せいくりっどがーる!!!〜戦場に駆り出された聖女は回復よりも光魔法でがんばります〜 作:囚人番号虚数番
現在位置 荒野
「はぁ……はぁ……」
私は荒野を駆ける。背の低い草木が生えるだけの不毛な地には平らで大きめの石ころが不規則に転がっている。とても走るのには適していない土地でいつ足が痛くなり回復が必要になるか分からない。それに服も激しい運動をするのには向かない動きづらい服を着ているものだから何度も足がもつれる。
前の戦いでは狼さんに移動を任せていて倒壊した木で速度が出ていなかったからここに来て改めて自身の戦闘の不向きさを自覚する。帰ってからナツメさんに相談することができた。
それでも集団で動く兵士より柔軟に動けるだけ私はいいかもしれない。その上今はバフを盛って一般人の数倍から十数倍で動けるから歩いて半日の距離なら今の私なら夜明け前までには間に合う。
だから希望を抱いて走る。私が早く薬草を持って帰ればきっと彼らは苦しみから早く逃れられるはずだ。そう信じて私は前へ進み続ける。
「(でもやっぱり体力が持つか怪しいですね。これでもし敵と遭遇したら帰れるか心配です)」
光の無い場所の星はいつもより輝いて普段は見えない暗い星が空を彩る。道具として空の状態を方位に使う身でもこんな時でなければ歩みを止めゆっくりと眺めていたい。
特に私の進む先で光るあの星は初めて見る。星にしては異常な目で見える程の動きで動くそれに目を奪われる。当然皮肉だ。
「(空中に飛行する兵器、多分兵士が襲われた時のと同じ兵器かもしれない)」
姿勢と速度を落し静音性を上げて目立たないよう気をつけて走る。幸い敵はまだこちらには気がついていないようで進行方向とは別の方に上空の敵兵器は向かっている。視界も直接的に光で照らしている訳ではないから光で位置がバレる心配は絶対に無いのだ。
暗視効果を強めて遠くに飛ぶ兵器の姿を観察する。4枚の薄い羽と細長い体、まさしくトンボだ。体色は小さい方から白、赤、黒の3種類。体の基礎構造はよくいるそれと何ら変わりないが腹部の先端に金属質の発射口が付いている。スケッチにはあそこから弾幕が射出されるとあった。形状や属性になどそれぞれ体つきにも差異があるから戦闘のスタイルも各個体違うのかも。あのスケッチ、かなり正確だったんだな。
「(って感心してる場合じゃない!もし敵に私の居場所がバレたら倒すまで野営に帰れなくなります。短時間で仕事を終わらせる必要かある今発覚は絶対に避けないと!)」
「って、うわ!」
ドサッ
上空を気にしつつまだまだ遠い川を目指して走り続ける。が、遂に不安定な足元の上で何かに足をつまずかせ転んでしまった。
「早く行かなきゃ……ん?(手元が柔らかい?)」
起き上がろうとして地面に手を付けた時触感に違和感を感じる。岩が転がる荒野にはあまりにも似合わない人肌の柔らかさの物に触れた。いや、足元もだ。何か柔らかいものの塊の上に私はいる。
それはつい1ヶ月程前にも触れた「それ」を何故か想起させた。
「(肉、黒い血、人肌、死体……兵士さんだ)」
辺りには元の生物を特定できる程度に程よく砕けた肉と大きな金属片、それと薬草が入った袋が散乱していた。よく見るとここの地面もえぐられたような跡がある。彼らはここでやられたのだろう。
うっかり声を出してしまったがまだ敵には気づかれていない。しゃがみながら薬草の入った袋に近づき中身を見る。いくつかの袋は破けたり草が潰れたりと当たり前だが駄目になっていた。しかし患者を治すのに必要な分より彼らは多めに取ってきてくれたらしく何個かは鮮度は多少落ちているがまだ使えそうだった。重い袋をロープで縛り【身体強化】を使い持ち上げる。
「(ここに薬草があるという事は帰りにやられたという事。せっかく頑張って集めてくれたのに……彼らも無念でしょう)」
そして私は心のなかで祈った。ああ、神よ。彼らに幸運を。死んでしまった私に彼らは救えない。だから彼らの屍の山を生きる彼らの為に私は越える。
カチッ
後ろで無機質な音がした。
「(っまずい!今のは明らかに何かが作動した音だ!)」
反射的に私はそこから離れる。一秒にも満たない僅かな時間で強化した体で出せる全力を使い距離をとる。結果コンマ数秒にも満たないがかなりの距離が取れた。
「(それでさっきの音は?)」
と、逃げながら視線を後ろに向けた瞬間だった。
ドゴオオオオオオオン!
