せいくりっどがーる!!!〜戦場に駆り出された聖女は回復よりも光魔法でがんばります〜 作:囚人番号虚数番
現在時刻 村襲撃から10日後
現在位置 王都 兵舎 ナツメ自室
「皆、お疲れ様。谷の村の兵器討伐おめでとう。国の連中もこれでもっと効率のいいルートで軍が派遣できるって大喜びだよ」
私達はナツメさんの司令で部屋に集まりあの後の事についての話し合いをしている。
私達は討伐が完了して王都に帰ってきた。谷の村はあの襲撃で壊滅してしまった。しかし人命だけは私達の懸命な保護によって最小限に抑えられた。それでも数人の死者が出てしまったのは痛ましい。
谷の森の今後は竹が余りにも広域に生えすぎたせいで栄養の乏しい荒れ地となると予測されているらしい。焼き畑の要領で多少の栄養はあるものの元の森に戻るには途方も無い時間が必要だというのは言うまでもない。
そしてその竹はというと軍が遺体?を全て回収して専門の研究に回すらしい。リューナさんの大学以上の設備のある兵器の研究に特化した施設だということなので成果には期待したい。
「それと……皆が心配してる事だけど、セレネ君?『左腕』を見せてくれないかい?」
予想はしていたけどその言葉に体がビクッとなる。でも皆だって心配の筈だ。リューナさんが無理をしないでと気遣ってくれて申し訳ない。私はゆっくりと袖を捲り左手を見せる。
「……これでいいですか。こんな……こんな惨めな物を……見せてもいいんですか?」
腕は……本来なら出る筈の袖先の5本、いや3本の指は出てこない。それもそのはず。
「セレネちゃん、腕、治らなかったの?」
ルナシーとミツキさんは私のそれから目を背ける。
私の左腕は、もうないのだ。
ーーー
相手の最後の悪あがきの爆発で私は死にこそしなかったものの腕は無事ではなかった。竹は体の深部には到達しなかったが腕の8割ほどに入り込んでしまっていた。そして防御系の魔法は積んでいたがゼロ距離からの爆破、そして内部からの攻撃には耐えきれず腕は中から破裂したのだ。
急いで止血して異常に気付いたルナシーさん達が村へ運んでくれたから命に別条はない。だけど私の左腕は二の腕すら残らず無くなってしまった。
王都についてから病院にも行った。だけど腕一本を生やすとなると魔法を持ってしても難しいらしく、それこそ自分で何とかしてくれと匙を投げられた。
「セレネ、それ自分で直せないんですか?仮でも聖女ならその位……」
「まあまあ、そう言うなよ。セレネにも出来ない事くらいあるかもしれないだろ?」
ルナシーさんがぶつけた純粋な疑問をミツキさんはカバーする。ミツキさんには前に事情を話したから分かってくているのもあるだろう。だけど、本当はそれだけではないけど。
「ヘーキだよ。セレネちゃんならできるできる!!リューナちゃんの見立てだとかなりよゆーで治っちゃうね!あ、自分でできないなら私が……」
「っ!それは嫌です!」
リューナさんの提案に大きい声で拒絶する。普段大声なんて上げないから私の突然の大声に場が静まった。
「あ……え……ご、ごめんなさい」
「あ、うん、そうだね。セレネちゃんが嫌って言うならリューナお姉さんも止めるよ」
「せっかくの善意を断ってしまってごめんなさい」
「いいよいいよ、だけど後で理由を教えてほしいな。勿論話したくなかったら話さなくても良いけどね!」
「え、あ……はい。でも片手だと色々と不便なのでその内治さないとですね。治療もあまり急にしても心身ともに負荷がかかるだけですからゆっくり時間をかけて治療しないとですし」
…………ありがとう
「うんうん、女の子同士のイチャイチャも僕は嫌いじゃないよ。それじゃ今度は僕の最後の話。次の予定なんだけど……そうだね、僕の予想だと谷の森跡地を経由して敵地を攻める事になりそう。上の騒ぎ方も考えると1、2ヶ月位先の話になるかな?それまでは皆また自由だよ」
