せいくりっどがーる!!!〜戦場に駆り出された聖女は回復よりも光魔法でがんばります〜   作:囚人番号虚数番

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月の沈んだ日の登る町

現在時刻 起床から2時間後

 

「ここは何処なんでしょうか?」

 

鹿を倒し地底に落ちてから私はここを彷徨っていた。気絶している間に傷がだいぶ癒えてあの時よりは調子がいい。

 

ここは不思議な場所だ。今は夜のはずなのに日が昇り昼間のように明るい。だけどこれは偽物の空のようで落下してきた穴からはしっかりと星空が見える。ここが地下だから天井に空が映ってる感じなのだろう。

 

……でもこれどうやって脱出しようかな。出口がすぐに見つかるといいけど。

 

おかしい所はそれだけではない。ここは恐ろしく広い空間でありさっきから宛もなく歩いているが端にたどり着く気配がない。地面は黒い一枚板で覆われ道らしき境界が白い直線で模様で書かれている。定期的に金属製の落書きされた看板が立っているけど目的は分からない。

 

道のそばには見上げるほどに高い石とガラスの角柱の塔が何本も立ち並び壁のようになっている。高さには大小あるものの、どれも王都の建造物と同じかそれ以上の高さである。無機質で画一的な建物ばかりが果てしなく立ち並び不気味さを感じる。

 

「(同じような建物ばかりで同じ所をずっと歩いているみたいです)」

 

試しに窓から建物の内部を覗いてみる。無機質さは外とは変わらずモノトーンで簡素な部屋だ。人が活動する所だのいうのは分かるが私には用途不明な物が多い。魔法関係の道具かなと感知魔法を駆使して調べてみるとそうではないらしいと分かる。というよりこの空間自体に魔力が少ないから感知したところでよく分からない。他の建物も役割こそ違うが概ね同じだった。

 

調べていて人がいたという痕跡が多数あり私の目的の「都市」かもしれないという結論にたどり着いた。正直ここに落ちた瞬間からそれはひしひしと感じていた。だけど私にはその結論を受け入れる為の大切な要素が見つからず簡単には受け入れられなかったのだ。

 

「あのー誰かいませんかー」

 

道の真ん中で呼ぶ。そうだ、ここには「人がいないのだ」。通行人、家の中、店員、老若男女誰一人としていない。

 

当然呼びかけには返事が無い。ただ残響が虚しく響くだけである。

 

「(うーん、このままでは埒が明きません……って目的も特にないですけど。取り敢えず話のできる方くらいは見つけてみたいですし)」

 

敵都市を落とすという目的であるのに肝心の敵が見つからないのであれば意味がない。もし単に私の到着が想定されていない方法で、しかも到着に遅すぎて先に来た人が制圧した後とかであるかも知れない。どちらにせよ私一人では情報不足である。

 

ふとある建物が目につく。

 

「……?」

 

魔力の感知に何か引っかかった。ここから約数十mの建物下に人二人分の魔力がある。その建物は外観も他と違い低く広くといった感じで少ない窓には鉄格子がはめられている。まるで檻みたいな建物だ。

 

 

「…………」

 

鍵はかかっていない。横開きのガラス扉を力技で強引に開ける。

 

「御免下さい……お邪魔します……」

 

物音を立てないように慎重に入る。本当はこういうときの為に姿を隠すような魔法があればいいのだが生憎まだ製作可能だが作ってはいない。今後のためにもその内作っておこう。今あるのだと余計なことをしそうだし。

 

中は薄暗く明かりの代わりに適当な何かを拝借したい。それとも弾幕でいいかな?取り敢えず光の玉で代用する。それでここは……ロビー?物の形や見たことないものは多いけれど沢山の椅子や受付らしきレイアウトからなんとなくそう思う。建物内の地図が壁にあり地下への階段を見つけた。

 

「位置的にはこの部屋にいそう……だけど、んー……『保管庫』?」

 

ーーー

 

BF?階

 

階段を降りること数階。石の階段(石造りとはなんか違う)を下りて目的のフロアについた。途中数字の書かれた頑丈な扉が何箇所かあって不便極まりない。帰りのためにもとりあえずバフを盛って無理やりこじ開けておいた。

 

「魔力の位置は……あっちの方ですね」

 

静かな廊下を進み曲がり角を曲がる。鍵の穴のない硬い扉を無理やり開けて中に入る。

 

「よいしょっと。すみませーん、どなたかいますかー?」

 

シーン   ゴソッ

 

返事はない。だけど何かが動く物音がした。魔力の主もこの部屋にいる。でもなぜこんな不気味な部屋に隠れているのだろうか。この部屋は人が活動する所は他同様清潔だ。そうあくまでも人のいる所は。

 

