せいくりっどがーる!!!〜戦場に駆り出された聖女は回復よりも光魔法でがんばります〜 作:囚人番号虚数番
「点呼しまーす。いない人は返事してくださーい」
シーン
「はいオッケ。欠員は無し、皆いるってことでいいね。今日の予定は〜〜」
「(違う、絶対違う!)」
朝食後の朝礼。兵隊さん達は整列してナツメさんの話を頭に叩き込んでいる。彼の自由奔放な様からは考えられない様な統率の取れた兵の集まる。挙動が機械的すぎてちょっと怖い。
「それじゃあ本題に入るよ。昨日家の野営に聖女様のセレネ様が来たのは皆も知ってるよね。彼女はしばらくは戦闘部隊じゃなくて医療部隊で衛生兵として働くから病院の責任者は後で会議室へ来て。彼女と顔合わせするから」
≪はっ!
「(うわぁ声まで皆同時だ)」
ーーー
「ふー朝礼終わりー」
「ナツメさん、お疲れさまです」
現在位置 会議室
兵士さん達が各々始業して私達も会議室で人が来るのを待つ。それまで彼とは昨日の話をしていた。資料はちゃんと読み込んだのかとか敵対したらどうするだとか、それと治療について。
「慢性的な物資の不足が問題だね。これがどうにもならないとセレネ君がいる時はいいとしていない時は他の兵士が駄目になっちゃうから解決しないと」
「それなんですが辺りの植生についての資料はありますか?薬だけなら薬草があれば多分この野営内の道具だけで簡易的な回復薬が製造できます」
「……確かだけど川のあたりに群生してるって情報があった気がする。兵士だけは余ってるから派遣するか」
<騎士団長様 失礼します
「あー来た来た。聖女様も来てるし入ってどうぞ」
呼び出された彼らが来た。入って来たのは兵士にしてはやや小柄な男、他の兵と比べて冷静で知的な印象を受ける。
「お早う御座います騎士団長様、聖女様も初めまして」
彼は握手をするのに左手を差し出した。
「ええ、よろしくお願いします」
私は彼に右手を差し出す。彼は気がついてすぐに右手に代えて握手をした。
「すみません、仕事柄時折剣を扱う時のでつい左手を出してしまいました。聖女様、お許しください」
「いえいえ。知識だけでなく剣の腕もあるなんて文武両道で好ましい事です」
嫌味とかは感じられず純粋なミスっぽい。見た目通り彼は真面目な方みたいだ。何だか頼りになりそうである。私の隣の彼も見習ってほしい。
「おはよう。セレネ君、彼があの病院の管理者だよ。これから医療関係で何かしたい事があればこの人を頼って」
「はい。よろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします」
「はいはい、それじゃあ解散ね。僕はこの後ここでやる事があるから君たちはお楽しみの治療、頑張ってね」
ナツメさんば勝手に話を切り上げ自分の仕事に戻ろうとする。しかしその前に回復薬の製造についてだけ相談したいと私が彼らを引き止めた。彼に私の案を伝える。私の知っているレシピとナツメさんがさっき探した薬草の在り処を話すと彼は概ね良さげな反応を示した。
「回復薬の製造……その手段なら物資不足のここでも可能だと。薬草の場所まで少し距離はありますが名案です。私も協力します」
「ありがとうございますっ!」
「話が済んだなら仕事いってらっしゃーい」
ーーー
現在位置 野戦病院
「お邪魔します……うっ」
2回目にここの中へ訪れたがここの惨状には慣れない。朝からここは騒がしく誰かしらが何かの為に右往左往している。
「で、聖女様。ここには沢山の負傷兵がいますがどのようになされますか?」
「うーん、取り敢えず比較的体力のある人達だけ一括で回復します。それから個々に対応が必要な患者を治していくという事にしましょう」
彼に重病の患者を教えてもらいある程度の場所を把握する。やはりというか何というか治療の対象となる患者の数はかなりの数だ。酷い骨折だったり足が半分腐りかけてたり傷が膿んでいたりと挙げたらきりがない。おまけに外傷から発病したり元からの持病が悪化したりして普通ならどうにもならない。昨日読んだ資料の死因の事も納得だ。
しかし今は逆にそれが良点。言い換えるとこれだけを治せば後は少数の治療に集中できる。比較的軽症の方は外傷が多く病気の発症はしていない。これであれば【回復魔法】と【再生魔法】を使えば十分だ。
彼らをいっぺんに治療する為に効果範囲を広げる。出力はいつもより強めに、再生作用もかなり強めに変えた。効果を視覚的に分かりやすいように設定した範囲を発光させる。
<なんか周りが光りだしたぞ!
<聖所様が何かするのか!?
<やっぱり貧乳は最高だぜ!
