鬼滅版トワイライト   作:クッキーマロン

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登場人物(今回は名前のみ)

純・・・司の義理の兄。血への欲望を抑えるのがあまり得意ではない。
他人の感情を操る能力がある。

徹・・・同じく司の義理の兄。かなりの筋肉質。ユーモアのセンスがある。特殊能力はない。


輝きと苦悩

 

彼に会う日の前の晩。

 

布団に入ってもおかしくないくらいの時間になってほっとした。緊張しすぎて眠れないのはわかっていたから、わたしは初めての行動を取った。必要もないのにわざと風邪薬を飲んだのだ。たっぷり8時間は意識がなくなりそうなくらい、協力な風邪薬。いつもはこういうことはしないようにしてるけど、明日は睡眠不足でぼんやりしていなくたってかなりやっかいなことになりそうだから。

 

あとでバレて、しのぶ様にお説教をくらわないといいけど…

 

 

朝が来て起きて、ろくに味わいもしないで朝食を食べ、急いで片付ける。静かなノックの音がして玄関に飛んでいくと、目の前に彼がいた。

 

「おはよう」

「今日はどこに行くの?」

「山を登る。外国でははいきんぐ、って言うらしい。」

 

山登り?

わたしの運動神経を知ってて言ってるわけ?

危険な根っことか、転がってる石で脚を挫くかも。かなりの失態を晒すことになりそうだ。

 

「あぁ、君の体力は消費させないから安心して。とりあえず、舗装された道を歩いて、それが途切れたら、ある乗り物に乗るんだ。」

「乗り物?」

「まぁ、それはお楽しみだ。行こうか」

 

平坦な道でも彼は色々気を遣って、わたしが歩きやすいようにしてくれた。湿った植物を押さえていてくれたし、倒木や切り株があれば手を貸してくれた。彼のひんやりした手の感触に毎回、心臓が止まりそうになる。

 

そんな彼の完璧な姿からできるだけ目を逸らしておこうと思ったけど、時々失敗してしまった。そして毎回、その美しさに胸を貫かれて悲しい気持ちになった。

 

「さて、そろそろ乗り物に乗ってもらうよ」

「乗り物なんてないけど」

 

周りを見渡しても何もない。木が生い茂ってるだけだ。

 

「乗り物はこのぼくのことだ。この先は道が険しいからね。ぼくの背中に乗ってもらうよ」

「またいつもの冗談・・・」

 

わたしが言い終わる前に彼はわたしをひょいと持ち上げると、自分の背中に乗せて、猛スピードで走り出した。

 

周りの景色があっという間に変わっていく。確かに前に彼は瞬足だって言ってた気がする。ものすごいスピード。

 

呆気に取られて、どのくらい時間が経ったのかわからなくなつた。5分か、1時間か・・・

 

光が当たっている場所の手前にたどり着いたら、これまで見たことのない美しい草原が広がっていた。

 

この気持ちを彼に伝えたくて振り返ると、いなかった。探すと、彼は草地の手前にいて、暗い木陰から注意深くわたしを見ている。そこで初めて、ここの美しさのせいで忘れていたことを思い出した。

 

彼と太陽の謎の関係。

 

瞳を好奇心で輝かせ、彼の方に一歩進む。彼は不安げで躊躇いがちな目をしてる。深く息をつくと、明るい太陽のもとへ踏み出した。

 

 

 

 

 

 

 

太陽の光を浴びた彼は衝撃的だった。真っ白な肌がキラキラ輝いている。

 

まるで数千個のダイヤモンドの粒が埋め込まれているみたいだ。光を放つ薄紫色の目蓋は閉じているけど、もちろん眠っているわけじゃない。大理石のようになめらかで、クリスタルみたいにきらめく、未知の石材で作られた完全無欠の彫刻のようだ。

 

そうか、焼け死なないけど人前に出られないというのはこういうことだったんだ。人ではないことが、この輝きでバレてしまうから。

 

ためらいがちに近づいて、おずおずと指を一本伸ばしてみた。いまだに彼がかげろうのように消えてしまうのではないかという不安がついてまわる。だって、実在するにはあまりにも美しすぎるから。

 

「ぼくのこと、怖くない?」

 

茶目っ気たっぷりに聞いてくるけど、穏やかな口調のどこかで本気で答えを知りたがっているような気がする。

 

「いつもと全然変わらないけど」

 

彼の笑顔が大きくなる。太陽を浴びて、歯がきらめいた。

 

「本当は何を考えてるのか教えてくれ。未だにすごく妙な感じなんだ、相手の考えてることがわからないのって」

「わたしたちはみんな、いつだってそんな感じなのよ」

「それは辛い人生だな」

 

その口調に若干悔しさが滲んでいたと思ったのは気のせい?

