せいくりっどがーる!!!〜戦場に駆り出された聖女は回復よりも光魔法でがんばります〜   作:囚人番号虚数番

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腐肉の山、屍跡

「おかしいですね。気配はこの辺りからした筈なのですが獲物が見当たりません」

 

「今も殺気はしますが表に出てこない事を考えると不意打ち狙いもしくはどこか場所を移したかですかね。私に二者択一をさせるとは中々強気な敵ですね。大嫌いです」

 

 

 

「おいルナシー、お前一人で勝手にどっか行くな!」

 

「やっと来ましたね。遅すぎます、狼さんの案内もあった筈ですが」

 

遅すぎるんじゃない、ルナシーが勝手に動いているだけだ。

 

 

現在地 谷の森 深部

 

 

私達はルナシーさんを追いかけて森の深部へと来てしまった。狼さんの鼻に狂いは無く多少無茶なルートはあったものの安全に来る事ができた。

 

「お嬢途中から木の上をパルクール状態で移動しませんでした?」「そうですよ。でもちゃんと追いつけたなら問題ないですよね」

 

「ルナちゃん、敵が来そうな所が見つかった。だから一旦安全な所へ移動するよ」

 

私も彼女に場所を移るよう頼む。だが彼女は返事をせずそれどころか更に奥へと進む。反省の色のない行動にミツキさん達もイライラしてきた。

 

「ちょっとルナシー、宿屋でもそうだったけれど自分勝手過ぎるんじゃない?」

 

私もそれには同感だ。私も集団行動をするように促す。

 

「ルナシーさん、いくら腑に落ちない事でも今は身のためです。皆さんの言う事を聞きましょう」

 

「セレネ、私に敬称は要らないと伝えたはずです。それよりそこの無能共、見せたいものがあるからついて来てください」

 

「んだと?」

 

「ミツキ……あまり……怒らないであげて……ね?」

 

「分かってら。ここまで来たら逆について行ってみよう。それで大したものじゃなきゃあの戦闘バカの方が頭の回らないただの馬鹿だって証明してやる」

 

ーーー

 

そうして彼女の後ろに続いて私達は彼女の見せたい物を見に向かっているのだが……

 

「セレネちゃん、またあった」

 

「敵がですか?」

 

「あの不気味な『木』。しかもここでは群生してる」

 

言われてみれば森の太い木に紛れて確かにそこにあの『木』が生えている。しかし前とは違いここからだと2、3本程見える。群生、と明言した事から暗くて見えないだけである程度の範囲でこの『木』が沢山生えているという事だろう。

 

「もしかしたらこの森だけに分布する固有種なんじゃないんですか?それかこの討伐が済んだら大学に持っていって研究してみるのはどうでしょうか」

 

「うーん、植物学は対象外だからサンプル回収だけでいいかな?」

 

そこから更に森の奥に向かうと腐臭が漂い始めた。ミツキさんとそのお仲間はこの悪臭に本当にこの先に何かあるのか?と疑問を持っていたが彼女はこれでいい、この先だ、とそのまま前進を続ける。

 

私とリューナさんはそれに加え『木』にも気を使っていた。何故なら奥に向かうに比例して確かにその『木』が数を増えているからだ。そして件の見せたい物の所へ到着した頃には普通の木は消え失せただその不気味な『木』のみに置き換えられていた。

 

 

 

「……で、もしかしてこれが見せたい物なのか?ルナシー」

 

「はい」「お嬢、もしかして」「狼さんのお察しの通り多分これが襲われた奴の成れの果てでしょう」

 

彼女が見せたかった物、それは……腐肉の山。さっきまでしていた悪臭はこれが放っていたらしくここから一番濃い匂いがする。何ヶ月溜め込んだのだろうか、様々な動物の細切れや人だった何かの一部、それと黒い髪がグチャグチャに混ざり合い大きな山を作っている。腐肉を食す虫も飛び交い匂いと絵面で気分が悪くなる。吐き気もしてきた。

 