「それだけあるなら俺に1つ提案させてくれないか?」
「彼女らの葬儀ならミツキ君が勝手にして。残念だけどそこまでは僕がやる事じゃないからギルドに頼んでくれよ。面倒くさいしそろそろ部下がスト起こしそうで僕も怖いんだ。あ、あとルナシーだけ残ってね」
「あ?嫌です」
「駄目♪」
こうして話し合いは終わり、各自各々の部屋に帰される。ミツキさんはいつ仲間の葬儀が行われるのかをギルドに聞きにいくそう。私は……どうしようか。取り敢えず部屋に戻る。
ーーー
「……はぁ」
私は部屋で一人ベッドに寝転がり天井を見つめる。そして無い左腕を伸ばしてその腕の事を考える。
「手……本当に無くなっちゃったんだ」
不思議な事に頭ではそれが理解できてるにも関わらず心がそれを受け付けていない。感覚では今も手が上がっている筈なのに視界にあるべきものが無いのだ。
「(……魔導書と研究書のあのページに肉体再生の呪文は載ってるよね)」
起き上がり棚に並べた本の中から愛用の魔導書と研究書を取り出し該当ページを開く。記憶の通り高度な式だ。研究書の方は使いやすく私が改良した更に使いやすい式で使えなくはない。
「…………うん。時間は経ったはず。今なら出来る……今なら、うん」
震える手で傷口に触れて魔法を作動させる。落ち着け、あの頃とは違う……魔法もあれから改良した。精神保護も掛けた、痛覚も完全に遮断した……今なら……きっと……
ゆっくり、ゆっくりと魔力を込める。体に段々と温かい力が流れ込んでくる。それに比例して私の手は震え息が荒くなってくる。体がそれなら精神も相応であり魔法の制御も上手くできない。
「はぁ………はぁ………駄目……」
ガチャ
「おすおーすセレネちゃん!何やらヤバそうな感じだけどへーきですかー!」
「っうえ!?リューナさ……」
【肉体再ssssssssssssssssssss鬲疲ウ輔′豁」蟶ク縺ォ菴懷虚縺輔l縺セ縺帙s縺ァ縺励◆】
「うあっ!」
急な来客に驚いて集中が切れ魔法の制御を失う。幸い大した魔力を流してなかった段階だったので失敗した魔法が私に掛かる事はなく拡散、揮発、消滅した。
「びっくりしましたよ。せめてノックをして頂けると助かります」
「だってリューナちゃん、セレネちゃんの苦しそうな声が部屋の中から聞こえて心配で……」
「そうでしたか。次からは静かに……」
「そうじゃないでしょ!セレネちゃん、お姉さんに事情を説明できる?」
長い沈黙の後、私は彼女を適当な所に座らせた。
「で、何を聞きますか?」
「さっきまで何をしてたの?」
「【再生魔法】で左腕を治してました……もっとも失敗しましたけれど」
「それにしてはなんかおかしかったよ?まるで回復を怖がってるみたいだったし」
彼女にもうそこまで観察されていたか。彼女の言ってる事は残念な事に合っている。
「……いつの事でしたっけ」
「え、何々?」
「私の……初めて再生魔法で腕を治したときは。戦闘時の回復にも関わってきそうなのでこの際回復魔法が使える貴方だけには伝えておきます」
ーーー
私がまだ小さくて魔法を覚えたての頃の話だ。私がいつもの様に魔導書を読み魔法の研究をしていて読み終わった参考文献を棚に戻そうとした時だ。
それは普段なかなか読まない類の本だった。高いところにあるし目に付かなかったのがその理由の一つでもある。本の位置は私の身長では手を伸ばしても届かなかった。行儀は悪いが仕方なく本棚の段に足をかけ本を片手に登る事にした。結果本は無事に元あった所に戻せた。
ただ、そのバチが当たったのか本をしまい終えたと同時に沢山の本が並んだ本棚が倒れ込んできた。幸運な事に私は下敷きとはならずに済みはした。しかし指の一本が不幸にも倒れた棚に潰されてしまった。
