せいくりっどがーる!!!〜戦場に駆り出された聖女は回復よりも光魔法でがんばります〜 作:囚人番号虚数番
………
……………
……………………ん?
「あれ、ここはどこ?」
現在位置 荒野 北の野営 自室
ああ、私の部屋か。場所に慣れてないから混乱していた。昨日の夕にナツメさんに資料の約束をして……そこから記憶が無い。おかしいな、何か衝撃的な光景を見たような気がするのだけど霞がかったように思い出せない。まあでもどうせ男の人の裸をうっかり見てしまったショックで、というのが私の中では一番高確率だろう。それか疲れすぎて悪夢でも見てたのかな。
取り敢えずこれ以上眠れそうもないのでベッドから起き上がる。顔はどこで洗うんだろう、ついでに風呂に入る前に寝てしまったので少々それもどうにかしたい。ここでは無いのは確かなので外へと出る。まだ空は暗く月が登り星も瞬いていて日が昇るまではまだありそうだ。
現在時刻 翌日 午前3:00
「そういえば昨日は疲れすぎてどこで意識が落ちたのか見当がつきません。一体何時間寝ていたのでしょうか」
少なくとも夕方からだから……8時間前後だと予想する。慣れない環境では中々眠れないと聞いたことがあるけど私の場合むしろ旅先の方がよく寝てる気がする。
……とそんな事を考えながら夜の野営を歩く。深夜でも何人かは忙しく働いているようで真面目に鎧を着て外を歩きまわっていたり夜の見張りの人が夜食を食べに建物裏でコソコソしていたりする。こんな深夜までお仕事お疲れさまです。ついでに彼らに場所を訪ねたら快く浴場の場所を教えてくれた。
「ありがとうございました。皆さんもお仕事頑張ってください」
「はっ!ありがたきお言葉です!」
そして教えてもらった通りにその場所へと着いた。流石にこの時間だとお風呂は閉まっていた。けれど冷めた湯が僅かに残っていた。そして奇跡的に綺麗な水もあり自分の体を拭くのに濡れたタオルを作る事にする。怖そうな彼らでも案外心は優しいのかもしれない。……そういえば昨日誰かに怖い事をされた気がする?
黙れ!今さっき兵が帰ってきた所だ、行くなら深夜か明日の早朝にした方が身の為だぞ。OK?
「……誰でしたっけ」
ふと、誰かの怒鳴り声を思い出した。顔も名前も覚えていない誰かからのアドバイス、信用できるかすら分からない。けれど丁度今は深夜だし参考になるかもしれない。
ここから野戦病院までの道は分かる。距離的に自分のテントに戻る前に寄って行った方が効率的だ。それに何故か鼻につく悪臭の匂いを覚えているので汚れるなら着替える前の方がいい。
「えっと……ここですね」
周りには誰もいない。軍医も衛生兵も出払っている。どうやら夜中の看護はここにはいないらしい。看護の知識は魔法と医学よりも劣りはするがこれはどうかと思う。夜の森より静かなテントの入り口をそっと開けて私は中を覗く。
「…………ぅ」
ひどい臭い。それと外からは聞こえない低く絞り出したような苦痛の声。勇気を持って中に入る。すると案の定だ、血だらけの包帯で患部をぐるぐる巻にされた兵、死体かどうかすら分からないほどぐちゃぐちゃな顔の兵士、それからそれから……そんな人達が仕切られていないベッドに寝かされている。怪我人と死者数が多い事は覚悟していたけれど予想以上だ。そして私はあるのもを見つけた。
「(………これは……『在庫一覧』?)」
壁際の机の上に置かれた紙束を読む。数値に関しては多いか少ないか私では判別し得ない。しかしクシャクシャにされた紙と殴り書きの「ぜんぶ足りない 死者タスウ 支急物資」の字ですべてを察する。読み進めると裏表紙にこんな事も書いてあった。
「勇者と聖女と一緒に補給が来るはずだった。駄目だった、的確に荷物が壊された。次はいつ?1ヶ月後、持たない」
「…………」
早く帰ろう。このままでは日が明けてしまう。昨日ナツメさんから渡された資料もなんだかんだで読んでいないからそれまでに読んでしまおう。蓋の閉められた地獄から目を背け、私は部屋に戻る。
ーーー
【烈日 灼熱SummerSunnyRay】
それから私はそこらで拾った石を小瓶に入れて魔法で発光させて明かりとした。暗くて気が付かなかったが彼から渡された資料は机の上に置かれていた。
まずはタオルが乾く前に体だけ拭こう。詳細は省くが昨日は思ったより汗をかいていたらしくかなりスッキリした。
