せいくりっどがーる!!!〜戦場に駆り出された聖女は回復よりも光魔法でがんばります〜 作:囚人番号虚数番
現在位置 荒野 目的敵の敵都市部までの距離 近
荒野にできた深い穴の空いた爆心地。空に浮かぶ月を地に落としたようなポッカリと空いた穴は多数の高火力の弾幕により抉られた暴力の証。
その底に少女が一人。酷く傷つき白い服を血と土で汚した聖女。
「…………………」
「…………………ぅ」
彼女は空に浮かぶ暴力に抗おうとした。体を支え立ち上がり再び空を見上げようとした。しかし先刻の腹の傷が痛み毒が回り手足がしびれ出血で少しづつ力が抜けていく。戦える筈など無かった。
「(お腹、傷、どうなってるかな)」
震える手で傷に触れる。手から内臓の生暖かく柔らかい感触と肌の痛覚とかき回される感覚がする。刺さった物が残っている感じはしない。魔法で解析しても内蔵には奇跡的に損傷はない。だけど痛みの方向は2つだから貫通してると推測する、実際そうだ。
「っ…………ふっ!」
彼女は倒れる訳にはいかなかった。僅かに残る力を使い気力だけで立ち上がる。毒と朦朧とした意識で無理に立ち上がったから足元がおぼつかない。思考すら本能の領域も使用している。
「(神経毒、魔法が上手く扱えない。受ける側がここまで辛いとは思わなかったな。これを後学の為にしないと)」
魔法で止血をする。これを後学にするにはここの戦場を終わりにしないといけない。穴の上からこの暗い覗き込む緑の隈取の鹿をこの手で、叩き落として。
【光柱 ピラーオブムーンライト】
天を光が貫く。虫の雲が散り空が晴れ月明かりが彼女を照らす。鹿はレーザーが届く前に顔をずらして避ける。それと同時に鹿の体から無数弾幕が飛び出した。
互いに考えることは同じらしい。ならば彼らがする事は一つ。
「虫の息の私を目の前にしても貴方は私を殺したいのですね。私が憎いのか、そういう定めなのか私には分かりかねます」
「でもいいでしょう。私がお相手して差し上げます。私の使命はその先にあるから……互いが倒れるその時まで殺し合いましょう」
後にも先にも自身が知ることは無かったがこの時彼女は慈悲に溢れた目だった。
時間もなく軽めの回復とバフを自身にかけ、毒の解析も自動で解析を進める機構を作り弾幕での戦いを再開する。
ーーー
「(相手は上、私は下。位置的には私の劣勢。ですが今は『ここが最高なコンディション』)」
先程の爆撃で地面が大きく抉れた。その結果普段光を浴びることの無い岩肌が地面に露出している。凄まじい威力の弾幕は地面の小石一つすら残さず綺麗なすり鉢状の地形を作り出した。
予想とは違う形での問題解決、逃げる必要はもうない。あとは攻めるだけだ。
鹿はまたあの円柱と金属弾を射出し弾幕を展開する。高速高物量で魔法物理の性質の違う弾入り交じり正確な対処が必須だろう。
【円環 ジュピターの理】
【流星 ラピッドスターダスト】
【75式-彗星の尾】
感知魔法をこのクレータに沿うように展開、敵は上からしか来てこないから対地も気にせずひたすら弾幕を捌く。
感知魔法には前回同様敵魔法弾に敵自身への追尾を付与し、私も弾幕に誘導と追尾を付けて制御する数抑える。動きにマイナスの加速度がかかる脳で組んだから所々バフに抜けがある。それらを私は撃ち落としいつかの反撃に備える。
鹿は穴を除き込む。穴の周りは兵器で包囲されどう見てもピンチであるのにまだ倒れていない事が疑問のようだ。
ーーーーー!
彼の顔にレーザーが飛ぶ。まるで自分には関係ないと籠の中の虫を眺めている時みたいだ。しかし不意打ちに近い私のレーザーにはギリギリ反応できずに顔をかすめた。
「……………」
「(さて、どうやって来ますか)」
ドドドッ!
ぎゅおおおおおお!