この部屋には壁に埋め込まれる形の「檻」があった。厚いガラスが部屋と檻を隔離している。その檻の中はベッドが一つとトイレ、食料を入れる小さな扉とかなり簡素。2つを除いて檻は閉じていて中は血が飛散して乾燥しウジの湧いた何かが落ちている。

 

そして残りの奥2つの檻は檻が開いている。 私は恐る恐るそこへ近づいて行く。檻の中が見える直前まで近づいて声をかける。

 

「…………あの、誰かいますか。返事をお願いします」

 

「………………はい」

 

返事か返ってきた。怯えた様子の細く震えた少女の声だった。

 

「……あの」

 

「殺さないでください」

 

「えっ?」

 

突然の言葉に驚く。

 

「聖女、ですよね」

 

「は、はい。そうです。私は聖女です。それがどうされました」

 

「お願いです。殺さないで下さい……まだ死にたくないんです……」

 

声に嗚咽と鼻をすする音が混じる。泣いているようだ。そういえばもう一人はどうしたんだ?あと一人はいるはずなのに彼は喋らない。急に心配になった私は彼女のいる檻の中を見る。

 

「あの……平気ですか?」

 

「お願いします……お願いします……ころさないで……」

 

ゴミの散った檻の中には二人の9か10歳程の少女、一人は白く血にまみれた服を着て嗚咽を上げながら土下座してもう一人は部屋の隅の壁にもたれかかりうなだれている。

 

土下座している子は金髪で血で汚れたボロボロの服を着ていて背中に大きなコウモリの羽が生えている。吸血鬼の類なのか?

 

うなだれている子は明るい白髪で獣人らしく猫の耳が生えて尻尾は体勢と明らかにサイズの大きい長袖の服で確認できない。

 

「あの猫の子は?」

 

「注射を……左腕に指して…………適当な薬で自決を……」

 

「左手!?」

 

反射的にうなだれる彼女に駆け寄り左手の余った袖をめくる。肘の内側に紫の痣がある。薬で自殺ならと魔法で毒を解析する。

 

「…………これは」

 

「な、何してるんですか……」

 

「毒の解析です。彼女は安心してください。毒の成分は検出されませんでした。多分ショックで気絶しているだけなので安心して下さいね」

 

「………え?」

 

金髪の彼女は私の行動の意味が分からないようだ。何でだろうと一瞬考えたけれど思えばそうだ。彼女からみたら私は敵でそれが隠れ場所にきて見つかったと思ったらこれだから、驚くのも無理はない。私は優しい目で彼女の頭に手を伸ばす。

 

「ひっ……」

 

伸びる手が何をするかわからない彼女は酷えている。

 

「顔を上げてください」

 

「は、はい……」

 

彼女は顔を上げる。血の気が引き涙と色んなものですぐちゃぐちゃな顔が彼女がどんな恐怖を感じていたのか何となく感じられた。そんな彼女の頭に私は手を伸ばしそっと優しく撫でる。

 

「……………………へ?」

 

「よしよし、ここまでよく頑張りましたね。安心してください。私はあなたの味方です。だから、どうか私を信じてくれますか?」

 

彼女のを起こし細い体を片手で抱きしめる。彼女はしばらくの硬直の後先程の涙とは違う安心から来る涙を流した後気絶した。人がいない中子供二人だけは不安だったのだろう。今までどれだけ緊迫した状態で居続けたのかは想像がつかない。

 

「(…………想像がつかないのは私もですね。つい本能的に人助けをしたはいいですけどどうしましょうか。誰もいないけどここは敵地、それに敵地の民間人を勝手に救助して……あんまりこんな考えはいけませんが人名救助も程々にしなければいけませんね)」

 

しょうがないから私は二人の少女を一人づつ運び出し建物の外に出した。

 

ーーー

 

「さて、それでどこへ行きましょうか」

 

 

 

ドゴオオオオオオン

 

 

空から大きな音がした。見上げると空には大穴が開き黒い穴が現れる。敵かと警戒して魔法で視力を上げる。そこには赤い頭をした……ってあれはルナシーだ!背中の折れた重武器が遠くに見えた。位置は歩いていけると思う。でも二人を置いて行く訳にもいかないし。

 

 

 

「お嬢いきなり地面を抜かないで下さいせめて合図だけでも」「人の気配はしますか?」「はあ……少しは話を聞いていただけると嬉しいのですが……沢山の人の匂いが混在しています。数日前に一斉に移動したみたいですね」「やっぱり。強い敵を期待していたのに残念です」

 

 

 

<ルナシー!平気ですか?

