せいくりっどがーる!!!〜戦場に駆り出された聖女は回復よりも光魔法でがんばります〜 作:囚人番号虚数番
現在時刻 三週間後
あれから野戦病院は文字通りがらっと変わった。重傷者の病はすべて治り再び戦場に足を運んでいる。日々運ばれてくる新たな怪我人も魔法ですぐに退院し、私でなくとも手の空いている病院の人達が増えたからちゃんとした治療ができるようになった。お陰で最近は私もまともに昼食を取る時間ができた。
不足気味は物資は元気になった兵士さんたちが敵兵器を退けてくれて安定して届くようになり改善した。足りない分の回復薬も今更ながら届いた。私の新しい服もそのうち届くそうだ。ナツメさんが言うには「軍の技術班の総力と僕の贔屓にしてる有名な王都の服屋に作らせている」らしい。デザイン面はどのようになるのか検討もつかないから性能面を期待しておこう。
そして今日も怪我人を治しきり閑散とした病室の端にて一人私は数値と文書とにらめっこする。その顔はあの地獄とは別の意味で深刻な顔だ。
「(怪我人も減って病院の死者数も減った。これは喜ばしい事です。勿論兵一人ひとりが長く戦えるから当然戦死者自体の総量も増える事は覚悟していました)」
「(だけど……)」
ここ3週間で私にはある疑問が生じていた。ここ数日の間に戦地での兵士の死亡数が数倍に膨れ上がったのだ。初めは上記の考えから気の所為だと考えて放置していた。しかしついこの間病院の者との会話にてその話題を振って意見を聞こうとしたら誰に聞いても「聖女様は気にしなくていい」「聖女様が知らないだけで戦地ではよくある」とはぐらかされ続けているのだ。私は世間知らずではあるが馬鹿ではない(と自分では思う)、こう何人にも同じような反応をされると何か裏があるのではと勘ぐってしまう。
「はぁ……時間があるから後でナツメさんに助言を求めようかな」
段々と少なくなる帰還兵にため息をついて書類を机に置いた。それとほぼ同時に怪我をした一人の兵士が担架で運ばれて来る。適当なベットに寝かせるように頼んで彼を運んでもらい帰ってもらう。
「うう……しくじっちまった……クソっ!」
彼は今日派遣した兵隊の最後の一人らしい。以前から送った兵が数人だけで帰還するのはよくあったが最近はそれも顕著になってきている。ついこの間も仕事が少ないと思っていたら全滅していたということもあった。
運ばれた患者は胸部から腹部にかけて大きな損傷があり出血も激しい。全身が骨折しており発見時には関節が粉々に砕けて足がありえない方向に曲がっていたらしい。肌も焼け大きく腫れていたり一部は黒焦げている。顔に大きな傷を負っている……が、これは元からある古傷のようだ。どうして生きているのか私が聞きたくなるくらいの惨状だ。
「それは残念でしたね。でも平気です、すぐに良くなりますよ」
私は彼の患部を診察するのに傷口に手を伸ばした。すると彼は私の手を強引に引き寄せ体勢を崩した私の頭を掴む。
「きゃっ!何を……「少し黙れ、変な魔法も使うな。話がある……っづう!やっぱ痛え!」
痛みに苦しみながら彼は鋭い眼光で睨みつけて私を脅す。続けて彼は自身を外から目立たない所のベッドに移してくれと要求する。恐怖に飲まれた私は冷静になれず彼の要求を聞き入れた。たしかあの角のベッドなら周りから死角になる。慎重に彼を運びゆっくり寝かせる。
「ありがとな聖女サマ。これでやっとまともに話ができる」
「…………っ」
こわい、兵器と対峙したときより圧倒的にそう感じる。目から涙が流れてきた。
「今度も強引な手段をしちまって正直すまねえと思ってる。だが俺は馬鹿だから力技しかできねえんだ」
「…………」
「おい、なんか言えよ」
「ひっ……!」
どうしよう、頭に何も思い浮かばない。どうやってもこの状況だと冷静になれない。彼は私の反応から今はまともな会話が困難だと判断して勝手に話を始めた。
「いつもいつも聖女サマ……面倒臭え、お前には仲間が世話になってんな。運が取り柄の無能ばっか運ばれてくるせいでお前もうんざりしてるだろ」
「は、い、いえ!兵士さんを癒やすことがわたしのしごとだから……」