………は?
つい先程まで私が居た所で爆発が起きて火柱が立つ。規模からして防御系の強化をしていない私があの場所にとどまったなら全身が吹き飛んでいた。多分あれが兵器の一覧にあった貝だったものだろう。それにしても前回もそうだけど敵の兵器は必ず爆発でもさせなければ駄目な規則でもあるのだろうか。
…………! …………………? ………!?
上空のは音が騒がしくなる。あのトンボ達も流石にあの爆発には気が付き慌てふためいている。しかし視線?もそちらに向いているなら幸運だ。爆発跡に死体蹴りに弾幕を撃ち込む兵器からなんてさっさと逃げてしまお……
ドゴゴゴゴゴ!(高速弾)
ドコオオオオン!(爆発)
ーー!(レーザー)
先程の評価は撤回させてもらう。逃げないと死ぬ。
ーーー
現在位置 荒野 川
その後はどうにか敵兵器に見つかることも無く、月が大きく西に傾く頃に目的地についた。流れの遅い川で川辺の広い砂地に背の高い草が生えている。見つけるのに苦労しそうだ、と覚悟したが昼間兵士がここへ来て薬草を見つけたとなれば……うん、やっぱり。彼らが通ったあとだけ草が倒れている。そして草と草の道を辿り遂に目的の薬草を見つけた。
薬草は前に来たあの兵士達が取り尽くし思ったよりも生えていなかった。それでも全員分にギリギリ足りるからあるだけ回収して帰ろう。自然に生えてるものを取り尽くすのはあまり宜しくないというが今回ばかりは目を瞑ってほしい。
「えっと……確かこれです。早く袋詰しましょう」
私はそれらを回収する。魔法で身体能力を強化しているから袋がどれだけ重くなってもそこまで重く感じない。だけど体積が大きくなり動きづらい、量が必要だからこれは仕方の無いことだと割り切る。さて、帰ろう。
「ぐあああああ!助けてくれええてえ!!」
「!?大丈夫ですっ……」
助けを求める声に反射的に走りかけてすぐに止まる。私が採取している間周囲には人がいる気配なんてしなかった。つまりこの声は敵の罠である確率はほぼ1だ。ここから穏便に立ち去るかなり身の安全を確保するのが正しい。
それでもあえて私は声の方に近づく。声は草の壁の先で草の中を掻き分けながら進む。
「(罠かも、そう割り切るのは簡単です。だけどまだ『罠かもしれない』だけ、人である確率があるならここで去る訳にはいかないんです)」
声のする位置はかなり近い。一番いいのは声の後にも動作音が無い、あるいは小さすぎて聞こえないような小動物の悪意を感じる声真似。二番目は倒れた兵士。最悪敵の罠。
そして意を決して草を退かして……
ガサッ
「っこれは!」
草むらをかき分けそれの正体を見つけた。
「うぼあああああ!!」
「……また貝ですね。しかもかなり大きい」
誰が予想できるか。うん、50cm近くある巻貝は当然、男の声で叫び「DON'T WEAPONS」と読める模様が殻に入ったどう考えても敵の兵器な貝なんて誰が考えつくか。敵の兵器に貝がいたのは覚えていたけどもしかして他の種類もいるのか?
「ぎゃあああああ」
「周りに敵がいなくてよかったです。こんな大きな音出されたらバレてもおかしくないです」
「ソコノオネエサンサケンデルカラハンノウシテクレヨ」
「敵にバレるのも困るので……」
ザッザッ PON!