 

「あなたが何を考えてるかわかればいいのにって思ってた」

 

そう言ってためらった。

 

「あとは?」

「あなたが現実の存在だと信じられたらいいのにって。あと、怖いなんて思いたくないって」

「ぼくも君に怖がってほしくない。」

 

かすかな呟きだった。彼が言いたくても口にできない想いが伝わってくる。

『怖がらなくてもいい、恐れることなんて何もないんだよ』って・・・

 

「わたしが怖いっていうのは、そういう意味じゃないの。まぁ、それも考えた方がいいんだろうけど」

 

あまりに素早い動きだった。彼はいつの間にかわたしの目の前に来ていた。天使のような顔がほんの10センチ先にある。

 

「じゃ、何を怖がってるの」

 

そう聞くと、答える前に彼はまた猛スピードで移動した。目で追えない程のスピード。

 

「ぼくは世界最高の肉食動物だ。ぼくのすべてが君を惹きつける。声も、顔も、ぼくの香りでさえ。まるでそれがなければどうにもならないみたいにだ!」

 

また移動して、もみの木のたもとに現れると、根本からへし折った。ベキベキと凄い音がする。

 

「まぁ、そんなものがなくても、君はぼくから逃げられない。君はぼくを追い払うことはできない!!」

 

いつになく彼に怯えてしまった。わたしはじっと立ち尽くしていた。用心深く作り上げられた、洗練された仮面をここまで完全に脱ぎ去った彼を見るのは初めてだった。

 

しかし、それもそんな一瞬のうちに薄れていく。

 

「怖がらないで。約束するよ、君を傷つけたりしない。」

 

ベルベットのような甘い声は、本人の意志とは関係なく魅力的だ。

 

「それで、ぼくが礼を失するまで、何を話してたんだったかな」

「正直覚えてないの」

「君がどうして怖がってるかって話じゃなかったかな。言うまでもない理由は別として」

「えっと、わたしはあなたとずっと一緒にいるわけにはいかないから。わたしに永遠の命はない。でも、ずっとあなたと一緒にいたくて…」

 

こういうことを言葉にするのって難しい。

でも彼はわたしが言いたいことを察したみたいだ。

 

「そうだな。」

 

彼はゆっくり同意した。

 

「たしかに不安になるのは当たり前だ。ぼくと一緒にいたいなんて、そもそも人間の君のためにはならないんだ。」

 

わたしは顔を曇らせる。そんなこと言ってほしくない。

 

「ずっと前に遠くに行くべきだった。今この瞬間にも、立ち去るべきなんだ。でも、できそうにない。」

「行かないで」

「ほらね。だからこそ、ぼくが去るべきなんだ。でも心配しなくていい、ぼくは根本的にわがままなタチだから。義務を果たすことなんかより、君と一緒にいたいって気持ちの方がずっと強いんだ。」

「よかった」

「よくないよ!」

 

頼むから聞いてくれと言わんばかりの口調で話しかけてくる。

 

「ぼくが望んでいるのは、君と一緒にいることだけじゃない。それを忘れるな。ぼくが他の誰でもない君にとって一番危険な存在だってことを絶対に忘れちゃダメだ。」

「あなたの言ってる意味、よくわからない。特に最後の方がよく…」

「そうだな、どう説明すればいいだろう」

 

少し間が空いて、彼は切り出した。

 

「もし、気の抜けたビールでいっぱいの部屋にアルコール依存症の人を閉じ込めたら、そいつは嬉々としてそのビールを飲むだろう。でも、禁酒する気があるなら、気の抜けたビールくらいなんとか我慢できる。けど、100年もののブランデーのグラスをひとつ入れたら?世にも貴重な最高級のお酒だったらどう?その香りが部屋いっぱいに広がれば、そいつは我慢できると思う?」

 

わたしは黙ったまま、相手の考えを読み取ろうとしながら見つめた。先に沈黙を破ったのは彼の方だった。

 

「上手い例えじゃないかもしれない。アルコール依存症じゃなくて、ヘロイン中毒にした方がわかりやすいかもしれないが」

「つまり、わたしはあなた好みのヘロインってことね」

 

雰囲気を明るくしようとして、ちょっとからかってみる。彼はそれを察してぱっと笑みを浮かべた。

 

「そう。君はぼく好みのヘロインだ。どんぴしゃりなんだよ。」

「それってどのくらいの確率で見つかるものなの?」

 

司はどう答えようか少し考えて、ゆっくり切り出した。

 

「きょうだいたちに聞いてみたんだ。純には、ほとんど全員同じ匂いがするそうだ。だからわからないらしい。でも徹は"ベジタリアン生活"が長いから、ぼくが言っている意味をわかってくれた。徹は特別な相手に惹かれたことは二度あると言っていた。とりわけその1人は強烈だったと。」

「あなたは?」

「一度もなかった。」

「それで徹はその時どうしたの?」

 

してはいけない質問だったと瞬時に悟った。

彼は辛い表情になり、俯いた。

 

「想像はつくけど…」

 

それを聞いてようやく彼は顔を上げた。訴えかけるような、憂鬱そうな表情だった。

 

「ぼくたち東城家は、過去のことは免責とされている。鬼殺隊に入る前のことは、たとえ人間を食っていても、責任は問われない。でもこれから一度でも人間を襲ったら、血を飲んだら…即全員斬首だ。連帯責任でね。まぁ当然だよ。鬼なのに生かされてるんだからね。」

