鬼滅版トワイライト   作:クッキーマロン

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流血およびグロい描写がありますのでご注意ください。

わたしはトワイライトの4作目、ブレイキングドーンpart1を高校生の時に友達2人と劇場に観に行ったんですが、みんなグロい描写が苦手で、ベラの出産シーンは手で目を覆っていて、誰一人観ていませんでした笑


あなたを殺さない

 

真っ赤に染まった澪の身体は、小刻みに震え始めた。まるで電気ショックを受けたかのように、司に抱かれたまま、激しくバタついている。

 

司と百合は一瞬凍りついたが、すぐに動き始める。司は澪を抱き抱えてものすごいスピードで処置室に運びこんで、ベッドに寝かせた。

 

「モルヒネを!」

 

司が百合に大声で指示する。

 

「杏、武流さんを呼び戻さないと!探してきて!!」

 

百合が甲高い、悲鳴に近い声をあげる。

司は澪の腕に注射針を刺し、モルヒネを投与する。

 

「ちょっと、どうなってるんです?!」

「おそらく胎盤が剥離したんだ!」

 

その時、澪の意識がわずかながら戻った。澪は今の司の声を聞いて、それに絶叫で答える。

 

「出してあげて!息ができないのよ!今すぐ出してあげて!」

 

大声を上げたせいで血管が切れたのか、澪の眼球に赤い斑点が浮かび上がった。

 

「モルヒネがまだ効いていない!」

「だめ、今すぐ…!」

 

激しい吐血に澪の悲鳴は途切れた。司は澪の頭を立てて、また息ができるように必死に口を拭う。

 

眩いライトの下、澪の肌は白というより、紫と黒だ。震えている腹部のふくらみは、深紅の内出血が浮き出していた。

 

百合がメスを握った手を振り上げ、それを司が寸止めした。

 

「モルヒネが効くまで待て!」

「時間がないのよ!この子が死んでしまう!」

 

皮膚を切開したところから、真っ赤な液体がほとばしる。でも、澪は悲鳴を上げなかった。まだ血が喉につまっているせいだ。

 

しかしそこで、百合が集中力を失った。顔色と目つきが変わる。唇が歪んで歯が覗き見え、黒い瞳は渇望にギラついている。

 

東城家の一員として、血への欲求を抑える訓練は積んでいたが、ここはまさに血の海と化している。理性が崩壊し、血への欲求に負けるには十分すぎる環境だ。

 

そんな百合にしのぶと司は同時に気がついた。

 

「やめろ百合!!」

 

司は怒号をあげたが、息ができるように澪の頭を起こそうとしていて、両手が自由にならない。

 

しのぶは日輪刀を片手に寝台を飛び越えて百合に突進した。ドアの方に突き飛ばし、とりあえず澪と距離を取らせる。

 

しかし暴れるので、しのぶは仕方なく動きを封じる程度の毒を百合に打ち込んだ。

 

それとほぼ同時に武流を呼びに行っていた杏が現れ、百合の喉元をぐいっと引っ張って廊下に連れ出した。

 

「しのぶ、百合のことはわたしと純に任せて!澪をお願い!」

 

しのぶは杏の目を見て頷き、それを見て杏も頷いた。

 

「しのぶ、手伝ってくれ!!」

「今行きます!」

 

杏の方には振り返らず、しのぶは寝台へ駆け寄る。澪は目を見開いたまま固まっており、虚空を睨みながら、青ざめていく。

 

「心肺蘇生はできるか?!」

「できます!」

 

しのぶは注意深く、司の顔を観察した。百合のような反応の兆候がないか。

 

司にとって澪の血は、薬物依存症者にとっての麻薬のようなものだ。百合よりも、そうなる可能性がある。

 

しかし司にあったのは、澪を救おうとするひたむきな情熱だけだった。

 

「呼吸ができるようにしてやってくれ!ぼくはこの子を取り出さないと…!」

 

おぞましい音が響きわたる。澪が悲鳴をあげるかと思ったが、何も聞こえない。

 

苦痛にぐっと縮んでいた澪の脚から力が抜け、不自然な形に広がった。

 

「背骨が…!」

 

司がぞっとしたように言葉を詰まらせた。

 

「それを取り出してください!」

 

しのぶは怒りもあり、思わず怒鳴りつけた。

 

「澪はもう何も感じないでしょう!」

 

鼓動を確認すると、不規則な音が聞こえた。

 

血の塊を吸い上げると、澪はゴホゴホと咳をして、微かに瞬きをしたが、その目は何も捉えることはなく、泳いでいる。

 

「澪、澪!聞こえますか?!しっかりしてください!」

 

その時、澪の身体は突然動かなくなった。体内からの暴行にはケリがついたんだと、しのぶは察した。あれは摘出されたのだと。

 

「杏花…」

 

司が囁いた。

澪の予想は正しかった。女の子だ。

 

澪は両手を弱々しくあげた。

 

「わたしに…抱かせて…」

 

しのぶはどうしても、目を逸らすことができなかった。できるものなら見たくない。澪を傷つけ、身体をめちゃめちゃにして生まれてきたのだから。

 

澪は瞬きをすると、ようやく何かを視界に捉えて見つめた。

 

「杏、花……なんて…きれいなの…」

 

今まで聞いた中で一番幸せそうな声で、澪は囁く。それには思わず、しのぶの顔にも僅かではあるが、笑みが浮かんだ。

 

この1ヶ月、相反する2つの感情と、しのぶは戦ってきた。

 

