殺隊なの。死ぬまで、心を燃やすわ。」

 

『心を燃やせ』

 

煉獄さんの言葉だ。

炭治郎もすぐに気が付いたのか、一瞬だけ悲しそうな顔をして、すぐに微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

最後にしのぶ様と、蝶屋敷のみんな。

 

「澪、改めてですけど、とっても綺麗ですよ。」

「ありがとうございます、しのぶ様。」

「ほら、冨岡さんも何か一言くらい言ったらどうなんです?」

「……」

 

しのぶ様に促されて、冨岡様は少し考えると、本当に一言、「おめでとう。」とだけ言い、しのぶ様は頭を抱えていた。

 

冨岡様は口数が少ないと炭治郎から聞いてはいたけど、ここまでとは思ってなかった。

でもわたしはお祝いを言ってくれるだけで嬉しかった。

 

「澪さん…」

「本当に綺麗ですぅ…!」

「おめでとうございます…!」

 

なほ、すみ、きよは相変わらず号泣している。

 

「澪、おめでとう。寂しくなるわ。」

とアオイが言う。

 

そう、わたしは新婚旅行から帰ったら、蝶屋敷を出る。でも東城家に引っ越すわけではなく、別邸を与えられたので、そこで司と2人で暮らすことにしていた。

 

「なほ、すみ、きよ。そんなに泣かないでよ。蝶屋敷に住まなくなるだけで、いつでも会えるんだから。任務の合間にちょくちょく遊びに行くわ。」

「ぅぅっ、約束ですよ」

「絶対来てくださいね。」

「手紙も書いてください!」

 

3人とも口々に言うので、思わず笑みが溢れる。これが日常的に聞けなくなるかと思うと、少しだけ寂しかった。

 

 

 

その後も、流れるようにことは運んだ。杏の計画が完璧だった証拠だ。先にかかった時間もぴったりで、川面にはちょうど残照がかかり、陽は森の向こうに沈んでいく。

 

「何を考えてるの?」

 

とりまきから解放された司が隣に立ち、不思議そうに聞いてくる。他人の考えが読める彼にとっては、絶対に他の人にはしない質問だ。わたしは唯一の例外。

 

「いや、ただ…もうあなたと離れるっていう心配をしなくていいんだなって思って。」

「絶対にね。」

 

司はキッパリ言うと、わたしにキスをした。

真剣な、情熱的なキスだった。自分が今どこにいるなかほとんど忘れかけたところで、杏に呼ばれた。

 

「澪、時間よ!」

 

いいところを邪魔され、わたしの新しい姉にほんの一瞬イラッとした。

 

司は杏を無視して、さらにわたしを抱き寄せる。

 

「ちょっと、このままだと遅れるわよ。色々段取りしたんだからね。台無しにしないで。」

 

司は小声で「うるさいな」とつぶやき、またキスをする。

 

「司、澪に新婚旅行の行き先をバラすわよ。本気だからね。」

 

それを聞くなり司は硬直し、仲良しの姉を睨む。

 

「全く…チビのくせに、すさまじくイラッとさせるやつだな。」

「あのね、わたしは無駄にするために完璧な出発用の着物を選んだわけじゃないのよ。」

 

杏はピシャリと言い返し、わたしの手を取った。

 

「感謝してるわ杏。とっても素敵な式だった。あなたは世界で1番の、誰より賢くて才能ある姉さんよ。」

 

それで杏はすっかりご機嫌になって、満面の笑みを浮かべた。

 

「喜んでもらえてよかった。」

 

しかしそれも束の間、杏は再び仕切りモードになる。

 

「さぁ澪、その素敵だけど動きにくい白無垢姿で電車に乗りたくないなら、さっさと着替えることよ。」

 

 

杏が用意したのは、上品だけど着やすくて楽な着物だった。一体どれだけ高価なんだろうと考えると恐ろしくなってくる。司や杏は金銭感覚がちょっとズレてる気がする。それも当然か、未来が見える杏がいれば、株や投資でお金は勝手に貯まっていくのだから。

 

着替えて屋敷の外に出ると、またまたみんなの喝采が待っていた。やっぱり、注目されるのは苦手だ。一生慣れそうにない。

 

司はわたしを見ると微笑み、わたしの額に優しくキスをした。

 

「ねぇ、行き先はまだ教えてくれないわけ?」

「着く直前まで秘密だよ。」

 

門をくぐり敷地の外に出ると、人力車が見えた。

 

「これに乗るの?」

「そうだ。とりあえずはね。隠の背中に乗って駅までいくのは、なんだか興が冷めるだろう?目隠しは必要だけど、この方がロマンチックかと思ってね。隠に頼んだら快諾してくれた。」

「最高だわ。」

 

彼はわたしの手を握りしめる。

 

「愛してるよ。」

「だからわたしたちは今ここにいるのよ。」

 

人力車に乗り、みんなに手を振るけど、みんなが見えなくなった途端、睡魔が襲ってきた。

 

「少し寝て。」

 

司のその一言で、わたしは眠りに落ちた。

 

 

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