鬼滅版トワイライト   作:クッキーマロン

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説得

 

秘密の取引を交わした司としのぶは屋敷内に戻り、ソファーに座っている澪の元へ向かった。

 

「しのぶと澪の2人きりで話をさせよう。」

 

司が言った。抑揚のない、ロボットみたいな言い方で。

 

「そんなの、死んでも許さない。」

 

百合が噛みつく。しかし、司は百合に目もくれない。

 

「澪、しのぶから話があるって。2人きりになるのは怖い?」

 

澪は困惑気味にしのぶを見て、それから百合を見た。

 

「百合、大丈夫よ。しのぶ様と話をさせて。」

「罠かもしれないわよ。」

「どうしてそうなるの。大丈夫だから、下がってて。」

 

百合は最後まで納得していなかったが、渋々引き下がる。部屋の中は澪としのぶの2人だけになった。

 

「澪、わたしはお世辞なんて言いませんからね。あなた、ひどい状態ですよ。」

「えぇ、そうなんです。」

 

澪はそう言って肩をすくめる。

そんな彼女を見て、しのぶは少しずつ本音を探ろうと切り出した。

 

「今何を考えてるんです?真剣に答えてください。」

「司に叱ってやってくれとでも頼まれました?」

「えぇ、まあ。なんでわたしの話を聞くと思ったか知りませんが。あなた、わたしの話をまともに聞いたことないですもんね。」

 

しのぶは思い出すように言った。彼女が一度決めたら誰に何を言われようと考えを変えないことは、嫌というほど思い知っている。説得できていたら、今こんな事態にはなっていないのだから。

 

「心配するのはわかります。でもこれは奇跡ですよ、彼女を感じるんです。」

「あらあら、それは初耳ですね、元気な女の子ですか。ピンクの風船でも持ってくるべきでしたね。」

 

しのぶは冗談、否、皮肉を言っているが、目は笑っておらず、口調も冷たい。

 

「ただの勘ですけど…女の子だと思うんです。いずれわかります。」

「あなたが見ることはないですけどね。」

 

吐き捨てるように言うしのぶを見て、澪はため息をついた。

 

「本当に悲観的ですね。うまくいきますよ、きっと。」

「とうとう学習能力までやられましたか?」

「もちろん、簡単にいくとは思ってません。大変だって、覚悟はしています。でも…感じるんです。大丈夫だって。」

「大丈夫、ですって?」

 

しのぶは思わず少しきつい口調で繰り返してしまった。

 

こんなに青白い顔をして、ガリガリに痩せているというのに、どこが大丈夫だというのか。

 

「本気でそう思ってるんですか?一体なんの意味があるんです、あなたが司さんを愛してることの、司さんがあなたを愛してることの、蝶屋敷のみんなが、あなたを大切に思ってることの意味は?もしあなたが死んだらーーー」

 

しのぶの言葉は罵声のように続く。冷静に話そうと努めたが、やはり無理だった。

 

「もう取り返しはつかないんですよ!この苦しみになんの意味があるんです?あなたの、司さんの苦しみには!あなたの倒錯した愛の物語は結局何だったんですか。少しでも意味があるなら教えてください、わたしはお手上げですから。」

「今はまだわからないですけど…感じるんです。今はそうは思えなくても、今回のことはいい方向に向かいますから。」

 

澪はうまく言葉にできないのか、同じことを言うだけだった。

 

「無駄死になんですよ、澪!なんのためにもならないんです!」

「……わたしは死にません。」

 

澪は掠れた声をやっと絞り出した。

 

「それだけの強さはありますから。」

「あなたは人間です。そんな強さはありません。わかってるはずですよ。」

 

しのぶは一蹴するようにピシャリと言った。

 

できれば使いたくなかったが、こうなったらやむを得ない。しのぶは禁じ手を使うことにした。

 

「澪、あなたは煉獄さんに救ってもらった命を、こんな簡単に捨てると言うのですか。」

 