「そうだな、おめえの仕事は使えねえ手足をぶった切るのと得体のしれないヤクで泥遊びする連中に変わってよく分かんねえ魔法で傷を塞ぐことだからな。だがな、お前『働き過ぎでねえか』って一瞬でも考えたか?」
働きすぎ?そんな事あるはずがない。小さく弱々しい声で反論する。
「カミサマに魂まで売っちまうと死ななくても頭だけ天国行っちまうみてえだな。じゃあまさかお前何も知らないのか?」
彼は笑いながらそういった。
「な、何を?」
「『飛んで火に入る夏の虫』って言葉があるだろ?お前が来てから死んだ奴は皆そうやって死んでんだよ……済まねえ、やっぱり鎮痛だけ頼む。喋ると体が痛い」
ーーー
ダッダッダッ
「ナツメさんっ!どういう事が説明してください!」
全速力で病院を出てナツメさんのいる会議室に入る。中では何人かの兵士が様々な書類と地図を机に広げて会議をしている最中だった。突然大声で入ってきた私に目を点にしている。ナツメさんも上座に座りズカズカと距離を詰める私に驚いている。
「こんな時間からサボりだなんて珍しい。何か用でも……」
「ナツメさん!」
私は座る彼の胸ぐらを掴み立ち上がらせる。本当は数発顔面を殴りたい位だがそれ以上はいけない、手を震わせて必死に怒りを抑える。……後から思い返して普段との行動とあまりにも違い過ぎて正常な判断の取れなくなった人間の恐ろしさに一人震えた。
「3週間前から、私が病院に勤務し始めてから『何故危険地帯への出兵を増やした』んですか!いや、それだけならまだ許せます。だって怪我をしても私のところまで来れば治せますから。でも『何故私だけに死因の殆どが自殺だ』って教えてくれなかったんですか!?道理でおかしいと思いました!説明してください!」
「えっ!……あー…………うん。皆少し出てってくれる?彼女は今正気じゃない。僕がなだめるから」
ーーー
彼は私が疑問に思っていた戦死者数の増加について一方的に話した。
「まあ、言っちゃ悪いが自殺だ」
「じさっ……そんな、何故!?」
自殺?そんな事考えたくもない。せめて敵兵器にやられたたとかならまだしもそんな命を無駄にするような事はあってはならない。
興奮する私を逆に彼が抑える。彼は話を続けた。
「犯人はもう割れてんだ。聖女、半分はお前のせいだ」
私のせい?私はただ兵士さんの体を回復しているだけでそれ以上はなにもしていない筈だ。なのに私のせいとは私の知らない所で何が起きているんだ?
「順を追って話す。最近俺ら一兵卒はやたらと危険地帯に行かされるんだ。行くとこ全部難所続き、ちょっとまでじゃ考えられねえ無茶な進軍させやがる。これは全部あの淫乱団長のせいだ」
「淫乱……ナツメさんが?」
「ああ、前々からかなり無茶なことさせるアホって噂だけどマジだ、大マジだ。女みたいなカッコの割に鬼畜な野郎だよ」
彼の人使いの荒さはなんとなく想像がつく。彼自身から部下を振り回して仕事を回しているのをよく聞くがここでも彼は彼のままらしい。だけどそれと私になんの繋がりがあるのかはまだ見いだせない。
「多分お前生き残ってる兵士皆治せんだろ?きっとあの野郎それを見越してワザとやってやがるんだ。どうせ消耗したところでここのベッドで寝たら体が戻るって楽な考えでさ。人の善意に漬け込みやがって人間のクズめ」
つまり私は知らない内に騙されていたと言いたいのか?今までそんな話誰からも聞いていない。
「ああそうさ糞ったれ。クソ団長からの指示でこの事は秘密になってるからな。バラしたやつは生きたままミンチより酷えのにされるっー噂だ」
初耳だ、そう言いたかった。だけど私は彼らが隠し事をしていたのを分かってしまっていた。思い返してみれば彼らの元へ治療に向かう私も目が少しづつ変わっていくのは薄々感じていた。まるで恐ろしい怪物に怯えたようなそんな目線に段々と近づいていたのだ。
いつの間にか涙は止まった。代わりに嫌な汗が吹き出てきた。
「なあ聖女サマ、お前は自分にその回復の魔法を使ったことくらい当然あるよな」
首を縦に振って肯定する。だけど……この先の話は何故か話さずともその地獄の内容があるのは明白だった。