背中の金属柱が数本同時に射出、おまけに金属弾も発射される。肉体的にピンチな今はハッキングで解除なんて危ない橋は渡りたくない。【円環】で防御をした上で【彗星】を先撃ちしておく。
弾の一つが壁に当たり爆発、雷撃が作動する。流石あれだけの速度と威力を誇る弾だ。初撃が当たった瞬間に【円環】が割れる。早々に修復は放棄して仕方なくその場から離れる。残りの弾は軌道を変えきれずに地面に衝突するか【彗星】に切断され爆発し緑の球を残す。
「(!急に鹿に魔力が貯まっている)」
ついでに一旦距離を取ろう。鹿は弾幕で仕留めきれなかった私にあの高威力の電撃を放つ準備をしている。円柱も同時に射出していることから守らせる気は無いらしい。
「(待って、これって逆に利用できないかな)」
逃げるのは続行し続け鹿の角の合間に貯まる電気の球を待つ。上空からの弾幕も段々と増えるトンボのせいで激しくなってきた。数もさながら敵弾の追尾変更の成功率と相殺できる数が減ってきているからもある。
そろそろ戦闘の続行がきつくなってきた。毒の解析はなかなか進まず二の腕の先と膝下の感覚が消失する。そのうえ集中力が限界を迎えかけ失血での激しい運動で傷が開き再び出血してきている。次に気が抜けたら多分それまでと覚悟した。
「(それでも弾幕に当たるだけならまだ回復さえすれば戦えます。問題はバフが切れた時、移動バフが切れた瞬間逃げも避けも不可能となる)」
それまでにこいつを倒す。
バチチチチッ!
遠くから火花の散る音がしてきた。角の合間の電気の球は既に鹿の顔程に大きくなっていた。多分そろそろだろう。これが命日となるかそれとも次の起点になるか、これで決まる。
「(…………来る!)」
【円環 ジュピターの理】
球が破裂した。瞬間閃光、音、そして衝撃が私を襲う。本来人の身一つには到底耐え難い電流がクレータ内の全てに等しく襲いかかる。
ドゴオオオオオオン!
「くっ……耐えられますか不安、違う、『切り抜ける!」
ピキッ パリーン
【円環】が破られる。そして爆発、空の虫がまた一斉に地に落ちる。
「…………」
鹿は興味なさげに地面を見る。穴の底にはもう何もいなかった。虫の屍の山に少女が紛れているかもしれないがあれだけの攻撃だ、死んでるという事にしてもう帰ってしまおう。
【日蝕 クローズドアイズ】
「…………!?」
鹿は突然視界が暗くなる。だが彼は冷静だった。まだしぶとくあの少女は生きていたのか。すぐに周囲に微弱な電流を感知して彼女の姿を捉える。
彼女は穴を駆け上がり……右側から回り込んで裏取りをするつもりらしい。彼女が足元の近くを通った瞬間に踏み潰そう。
「(間に合え、間に合え!)」
「………………」
「………………………!」
ドッ!
静かな重い音。素早く足を上げて彼女の通る先めがけて思い切り踏みつける。足をゆっくり上げると足の形に溝ができた。しかし足には何か生き物を踏み潰したような感覚はない。確実に潰したはずなのにもしかして外したのか。
「何処を見てるんですか?」
彼女の声がした。左前足に愚直に直前に走っていた。
「私はあなたの眼の前です!どうやって私を見てるかは知りませんがそんなところになんていません!」
【日蝕】は単なる目つぶしではない。周囲の光の一部の周波数を変更して電波の周波数までに変更した。だから彼の電流の感知する機構が正常な反応を示さず間違えた位置を彼に伝えたのだ。事情をすぐに把握した鹿は反射的に真下にありったけの円柱と金属弾を多少の自爆覚悟でぶっ放す。
「させません!」
だから私はやられ前に【光柱】で鹿の両足を吹き飛ばす。白く輝く太く美しい光の柱に沿って鹿の華奢な足先が消え去った。
「…………………!?!?!?」
鹿は足の支えが無くなりバランスを崩す。そして先程の弾幕が爆発して体が大きく傾いた。そして頭から穴の下へと頭から転げ落ちる。その過程で頭の角の1本にヒビが入るのを私は見逃さなかった。ヒビが入った瞬間に内部のセキュリティに不具合が起きた。すぐにハッキングを仕掛ける。
「砕けろ!」
2回目で更に脆弱になった防止機構なんて私の相手にはならなかった。ハッキングをして鹿の武装の背中の直方体と2本の外側の角の機能を停止し内蔵されている弾全てを敵の武装内部で爆発させる。これには鹿にもダメージがあって無言を決めていた鹿が高く汚い声で鳴き出した。
「これで私が上ですね」
「…………きゅぃ…………っ!」
鹿は緑の筋の光は暗く点滅し角が2本折れ背中も殆どが削れて肉と内臓が見える。武装の剥がれた体は肉屋に持っていかれて丁度今生命から食料に変わる前とそう変わらずまさに満身創痍だ。
方や怒りと殺意が混じった目、方や戦い傷つけられなお慈悲深い目で傷ついた鹿を見つめる聖女。
「きゅうううううっ!!」
私の動きを制限していた毒の症状はだいぶマシになった。まだ足の痺れが少し残るけれど右手はだいぶ動くようになり弾幕の射撃精度はほぼ正常時と変わらないくらいにまで回復した。傷の痛みも引開いた傷も良くなった。