「帰りましょう」
「………」←地面埋まり
「( ゚д ゚)ハア?」←地面埋まり
帰りは野営に敵を連れてくるとまずいので隠密行動が絶対の条件である。敵に見つからないようにしないと。魔法で隠密に動けるようにバフを盛ってから駆け出す。袋が思ったよりも重いから帰るのに時間が切りそうだ。
ーーー
現在位置 荒野 北の野営
現在時刻 夜明け後
結局、私が帰宅したのは行きの予想と反し夜が明けたあとだった。幸運にも敵とは一切遭遇せず安全に帰る事ができた。しかし兵器を気にしすぎて隠密に行動したのが裏目に出て無駄に帰りが遅くなってしまった。
「聖所様、何処へ出かけていらしたのですか」
野営に帰り病院の責任者の彼が一番にやってきた。彼は私が一人で薬草を取りに行ったのを今朝ナツメさんから聞いたらしい。飛び起きて私の捜索隊を臨時で作り兵を派遣するようナツメさんと掛け合ってもくれたたらしい。そんな、何もそこまでする必要はない。
「しかし、貴方が死んでしまったら誰があなたの様に兵士の傷を癒やせるのでしょうか」
「それなら私の使っていた机を調べてみて下さい。出来る事は紙にまとめてあります」
彼は数秒考えた後兵士後で確認してみます、とお辞儀をした。それより今はもっとやるべきことがある。私は彼に薬の製作に必要な道具を揃えるようお願いした。薬草の入った袋も渡して患者の様子を見に行く。相変わらず苦しそうにしている。
「聖女様、準備が終わりました」
「あ、ナツメさん。おはようございます。何で今日は敬語なんですか?」
「気分。準備終わったって。製薬は僕の範囲外だから応援してる。頑張ってね」
「ありがとうございます。では」
タッタッタッ……
「……ふふふっ、やっぱり彼女は面白いね」
「献身的でそれでいてどっかの無能な男と違って有能に働いてくれるし正に『聖女』には相応しいよ」
「でもあと何日かな?」
それから私は一時間くらいかけて大量の薬草を手の空いた兵士さんの手を借りながら加工し無事必要量の回復薬を精製することが出来た。100%自然由来の成分の体に優しい薬だ。保存が効きづらいのが難点だが冷暗所に保存できればそこそこ長く持つから使わない分は瓶に詰めてから箱に入れ、それを埋めて保存する。
周りの兵士さん曰く健気で献身的に働く私は文字通りの聖女の姿に写ったらしい。薬ができたと宣言した瞬間歓声が上がる。地面を掘るのにも兵が何人も協力してくれた。病院の患者もその手作りの薬に驚き使う時に泣いて喜んでくれた。
仕事が終わり兵士とともに朝食をとる。私がどの席へ着こうか見回していると兵士さんに手を引かれ頼んでもない大量の料理のある席へ座らされる。
「一体この料理は何でしょうか?あの、皆さん?」
「がははっ!聖女様には俺ら救ってもらったからな!俺達からのお礼だと思って好きに食え!」「朝から重いなら俺らの飯も持ってきてやるよ!」「僕も久しぶりに朝から一本開けようかな」「団長、朝から飲むのは不味いですよ!」
「こんなに沢山用意していただきありがとうございます。だけと一人ではこの量は食べきれません。なので、皆で食べませんか?こんな美味しそうな料理を独り占めなんて勿体ないですから」
「いいのか聖女様!?」
「ええ」
慈悲の溢れた笑顔で返事をした。
うおおおおおおおおお!!
なおこの光景を遠くから見ていた極一部の真面目な兵士いわく「朝から宴会を始めるな」だそう。当然数分後には少し豪華になった朝食が自分達にも出されたからどう反応していいかわからなかったという。
それから数時間睡眠をとってからこれからの予定を考える。今やるべきことは重傷者の数日かかけて体力を回復させてからの治療だ。その為に治療に使用する魔法を自室にてまとめている。
「(うーん……少なくとも症状から病気は数種類だから基本構造は使い回しできる。圧縮は緊急用だからそこまでしなくてもいいから楽かな)」
「セレネ君、忙しい所相談してもいいかな?」
ナツメさん?彼を部屋の中に入れる。彼いわく昨日と今日の治療と薬草について指揮官としてお礼を言いに来たそうだ。
「セレネ君には兵がお世話になってるしお礼がしたいんだけど何か欲しいものでもある?」
欲しい物か。それなら丁度欲しい物がある。
「そうですね、治療と看護には少々動きづらいので動きやすい服が欲しいです。できない願いなら他のものを頼みます。可能ですか?」
「勿論だよ。セレネ君の頼みなら例え火の中でも水の中でも家の部下に揃えさせるよ。あ、でも採寸だけは後でね」
彼は嬉しそうにスキップ気味に部屋を出ていった。ありがとうございます、これで間接的に回復の効率が良くなる。
「(これからもこの調子で頑張らないといけませんね)」
魔法を構築し続けながらそんな事を考える。
しかし、その喜びも長く続かなかった。
よく分からない突然の事にワチャワチャするトンボを想像したらなんか萌えた
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