鬼滅版トワイライト   作:クッキーマロン

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対面

 

 

「あの子のこと教えて。」

「この世にただ1人の存在だよ。」

 

その時、微かな羨望が胸をついた。他のみんなはあの子に会っているのに、母親のわたしがまだなんて…不公平だ。

 

「あなたにはどれくらい似てるの?わたしには?というか、人間だった時のわたしに。」

「ちょうど半々くらいじゃないかな。」

 

わたしは必死にあの子に関する記憶を掘り起こす。

 

「血はあたたかかったわよね。」

「あぁ、脈もある。鼓動は人間よりわずかに速いけど。体温も、普通より少し高くて、37度くらいかな。それに、眠るんだ。」

「え、本当に?」

「新生児にしてはかなりぐっすり。眠らなくていい、この世で唯一の種族を親に持ってるのにね。夜泣きもせずに寝てる。それに、目の色は君そのままだ。そこは失われずに済んだようで、本当によかったよ。」

 

司の話を聞いていたら、どんどん期待が膨らむ。どんな子なんだろう…あの時は死にかけていたし、血まみれではっきり見えなかったから。

 

「鬼の特徴はある?」

「肌は僕たちと同じように硬質に見える。あと、食生活の方は…」

 

司は苦笑いし、少し言い淀んだ。

 

「血を飲むのが好きだ。あ、もちろん動物のね。武流さんは粉ミルクも飲むように言い聞かせてるんだけど、嫌がるから。」

 

ん?ちょっと待って、今なんて?

 

「言い聞かせてるって?」

「頭のいい子なんだよ、舌を巻くほど。それに、驚異的な速さで成長している。まだしゃべらないけど、かなり効果的にやりとりができるんだ。」

 

わたしはなんとか理解しようとしたけど、頭の中はハテナマークでいっぱいだ。  

 

「効果的なやり取りって…なに?」

「自分の目で確かめた方がいいよ。言葉で言い表すのはかなり難しいから。」

 

いざとなったら、なんだか緊張してきた。

娘は獣のような匂いはしないはずだけど…わたしはあの子を危険に晒してしまうの…?

 

「君ならやれるよ。」

「そばにいてくれる?徹や純もいてほしいわ、万が一に備えて。」

「もちろん。心配しないで、誰もあの子を危険に晒したりしないから。澪もきっと驚くよ、あの子はぼくらみんなの心をがっちり掴んでしまったんだ。あの子は安全だ。何があっても。」

 

娘に会って、司の声に込められた気持ちを理解したい。その思いが、わたしの緊張をほぐしていく。

 

屋敷の中に入ると、みんなが待っていてくれた。歓迎しているようで、警戒もしている。

 

そこで何かとても小さいものが、百合の腕から乗り出して顔を覗かせた。すぐさまその子はわたしの全神経を、意識の隅々まで捉えた。予想以上だった。これほど、わたしの心を奪ったものは他にはないだろうと思えるほどの…

 

「確認するけど、生まれてからまだ2日よね?」

 

百合に抱かれた娘は生後数ヶ月まではいかずとも、数週間は経っているように見える。曖昧な記憶の中の赤ちゃんの2倍はありそうで、しっかりすわった首をこちらに伸ばしている。

 

艶やかな赤銅色の巻毛は肩より長く、わたしを見る目は茶色の目は赤ちゃんとは思えないほどの好奇心を宿していた。

 

衝撃的なほど美しく、完璧な顔をしていなければ、同じ子だと、自分の子だと思えなかっただろう。

 

全体的な顔立ちは司に似ている。瞳と頬の色はわたし似だ。

 

その子は片手をあげて百合の首すじに当てる。百合は添えられた手をそっと握り、囁いた。

 

「そう、あの人よ。」

 

杏花はじっとわたしの目を見つめていた。そして壮絶な出産の直後と同じように、にっこり微笑んだ。

 

わたしはおずおずと一歩踏み出して、前に出る。

 

「澪は大丈夫だ。」

 

わたしが動いて身構えるみんなを見かねて、司が言った。幸い、杏も加勢してくれる。

 

「そうよ、少しは信用してあげて。澪だって近くで見たいのよ。」

 

杏の言う通りだ。わたしは落ち着いている。

とはいえ、覚悟はしていた。森で嗅いだ、人間の匂いのような恐ろしく魅惑的な香りを。

 

でも、今回の誘惑は次元が違う。杏花の香りは、極上の香水と究極の食べものの香りの境界線で絶妙なバランスをとっていた。半分鬼の血が混ざっているおかげで、うまく人間の部分が中和されている。

 

これなら大丈夫だ。間違いない。

 

「わたしは大丈夫よ。でも、そばを離れないでね、念のために。」

 

純の眼差しはきつく、鋭い。わたしの感情の流れを掴もうとしているんだ。

 

わたしの声を聞いて、娘は百合の腕の中でもがき、わたしの方へ乗り出し、じれったそうな顔をしている。

 