「これは聖女様の魔法ですか。噂通りの高い技術力、さすがです。あとそこの同s……兵士は後で私の所へ」
「それでは……皆さーん魔法をつかいますよ!」
【回復魔法】+広域化
白く光る範囲内が更に輝きを増す。優しく温かい光に包まれた兵達は魔法の効果で傷の痛みが良くなり表情が少しずつ和らいでいく。次第に彼らは包帯が巻かれた部位に違和感を感じる。私は彼らの内の一人の包帯を外す。すると悪臭を放つ血のついた包帯の下からの怪我一つない健康的な体が現れた。
周りの兵士がざわめく。まさか自身の怪我も……と期待する視線が私に向く。
「魔法の効果内にいた兵士さんはもう治っているはずです。体を動かしても痛くない筈なので後でしっかり栄養補給をして下さい」
暫くの沈黙、そして歓声。
怪我が完治した事を喜ぶ兵士が一斉にベッドから降りて体を動かす。その場で軽く飛び跳ねたり、テントの外へ出て剣を振ったり、各々が自身の久しぶりの健康な体の調子を確かめている。
<やった!動かない足が動いたぞ!これでまた戦える!
<聖女様すげえええ!治らなくて切られた手が生えたぞ!
<ありがてえ……体が痛くねぇなんて幸せだ……
「聖女様、念の為他の物に兵のが怪我が本当に治ったのか検査させます」
「そうですね。みなさーん、怪我が治って嬉しいのは分かりますが本当に全部が治ってるか分かってから動いてくださーい!!」
でも検査の必要は多分必要ないだろう。あの外傷からあそこまで動けるようになったなら未自覚の症状でも無ければ平気だろうし。彼には担当の者にそう伝えるようお願いしてから次の仕事をする。
「そして次は重傷者ですが彼等はどうされますか?聖女様」
彼等は負傷者の中でも更に病気が進行し私でも匙を投げたくなる病人達だ。この段階までになると通常の手段では治療が厳しい。うっかり間違えた手段で治療したり魔法を使用すると寧ろ病状が悪化する可能性すらありえる。
「彼らには……どの箇所が悪いのか解析する必要があります。だからそれまでの時間稼ぎに魔法よりも刺激が少ない回復薬を使いたいです……が」
無い。いや無いわけではないがこれから必要である分も考えると使い切るわけにもいかないから数が足りるか不安だ。ナツメさんが兵を派遣して取りに行かせているとは言っていたけれど病気の彼らがそれまで持つかどうか心配だ。
「えっと、どうします?」
「あの地図の川はこの野営からは離れています。兵が戻るのにはもうしばらくかかるかと」
そうなのか。だとしたらここである分の薬だけで何とかしないといけないのか。
「もう暫くとは具体的にはどれくらいでしょうか」
「順調に行き来ができれば届くまでは半日ほどかと」
半日なら持つ……のか?おそらくもう何日もこんな状況で耐えている、いつ死亡してもおかしくない、私達がやらなければ誰がやる。ひとまず彼らが戻るまでは私が彼らの看病をしないと。
それから私は彼らの看病に励む。とはいっても少ない包帯を替えたり体を拭いたりとかそういうのだ。苦しそうな顔をする彼らにそれだけの事しかできないのは悔しい。
そのうち普通に戦って怪我をした兵が運び込まれた。彼らは人が少なくなった病院に奇跡だとか聖女の魔法のおかげだとかで驚いていた。もっとも私達と他の方々は仕事が少なくなっただけで無いわけではないからその言葉を聞いて喜んでいる場合ではない。看病の片手間に魔法で彼らの治療をする。
暫くすると体を治した兵が昼食を食べに出ていった。それでも私は治療を続ける。
それから更に経ってからもう一度負傷兵が集団で来た。私も大変だけど彼らも頑張っている。私もまだ頑張らなくちゃ。
視界が暗くなってきた。魔法で光をつけて視界を確保して彼らの看病を続けた。
そして……
ーーー
現在時刻 夜
遅い。遅すぎる。
半日とは何だったのか。月は高く登り何人かの寝息も聞こえる。時間はとっくに過ぎた筈なのに。
院内はやっと患者の具合が安定して落ち着けるようになった。早く病気を治す為の魔法の調整をしないと。
「セレネ君、こんな夜遅くまでお疲れ様。夕食でもいかがかな?」
ナツメさんが私へ夕食をパンを届けに来た。後で食べるからその辺に置くように頼んだ。
「解析は進んでる?」
「少し進みました。村の流行り病よりも手強いことを覚悟してたので数が少なくい分精神的に楽です。それでも思った以上に要求される魔法が複雑で何をどうしたらいいか分からなくて」
「治せるの?」
「強引な方法であれば理論上はできます。でも患者の容態が悪くある程度薬で回復をしないと死亡する可能性もあるから出来ません」
彼は興味なさそうに空いたベットに腰を掛ける。そしてどこかから酒とパンを出して食べだした。ここで食べられると衛生面が気になるし私のお腹がすくからこんな所で飲食しないで欲しい。
「でも大丈夫?今日一日だけでもかなり疲弊してるようだし。最悪十人位なら事故死って事にもできるからもう寝ていいよ」
「っなんてこと言うんですか!?彼らも必死で戦って傷付いたんですよ!!」
