鬼滅版トワイライト   作:クッキーマロン

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助けて

 

『前回の生理が始まったのはいつだった?』

 

長い沈黙の後、武流さんは医師らしさを取り戻した。

 

「結婚式の14日前です。」

 

これは間違いない。何度も何度も数えた。

 

『今の気分は?』

「すごく変な感じなんです、変な夢を見るし、食べてばっかりだし、泣いたり吐いたり…ぅわっ…」

 

まただ…何かがわたしの中でもにょもにょ動いてる。

思わずお腹を押さえた。

 

「武流さん、今わたしのお腹の中で何か…動きました」

 

それを聞いた途端、司がものすごい勢いで受話器を奪い取り、武流さんと話し始めた。

 

「可能性はある?……あぁ……あぁ、そうする。あぁ、わかった。」

 

ガチャン、と力なく受話器が置かれる。

 

「なんだって…?」

「妊娠してるだろうって。」

「それで…これから、どうする…?」

「すぐに屋敷に帰る。」

 

 

 

司は1時間以上、ひっきりなしに電話をし、室内をものすごい速さで動き回り、あっという間に荷造りをしていた。

 

彼が発散する猛々しい雰囲気に我慢できなくなって、わたしは外に出た。あの異様な集中具合に胃がよじれそう。あの冷淡で、まわりが目に入っていない彼と話なんてできそうにないし、正直、ちょっと怖い。

 

ぼんやり海を眺めていると、また誰かがわたしをつっついた。

 

「そうよね。わたしも帰りたくない。」

 

思いがけないことだし、衝撃的でもある。

でも、いけないこと?

 

ちがう。

 

おかしなもので、この子の存在はいきなり、そして完全に、わたしにとってなくてはならないものになった。

 

それまで一つだった、生きていくために欠かせないものが、二つになった。分け隔てはない。

 

 

ふと頭に思い浮かんだのは百合のことだった。これまで、わたしは百合の苦悩をちゃんと理解できていなかった。

 

(女の)鬼に子どもはできない。可能ならば、百合はとっくに方法を見つけている。子どもや孫に囲まれるのが夢なのだから。

 

なぜ、(女の)鬼は子どもができないのか。

それは人間から鬼になった状態で、時が止まっているからだ。

 

人間の女性の身体は、妊娠するために「変化」する。継続的な1ヶ月周期のサイクルのほかに、成長する子どもに合わせた変化。鬼はほぼ不滅な存在だから、その変化を受け付けない。

 

でも、わたしは人間だ。変化に対応できる。事実、変化した。昨日はなかった、お腹の膨らみがその証拠だ。

 

対して男性の身体は、思春期から死ぬまでほぼ変わらない。70歳を過ぎて、子どもを授かる場合もある。男性は女性と違い、タイムリミットはないに等しいのだ。

 

もちろん、男の鬼と人間の間に子どもができるかなんて、誰も知るはずがない。

鬼は基本的に鬼舞辻無惨の血によってのみ増える。そんなことを考える鬼などいない。前例など、あるわけがない。

 

 

 

 

今まで、自分が母親になることを想像したことも、望んだこともなかったから、司のために子どもを諦めると約束するのは簡単なことだった。

 

でもこの子、司の子は全く違う。

息をするための空気を求めるように、わたしはこの子を求めている。

 

お腹に手を当てて、もう一度動くのを待っているうちに、泣きたくないのに勝手に涙が溢れて、頬を流れていく。

 

「澪…?」

 

彼の口調に不安をおぼえて、振り返った。あまりに冷たく、慎重な顔つき。

 

「澪!」

 

そしてわたしが泣いていることに気がつくと、一瞬のうちに部屋の向こうからわたしのもとへ来て、わたしの顔に手を当てる。

 

「痛むのか…?!」

「ううん、違う…」

「怖がらなくていい、すぐ屋敷に着くから。武流さんが準備して待ってる。このカタはつける。大丈夫だから。」

「カタはつけるって…どういう意味?」

 

司はわたしの肩を掴んで、視線を合わせた。

 

「澪の身体にダメージを与えないうちにそれを取り出す。それだけだ。君を傷つけたりはさせない。」

 

そう言うと、また彼は電話をかけに行ってしまった。

 

"それ"?

 

この子はモノじゃない。ちゃんと生きてる。しかも、武流さんが"取り出す"?

 

「だめよ」

 

司はこの子のことなんてどうでもいいと思っている。殺してしまうつもりなんだ…

 

ふと、無限列車での任務で見た夢を思い出した。見覚えのない女の子が出てきたことを。

その子は司にそっくりだった。そして彼と同等、否、それ以上に美しかった。

 

夢とはいえ、その子に抱きつかれた時に感じたのは、言い表せないくらいの愛おしさだった。

 

あれは予知夢だったのではないか。

そんな風に思えてならない。

 

そしてあの白い肌をもつ完璧な子を、この世に生まれる前に奪ってしまうと。

 

「だめよ」

 

もう一度囁く。

そんなこと、あってはならない。わたしが許さない。

 

どうすればいい?説得することはできる?どうやったら、この子を守ってあげられる?

 

そんなことを考えていたら、肩を掴まれた。

 

「出発するよ」

「あ、あの、司…」

「なに?」

 

彼はわたしの掠れた声に振り返る。

わたしは躊躇った。ほんの少しでも、1人になれる時間がほしい…

 

「できれば、何か…食べ物を用意してもらえないかな、すぐお腹空いちゃうから…」

「もちろん」

 

彼の灰色の瞳が急に和らいだ。

 

「何も心配いらないよ、あと少しで武流さんに会える。すぐ終わるから。」

 

わたしは黙って頷く。こころもとなくて、声が出せなかった。

 

電話はすぐに司にバレる。誰と何を話してるんだと聞かれたら終わりだ。手紙にしよう。

 

ほとんど殴り書きのようになってしまったが、自分の鎹鴉に託した。必ずわたしの味方になってくれるであろう人物宛に。

 

メッセージはたった一言。

 

『百合、お願い。わたしを助けて』

 

 

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