「ゔっ……ずみません………吐いてきます………」

 

「平気です……平気じゃないですよね」

 

「弓師ちゃん?あんまり遠くに行かないでね?」

 

私より先に限界が訪れた人がいた。弓使いさんには緩めの回復を施して吐くのを見送ったが私もいつ限界が来るか分からない。

 

「調べるか?」

 

「勿論」「お嬢、まって」「断る」「えぇ……」

 

「うぇ……私は地図に印だけするから後は頑張って。それから体洗うまで近づかないでよね」

 

魔剣士さんとルナシーさんとミツキさんは早速調べに入っている。気分は悪いけれど私も協力しよう。近くの木の枝で山を崩しながら中を調べる。一回突くごとにポロポロ崩れ、凄まじい匂いが鼻を突く。

 

「うっぷ……(壊疽の治療も経験はありますが……これは、ちょっと……キツすぎ……)」

 

しかしそのおかげかなんとあの甲殻の破片の片割れが見つかった。割と表層の方にあってくれて助かった。

 

「ミツキさん、これ」

 

「あの甲殻だな。流石ドラゴン素材、腐ってもドラゴンって事か?」

 

つまり討伐対象は先遣隊とSランクパーティを倒した後鎧だけを捨てて死体と素材を集めていた。もしくはその逆かも、今思えばやっぱり鎧が本命かもしれない。

 

「証拠も見つかったことだしもういいか。皆も臭えし汚え所に長居はしたくないだろ?」

 

「そうだね。ちょっとお風呂入りたくなってきたから夜はまだ明けてないけど帰ろう」

 

「zzz………さんs………」

 

私も賛成だ。不快な場所だし討伐対象がいそうな場所も特定できたしここにいる理由は無いだろう。

 

「お姉さんも賛成。こんな汚い臭いところで一晩中なんてやだし帰っちゃおう!」

 

リューナさんも賛成した。ルナシーさんはどうだろう。彼女なら一人だけでも残って戦う、なんて事も言いそうである。

 

「それができれば是非そうしたいです。が、今日は大人しくします」

 

「なら帰還で決定だな」「でも根暗はどこへ?さっきからアレの声がしません」

 

若干被り気味でルナシーさんが聞いてきた。そういえば弓使いさんは気持ち悪いと吐きに向かってから一向に戻ってくる気配がない。帰るのにはまず全員を揃えてからでなくては。

 

 

 

ザッ……ザッ……

 

 

しかしそんな事をし始めた瞬間に彼女が戻ってきた。吐いてなお調子が悪いのか足が不安定であり回復をする。

 

「話し始めた瞬間来たな。吐くもん吐いて気持ち良くなったところ悪いが帰るぞ」

 

「………………」

 

返事はない。

 

「おい……どうした?お前なんか変だぞ」

 

「………ぁ……」

 

彼女は急に力が抜けたみたいに倒れ込む。

 

「ちょ、まじで大丈夫か!?」

 

彼が彼女を起こそうと肩に触れようとする。

 

「大丈夫か?」

 

「ぅ………」

 

バシッ

 

彼女は彼の手を払い立ち上がる。そしてなんと矢を取り弓を構えようとする。

 

「っは?」

 

弦に矢をつがえ弓を引く。照準はまだ不正確だが明確に彼を射ようとする体勢だ。

 

「おい待て!」

 

ザクッ 

 

 

 

 

シュンッ スコーン

 

 

 

 

 

「はぁ、なんでこうもギルド衆は問題を増やして帰って来るのか。無能の思考は分かりません」「……お嬢流石にそれは」「察してください」

 

矢は見当違いな方向へ飛び近くの木に刺さった。照準が絞られる前にルナシーさんが彼女を止めて再び倒れたからだ。弓使いさんの首をルナシーさんが鉈で断ち切り……殺して。

 

 

「ル、ルナシーさ「ルナシー!てめぇ何をした!」

 

ミツキさんが彼女の胸ぐらを掴む。身長差から彼女の足が少し浮く。

 

