せいくりっどがーる!!!〜戦場に駆り出された聖女は回復よりも光魔法でがんばります〜 作:囚人番号虚数番
「お邪魔します……うわぁ」
「お邪魔されまーす」
現在時刻 某日夜
現在位置 リューナの部屋
彼女の部屋の扉を開けるとそこはガラスのドームの中。外観より遥かに広いガラス球の中に多種多様な木々や植物が生い茂る。王都に似つかない満点の夜空も相まって幻想的な光景である。
「私の研究室へようこそ!!さ、上がって上がって!!」
「わっ!ちょっと引っ張らないでください」
彼女に手を引かれながら部屋の中心へ。光る植物に照らされたドーム内の中心には沢山の魔導書が並べられた本棚や何に使うか分からない実験用具、非活性のまま放置された魔法といかにも魔法使いの研究室といったものが配置されている。
「遅かったなセレネ。俺のほうが一足早かったな」
あれ?いつの間にミツキさんも呼んだんだ?先にこの部屋に訪れていたミツキさんは既に魔導書を読み進めていた。表紙を見た感じ魔法の基礎理論のようだ。白紙計算用紙片手に頭を抱えている。何故ここにいるかは曰く「魔法の伸びしろがあるから強化したい」だそう。
「魔法の調子はどうです?」
「うーん……ちゃんとした魔法はかなり前に少しだけ見た事があるだけだからかなり難しい。というかこれ、本当に魔法か?魔法ってもっとこう……呪文とか直感的なのとかそうゆう物を想像してたんだけど……何で文字式とかちょくちょく理論記号まで出てくるんだよ……」
「それはお姉さんが教えてあげまーす!!」
パチンッ
リューナさんが指を鳴らすとポンッという音と共に煙が上がり、その中から黒板と先生っぽい格好をしたリューナさんが出てきた。いや元々先生だけどやっと先生らしい格好になった。
「魔法が予想外に計算ばっかりで辛い?でも安心して、ナッツーの想像した魔法系統も存在するから!!」
「系統?」
「じゃあ優等生のセレネちゃんに問題でーす。現在主に使用されている魔法の系統を3つ、特徴を交えながら答えて」
いきなり私に振ってきた!?まあ分かるからいいけれども。
「えっと、自身の感覚のみで魔力を制御する最も古い系統の『感覚魔法』、制御の感覚を呪文によってある程度固定化させる現在最も多く使用されている系統の『呪文魔法』、そして現在研究が進められている専用の言語を使用して引き起こす事象を高度に制御する『理論魔法』の3種類です」
「大正解!!お姉さんから1ポイント進呈でーす」
「何故修道院からあんまり出たことの無いお前がそれを知ってる!?」
「魔導書に系統別の変換公式があってその解説にあったので」
魔法の公式としては珍しく三元三次式ではなく4元四次式だったからよく覚えている。なお使用頻度はほぼ無いから使えるけど使った事はない。
立ち話も何なのでそろそろ私も座ろう。適度な席に腰を掛ける。
「それで……さっきから気になってるんですけどここは何処ですか?」
「それは俺も気になる。部屋の外観よりも広いし一体どんな魔法を使った?」
「ここは私の研究室。リューナちゃんの叡智はいつもここから始まるのだー!!場所とかは王都から離れた平原に建ててる建物とこの部屋の扉を転移魔法で繋げてる(実は大学にも繋げてる)。実験には時に破壊を伴ったりするから人目につかなくていい所だよ」
パチンッ
「はいこれ、地図でいうと……ここ!」
ここって、これ世界地図だし指差した先はここからかなり離れてる海の上だし……
「結局……ここってどこですか?」
「知らない。未発見の大陸か島っぽい。でも多分未開拓地域だからそもそもここを誰も知らないし自由に使える土地だよ」
「(…………この地図、まんまあれじゃねえか。けどなんて名前の図法だっけ?)」
「話も済んだことだし講義の時間に入りまーす!」
とと、そうだ。そろそろ始めましょうか。
「それじゃあまずはこの公式から……って行きたいけど二人共属性の概念とかどこまで分かる?」
「ざっくり」
「魔導書にある内容までなら」
魔法の属性は三元三次式では火、水、風、雷、土、それと光と闇が基本的な属性だ。属性同士には相性が存在して組み合わせによっては威力が増したり、逆に減衰したりと様々だ。
属性とその相性の分け方は基本的にはあるものの基本的というだけで世の中には相反する属性を同時に出力しても平気な人もいるらしく、理論魔法ではそれを解消する理論として更に高次の概念を導入する。多分ミツキさんはここから始めるのが吉だろう。
「おっけー。それじゃあ魔法の幾何学制御とそれの方程式化とかは?」
「自己流ですが可能です」
「……無理だ」
理論魔法では体感の感覚を全て数値と関数を媒介して制御する。その為比較的低次の魔法であれば図形で表したり、逆に変数処理の為に数式化したりするのに方程式は必須の技術だ。
なお本来これらは魔道具等の工学にも使う技術でもある為、戦闘などの流動的な環境で人が短時間で使用する際はテンプレとして1、あるいは2つの変数を設定するだけで作動できるようにするのが好ましいとされる。
「セレネちゃんは平気そうだね。ミッツーは分からなかったらその時にお願い」
「分かった……(何でこの世界でも数学しなきゃいけないんだ……あ、そうだ)因みに呪文魔法の資料は?」
「アレは才能無いとこれの100倍くらい辛いけどそれでもいいなら……」
「構わないからそっちを貸してくれ」