今の私の持つ技術だと再生自体に痛みや苦痛は感じない。でも、彼らは何度も傷つき戦う兵士。痛みの質こそ違えどどうなるかは予想がつく。
「じゃあ当然どうなるかは置いておく。お前は普通なら死んでるレベルの大怪我何度も耐えられると思うか?俺らはな、それを強制されてんだよ。怪我したらここへ担ぎ込まれて即退院。手の2、3本でも頭でもなんでも何分かすりゃ元通りに生き返っちまう。だから上のバカどもは俺らを替えの効く機械か何かだと思ってやがる」
「そんな……」
「そんでさ……ついこの前の話な。俺の同期の仲間がよ、敵の弾に自分から突っ込んでった。引き止めて理由聞いたらなんて言ったと思う?『もう体の一部が無くなるのは御免だ、死んだほうなマシ』とか大の男が泣きながら言ってんだ。情けなすぎてそのまま突っ込ませたよ。したら次は隊長、続けてそいつを信頼してたの。あれにはもう笑うしかなかったよ。ははは……」
「…………」
「だから……情けねーが俺もついてく事にしたんだ。置き土産だけした後な」
何も言えなかった。私も彼も静かに涙を流して自ら生命を断った愚かであり勇気ある彼らへ祈りを捧げる事しか出来なかった。たかが16年されど16年、仕事柄数人の人の死は見届けたこともある。だけどここまで虚無感が溢れた看取りは初めてだった。
「なあ、これからさ少しばかり手、抜いてくれねえか。もう頑張るな、頑張ったところで無駄になるのは苦しいだろ?だからさ……まず初めに俺から………………ああっ、そうだ!」
彼は何か妙案を思いついた。傷口が開くのもお構いなしにガバっと体を起こして開き直った明るさのまま早口で私に提案する。
「俺が死んだら……そうだな、お前は外へ出てこう叫ぶ。『おかしくなった男が急に暴れだした』って。そんで俺が全部悪くてお前は無実、いいシナリオじゃないか?」
「死ぬんですか?あなたか死んだら家族は……」
「帰ったところで家族もいねえ。嫁も娘もとっくに出てったから悲しむやつもいねえよ……今ごろ娘は聖女サマ位の美人になってるだろうな」
痛みで苦しいはずなのに悲しい笑顔で言い捨てた。
「ただ……最後に少し頼まれてくれやしねえか?」
「……私にできる事ならなんでもします」
「俺らの代わりに戦ってくれ。男の俺が娘くらいの年のお前に言うのはちと情けねえが『何も知らねえ馬鹿どもを守ってやってくれねえか』?」
守る為に戦う。残酷だけど悲しい願いだった。当然私はその願いは受け入れたくない。
「ああ……クソ、意識が引いてきた……」
「い、嫌です……今ならまだ助かります。だから、そんなこと言わずに生きてみませんか?」
酷く震えた声だった。顔色も段々と青白くなっていく。今なら出血が酷くても回復の後暫く栄養失調で倒れるだけで済む。
「うるせえ……命捨ててまで俺は来たんだ……こんな所で死体の看病やめて……あの団長を殴り……に……」
その言葉を最後に彼は言葉を止めた。彼は笑っていた。怪我の苦しさから解放された安堵の表情を浮かべていた。
「………………」
私は無言で立ち去る。そして近くのがら空きのベッドに拳で何度も叩き八つ当たりをした。怒りでも悲しみでもあり、そのどちらでもない奇妙な感情を叩きつける。無力さと無知さに嫌気が差し一人嘆く。
しばらくして手が疲れ、同時に落ち着きを取り戻す。
「はぁ……はぁ………何故ですか……何故こうも人の業は無慈悲なのですか!神様の救いは無いのですか!」
そして私は駆け出した。向かう先は勿論ナツメさんの所だ。
ーーー
「そうだよ、その話は概ね真実。僕は君にわざと伝えないように仕組んだ。でも反省はしてないね。だってこれもセレネ君の為なんだから」
二人を除き誰もいない会議室。少女の紛い物に少女が睨む。ナツメさんはそれから言い訳をした。
「進軍が激しいのは単にここに来る敵が多くなったから。他の野営ではリューナちゃんとかルナちゃんとかが戦っているでしょ。敵は彼女らを避けて結果僕らの方へ攻め込んでるんだ。予想はしていたけど本当にそうなってしまうとは思わなかったんだ……これは僕の不手際だよ。ごめん」
「…………」