「何故って戦闘態勢に入ったから殺しました」

 

「ふざけんな!」

 

パァンッ

 

彼女の顔を平手打ちする。いい音でとても痛そうだが彼女は彼の目から顔を動かさず冷淡な目で彼を見つめる。

 

「ミッツー、落ち着いて!」

 

「できるわけ無いじゃない!だって仲間が……仲間が……そうだ、そこの聖女さん。回復を」

 

魔剣士さんに彼女の回復を頼まれる。だけれども私は反応をせず魔法を使わない。無言のまま只々彼女の傷を見ながら呆然としている。

 

「…………聖女?」

 

「即死です。体温からの予想値ですが死亡から既に5分程経ってます。私ではもう治療は不能です。魔剣士さん、力不足で……本当に申し訳ありません」

 

申し訳ない風な声で事実を伝える。先程まで私もどうにかしたいと思案をしていた。それらの全てが無駄だとは分かっていた、そして結局はどうにもならなかった。

 

「セレネ……生き返らせたりとかは?聖職者なら出来そうだが」

 

「……聖女とて、できない事もあります」

 

救えなかった罪悪感で押しつぶされる心境で絞り出した声は非常に小さく、弱い声だった。

 

「何湿った空気してるんですか」

 

ルナシーさんはこんな時でも顔色一つ変えず平然としている。しかも殺した事を当然の行為の様に振る舞う。その冷徹さはもはや彼女が人間ですらないと思わせる。

 

「ルナシーさん……自分が何をしたのか……」

 

「貴方は既に答えを出してます。早く死体を捨てて下さい。リューナとビ○○と無能もさっさと動いてくださいよ」

 

彼女の言っていることの意味がイマイチ理解できない。

 

 

 

 

ぴちゃ……

 

 

水音がした。この辺りに水が流れる箇所は存在しない。結果的に音の出る源は限られてくる。音源はまさに死亡した弓使いの彼女だった。頭部が欠け、血も吹き出て、死亡しているにも関わらずゆっくりと立ち上がった。

 

皆一様に絶句する。ルナシーさんの示した「私の知っている事」は彼女は5分以上前に死んだという情報、つまり彼女が首の切除前に既に死亡していたことだったのか。魔術的な気配はあまりしない。書物の中や魔導書に記載されているアンデットとは違いそうだ。だとしたらこれは何?

 

「ひぃっ!!」

 

「な……何なんだ………これ」

 

「zzz……あくむ……」

 

ミツキさんも私と似たような反応を示す。Sランクの冒険者にとってもこれは異常らしい。全員がいつでも彼女に斬りかかれるよう剣を抜いた(魔法使いさんはまだ寝ている)。私達も戦闘ができるように魔法を展開する。

 

【1st=虚次元展開】

 

【自然回復力強化、移動速度上昇、身体強化】

 

彼女だった物は暫く私達を無い顔でキョロキョロ周りを見ていた。しかし急に様子を変え腐肉の山へふらふらと向かって行く。彼女は腐肉の山に倒れ込み、そして……

 

 

パァンッ!!

 

 

爆発した。全身が内側から破裂して肉片と血が飛び散り私の顔にも少しかかる。後に残ったのは地面に飛散した血と肉と髪だった。

 

「やっと動きますね」

 

「ルナシー、何が来……」

 

ミツキさんの言葉が終わる前にそれは起きた。引きずるような音がして、それから腐肉の山に変化があった。

 

腐肉の山に螺旋状に境目ができる。それに沿って腐肉は塊となり身長ほどに太く、全長50m程の1本の管に形を変えた。管の先が私達の方に向いて、横向きの切れ込みが入り「口」が出来る。

 

「あ……ああ……」

 

腐肉の山はとぐろを巻く蛇へと姿を変えた。私は蛙、睨まれて身がすくむ。でも戦わないと、回復を、強化をしないと。できる事はやらなきゃ。

 

「シャー……」

 

静かに蛇が「合図」する。彼の者の「狩り」が始まる。

 

 

 

 

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