最終決戦が終わった。
無惨は消滅した。太陽の光に焼かれて。
上弦も、一体残らず討伐した。
わたしは、炭治郎と冨岡様と共闘して、猗窩座を倒した。やはり強く、かなり手こずったけど、2人に重傷を負わせることなく、無惨のところに行かせることができた。
わたしは猗窩座を討伐した後も無限城を駆け回り、上弦と対峙している柱と隊士のサポートをした。
医療要員として残った武流さんと恵美さん以外、司、徹、百合、杏、純は全員戦闘に参加した。
そして当初の杏の予知、柱のほとんどは生き残れないというのを見事に覆し、重傷者は数えきれないほどいるものの、柱は全員生存したまま、戦闘を終えることができた。
向けられる攻撃のほとんどを東城家のみんなが受け止めることで、犠牲を最小限にできたんだと思う。最初、輝利哉様はこの作戦に反対なさっていたけど、鬼は怪我をしても再生するのだからやるのは当然だし、犠牲を抑えるためだと説得した。
まぁ、途中輝利哉様の指示を聞かないで無断で動いた隊士が多数犠牲になったりはしたけど…
炭治郎たちもみんな生きているし、禰 豆子ちゃんも人間に戻ったし、しのぶ様が自らの身体を犠牲にやろうとしていた作戦も阻止できたし、わたし的には大勝利だったと思う。
帰ってから、武流さんと恵美さんに預かってもらっていた杏花の元に駆け寄り、思いっきり抱きしめた。
「母上、やったのね。」
「そうよ、やったわ。」
そうだ、わたしはやった。やり遂げた。煉獄さんの仇を取ったし、無惨を葬り去ることに貢献できた。
鬼殺隊は本日をもって解散となったけど、わたしの生活は変わらない。
無惨がいなくなっても、そもそもわたしたち東城家のみんなは無惨の呪いを受けていないから消滅しない。だから任務がなくなるだけで、人間を襲わず、静かに暮らしていく日常に変わりはないのだ。そんな日々が、何よりも愛おしかった。
ある日、司とわたしは、あの草原にいた。
初めて彼がわたしの前で、太陽の元へ出て行ったところ。
今でもはっきり覚えている。
太陽で焼け死なない代わりに、ダイヤモンドのように輝く肌。今ではわたしもそうだ。太陽の光に反射してて、ちょっと眩しいくらい。
「待って。」
司がわたしにキスをしようとすると、わたしは少し躊躇って離れた。
司はわたしよりもっと戸惑い気味に見つめてくる。普段なら身を引いたりしないけど…ううん、それどころかこれが初めてだけど。
「ちょっと試したいことがあるの。」
と告げると、困惑顔の司に微かに微笑んだ。両手を彼の顔に添えて、集中して目を閉じる。
自分と一緒にいる他の人たちを守るようには、まだとてもいかない。自分を守ろうとして盾はまたするすると戻ろうとする。完全に離すには、頑張って押し出さなければならない。全神経を集中させて。
「澪…!」
司がびっくりして囁いたのが聞こえた。
うまくいってるんだ。思わず目を閉じたまま、また少し微笑んだ。
さらに意識を研ぎ澄ませながら、この瞬間のために大切にとってあった記憶をさらいあげ、わたしの心に、そしてできるなら司の心にも、思いっきり流れ込ませた。
頼りない目で見て、頼りない耳で聞いた、人間の頃の記憶の全てを。
初めて見た司の顔。
彼に抱き寄せられた時の感触。
元十二鬼月に襲われて助けてくれた時。
太陽の元で正体を晒そうとするのを止めた時。
結婚を申し込んでくれた時。
花々の天蓋の下で花嫁を待つ司の顔。
新婚旅行での貴重なすべての瞬間。
わたしの肌越しに、わたしたちの赤ちゃんに触れた冷たい手。
完璧に蘇る、鮮明な記憶。
そしてわたしがこの新しい生き方に、永遠なる不死の暁に目覚めた時の司の顔。
"初めての"キス、"初めての"夜…
その時、司の唇が突然激しくわたしの唇に重なり、集中力が途切れた。
はっと息をのみ、のしかかる重圧を押しとどめていた力を緩めた。盾はピンと張ったゴムが緩むように元へ戻り、またわたしの意識を包み込む。
「ごめん、失敗!」
わたしはため息をついた。
「ちゃんと伝わったよ。でも、どうして…なにをしたんだ?」
「杏花の能力を参考に、わたしの能力を応用してみたのよ。」
司は呆然としていた。瞬きをして、頭をふるふると横に振る。
愈史郎さんのおかげで自分の能力がわかり、そして杏花を見ていて気がついたのだ。
わたしは盾を周りに広げることができ、娘は自分のイメージを相手に伝える能力がある。この2つを合わせたら?盾を広げるのと同じように自分の考えを放射して、他の人に見せられるようになったら…?
最初はダメ元だった。でも、繰り返し練習していたら、うまくいったのだ。
言葉で伝え難いことも、これなら…わたしがどれだけ司を愛しているか、伝わるはずだ。
「これでわかったでしょ。この世の誰1人、わたしがあなたを愛するほど、誰かを愛したことはないのよ。」
「そうだな。」
司はわたしに向かって微笑んだ。「1人だけ例外がいるけど」と言って。
「もう一度できる?」
わたしは顔を歪める。
「ものすごく大変なのよ。まだ練習段階だし。」
司は熱っぽい顔つきで待っている。
「ほんのちょっとでも気を散らされると、維持できないの。」
「大人しくしてるから。」
両手をもう一度司の顔に当てて盾を意識から切り離す。
出会ったあの日
凍りつき 息を呑んだ
出会ったその瞬間から
結ばれる運命だってわかってた
胸の鼓動が速くなる
気持ちを抑えられない
この美しい景色のなかで誓いを交わすんだ
つまづくことを怖がってたら
勇気も出ないし
人を好きになることもできないけれど
一人でそこに立ってるあなたを見ていたら
いつの間にかそんな不安はなくなって
また君に一歩近づける
毎日必死の思いであなたを待ってた
だから心配しないで 大丈夫
ずっとあなたを想ってきた
この1000年の長い間
そしてこれからも想い続ける
この先の1000年も
その間もずっと信じてた
いつかあなたに会えるって
そしてこの時間があったから
あなたと心が通じ合った
ずっとあなたを想ってきた
この1000年の長い間
そしてこれからも想い続ける
この先の1000年も
するとまた強引なキスに邪魔をされ、わたしは息を切らして笑った。
「ダメだな。」
司は不満げに呟き、待ちきれないように顎から首筋へキスをする。
「やってみる時間はたっぷりあるわよ。」
「あぁ。じゃあ、永遠から始めるとしようか。」
司は囁いた。
わたしたちは至福につつまれ、これから2人で紡いでいく永遠の、はかなくも完璧なこの一瞬に、身を委ねた。
完
駄文でしたが、最後まで読んでいただいた方々に感謝申し上げます。