せいくりっどがーる!!!〜戦場に駆り出された聖女は回復よりも光魔法でがんばります〜 作:囚人番号虚数番
「あはははははは!やっぱり露出というのはいい文化だ!」
「おいいいいいいい!俺が脱がせねえからって大の男が脱ぐんじゃぁねえ!!」
「宿のおじさん、本当に申し訳ありません。多分あれが彼の平常運転です」
彼らは人も少ない食堂で騒がしい夕食をとっていた。ナツメが酒で暴走し、ミツキが抑え、普段身勝手なルナシーがそれについて謝罪するという異常な構造が出来上がっている。
普段なら彼女もそのバカ騒ぎに参加している。しかし今彼女はそんな事で楽しんでいる余裕は無かった。足元の蠢く不快な殺意を食事中も睡眠中も感じるせいでソワソワする。
「……狼さん。そろそろですかね」「それより中へ入れて」「食堂にペットを入れるのは衛生的にどうかと。それより質問に答えろ」
窓越しで狼と相談する。彼もまた彼女と同じくこの殺気を感じ続けていた。魔力という物は彼等は感じられないが野生の勘でなんとなく分かる。
「そうですね。昨日より範囲が村の前までに広がっているので来るなら今日か明日かと」
「…………」
「お嬢?」
「あ、いや。ちょっとセレネ達の持ってるアレがそろそろ行動を起こしそうな雰囲気なので心配でして……あ、来ましたね」
彼女がそう言った瞬間、窓から竹が飛び込んできた。それに続き床板を壊して次々と筍が生える。宿のおじさんはそれで頭を潰されて死亡した。ミツキは場の急な変化に順応しすぐに剣を抜こうとする。しかし剣は部屋に置いてきていたので生えてくる竹と筍避けながら剣の調達へ向かった。ナツメは酔っ払って裸で何処かへ行ってしまった。なんとなく死にそうにはないが既に社会的に死んでいる気がする。
彼女は素手で窓を竹と壁ごと破壊して屋外へと出る。案の定他の家々も同様竹に襲撃されている。眼の前には血と火花散る惨劇が広がっていた。
「(やっぱり殺気の一部はこの木からですか。回復待ちすらせずに本体が直々に来てくれたのは嬉しい誤算です)」
彼女にとってはそちらの方が心地が良い。彼女の被る頭巾と同じコントラストの世界に微笑を浮かべた。頭巾を直し、片手に鉈を持って爆発を背に惨劇に加わる。
「さて、木屑になる準備はできてますか。雑草」
ーーー
「…………っふぉお!」【1st=虚次元展開】
彼女は亜空間に瓦礫を捨てて山の下から這い出る。そしてすぐにもう一人それらの下敷きになっている彼女を探す。倒れた柱や割れた壁板を退かすと彼女の華奢な右手が生えていた。
「セレネちゃん!生きてる!?」
呼びかけに彼女は答えない。代わりに弱々しく手を振り最低限生きている事だけを指し示す。
「待ってて今退かすから!」【身体強化】
彼女は自身にバフを盛り彼女の上にある大きな瓦礫を1つづつどかす。何個か退かした後瓦礫が持ち上がり砂埃とともに彼女は起き上がった。
………死ぬかと思った。形こそ違えど筍は竹と同じものだというのに爆発に余りにも無警戒過ぎたのが原因だ。受け身も満足に取れず建物内だから倒壊した建物の下敷きにもなり散々だ。
「リューナさん、ありが「そうゆうのは後!怪我はない!?」
「……どうにか」
「それじゃあ戦闘だよ。お姉さんは竹を抑え込んでくる。セレネちゃんは村の人をお願い」
そう彼女は指示した後魔法を展開して竹への攻撃に向かう。私もお世話になった村の人達を助けないと。
ウワァァァァ!
誰かの叫び声だ。
「だ、誰か助けてくれえぇぇえ!」
竹に体を拘束され身動きが取れない男性。竹の繊維の束が彼にゆっくりと近づき爆殺させようとする。自身に【移動速度上昇】【身体強化】を掛け高速で距離を詰めて繊維を掴み素手で千切る。竹が反応できない高速でなら繊維の先端以外なら刺さらないというのは昨日の実験で確かめた。魔法弾で繊維を打ち払い囚われの彼を救う。
「聖女様ありがとう」
「いえいえ」
笑顔で返す。そして村で一番広く開けた場所を訪ねた。彼いわく石で舗装された中心広場があるという。好都合だ。竹を攻撃して生き残った村人を救いつつ彼に案内してもらって広場へつく。
「他に村の人はいませんか?」
「……残念だが他の連中は駄目かもしれん」
「……分かりました」
【円環 ジュピターの理】
地下に埋蔵されている竹が無い事を魔力から確認し結界を張り村人を保護する。彼らはこれで十分だろう。それから適当な回復を施す。
「おお……聖女様」「ありがとうございます」
「壊れた建物の下に他の方がいないかも探してきます」
竹の魔力が感知できる多くを占めて分かりづらいが微かながら瀕死の生存者の魔力は存在する。このまま戦いながら捜索と保護を続けてなんとかしないと……っと?