そのあとタオルを適当な所に置いて新しい服に着替えてから資料を持ってベッドに寝転がり目を通す。種類は何種かあるが数は多くない。取り敢えずまずは薄い資料から。
最初に読み始めたのはこの野営の物資に関しての資料だ。沢山の数値が沢山の項目に割り振られていて目がチカチカする。ある程度平均や最頻などの計算もされている……がそれらをどう見ればいいのかは私には理解し得ない。
強いて言うのであれば補給の日数の感覚が不安定で食料と医療に関して言えばここ最近は敵国に襲われて物資が乏しいらしい。
「やっぱり……これはどうにもならなそうですね」
そして二枚目、ここの兵士のデータだ。ここは王都から近いからか他の野営より人が多い。しかしあくまでも数値の上だけ。負傷者や死者を考慮した値が他の野営とそう変わらないあたりこの場所の危険性が分かる。
そして私が密かに期待していた魔法の使える方々は今ここには余りいないらしい。彼らはどちらかと言えば技術職や兵器運用の側面が強いらしく私の魔法とそぐわない。回復のできる方はというとほぼ戦闘に行く部隊に付随して出動しているからここに残る衛生兵数人だけを残して今も出払っている。
「(でも彼らも技術者です。私でも学ぶ事は多いはず。彼らと掛け合って色んな事を教えて頂きます)」
そして三枚目、こちらは数値のデータとは打って変わってこの辺りの詳細な地理が記された地図だ。地図で見たところこの辺りはかなりの広域が荒野らしく目立った地形はここから離れた所に川が流れているくらいである。野営の1つはその川を輸送に使っているらしい。
そしてこの地図をパッと見て真っ先に感じた事がある。この地図にはなんと敵地の地形までもがかなり詳細に記されていた。なぜ敵地の地形が王国にまで割れているのかは私達にとっては良点でしかないのでスルーする。
そしてそこから何を感じたのかというと……なんと言うか不自然なのだ。ある領域を境に等高線が不自然に綺麗だ。荒野の真ん中にある目的の敵都市を中心にほぼ同心円状に等高線が広がりそれが広範囲に広がっている。私は王国内の詳細な都市の地図は見た事はないけれどコンパスで円を書いたみたいなそれはいくら何でもおかしい分かる。
「人の手が入っている所は分かります。でもこれは広すぎますね」
いや、まさかこれ全部を人の手により舗装した?そんな非現実的なことがあるのだろうか。人の手でもルナシーさんやリューナさんくらいの強さの方々が手段を問わずとならばやろうと思えば出来るかもしれないけど、これを誰かしたんだろう。
そして、4枚目。軍医向けの医療関係の資料だった。先程から物資系の地獄絵図は聞かされてきた。そしてこれにもその資料は入っていて内容も他と殆ど変わらないからこれは読み飛ばす。そして私が読むべきだと感じる物を見つけた。
この野営内での怪我や病気、死因などに関してのデータ。統計的な数値データは勿論戦闘や生活時に起こりうる病の原理、症状、対処等がかなり詳細に纏められている。
「うん、覚悟はしてたけどかなり酷い怪我もそうだけれど……これってつまり……」
数字を見ると意外にも戦闘での死者数は少なく殆どが負傷止まりだった。しかし死者数自体の数は多く別の表にその答えを求めると、なんとこの野営内の死因の殆どが病死で占めていた。症状や設備の資料からも推察するに傷口から感染したり未治療のまま不衛生な環境で放置されたりしたツケがこの驚異の死亡率となって数値に現れていた。
「…………うん、でもこれなら……よし」
明かりを弱めて外の明るさを調べる。空はまだかろうじて暗い、夜明けまでは十分だ。今の内に今後使う魔法を整理しよう。取り敢えず浄化系の呪文は必須として症状から病気の種類を特定する術を先輩方から聞こう。実際の感染症とか神経症?とかの治療には患者さんの体に負荷はかかっちゃうけれどその場で解析しながら効率よく処理出来るように魔法を改良するので対応する。そして本当に駄目なら容態が不安定な方の使用は控えなきゃ駄目だけど全体広域で一括すれば……これは先輩方と要相談だ。
パラッ……
「あれ?まだ見てない資料があった?」
資料を再び読み返そうとしたらまだ見ていない資料が落ちた。私はそれを拾い上げ読む。
「『発見済みの敵兵器一覧』。これはどうやって使えと」
あ、でも死因の中に不自然に「爆死」や「撃たれて死亡」などがあったからこれが敵兵器での死因なのかな。一応目を通す。