「あなたは立派よ。誘惑に負けなかったんだから。でも…もしわたしたちがどこか暗い夜道で、2人きりで出会ってたら…」

 

わたしは消え入りそうな声で言って黙った。

 

「あの庭でさえ、君に飛びかからないように全身全霊を注がなきゃいけなかった。君の香りを感じた瞬間、武流さんが築き上げてきたものをすべて壊してしまうところだった。喉の渇きを抑えるように訓練していなかったら、自分を止めることはできなかった。」

 

彼は険しい顔でこっちを見る。わたしたちはお互いに最初に会った日のことを思い出している。

 

「ぼくのこと、どうかしてるんじゃないかって思っただろう?」

「わけが分からなかったの。会ったのは初めてだったし、挨拶しただけなのになんで嫌われたのかって」

「ぼくにとって、君はある意味悪魔のような存在だったんだ。ぼくだけに用意された地獄から、ぼくの身を滅ぼすために呼び出された悪魔。君の肌が発散させる香りときたらもう…正気を失ってしまうんじゃないかと思ったよ。」

 

誘惑に負けそうになった時のことを思い出してるからか、苦々しい顔をしている。

 

「君から離れてからもずっと、君をおびき出して2人きりになる方法を考えていた。数えきれないほど。でも家族のことを考えて、一つ一つ却下していった。」

 

わたしは呆然としながら、彼が告白する苦い記憶を辿ろうとしていた。燃えるような灰色の瞳が、まつ毛の下から見つめてくる。催眠術師みたいな、危険な瞳。

 

「あの時君を誘い出していたら、君はついてきたに違いない。」

「間違いないわね」

 

わたしだけじゃない。彼が少し誘惑すれば、世の中のほとんどの女の子は彼について行くだろう。それくらい、魅力的なのだから。

 

「それから君を避けようと無駄な努力をして、どうにかして待ち伏せとかをしないようにした。次に君に会うまでに、予防措置は取っておいたんだ。狩りをして、いつもより渇きを感じないようにしていた。他の人間と変わらないように、君に接する強さが自分にはあると自分に言い聞かせていた。でも、自分を買い被りすぎていた。明らかに問題だったのは、君がぼくのことをどう思っているのか読めなかったことだ。話していても、君が言葉通りのことを思っているのかわからない。もうキレそうだったよ。」

 

彼はその時を思い出して、顔を顰めた。

 

「初対面の時のぼくの態度は、できるなら忘れてほしかった。他の子を相手にするのと同じように話をしようとしたんだけど、君はあまりに独特で…気がつくとその表情にすっかり魅せられていた。時々君が手や髪を動かすと、香りが漂ってきてまたぼうっとなってしまって…」

 

彼は瞳を閉じた。苦悩の告白にじっと思いを馳せている。わたしは耳を傾けていた。普通なら恐れ慄くところなんだろうけど、真相を知ってほっとした気持ちだった。わたしの命をどれだけ奪いたかったか告白されたばかりの。

 

「澪。君を傷つけるようなことがあったら、ぼくは自分を許せない。どれほどの苦しみを味わうことになるか、君にはわからないだろうな。」

 

苦悶に満ちた神々しい瞳が、わたしの視線を捉える。

 

「今のぼくにとって、君は何よりも大切な存在だ。これまでの人生で、一番大切な存在なんだ。」

 

みるみるうちに会話の方向が変わって、頭がクラクラした。死と隣り合わせの運命という“スリル満点“の話題から、突然愛の告白だなんて。

 

彼はわたしの反応を待っている。

 

「わたしの気持ちはもう知ってるでしょ、もちろん。ここにいるってことは、一言でまとめると、あなたと離れ離れでいるくらいなら、死んだ方がいいってことだもの。」

 

わたしは顔を顰めた。

 

「ばかね、わたしって。」

「ばかだよ、君は。」

 

彼は笑い声をあげて同意した。

 

「というわけで、ライオンは子羊に恋をしてしまったわけだ」

「全くバカな子羊ね」

「全く自虐的でイカれたライオンだ」

 

お互いに苦笑いする。

 

「あのね、すごく根本的な疑問だけど、お館様はわたしたちの、バカな子羊とライオンの関係を、どう思っていらっしゃるのかな」

「ああ、それなら心配ない。ちゃんと許可をもらってる。君と親しくしてもいいってね」

 

え、そうだったの?思わずぽかんとしてしまった。たしかにあの方に隠し事などできないだろう。

 

「恋愛は自由だそうだよ、たとえ鬼でもね。ただ一つ、条件を付けられたけど。まぁぼくにとっては言われるまでもない」

「条件って?」

「君を傷つけないこと。まぁ自ら進んでわざわざ服用できない"自分専用のヘロイン"と一緒にいることを望むなら、好きにしろってことだな」

 

鬼と人間。本来なら絶対に関わるべきではない。それはわたしも彼もわかっている。わかっているけど、離れられない。お互いを無視できない。もう手遅れなのだ。

 

 

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