一つは澪を救いたいということ。子どもを犠牲にしてでも、澪に生きていてほしかった。

 

もう一つは、澪の望みを叶えてあげたいというものだ。彼女が望むことなら、それを叶えてあげることこそが、彼女の幸せなのではないか。そうも思っていた。

 

しかし、この二つが両立することはない。澪が死ぬか、子どもが死んで澪が救われるかのどちらかだ。

 

結局、澪の決心を変えることはできず、彼女は自身の命を削り続けた。そして彼女は子どもを抱き、今までで一番幸せそうな表情を浮かべた。

 

澪はこれで幸せだったのだ。しのぶはほんの少しだけ、救われた気分だった。

 

 

そこで澪は息を呑んだ。苦しみで。

澪の茶色の目が、上瞼に隠れていく。

 

「澪…?!澪、聞こえますか?!」

 

しのぶが澪の胸に耳を当てると、鼓動は限りなく消えかかっていた。

 

肺に息を吹き込み、心臓マッサージを試みる。

 

「しのぶ、この子を頼めるか」

「頼める、状況だと、思います?!」

 

しのぶは全身の体重を腕にかけ、澪の心肺蘇生をしている。それどころではないのだ。

 

「そこら辺の台にでも置いておけばいいでしょう!」

 

そこで思わぬ人物が現れた。百合だ。

 

「司、もう落ち着いたわ。その子の面倒見られるから。任せて」

 

しのぶが澪に再び息を吹き込んでいるうちに、引き渡しが行われる。

 

しのぶは心臓マッサージをする手を止めず、澪の虚な目から顔を上げた。司が注射器を手にしているのが見えた。

 

「それは、なんです?」

「ぼくの血だ」

 

司は澪の胸に注射針を突き刺し、ピストンを押し下げる。

 

こいつ、澪を鬼にする気か…?!

 

「君の言いたいことはわかるが…救うにはこれしかない…!」

 

そう言うと司は、澪の喉、首筋、腕、手首、脚にキスをしていく。いや違う…

 

皮膚に触れるたび、ズブズブと切り裂く音がする。噛んでいるんだ…!

できるだけ多くの場所から、澪の身体に鬼の毒を回そうとしている。司は噛んでいるだけですぐに離し、澪の血の誘惑に負けている様子は全くない。

 

しのぶはさらに人工呼吸を続けたが、効果はない。生気を失った胸が隆起するだけだ。

 

何も起こらない。変化がない。亡骸に手を尽くしている。

 

しのぶは悟ってしまった。もう手遅れだ。

 

「死んではいない。きっと大丈夫だ。」

 

司はしのぶに言っているが、まるで自分に言い聞かせているようだ。

 

鬼に噛まれ、人間の体内に鬼の血が混入すると、その人間はあまりの激痛に動けなくなる。"心臓が止まらない限り"、毒は広がり続け、肉体を修復しながら変化させていくのだ。

 

しかし、澪の心臓は止まった。そしてなにより、激痛に悶える様子が一切ない。

 

 

司は一縷の望みにかけたのだ。死にかけている澪を、鬼にして救う。しかし、失敗した。

 

司は澪を、"人間の"澪を愛していた。彼女が十二鬼月に噛まれて死にかけた時も、わざわざ鬼の血を吸い出して、鬼になりかけた澪を救ったくらいだ。

 

「そんな…澪、頼む、目を開けてくれ…!」

 

しのぶがやめた心肺蘇生を、虚な目で続ける司を、しのぶは同じく空虚な目で見ていた。

 

「……わたしはあなたを殺しません。」

 

しのぶは無機質な、感情のこもっていない声で言った。

 

2人は約束していた。澪の心臓が止まったら、しのぶが司を殺すと。しかししのぶはもう、司を殺す気力も残っていなかった。

 

「簡単すぎます。永遠に苦しみながら、澪を失った悲しみを抱えて生き続ければいい。」

 

澪は死んだ。助からなかった。わかっていたことだ。彼女を止められなかった時から、最悪どうなるかなど、わかっていた。

 

でも…予想していたこととはいえ、言葉にできない悲しみが込み上げてくる。

 

走ってこの血まみれの現場から逃げ出したい。しかし、身体はこれまでにないほど疲れ切っていて、走る気力など、残っていなかった。

 

しのぶは足腰の弱った老人のように、よろよろと処置室から出て、階段を下りる。

玄関を出てすぐの地面に、頭を抱えてへなへなと座り込んだ。

 

自身の鴉が慰めるためなのかすり寄ってきても、しのぶが気づく様子はない。

 

鴉は耀哉に報告するため、産屋敷邸に飛び立って行く。しのぶはそれにも、気づく様子はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

東城邸と産屋敷邸は、比較的近くに位置している。鴉も数分で耀哉の元に到着した。

 

「カァ」

「おや、君は…しのぶの鴉だね。どうかしたのかい?」

 

鴉は耀哉のすぐそばに着地して、項垂れた。

 

「東城澪、死亡。出産時ニ、出血多量デ死亡。」

「!!…そうか……それは…本当に、残念だ…」

「カァ…」

「子どもは?」

「女ノ子、元気ナ女ノ子!」

 

耀哉はそれを聞いて、はっと息を呑んだ。

 

「そうか、女の子だったのか…子どもは無事なんだね。」

「ソノトオリ、ソノトオリィー!」

 

しかし、この知らせは時期尚早だった。

 

耀哉の鴉はまだ東城邸におり、澪の身体に起こっている変化を、静かに見届けていたのだ。

 

 

 





次回はこの話を澪視点から振り返ります。
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