兵器と想像して私が思い浮かべたのは沢山の馬を連れた戦車や巨大な魔法、それか前回の事もあり最悪ドラゴンの様な生物だ。だからそのイメージで資料を読み進めた時、記載されている兵器の姿を見て当然驚く。
「これ、どう見ても生き物を模して作られているように見える……何故?」
スケッチされた兵器の1つは蜻蛉が卵を水に生む姿に似ていた。その下の説明には兵器が上空から爆発する弾幕やレーザーを放つ姿だと書いてある。他にも金属の光沢を持つ3本の角の鹿、近づくと爆発する岩に擬態している貝……説明を読み進めるたび寒気がする。もしかしたら前の植物同様これも生物かもしれない。それであるなら無力化は理論上可能だが厳しいかもしれない。
やっぱり回復よりも戦った方がいいのかな?戦争に呼ばれた理由も回復ではなく戦闘力が理由だから素直に従ったほうが楽かもしれない。
「ってだめだめ。修道女でしょ私は!無闇な殺生なんて簡単に考えたらいけません!」
もっとも、もう遅いが。この腕もその罰かもしれないのに。思考がこれ以上下に沈まないよう逃げるように持ってきた研究書片手に魔法のことを考える。
ーーー
現在時刻 午前5時
起床の鐘がなる。そして一斉に動き出す音がした。
「(あれ?寝顔を拝みに来たのにもう起きてる)セレネ君おはよう。昨日はよく眠れたかい?」
そしてそれと同時にナツメさんが私のテントに訪ねてきた。
「おはようございますナツメさん。こんな朝早くからどうされました?」
「お、なんだ準備万端って感じじゃないか。もしかして早起きした?なら話は早いや、今日は朝食前の朝礼に君のことを話すから。話を考えろって程ではないけど前に出る覚悟はしておいて。その後は僕の部屋でお待ちかねの衛生担当と顔合わせだから」
「はい、分かりました。……あそうだ、ナツメさんに一つ。食事について私が何か手伝うことはありますか。できる事があるなら私も協力します」
朝食に向かおうとする彼を呼び止める。彼は立ち止まり少し何かを考える素振りをしたあと聞いてきた。
「セレネちゃんって料理の腕は自信あるの?ごめんね、王都じゃ使用人がしてたから仕事取っちゃってた」
「あー……あれ?そういえば調理自体はあまり数をしてないような。あ、でも配膳ならできますね」
「えっ意外だな。リューナちゃん料理とか得意そうなのに」
「私はどちらかといえば医療系専門が主な職務でして。最後に調理をしたのは何年前かに病気の先輩用の料理を作ったのですね。それ以降は料理好きな先輩が私の代わりにやってもらってます」
「ちなみに味は何て言ってた?」
「それがその後その先輩が寝込んでしまって感想を聞いてないんです。病人向けに薬草や滋養強壮にいい貴重な食材、それとありったけの薬剤を使ったお粥だからむしろ健康に良い気もしますけど……それからは他の先輩方が料理の仕事をしてくれていたのでそれ以来料理はしてないです」
「…………うん、君を台所に立ち入らせるのは駄目だね」
「なんでぇ!?」
その後も朝食を食べに兵が集まる中必死に彼女に願うが許可を出してくれない。しかし暫く続けていると流石に周りの目が痛くなってきたから私も素直に彼女の言う事を聞く事にした。
道中、兵士さんとすれ違う。
「はっ!騎士団長様、聖女サマ、おはようございます!」
「君は昨日の……おはよう、今日も元気そうだね」
「おはようございます。朝食は食べに行かれないのですか?」
「は!自分は今から向かう所です!」
「そう。ならちゃっちゃと食べちゃった方がいいと思うけど」
「は!ご命令通り朝食をとりに向かいます!」
タッタッタッ……
兵士さんは大変だな。自分より立場の上の人には朝から大きな声で挨拶と返事をしなきゃ駄目だなんて。そういえば私もここまで酷くないものの規則だけなら似たような物だったかも。
「ふふふっ。命令だなんて、ね」
「ナツメさんどうしました?いきなり笑いだして」
「いや?それより早く行っちゃお(彼、多分セレネ君と話すつもりだったな。皆朝食食べに行く中で君だけ進行方向が逆だったよ)」
この物語において【回復魔法】というのは何でもある程度治せる風邪薬みたいなもので一般的な怪我や病気を自然治癒や浄化、弱い再生魔法等を組み合わせたかなり強引な手段で治癒しています。正しい治療では無いので体への負荷もそれなりで最悪根本的な治療にならなかったりします。なので本来は病状に応じた魔法の使い分けが推奨されています。
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