あ、ミツキさんの心が折れた。
ーーー
それから月も高く登りはじめて。
「……セレネちゃん、これ本当に独学?普通に私も使わないような公式も結構混じってるけど」←服はもとに戻した
私はリューナさんが執筆した魔導書と大学の教科書の公式を見ながら自身の研究書の修正と証明の追加をしている。主に【光柱 ピラーオブムーンライト】のリミッターの大幅な修正をした。無いと思っている箇所にこそ抜けや間違いがあり、修正より間違いを探すほうが高難度である。おかげで射程はかなり短く、レーザーの太さは最高で身長ほどへ、火力も当たったものが消し炭になるのは辛うじて防げる程度には抑えられた。
「はい。拡張もあんまりしてなくて導出は適当ですけど」
「適当って……表記が違うだけで大体あってるしそれどころか新発見の式もあるよ。ほら、これとか」
あ、これは確かに彼女の資料に見当たらなかった。基礎的な式だと思っていたから意外だ。
「セレネちゃんの組む魔法って効率適だね。他の魔法使いとかは細く変数の設定をするのにごちゃごちゃになりがちなんだよ。その点セレネちゃんのって属性と魔力量さえ決めちゃえば簡単に使える。魔力を多くすればする程理論上は無限に精度も威力も上がるし……」
「式の圧縮はそれなりに時間をかけてやってましたから」
「あー……?でもこれ圧縮にしては……ねぇ、この戦争が終わったらうちの大学の研究室に来ない?」
「いいえ、勿体無いですがお断りします。私はあくまで修道女ですから学問は趣味までにします。でも面白い発見があったならリューナさんに手紙を送りましょうかね」
「……二人は楽しそうだな。こっちはさっきから意味の分からない詩集?見て頭痛いのに……」
「ははは……ミツキさんも呪文魔法から理論魔法に戻りますか?」
「俺は今まで通りの感覚魔法を使い続けるよ。ったく、あのクソ神め……」
神様に文句を垂れても救いはきませんよ、努力をした者に神は微笑みます。そう彼に言いたいけれどこれは余計な助言だろう。
「んー……でもリューナお姉さんも新しい事ばっかりで少し疲れてきちゃった。一旦お勉強は終わりにしない?」
そういえば集中していたから気づかなかったが結構な時間本と式とのにらめっこをしていた。多分このままだと日が明けるまでやってしまいそうだから一旦ここで止めとこう。
「なら俺に一つ提案がある。ここは暴れていい土地なんだよな?」
「?そうだけど、それがどうしたの」
「折角魔法を勉強してるから模擬戦をしてみないか。個人的にセレネと戦ってみたいのとリューナ、俺はお前にリベンジをしたい」
ああ、ミツキさんは闘技場でリューナさんに負けていた。どうやら圧倒的な魔法の物量にどうする事もできずに負けたとか何とか。
「それより私とも戦うんですか?私があまり戦いをしたくない事は伝えましたよね?」
「お前に関しては考えがある。前聞いた話から考えたんだけどようは誰かの為にしか力を使わないつもりなんだろ。なら防衛戦なんてどうだ?」
「あー!!つまりミッツーが私に攻撃しようとするのをリューナちゃんが止めるってこと?よーし、面白そうだしやってみよー!!」
「リューナさん!?」
「よし、これで決まりだな」
こうして、全く不本意な形で模擬戦をする事になった。確かに「例外」はこの場合適応されるかもだけど釈然としない。ドームから外へ出るとそこはリューナさんの言うとおりの何もない荒れた平原、数キロ先の乾いた地平線まで星空が続いている。気温もドーム内と違い冷え込んでいる。多分魔法で気温の制御をしていたのかな?
「うーん、さすが荒れ地といったところです。夜は冷え込みますね」
「結構冷えるな。だけど戦いに何ら支障はない程度、寧ろいい感じに冷えてお互い集中できそうだな」
「取り敢えず暗すぎて何にも見えないから明るくしましょー!!えーい光魔法どーん」
パアァッ
リューナさんは杖の先に光魔法を付与し簡易的な明かりを作った。私も私で光の玉を生成して視界を確保する。
ーーー
リューナさんの魔法で視界を確保しつつ、流れ弾が当たらないようにドームに防御用の結界を張ってから数km移動してから戦闘ルールを確認する。
戦闘に参加するのはミツキさんと私。……私!?
「え!?リューナさんとじゃないの!?」
「まあ待て」
ミツキさんはリューナさんに攻撃を仕掛ける。この時リューナさんは初撃が当たる距離にミツキさんが入るまで一切反撃は出来ない。
私はミツキさんの攻撃を捌きながら「攻撃しながら、だろ?」攻撃しながらリューナさんを守り通す。こうしてリューナさんに攻撃があたったら私の負けでリューナさんVSミツキさんの戦いが開始、10分が経過もしくはミツキさんに致命傷となりうる攻撃が加わったら私の勝ち。
「えっと……本当に、本当に仲間に攻撃を向けてもよろしいのですか?」
「これは決闘だ。ルナシーの事を考えろ、こういう場では戦わない事こそが相手への一番の侮辱だ」
……確かに、ルナシーさんは私に酷く失望していた。聖職者として神の言葉を守るのも重要だけれど……人としてはこの場に合わせたほうがいいのは明確である。
「侮辱、ですか。じゃあ……非常に不本意ですが、本気で行かせてもらいますよ」
「セレネちゃん、頑張ってねー!!」
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