 

「……お嬢」「はい」

 

 

大声を出したら気づいてくれるだろうと安直な考えでやってみる。すると遠くから一人と1匹の足音と会話が聞こえてきた。

 

「ルナシーさーん!こっちです!」

 

「いましたね」「ええ。そして負傷者が2名、事情が気になります」

 

互いの安否を確認して喜ぶ。彼女の事情を聞くと上で戦闘していた最中下方に広い空間があることを早々に突き止め壊して入ってきたらしい。脱出経路については彼女も知らない、当然といえば当然だ。しかしそれについては彼女曰く「天井を破壊すればいい」という解決法があるという。

 

「そうですか……でもそれは最後にしてくれますか。怪我人が二人いるんです」「獣人の子供なんて聖女様どこから見つけ出したのですか」「建物の中に隠れていました。ひどく衰弱してて怯えていたので今は寝てしまっています」

 

「でもソレは敵地の生き物です。一応殺しといた方がいいと思います」

 

……うん。そうだ。それを言われてしまったら反論のしようがない。仕方がないからここは詭弁で乗り越える。彼女には「人のいないこの都市で唯一の生存者である彼女達は詳しい話を聞くのに生き残らせるべきではないか」と意見を述べる。ルナシーは腑に落ちない微妙な顔で不満げだ。狼さんはこれに納得し私の意見に賛成するよう彼女に促す。

 

「…………」

 

「どちらにせよ脱出経路を探す事が優先ですね。何か上に上がれそうな設備は何処でしょう?」「少なくとも聖女様が落ちてきた穴とお嬢が空けた穴の2箇所はあります。階段や転移魔法を地道に探すしかないですね」

 

「狼さん小腹がすいたので火事場泥棒してきます」「あ、お嬢待って……って行ってしまいました」

 

「……どうします?」「私達だけでどうにかしましょう」

 

 

<狼さん!ここの飯めっちゃうまいです!

 

……彼女は何処までも自由だ。

 

『セレネちゃん!?セレネちゃん生きてる!?』

 

突然耳元に大声が聞こえる。通信魔法から焦った様子のリューナさんからだ。気絶しても魔法は解除されていなかったらしく連絡のつかない私達を心配していたらしい。ちなみに今彼女はそれらしい通路を見つけてこの地下へと下っているらしい。リューナさんを落ち着かせて私とルナシーの生存報告をしてついでに生存者とここの情報も伝える。

 

「……という事でどうやって脱出するか考えてくれませんか」

 

『おっけー!それなら心配しないで、今から出入り口用の転移魔法全力を作るからちょっと待ってて!』

 

「ありがとうございます。」

 

『はーいそれじゃ……ん!?な、なんだとー!!セレネちゃん大ニュース!たった今ナッツーの兵士も下へ行く道を発見したらしいよ』

 

感知魔法の範囲を広げる。彼女の話の通りはるか上空の地上からゾロゾロと誰かが来るらしい情報を得る。

 

『セレネ君、生きてる?』

 

会話にナツメさんも参加してきた。彼も兵が敵都市に到着したのに地図に記された位置には建物一つなく黒い金属製の板が地面に埋没しているだけで困っていたとの事。そんな中たまたま入り口らしき所を見つけて連絡をしたらしい。

 

「はい、私はなんとか……」

 

彼にも彼女と同じ情報を伝えた。

 

『人のいない地下都市……石の塔……偽の空……あの国のやる事はよく分かんないね。あと生存者は色々と聞きたいことがあるから絶対に生かしておいて』

 

「分かりました」

 

 

 

 

「ん………なにここ?おきてアネッサ」

 

彼と話していると猫の耳の子が起きて羽の子を揺すり起こそうとしている。彼との通信を中断し(彼の指示で音声だけは拾ってくれと通信は止めない)彼女に声をかける。

 

「おはようございます。体は平気ですか?」

 

「んーここがしごのせかいなの?」

 

開口一番たどたどしい話し方で聞いてきた。すぐに否定する。

 

「いいえ、ちゃんとあなたは生きています。安心してください」

 

「もしかしてどくとえーよーざいまちがえたの?じゃーしゃーない」

 

彼女はゆるい口調で独り言をして一人何かを納得するような事を話す。

 

「あ、そうだ。おねーさん、なまえおしえて」

 

「銀の聖女セレネ ブラインドです」

 

聞かれて答える。そういえば彼女の名前は何だろうか。羽根の子はアネッサと言うらしいが本人の口からは聞いていない。

 

「聖女……あーそっか。ありがとねー」

 

「あなたの名前も教えていただけますか?」

 

「?なんかいないいまわしはよくわかんない」

 

「あー、あなたの名前は何ですか?」

 

「ねこです」

 

……?

 

「いや、名前を……」

 

「ねこです。ちゃんと書いてあります」

 

そう言い彼女は過剰なまでに長い袖をめくる。右腕の袖をめくり二の腕を見せる。するとその下には黒い彫りで「ねこ」の2字が彫られていた。

 

「…………そうですね。よろしくおねがいします、ねこさん」

 

それから私はこの子らと一緒にナツメさんたちを待つことにした。

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  • ミツキ
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