混乱、しかしすぐに対処法を思いつく。魔導書の通り【再生魔法】を使えばまだ治せると踏んだ私はその場で指に魔法を掛けて指を生やしたのだ。
「というかその時点で再生魔法が使えるのは凄くない?」
「そうでしょうか?でもいくら魔法が使えても正しい使い方までは当時は分かっていなかったんですよ」
「ん?それはどゆこと?」
「精神的な保護も痛覚の遮断もせずに記載されたままの魔法で再生をしました」
「…………ええっ!?つまり、無麻酔で生やしたの?」
「その通りです。しかも一人で未圧縮の効率の悪い魔法で……リューナさん、分かりますか?力が指に吸われて、そこから肉が目に見える程の速さで生える。それがどれだけ苦しくて、不快で、痛みを伴うか」
不完全な状態で作動させる再生魔法にはかなりの痛みが伴う。その上非効率な魔法の作動で大量の魔力を短時間で消費した私はパニックとなり更に魔法に不安定さを増すループに陥った。当然当時の私にトラウマを植え付けるのには余りにも強烈過ぎた。
「そこからですね、私が自分に再生魔法が使われるのに恐怖を覚えたのは。他者に使う分には平気なので自分でも平気だと分かってもいざ使うとなると何故か怖いんです」
「……ごめんね。辛いこと話させちゃって」
申し訳無さそうに彼女は私に謝った。私は彼女に顔を上げるように言い誤る必要はないと伝えた。
「いえいえ。それに他の人に使う分には気をつけて普通に使ってますしあくまで自分には使えないって事なんでこれからも安心して回復に頼ってくださいね」
「セレネちゃん……よーし話してくれてありがとう!!帰るね!!」
彼女は急に立ち上がり部屋から出ていく。そして去り際に今度お礼にご飯でも奢ろうかと誘われた。うーん、どうしようか。取り敢えず誘いを受ける事にした。
ーーー
「……で、何故私だけ居残りなんですか?」
「気まぐれ?」
「今ここで殺されたいですか?」ナタシャキーン
「嘘だよ。あの戦いの感想を聞こうと思ってね」
「…………」ナタシマイ
彼女はあの木との戦いを思い出す。正直、被害こそ甚大で苦戦といえば苦戦だっただろう。しかし主観のみで考えるのであれば竹が思った以上に相手が防御逃げに特化して攻撃が貧弱だった事が残念に思う。
「ほう。全力を出すまでもなかった、そう言いたいのかい?」
「ええ。というか皆そんなものではないですか?1名は知りませんけど」
「じゃあ仮にルナちゃんとリューナちゃん、それとセレネ君が全力を出したとするとあの化け物は何秒で鎮圧できそうかな」
予測ではあるが条件に地図が書き換わってもいいという項目を加えるのならばソロでも本体の位置が特定できれば1分かからず倒せる。攻撃速度は遅い、防御も紙となれば相手は手も足も出ない。
他の魔法組の彼女達も同様各々の最高火力を叩き込めば倒せるのではないのか?そうも思う。今回の戦いだと接近戦で彼女とミツキが戦闘をしていたが為に後衛の弾幕がかなり控え目に感じた。おかげで接近の被弾こそ無いものの彼女らが技術を十分に発揮できたかと聞かれると肯定できない。
そしてそこを考慮して予測を建てると……
「10秒前後が理論値かと」
「奇遇だね、僕もそう思う。あ、もう帰っていいよ」
「戦いもせず全裸で逃げてた奴が何を言ってる」
そう悪態つきながら彼女は部屋を後にした。そして部屋の外から壁を壊す音がしたがそれは今は気にしない。
彼女がいなくなり静かな部屋。彼は机の引き出しから「次の戦場候補」の地図を出して眺める。
「……うーん、ならこの作戦を変更して火力を分散しても良さそうだね。えーと今日出勤してる部下は……あっそうだ、手土産に鹿威しDIYキット送りつけるのもしないとね」
そして彼は新たな仕事に取り掛かる。彼女らの新たな戦場を心を踊らせて用意するのだ。
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