それを聞き、澪の身体が硬直した。青白い顔はますます青ざめる。

 

「簡単に、ではありません。」

 

澪は俯きながら続けた。

 

「わたしだって、それを考えなかったわけじゃありません。わたしが今生きているのは、煉獄さんのおかげです。本当に、恩人だと思っています。でも……これだけは譲れません。それに、わたしは死にませんから。生き延びます。弱くても、死にかけるとしても、絶対に。」

 

禁じ手でもだめか。

最後の手段として、しのぶは嘆願にかかる。

 

「聞いてください、澪。やめるんです。ぐずぐずしてたら手遅れになります。生きるんです、ね?いいですか、生きるんです。もしあなたが死んだら、司さんがどうするかわかりますよね、身に染みてるでしょう?あの人、また自殺未遂しますよ。」

 

今回はその必要はない。自分がこの手で…とは言わないでおいた。

 

「彼のことを、何より求めてるんですよね。それなのに、今度は呆気なく彼を残して死ぬんですか?訳がわかりませんよ、いつからそんなに母親になりたくなったんです?そんなに子どもが欲しいなら、どうして鬼と結婚なんかしたんですか。」

 

しのぶの口調は冷めていたが、純粋に疑問に思っている感じだった。そんなしのぶを横目に、澪は首を横に振る。

 

「そうじゃないんです。子どものことは別によかったんです、考えてすらいませんでしたし…ただ子どもを産めばいいって問題じゃなくて、大事なのは、その…この子なんです。」

「それはあなたを殺しますよ。自分をよく見てください。」

「違います、これはわたしのせいです。わたしが弱くて、人間だっていうだけです。でも、大丈夫ですから」

「……勘弁してくださいよ、東城家の人たちにはそう言ってればいいですが、わたしは騙されませんよ。助からないことくらい、本当はわかってるはずです。」

 

澪はしのぶを睨みつけるまではいかなくても、じっと見た。

 

「わからないじゃないですか。未来は誰にもわかりません。不安はありますよ、たしかに。」

 

しのぶが何かを言おうとした瞬間、澪ははっと息をのみ、顔を歪めてお腹を押さえた。それを見た瞬間、しのぶの中にあった怒りの感情は消えた。

 

「平気、です。なんでも、ないので…」

 

しかし、しのぶの意識は澪の言葉より、服がめくれて露わになった肌に釘付けになっていた。

 

お腹にはどす黒い紫色のアザが、いくつもあった。澪はしのぶの視線に気がついて服を元に戻すと、言い訳がましく言った。

 

「元気がいい子なんです、それだけですから。」

 

違う。鬼の血を半分引いているから、力が強すぎて、澪を内側から傷つけているのだ。

 

「わかってもらえるように、ちゃんと説明できたらいいんですけど。とにかく、この子を愛してるんです。」

「どうしてあなたは、いつも間違ったものばかり愛するんですか…」

「そんなことありません。」

「いえ、そうです。」

 

その言葉を最後に、しのぶは立ち上がる。

 

「どこに…」

「ここにいても、わたしは何もできませんから。帰ります。」

「また来てくれますか、任務の合間とかに…」

「わたしはそばにいて、あなたの死を看取るつもりはありません。」

 

しのぶのあまりにも淡々とした冷たい口調に、澪も思わずたじろいだ。

 

「……そうですよね。さようなら、しのぶ様。会えてよかったです。」

 

最後にしのぶは振り返る。さよならとは言えなかった。言ったら近い将来、現実になってしまいそうだから。否、このまま何もしなければ現実になる、絶対に。

 

悲しそうに笑う澪の顔を見て、しのぶは屋敷を後にした。

 

「胡蝶シノブ!緊急柱合会議招集!スグニ産屋敷邸にムカウベシ!!」

 

そして今までのことを一部始終見ていた鴉によってお館様にも情報がいき、臨時の柱合会議が開かれることになった。

 

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