私は彼に叫んだ。何人かがそれで目を覚ましたので彼らには申し訳ないことをした。でも言い足りない。仕方がないので彼の手を引きテントから出て野営から離れた誰もいない所に連れて行く。彼はいきなりの事で食べていたパンを持ちながら引きずられる。あそこなら叫んでも問題ない。
「ちょちょちょ……何々?」
「貴方は人の命を何だと思ってるんですか!?いくら戦争で戦う兵士が危険でそれだけ死にやすいとはいえそれを動かしてる貴方が諦めたら前線で戦う彼らはどうなるんですか!会議室で篭もってるだけの貴方が……人として命の扱いが軽すぎます!」
私は彼に持論をぶつける。一日で溜まったストレスもありかなりきつい事を言ってしまったと後で次の日あたりには後悔するだろう。私の豹変に混乱する彼は暫く状況を理解するのに沈黙してからその表情のままこう答えた。
「え、兵は変数でしょ」
「……………え?」
彼から出た答えはシンプルだった。普段の飄々とした態度のまま人の命は数値だと当然のように割り切ったのだ。
「じょ……冗談ですよね?」
ただ、想定される答え、例えば過去に小説で見たよくある武器だとか肉壁だとかそういう概ね人の扱いとは程遠いを物を想像したが、それらですらない予想外の考えに彼の正気を疑った。
「まま、さっきのは冗談さ。まあデスクワークばっかりしてると兵士って本当に数だけに見えてくるからね。でもごめんね。扱ってる数が大きくなると数人って端数だからつい反射的に答えちゃった」
「で、でも……………あれ」
「?どうした」
「いやなんでもないです。ははは……ごめんなさいいきなり大声出してこんな所に連れ出してしまって。私らしくないですね」
あ、あれ?言いたい事はもっとあったハズだ。だけど何故だか言葉がうまくまとまらない。何で?
悩みながら彼の目を見る。彼は混乱する私に不思議な物を見るように見ている。今の彼は笑顔を浮かべてもおかしくないようなそんな雰囲気だ。
私には今の彼の気持ちが理解ができない。彼は今何を考えているのか、喜んでいるようで何も感じていないようで、少なくとも今この時に冗談でも人の死を冗談にできる彼の心の内など私の価値観では理解できるはずなかった。
「あっそうだ!薬草についてはどうなりましたか?」
どうしょうもないので強引に話題を変える。彼はそれを聞き
「あー!それだ。なんか忘れてると思ったらセレネ君にそれが言いたかったんだ。夕食なんて選んでる場合じゃあ無かったよ。ちきしょー……」
と持っているパンの残りを口に放りこむ。それを急いで飲み込んでから彼は薬草について教えてくれた。
「騎士団長の見立てだと百パーセント中百三十パーセントは全滅してると予想。おかしいなー、普段あんな所に敵なんていないんだけど偵察の奴が丁度あのへんで敵兵器を見つけたらしいし。原因はルナちゃんかリューナちゃんの暴走のせいかな?」
じゃあ薬草は、と聞くまでもない。兵士を治療する為に派遣した兵士が死ぬだなんて。無力さで涙すら出てきそうだ。実際涙目だ。
「ああ、泣かない泣かない。君にはまだ出来ることもあるし……」
「うぅ……まだ出来ること?」
「そうそう、ほらほら。今日はもう遅いし早く寝ようよ」
私に出来る事。回復を失った私に出来る事といえば1つしかない。かくなる上は
「私が……取りに行きましょう。私の為に死んでしまった彼らの代わりに、薬草をそこまで」
「ははは!いいねいいね!行ってきな行ってきな、僕は止めないよ……ってもう行っちゃったか。バフ盛ったセレネちゃんは早いなー」
許可は出た。
後は己の信念に従えば一瞬だった。私は野営へ戻り適当な所から大きな袋とロープを貸してもらい再び出てから出て一直線に目的地を向かう。ナツメさんから教えられた薬草の生える方位は分かる。空には星が出ているから自分の位置を見失うことはないだろう。でもだいぶ前に本で得た知識だから失敗して迷ったら暗い荒野の中を一人で彷徨う事になる。
それでも「重症の彼らを死から守る為」、私は暗い戦地の荒野を駆けるのを決意した。魔法で【暗視】を自身に掛け移動についての能力を底上げして少しでも早く、早く、光の如く走り抜ける。
現在時刻 同刻
「………アレは?」「どうしましたお嬢」「今遠くで何かが横切ったような。でも多分敵ではなさそうです。それより次の獲物を狩りに行きます」「あのそろそろ帰りませんか?」
「…………セレネちゃんがなんか凄い動いてるなー珍しく戦闘してる?」←感知魔法で遊んでる
「今は会議中だ。賢者様とはいえ静かにしてないとここから放り出すぞ」
「わー!ごめんなさーい!!」
書類 6枚目(未発見の破かれた紙の走り書き)
「P.S ちなみにこの戦争だと非戦闘員でも容赦なく殺されるから命は大事にした方がいいよ 捕虜での優待も期待しないでね♪ byナツメ」
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