鹿は短くなった手足で空を見上げる。
「きゅ……………きゅぅッ!」
彼は最後の力を振り絞り最後に残った角に魔力を込める。最後まで残されたその角は螺旋の緑の筋が入り最も太く長い、まさに大技に使うためにある砲だ。魔力のこもる先は角の根本のごく一点。感知魔法の結果あそこにはどんな弾幕よりも小さなたった一つの金属塊だった。あれだけのエネルギーから放たれる弾はどれだけの威力となるのか判断できない。
「ごめんなさい」
私も彼の全力の一撃に称賛を贈ろう。私の一番得意な魔法のリミッターを外す。こんなに早くあの威力の弾幕を使うなんて想像しなかった。
右手を穴の底へ向け手に魔力を込める。手を中心に白い光の輪が輝き中心に鹿を捉えた。鹿の角も一箇所に圧縮された魔力の放つ光が翠色に輝き照準が私の眉間に映る。互い目を離さず最高火力を放つ準備をしている。
そして、来た。
【光柱 ピラーオブムーンライト】EXTENDED
前回より穴の直径とそう変わらない光の柱が鹿に刺さる。溜めをした時間は前回よりも長く込めた魔力の量は桁違いであり前回を遥かに凌駕する圧倒的な火力が出た。その二度目の魔法は前と同じ形、同じ輝き、そして美しさでもどこか悲しく冷徹に見えた。鹿も圧縮された魔力を込めた金属を射出する。金属の速度は初速で亜高速に到達し生物はおろか並の物質なら簡単に破壊できる物質となる。2つのある種の極限同士の弾は彼らの間で衝突した。
「(さて、やることはやりました)」
「キュゥウウウウウウウウウウッ!」
「(後は神に祈って……都市へ向かいましょう)」
死ぬなんて到底考えていない。強く望めば神は与えてくれる。それを信じて、あるいは逃避のために攻撃が当たり敵が無力化できると信じる。目を瞑り、心のなかで祈りを捧げ、神に自身の勝利を願う。
バキッ……ピキピキッ
射出した反動で穴の底から不穏な音がした。鹿はまだそのことに気づいていない。だけどこのまま押し切れば何かしら打点になるはず。魔法の発動を続行する。
が、それがある意味望んだ結末だった。
音の後突然の振動。突然の足場の変化により軌道が変わり互いの弾が金属は虚空を、レーザーは地面を貫く。当然地面にあたったレーザーは地面に大穴を開けて地盤を破壊する。その後先程の不穏な音がもう一度した後浮遊感を感じる。
「え、なんで私落ちて……きゃああああ!!」
地面が大きく陥没して鹿と私の下に大穴が開く。この時は地下の洞窟が崩壊したのかもしれない。どうにか避けないと、と思って落下に抗おうにもタイミング悪く体力敵な限界を迎えた。疲労により落下後にしばらくは動けそうにない。純粋な死を覚悟する。
この穴はどこまであるのだろうか。なんにせよ私ができることは唯少ない。ただ神に祈る事と仲間に自身の無念を嘆く事である。
「(リューナさん、ルナシー、ナツメさん、本当に申し訳ありません。私はもう駄目かもしれません。ああ、神よ。出来る事なら私をもう一度お救いください)」
そうして私と鹿は地面に空いた大穴に吸い込まれていく。この先にあるのが希望か絶望かは神のみぞ知ることである。
ーーー
「…………………う」
大穴の底で私は再び意識を取り戻す。どうやら私は落下した時に気絶したらしい。あたりを見回すとすぐそこに見覚えのある鹿の顔が落ちていた。
「っ!こいつまだ……ってあれ?」
寝起きで敵を見たから驚き急いで距離を取るも鹿の首元に赤濡れた大きな岩が落ちていた。緑の筋も完全に暗くなり生気がない。恐る恐る近づき鹿を観察する。鹿は死んだ目をしている、呼吸もなし、首は落石によって潰されていた。つまり敵は死んでいた。しばらく観察を続けても動く様子はない。
「なんか……強い割にはあっけない終わりでしたね」
ここはどこだろう。死体に祈ってからあたりを見回す。
「(そういえば……ここ明るいですね)」
私は空を見上げる。するとそこには……ポッカリと暗い穴の空いた青空が広がっていた。
現在位置 荒野 地下都市
現在時刻 落下から2時間後
どのキャラが好きですか?
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セレネ
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リューナ
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ルナシー
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狼さん
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ミツキ
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ナツメ