「それにセレネ君が自分のせいで人が死んでるって知ったら責任を感じちゃうと思って黙ってたんだ。今までの働きぶりを見るに相当責任感もあるようだったし伝えるのはあんまりだと勝手に僕が裏で手を回して兵士にも協力してもらってね。でも結果的に君も知ってしまった」
事情を知った私は彼を離す。そのまま彼は倒れ込み少し咳こみながら立ち上がる。
「そうだったんですね。勝手に勘違いしてすみません」
「なぜ君が謝るんだい?これは僕の独りよがりで起きたこと。僕こそ謝るべきだ」
「ええ、そうです。事情はよく分かりました。ついさっき命令に違反した兵士が教えてくれましたよ」
彼はそれを聞き何かに気が付き納得したようでにやりと笑った気がした。しかし次の瞬間には深刻そうな顔に戻る。
「そうか……」
「今回は流石に私でも許せません。ですが神はそのような貴方でもきっと寛大に受け入れるでしょう」
「そうか。………セレネ君、本当に、本当に申し訳ない」
彼は私に謝る。彼は深く深く私にお辞儀をした。
「………………顔を上げてください」
私は彼に頼む。謝るくらいなら彼には行動で示してもらわないと許さないつもりだ。
「ナツメさん、この前あなたに看護の為の動きやすい服を頼みましたよね。それを『戦いやすい服』に変えられますか。これが許す条件です」
「それだけでいいの?」
「ええ、それができたら私も納得して許します。あと二度と、こんな事しないでくれますか?」
「…………うん」
彼は小さく頷いた。それから彼は少し待ってて、と会議室から出ていく。彼曰く物は丁度今日届いてしまったからそれを取りに行くらしい。再び彼が戻ってきた時、数人の兵にいくつかの箱を運ばせてきた。頭から足元まで全身のフルセットとの事らしく自分の頼みとはいえやりすぎな気がする。
「前の君の頼みは動きやすい服、勿論それは望み通り作ったよ。王立の病院にも服を卸ろしてる所と国最高峰のデザイナーに作らせた一級品だ」
彼は箱の半数を開けさせた。それから適当に会議後の机を片付け場所を開け服を広げる。
それらは私の頼み通りの動きやすい服、修道服を踏襲したデザインで機能面も充実している。左手の袖は穴すら無く、完全に私の為の服らしい。
「これはMercy Angelって名前。君専用の仕事服」
それは大変ありがたい。だけと今気になるのはもう一つの「今の願い」を叶える服だ。同じように彼は服を並べる。
「それはNeutral Angel。その服じゃ動きずらそうだったしこんな事もあろうかと勝手に戦闘服も作っちゃった」
その服は修道服をベースの型として配色を反転させた白い洒落た服だ。全体的に動くのに邪魔な布が短くカットされている。袖は短く丈も相応に短く加工され足がかなり露出させる大胆なデザインだ。ちょっと恥ずかしい。なんとなくミニスカートのワンピースのようにも見える。
だがそれ以上に機能面に圧倒される。肌触りもよく魔力もよく通す素材で強化がよく通り魔法の仕込みもしやすい。服としてもボディラインに沿った形状でとても動きやすそうだ。でもの触り心地はどこかで触ったような。
「触ったも何もそれ何の素材でできたと思う?」
「さあ?シルクみたいに上質な素材ですね」
「それこの前倒した竹で出来てるんだ。技術班に全力出してもらって爆発しない加工と脱色をしてもらって作ってもらった」
「へー……はぁ!?」
あの竹から?確かに細い割に強度もあるし適した材料だとは思うけど……でも苦戦した敵の体程頼もしい物はない。
「で、セレネ君」
「はい?」
「これを着た君を見てみたいんだけど君はどっちを着る?」
答えるまでもない。私は服を自室に運び着替える。そして部屋から出た私はその服を着て出てきた。
「…………やっぱりそっちなんだね」
「ええ。最後にナツメさん」
「私に『戦わせて』下さい」
もう誰も死なせない為に私はNeutral Angelに右手を通した。
字数と作者が書いてる時の楽しさは比例する
カブトムシ「メー」←〆鯖(オニフスベ)(DOG)
「N」eutralとは中立、中性を意味する単語です。中道を行く。
どのキャラが好きですか?
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