「お嬢、行くんですか」「ええ、多分アレが植物なら色々辻褄が合いますし」
村の中心から森へと続く道、ルナシーさんがそこから谷の森へと進んでいた。彼女が戦闘をやめてどこへ行くんだろう。村人の安否ほどではないが彼女も彼女で心配だ。救出が済んだら行ってみよう。
ヒュンッ
「バレてますよ!」
【光柱 ピラーオブムーンライト】
視覚外からの攻撃も魔法で竹を消し炭にして当たる前に倒す。かなり柔軟な動きにも対応される為小粒をばら撒くより一つ一つを極太レーザーで確実に抑えたほうが効率は悪いけど効果はある。救出との並行も難しいが今はやるしかない。
私は倒壊した家々の残骸を魔法で強化した体で壊したり退けたりしながら残りの人も見つけ出し結界内へと保護した。予想通り何人かは生存していた、それよりもその近くで転がる酷い死に様をした人の方が多かった。病気で腫れたりとかよりも、更に直接的に酷いと本能が訴える。彼らに失礼だけれど何回か血の気が引いた。しかしそんな方たちも一応は竹に襲われない所へと移してあげる。彼らだってさっきまでは生きていた救うべき人達だから。
そして結界内の人が増えてそれと並行して死体の山が出来上がる。体中に繊維が少し混じっていたりもしたがそこは危険だから切除させてもらった。
「ありがとう、俺らを助けてくれて」
「はい。回復も終わりました。お体の方に変化はありませんか?」
「得にはないけど俺は聖女様の方が心配だ」
「ありがとうございます。ですが私は……」
「聖女様、とっくにバレてるぞ。左の指隠怪我してるだろ」
村人の一人に私がさっきまでの救助と回復を右手だけでしていたのがバレてしまった。実はあの建物の倒壊の時に小指と薬指を怪我している。彼には心配しないで、とそれでも誤魔化そうと伝える。すると彼はじゃあ見せてみろと私の手を強引につかみ私の指の怪我の見る。
「っ……お前さん指が!」
「気にしないでください。指くらいなら問題ないですよ」
「バカ言え!お前っ、指が2本も無いじゃぁないか!」
私の左手の小指と薬指は落ちてきた瓦礫によって切断された。すぐに服を包帯代わりにして止血したから生命活動には影響はないがその跡はとても痛々しい。
「ご心配をかけてすみません。それでは、神の御加護があらん事を」
彼は指を見てからここで安静にしてようと提案する。申し訳ないが私にはやるべきことがある。忠告を無視し結界を出て谷の森を見る。
爆発から延焼したらしく森の方は昼間のように明るく、夕日のような茜色に染まっていた。先程ルナシーさんが森に向かっていた時にはあそこまで酷くはなかったはず。中で戦ってて爆発した?
村人の救助も一段落ついた。今度は彼女の行方を探ろう。【移動速度上昇】を掛け走って炎に包まれた森へと向かう。
ーーー
「……はぁ……はぁ……」
この前の夜の森とは違い目が痛くなるほど明るい。明るく熱気と煙で呼吸がしづらい。息を切らしながら走り続ける。
燃え尽きて折れた木々に紛れ、所々に不自然な跡がある。切られたり、燃えてないのに折られていたり、それとは別に地面に足跡も。恐らく彼女が通っていった痕跡だ。
「(……いた!)」
バキイッ
ドカーン
「ちっ……さっさと先に進ませて下さいよ。中身の無いスカスカの癖に根性だけはいっちょ前で心底ウンザリします!」
そうして彼女の痕跡を追っていると猛攻を鉈で捌き前へと走る本人を見つけた。狼さんも一緒になって彼女の後方から来る竹に噛み付いたり引っ掻いたりして撃退している。当然私に気がついたのも彼の方だった。彼は私に驚いてからすぐにここから離脱するように警告した。
「聖女様、ここは私とお嬢にお任せを」
「安否は今はどうでもいいんです!なぜ村から離れて森に来ているんですか、今は村が最優先……」
「セレネ!?いるんですか?狼さんいるなら早く言ってください!セレネさん、『本体』は私が殺すので邪魔しないで下さい」
「本体!?」
そんな情報は初耳だ。彼女にその事を問い詰めたいが戦闘中の彼女にはそんな余裕は……私に反応できたくらいだし意外とある?いや、無いという事にしておこう。ますます彼女についていく理由ができた。彼女には知ってる全てを教えてもらわないと。狼さんの背中に乗らせてもらって彼女の示す本体に向かいながらそれについて教えてもらった。
「とはいえあなた達ほど凝り固まった理論じゃないんで予測です」ズバッ! パァン!
「すみません!爆発音で聞こえません!」
「うるせえ聞け」
そんな無茶言わなくても。狼さんと彼女が猛攻を潜り抜け奥に進むにつれて爆発音が激しく会話がままならない。仕方なく狼さんに仲介してもらって教えてもらう。
三日前の蛇の討伐にて彼女が勝手にどこかへ行った時、彼女は確かに死体の山を見つけた。そこから蛇との戦闘となったのだが彼女だけは一つ違和感を感じていた。
彼女は殺気を追跡して蛇こと竹を探していた。しかしそれを辿り着いた先には蛇の姿は無くそこから離れた場所に蛇はいた。そして後の研究から蛇が本体ではないと分かり、もしかしたら蛇とは別に本体がいるという仮説が浮上した。
「あいつが植物と言われてピンときました。『本体は地下にいる』。根の向かう先のあの場所から今も濃い殺気がします」「だそうです」
「ならその本体を倒せばもしかしたら倒れるかもしれないと?」
村にはまだリューナさんとミツキさんがいた筈だ。村の事は彼女に任せても平気だろう。
「事情は分かりました。協力しても宜しいでしょうか?」
「戦いたいならトドメだけは私に譲る、それが出来るなら許可します」
彼女は嫌な顔だけれど仕方なさそうに許してくれた。断られても勝手についていくつもりだったけど。
作者も実は人生で1回致死的な爆発に巻き込まれかけた事があります。
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