「純、徹、通してくれ。澪は問題ない。」

「司、リスクが…」

「リスクは最小限だ。いいか純、澪は狩りの途中で運悪く、まずい場所に居合わせた人間の香りを嗅ぎ取ってしまったんだけど…」

 

武流さんが驚いて息を呑んだ。純は目を見開き、他の家族も全員青ざめている。

 

「司!なぜそんな無責任なことを…!」

「わかってるよ、あさはかとしか言いようがない。非難されて当然だ。ぼくは過ちを犯した。」

「冗談じゃ済まされないわよ、司!」

 

杏は完全に呆れ顔だ。

 

「冗談じゃない。ぼくは澪なら大丈夫だって、純に説明しようとしてただけだ。みんなが早合点したのはぼくの責任じゃないぞ。」

「待て」

 

今度は純が息を呑んだ。

 

「その人間を食わなかったのか。」

「欲望には駆られてたよ。でもやめたんだ。じゃなきゃ、今頃ぼくら全員斬首されてるところだろう?」

「あなたが攻撃されていたかもしれないのよ、澪は生まれたてなんですから!」

 

恵美さんが珍しく叱るような口調で言う。

 

「わかってる、実際に威嚇はされたしね。まぁそんなわけだから、大丈夫だ。澪を信じてやってくれ。」

 

その時、百合の腕の中でもがいて手を伸ばし、むずがり出していた子が、甲高い泣き声を上げた。

 

「どうした、どこか痛いのか?」

 

司は早速親バカを発揮してるみたい。

 

「違うわ、澪の方に行きたいのよ。」

「わたし?」

「澪のことをほぼ3日、待っていたからね。」

 

杏花はわたしの腕の中にすっぽりと収まる。その瞬間、わたしの中の何かが、パチリとハマった気がした。泣き声、見覚えのある瞳、わたしにましてこの再会を待ち望んでいたらしいその姿…全てがわたしを包み込む。

 

その時、杏花はわたしの顔に手を伸ばし、わたしの頬にそっと触れた。

 

その瞬間、わたしははっと息を呑み、脳裏に広がる見慣れない不穏なイメージに度肝を抜かれた。

 

まるで鮮やかな記憶のような…頭の中で、自分の視点から見ることができる。なのに、全く見覚えがない。その向こうにある杏花の、期待のこもった表情を見つめ、冷静さを失うまいと闘いながら、状況を掴もうとした。

 

頭に浮かんだ情景は衝撃的で見覚えがないだけではなく、どこかおかしかった。自分の顔はわかるけど、昔の顔だ。どこかズレていて、逆向き。これは鏡…というより、他人の目に映る自分だ。

 

その顔は歪み、やつれていて、汗と血にまみれている。それでも、愛に満ち溢れている。深いクマの上で茶色の瞳が輝く。

 

杏花が手を離すと、そのイメージはいきなり途切れた。

 

「今の、なに…?」

「何が見えた?」

 

司は興味津々のようで、嬉々として聞いてくる。

 

「この子が、見せたの?」

「説明するのは難しいって言っただろ?でも、コミュニケーションと方法としては有効だ。この子の考えていることが伝わってくるからね。で、なんだった?」

「えっと…わたし、だと思う。酷い姿だったけど。」

「それが唯一の澪の記憶だからさ。それを君に見せたんだ。」

 

杏花が思い浮かべてわたしに見せていたものが、司にも見えたに違いない。

 

「わかっていると伝えたいんだ。澪が誰なのか、ちゃんとわかってるってね。」

「でも…どうやってるの?」

「この子にも、"能力"があるんだよ。」

「興味深い展開だな。父親と正反対のことをするとは。」

 

武流さんが司に言った。

たしかに、不思議なものだ。鬼に特殊能力、血鬼術を使えるものがいるのは知っている。でも、この子の半分は人間だ。

 

この子のために、わたしは闘ってきた。お腹の中にいた時から、わたしを愛してくれた子。半分は司、完璧で愛さずにはいられない。もう半分はわたしで、意外にもそれがマイナスじゃなく、プラスに作用してくれて良かった。

 

思っていた通りだった。この子には、闘うだけの、命をかけるだけの価値があった。信じられないくらい、愛おしく感じる。

 

 

そんな家族団欒の時間は、鴉の声によって中断された。

 

「東城澪、オ館様ガオ呼ビダ!司ト娘ト共二、産屋敷邸に来ルコト!スグニ来ルコト!!」

 

 






東城杏花

司と澪の娘。半人半鬼。澪が妊娠してから1ヶ月で生まれた。髪は司と同じ赤銅色の巻き毛で、瞳は澪と同じ茶色。毒は持っておらず、肌は鬼と同じくらい硬質で、体温は人間より少しあたたかい。司とは正反対に、自分の見たことや感じたこと、想像したことを相手に手で触れることでイメージとして伝える能力がある。
筋力は鬼には及ばないものの、人間離れをしたレベルにあり、家族と動物を狩り、その血肉を糧としている。人間の食事でも生きていけるが、あんまり好きではない。
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