せいくりっどがーる!!!〜戦場に駆り出された聖女は回復よりも光魔法でがんばります〜 作:囚人番号虚数番
「(よし、セレネがやっとその気になった)それじゃあ開戦といこうか……」
ミツキさんが白い剣を抜き、構える。
「ええ。スタートの合図はどうします?」
「そんなもの俺は無くていい。だけど必要なら……ふっ!!」
ミツキさんがその辺の石を投げ上げた。
「この石が地面に落ちたとき俺は攻撃する。それまでにやれる事、やっとけ」
「!っはい」
ああ、始まってしまうのか。何度も言うが本来私は非好戦的で戦うことを好まない。倫理的にも、職的にも戦いから遠い存在。だけれども……非常に想定とは違う形であれど、守るためと言うならば神も許す……今のコレは身勝勝手にも程がある解釈ではあるが。
それでは……始めましょう。私は自身に向かって強化魔法を使う。
「身体強化魔法、発動!!」
ブワッ!!
色とりどりの多角形が私を囲む。段々と多が増え円に近づいていき、それに比例して次第に直径が小さくなり私に纏うように収束する。そして私に溢れんばかりの力が付与された。
認識速度上昇、移動速度上昇、身体強化、対物耐性強化、感知感度上昇、自然回復力強化、魔力効率強化、魔法攻撃強化、耐魔法耐性強化、その他時間経過による効果の再付与の機構。圧縮のかいあって複雑な魔法をいっぺんに、それも高出力で作動しても然程魔力を消費していない。計算の成果がちゃんと現れている、改めて実感できて強化による感覚とは別の意味で不思議な高揚感が湧き上がる。
「(それとリューナさんの防御を……)」
【円環 ジュピターの理】
「(おおっと……これは中々硬い結界)」
リューナさんを囲むように半径5m程の結界を張った。見た目は円環とは付いてるものの円や球状ではなく多面体で黄色く発光している。理論強度は物理は勿論、魔法共に私の魔法でも一応は耐えられるくらい。多分ミツキさんの攻撃でも数発は耐えられるだろう。
一方、ミツキはというと……
「(…………は?)」
セレネにかかった認識速度上昇、移動速度上昇の効果により速度の上がったこれらの一連の過程は彼には捉えられなかった。つまり……
「(え"っ!?セレネが急に100倍くらい強くなった!?)」
考えを巡らせる暇はなかったからそれ以上の思考はできなかった。しかし、彼の無意識下の本能はこれをこう解釈した。
これは偶然だ、誤差だ。俺より遥かに弱い筈のセレネが勝てる筈が無い。
そして、地面に石が落ちて……
「頑張れー!!リューナちゃん!」
リューナの声援が開戦の合図と被る。私はその声に答えるように魔法を一つ展開した。
「行くぞ!!セレネ」ダッ!!
【日蝕 クローズドアイズ】
戦いと同時に私はある魔法を作動させる。魔法により周囲の可視光の波長を可視光外へと変更した。認識出来ない光が照らし、ミツキさんの周りの景色が一気に暗くなる。それは夜の暗さでではない、洞窟のような光源なき空間が展開された。
当然ながら自分が初撃を加えるものだとしていたミツキさんにこれは想定外、一瞬足が止まるになる。
「(意外だな、セレネがまず視覚を奪ってから戦闘開始なんて姑息な真似するなんて。だけどその程度じゃ俺も負けないぞ)」
「(ミツキさんの足音が止まりました。なら今の内に行動します!!)」
後で知った事だが彼が止まったように見えたのは認識速度上昇の作用で実はミツキさんは僅かに速度を落としただけだ。しか知らない事は今回は良かった。私はそれを知らずに大胆に後ろへと回り込んでから攻撃する。
【光柱 ピラーオブムーンライト】
「何っ後方だと!?」
彼は極太のレーザーをどうにか身をよじらせて間一髪で回避。そして魔法弾でセレネを抑えながらリューナへと距離を詰めていく。
「させません!!」
【光柱】をオート照準に切り替え新たな魔法を追加する。
【流星 ラピッドスターダスト】
ズドドドドドドド!!
小粒の弾を大量に高速射出する。直接狙うよりもざっくりと、致命傷を与えることよりも適度に当たりかける程度の密度を維持して移動を制限する。
「(周りが見えないから体感で判断するしかないけど結構弾幕キツイ。レーザーを避けつつの攻撃は難しいな。リューナになにかするよりも前に……セレネを倒さないと駄目か)」ダッ!
ミツキさんは攻撃対象を私に変更、セレネのいる弾幕が向かってくる方へと敢えて突っ込んでいく。近接で殴りかかられるのは遠距離主体の私には非常に相手したくない。彼の行動は戦略的に非常に効果的だ。
だけど私はそれを利用する。
「(よし、かかった)」
ーーー
それから10分後
「だいぶお疲れの様ですね」
「はぁ……はぁ……そうかよ……(あれからセレネに一回も攻撃できない。それどころかセレネに追いつけてすらいない。何かがおかしい)」
視界も悪く弾幕を避けながら攻撃の算段を立てる、その複雑な思考によりミツキさんには精神的な疲労も肉体的な疲労も蓄積していた。流石にちょっと可哀想だ。リューナさんも残念な物を見る目をしている。
「あの……申し訳ないのですが……そろそろ終わりにしませんか?」
「いいや、まだだ!!俺はまだ戦え……」
「ミッツー、タイムアップだからもうミッツーの負けだよ。もう体力も残ってないでしょ?やめな。セレネちゃん、回復をよろしく」
「止めろ!!俺はまだ、まだやれる!せめて……周りさえ見えれば俺にも勝ち目があるはず!」
「ありゃりゃ、そりゃそうなるか……ミッツー、残念だったね。セレネちゃん」
「ミツキさん、もしかして【日蝕】の効果範囲外に行けば視界が戻る、そう思ってますか?」
「(何……どういう事だ……?)」
実は【日蝕】は暴れるのに充分な広い範囲に展開していない。半径僅か1.5m、当然本来であれば一歩くらい歩けばすぐに範囲外から出られてしまう。
それが地面の一点を中心にとして参照しているならの話だが。
「【日蝕】はミツキさんの現在地を中心として座標を変更しています。動きに合わせて暗闇は動く。つまり、ミツキさんはこの闇の中からは絶対に抜け出せません。ついでに言いますとミツキさん、実はあなたは割と前の方から私を見失ってました」
それを聞いたミツキは酷く困惑した。
「じゃあ……だとしたら俺は何を追っていたんだ」
私は【日蝕】を解除して彼がどの様な立ち位置にいるのかを見せた。
「ミツキさんを攻撃していたのはアレです」
「魔法陣……まさか!?」
「ミッツーはずっとセレネちゃんに踊らされてたんだよ」
彼の現在地を参照している魔法は【日蝕】だけでは無い【光柱】【流星】含めすべての魔法が半径こそ違えど彼を中心に作動していた。ランダムな位置から魔法を撃ち込み彼が追いかける、周りの見えない彼はその先に私が居ると信じて同じ場所をずっとぐるぐるしているだけだった。
「……ははは……確かに。これは俺の負けだな」
「それじゃ、勝負は終わりですね。ほんと、お互いかすり傷位で済んで良かったですよ。リューナさん、【円環】を解きますね」
私のバフの解除とミツキさんへの体力回復をしながら彼女にそれを聞いた。
「あ、それはいいや。自分で出る。セレネちゃんへの教材にピッタリだから」
……?教材とは一体何の事だろう。
リューナさんは私の作った【円環】に触れる。少し考えた後彼女が魔法を展開する。
「……リューナちゃん、魔力量は一般人のソレだから不思議に思ってたけどここまで圧縮したらそりゃそうなるか。えいっ!!」
パリーンッ!
なんと彼女が私の【円環】に魔力を込めた途端に壁が割れた。しかもかなり少量の魔力で。
「え!?何で壊れたの……回路系は全て正常の筈だし歪んだりもしてなかった筈だけど……」
「セレネちゃん、これ作ってる時ハッキング防止機構外したでしょ」
……あ
ハッキング防止機構、第三者が自身の作動させている魔法に干渉する事を防止する機構。そういえこの魔法、元は医療用レーザーの応用だから戦闘で使わない事を想定してた。誰かに魔法の邪魔をされない前提だから容量の無駄だし外してたんだ。
「町の魔法使いとかの間だとハッキング防止無しでも十分活躍できるけど詳しい人相手だとちょっとした隙間からこうやって壊されるから戻しておいた方がいいよ」
「はい……。ちゃんと戻しておきます」
「壊されるだけならまだしも本当に強い人は中身までバレて応用されるから本当に本番じゃなくて良かったね。でも圧縮自体はちゃんと出来てたから2戦目の後でハッキング防止機構自体を圧縮しようよ!!」
「因みにこれ、いつから気づいてました?」
「圧縮にしても少し軽すぎるなーとは思ってた。んでさっき実際作動してる所見て確信した。変数以外にもハッキング防止に式をわざと複雑にしてる人もいるくらいだからね、あんな使用者に優しいシンプルな式は流石にお姉さんすっごい驚いたよ。あと途中から偶数弾使ってたでしょ」
「やっぱりバレてしまいましたか……」
しばらく魔法の話に花を咲かせる。そんな私達を傍から見ている彼はこう呟いた。
「あの魔法バカ二人は楽しそうだな……」
「って二戦目?ミツキさんはお疲れですけと」
「うん、ミッツーが死ぬほど疲れてるならこのまま攻守交代といってセレネちゃんの連戦開始だよ!!」
【1st=虚次元展開】
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